第21話
ジュッカー・フィフティーンと戦う俺達の前に、俺の新たなサモンドスレイヴ『ブレイドラ・レンゲリス』のトーリ・サッカーが現れた。彼を戦力に加え、俺達は最後の決戦に向かう。
敵は、山をも砕く最強の巨大ロボグレート・バリアリーフ。
絶対に、俺達が勝ってみせる!お楽しみは、これからだ!……お楽しみ?
──・──・──・──・──・──・──
リゥムは、警棒を取り出すとカードをセットした。
「ナモト発動!『しゃわしゃわん』!」
リゥムは、警棒を両手で剣のように構えた。その警棒の先の空間に、水の塊がどこからともなく発生する。
『うむ』
リゥムが水を発生させたのを確認して、トーリは刀を構える。持っているのが日本刀だから、居合い抜きの構えに見えるな。
10万ボルトの使い手の次は、「いあいぎり」の使い手の登場か。
「行くぜ!」
「ええ!」
ロキヒノとメィムが、左右に展開して走っていく。
「行きます。チョクメイ発動!『スロー・ライフ』!」
ヒナギが、杖にセットした『スロー・ライフ』を発動させた。銃は、腰の後ろのベルトの所に差している。
「んぐっ!」
杖をグレート・バリアリーフに向けた瞬間、ヒナギが小さな呻き声を上げた。慌てて、両足を開いて踏ん張っている。グレート・バリアリーフの負荷重は、かなりの物らしい。
「……ふむ、いかーんな。目からビームでは、逆に近すぎる物は攻撃できん。まあ、いい。確か、ニンゲーンの町はあっちだったーな?」
グレート・バリアリーフが、クルナ町の方へ顔を向ける。
「フン。まずーは、我輩に逆らったらどうなるかを知らしめる為に、そこの町を火の海としてくれようーか」
グレート・バリアリーフが、ゆっくりと一歩を踏み出した。
「ぬ?……駆動系に、何かの負荷がかかっている?予想駆動効率に、30%ほどの齟齬が出ているだと?ふむ、シミュレーションとは違うか。重力の影響が、想定を超えていたな。直ちに修正、修正……」
グレート・バリアリーフが、ぶつぶつ何かをつぶやいていた。
独り言でも、あの巨体じゃ声がでかくて丸聞こえだ。どうやら、ヒナギの『スロー・ライフ』はあいつの動きを30%削減する事に成功してるみたいだな。
「修正完了。では……、ん?」
再び動き出したグレート・バリアリーフの右足で、爆発が起こった。メィムが放った、『フレア・メテオ』が直撃したのだ。
「なんーだ?」
「あんたを町には行かせないわよ!ここで、ぶっ壊してあげる!『フレア・メテオ』!!」
メィムは、大きく息を吸うと本当に口から火炎弾を吐き出した。いや、一応吐き出した息の塊が口から出た直後に火炎弾に変化しているみたいだけど、あれはどう見ても口から吐き出しているようにしか見えないな。
火炎弾が、まるで散弾銃のように分裂してグレート・バリアリーフを攻撃した。
ああ、あの魔法は敵全てを攻撃する魔法だから、十五体合体のグレート・バリアリーフだと十五発に分裂するのか。
「まーだ、こんな所をウロチョロしていたか、ニンゲーン!」
グレート・バリアリーフが、メィムの方に体を向ける。そのグレート・バリアリーフの足下を中心に、火炎弾が攻撃して爆発する。
「無駄にでかくなっただけの木偶の坊が!ここで、壊してあげる!」
「生意気を言うではなーいわ!」
グレート・バリアリーフが、メィムを捕まえようと手を伸ばした。しかし、メィムはその手を逃れて『フレア・メテオ』を放つ。
あれだけでかいと、人間を手で捕まえようとするのは難しいだろうに。ましてや、ヒナギの魔法の効果で動きが遅くなってるんだぜ?奴に魔法の耐性が無いのは、ラッキーだったな。
「『バーナー・シュート』!」
グレート・バリアリーフの背中から、ロキヒノが『バーナー・シュート』を放っていた。その火炎が背中に命中して、爆発を起こす。
ロキヒノの奴、『バーナー・シュート』の扱いに慣れてきたな。火炎が当たった任意の場所で、自在に爆発を起こせるようになってやがる。
「何!?」
「俺も、ここにいるぞ!!」
ロキヒノが、仁王立ちして堂々と宣言した。
おお、馬岱か?それとも、み……な人か?
「おのれぇ!虫けらどもがぁ!」
「小さな虫にも大きな魂って言うでしょうが!」
「おお!難しい言葉知ってんな、メィム!?」
「いや、難しい言葉じゃないでしょ……。小学校でも習うわよ」
ロキヒノの反応に、呆れ顔のメィムだった。この世界も、小中高の学習体制になってるのかな?
「黙れーい!この、雑魚どもーが!」
ロキヒノとメィムを捕まえる為に、グレート・バリアリーフがぐるぐると回り出す。完全に、意識を二人に持っていかれてるな。
今が、チャーンス!
「マホ!俺を上まで運んでくれ!」
『うん!』
マホは、俺を後ろから抱き締めると、上空へ向けて飛び上がった。
うーん?これ、こんな風に抱き締めなくても手を繋いで持ち上げてくれるだけでよかったのでは?いや、女の子に密着されて嬉しいけどね!
『どこまで上がろう?』
「あいつにどれほどのセンサーがあるのかはわからないけど、あいつに認識されないくらいのギリギリの高度を保ってくれ」
『なかなか、難しい事を言うね』
そう言いつつ、マホはかなりの上空まで上がってくれた。あいつのセンサー類に引っ掛かりそうになく、かつ戦況を把握できるくらいの高度に滞空する。
「マホ。マホは確か、『ソロ・シート』とかいう防御魔法を持ってたろ?あれを、使っておくんだ」
『?でも、あれは使用者にしか効果が及ばないから、わたしが使っても意味が無いよ?むしろ、彼方くん使う?』
「それはわかってる。だから、マホが使うんだ」
マホは、俺を連れてグレート・バリアリーフに突撃する役目を担うからな。トーリの力で全面凍結させる予定とはいえ、直撃を受ける危険が一番高いのはマホだ。だからこそ、マホの防御を上げておかないと。
俺の言葉に、マホはしばらく無言だった。見ると、なぜか不満そうな表情をしてこっちを睨んでいる。
「えっと、どうした?」
『彼方くんはさぁ。いつも自分を優先に守れって言うけど、その彼方くん自身は率先して危険に飛び込んでいくよね?今回だって、ロキヒノくんに任せてもいいのに、自分で突撃するのを買って出てるし』
「いや、それはロキヒノが怪我してるからだし。まさか、女の子のメィムに行かせようとは、マホだって思わないだろ?」
『それはそうだけど。でも、だったら『ソロ・シート』は彼方くんが使うべきだよ。彼方くんが、突撃するんだし』
「つっても、突撃するのはマホも一緒だし。俺は身体強化を受けてるから、マホが防御を上げるべきなんだよ」
何より、「マホ」が死ぬのはもう見たくないからな。
『……わたしは「マホ」だけど、わたしは死なないよ』
マホがそう言って、俺はドキッとした。
『真穂ちゃんが死んだ事は、彼方くんのトラウマになってるんだろうけど、わたしは死なないよ?わたしは、彼方くんを一人残して死ぬなんて嫌だもん』
マホの言葉に、俺は顔を背ける。
そうだよ。真穂が死ぬ姿は、俺のトラウマになっていた。俺を助けて、真穂は俺の代わりに死んだ。
そんな姿を、もう一度見たいわけないじゃないか!
『……はぁ。わたしはマホだけど、あなたの幼なじみの真穂ちゃんじゃないわよ?』
もちろん、そんな事はわかってる。今側にいるマホは、俺に付き合ってついて来てくれただけの、別人だ。桜咲真穂じゃない。
『だってわたし……、真穂ちゃん好きじゃないし。むしろ、嫌いまである』
ボソッと、マホが言った。それを聞いて、俺は思わず顔を向ける。
え?百合の女王のマホが、女子である真穂を嫌ってるだって?そんな馬鹿な事が、本当にあり得るのか!?
『……まあ、その顔で何を考えてるのかはわかるよ。百合の女王のくせに、真穂ちゃんの事嫌いなのかって考えてるんでしょ?』
俺の考えを、マホは一発で見抜いた。そんなに、驚きが顔に出てたか。
『……はぁ。もう、せっかくだから言っておくね?わたしは、確かに昔女の子だけのハーレムを作った百合の女王だけど、今は彼方くんの事が好きなんだよ』
「!?」
マホが、顔を真っ赤にしていきなり告白してきた。
え?好きって、それはカードのマスターとして……とか?
『もちろん、この場合の好きは恋愛的な意味でね』
「え?マスターがどうのこうの、じゃなくて?」
『……そうだよ。わたしはあなたを、男の子として好きなんだよ』
マホが、ぎゅっと更に強く抱き締めてきた。
だから、ハグにしたのかこれ?
「え……、なんで?」
あまりにも唐突すぎる告白に、俺はちょっと混乱ぎみだった。
よくよく考えたら、人生初告白されたんだけど!?今までの俺の人生って、主人公の真穂の隣によくいる「幼なじみ」って役割のモブだっただけだし。
今考えると好きだと告白された返しが「なんで?」って、なんて情けない返しだ俺!
『彼方くんには認識できなかったと思うけど、わたしはずっとあなたの側にいて、ずっと一緒に生きてきたんだよ。あなたはもう、ずっと一緒に生きてきたわたしの一部。……だから、大切な人になるのは当然でしょ?』
「ずっと、一緒に……」
もしかして、マホはカードを手に入れた十年前から側にいたのか?
『うん。だから、ね?真穂ちゃんが死んだ時複雑だった。かわいそうだと思ったし、女の子が犠牲になるのは酷いって。でも、同時にこれで彼方くんの心を占めていた真穂ちゃんがもういなくなるんだっても考えた。わたしこそ、酷い考えだけどさ』
「それは……」
『そう考えたくせに、彼方くんが落ち込んでるのを見るのは、辛かった。いっそ、彼方くんの前に出て行こうかって思ったくらい。多分、気味悪がられると思ったけど。……そんな時、ダブル・ジョーカーが真穂ちゃんがエクディウムに転生したみたいだって言ってきたの。ダブル・ジョーカーは真穂ちゃんのサモンドスレイヴだから、気付いたみたい』
真穂の転生に気付いたのは、ダブル・ジョーカーの方だったのか。
『で、ダブル・ジョーカーが言ってきたの。真穂ちゃんを探す為に彼方くんをエクディウムに転移させようって。正直、わたしはあまり気が進まなかった。やっと、わたしが心の中に入れる隙間ができたのにって。……でも、あんなに傷ついてる彼方くんはもう、見てられなかったし』
「だから、俺の前に……」
『うん。……でも、ただでは転ばないよ。わたしは、サモンドスレイヴとしての召喚システムや能力を全て捨てて、精霊としてではなく一人の女の子としてここに来る事に成功した。これなら、彼方くんの側にいられるし、話せる。触れられる。カードには戻れなくなったけど、こうして抱き締める事ができる』
マホは、俺を抱き締めて顔を背中に埋めてきた。それは、実体のある一人の女の子。
「……つまりマホも、精霊から天使に転生してきたって事か」
『そうだね。わたしも、真穂ちゃんと同じ転生者だ』
「ついでに若返った、と」
『!昔の年齢の事は言わない!』
マホは、怒鳴った。やっぱり、年齢の事はタブーか。やたら、二十歳を強調するから、一応気にはしてるのかな。
『と、とにかく!……そういう事だから、わたしは彼方くんを残して死ぬ気は無いわ。今度はあなたと一緒に生きて、添い遂げるつもりだから』
「……うーん」
真っ正面からの愛の告白に、俺はどう答えればいいのか返答に窮した。
その、マホはかわいいと思う。真穂に似てるからじゃなくて、聖天族のマホがかわいい。ただ、今の俺は真穂に会いに来たんで、それ以外の事を考える余裕は……。
『わかってるよ。今はまだ、彼方くんの心は真穂ちゃんでいっぱいだって。それを覚悟して連れて来たんだしね。だからまあ、今は答えをくれなくていいよ。わたしはずっと一緒にいるし、何より彼方くんはわたしのマスターでパートナーだから。全力で、真穂ちゃんを探してあげる。その後で、色々考えよう?』
マホは、俺に都合のいい言葉をくれる。本当は、それに甘えるべきじゃないとは思うけど。でも、今は……。
「ありがとう。……その、好きだって言ってくれて凄い嬉しい。この旅の区切りが着いたら、俺も答えを考えるから」
『焦らなくていいよ。のんびり長ーく、旅を続けよう?その方が、わたしにとっても好都合だしね』
「好都合?」
『旅が長くなれば、それだけ一緒にいるわたしにチャンスがあるだろうからね♪真穂ちゃんは二十年一緒にいたわけだから、わたし達も二十年旅しよう!』
「二十年は、ちょっと長いな……」
俺は、乾いた笑いを浮かべた。
『あと、彼方くんにはメィムちゃん達もその間に落としてもらわないと!』
いきなり、マホがそんな事を言った。なんか、さっきよりも熱が入ったような気がする。
「?落とす?」
『そう!彼方くんには、是非メィムちゃんもリゥムちゃんもヒナギちゃんも落として恋人にしちゃって欲しいんだよね!』
「……はい?」
マホが、わけのわからない事を言い出したぞ?それって、三股をかけろって事か?え?俺が好きだとか、そういう話はどこ行った?
「それは一体、何の話だ?」
『ふふん。三人を物にした彼方くんを、わたしが物にする。それはつまり、メィムちゃん達もわたしの物になるって事でしょ!?わたしのハーレムの完成だよ!!』
マホが、堂々と宣言した。
ああ、さすがは「ハーレム・クイーン」だ。こいつ、メィム達三人の事もそういう目で見ていたんだな。いや、そもそも最初からそんな感じだったか。俺が好きだとか言い出したから混乱したけど、そこはブレてなかったんだ。
「つまり、三人は……」
『わたしの嫁!』
この、百合の女王めー!
『あ、彼方くんもわたしの嫁だから!』
俺も、嫁かい!




