第20話その2
「?」
突然声をかけてきたのは、親ドラゴンだった。
「ポケドラさん?」
俺は、つい『シャイン・ポケッツ・ドラゴン』の愛称を呼んでしまう。向こうでは、女性プレイヤー達から親しみを込めてそう呼ばれてたんだよな。
「何か、考えがあるんですか?」
「はい……。あの巨大鉱石族の胸のレオンの装飾。その口の中に黄色い宝玉が見えます。そこに、ある種のエネルギーが集中しているのが見えるのです。ですので、その宝玉を壊せばあるいは……」
親ドラゴンが、説明する。さすがは、魔竜族。そんな事がわかるんだ。
確かに、あいつの胸にはライオン、こっちの世界ではレオンというのか?とにかく装飾があって、その口が若干開いていたな。
エネルギーが集中しているという事は、もしかしてその宝玉は合体状態を制御しているのか?元々バラバラだったパーツを組み上げて成り立っている巨大ロボだから、その制御中枢を破壊すれば瓦解させられるかも。
「胸のレオンの口か……。ただ闇雲に攻撃しても仕方ない。とにかく、まずはそこを狙って攻撃してみよう」
全員が、俺の提案にうなずく。例え不確かな情報でも、俺達にはそれにすがるしか道が無いんだ。
「どうやって破壊しますか、トオノさん?」
「そうだな。胸の口の中だと、何度も狙えるポイントじゃないな。狙いがバレたら、ガードが硬くなるだろうから、できれば一撃で破壊したい」
「私が、また必殺技を使う?」
「うーん。思い出せば、レオンの口ってそんなにガバッと開いては無かったような気がするんだよな。今回に関しては、失敗すると次が厳しくなってしまうから、一撃で破壊する為に直接叩き壊したい」
「だったら、俺の出番だな!俺がぶち割ってやるよ!」
「左肩を負傷しているお前に行かせるくらいなら、俺が行くよ。……問題は、ターゲットが胸つまりかなり高い位置にある事だな」
俺は、マホに顔を向けた。
「マホ。俺を、奴の胸まで運んでくれるか?」
『うん、任せて』
マホに上空まで運んでもらって、俺が胸のレオンの口の中に突入。宝玉とやらを、直接破壊する。マホにはちょっと危険があるが、これなら一番危険な場所を他人に任せずに済むだろう。
「あたし達はどうすればいい?」
「そうだな。ロキヒノとメィムとリゥムには、なるべく離れた位置からあいつに攻撃を仕掛けて、あいつの注意を誘って欲しい。胸の口に飛び込む形になるから、どうしてもあいつの正面から仕掛けないといけないんだ。せめて、注意を少しでも分散させておかないと」
グレート・バリアリーフに悠然と構えられては、ハエタタキで落とされるだけだからな。なんとか、隙を作らないと。
「そうね。……でも、あたしの遠距離攻撃は多分効果が無い……」
「なら、お姉ちゃんはこれを使って?」
リゥムが、メィムに一枚のカードを差し出した。彼女が差し出したのは、『フレア・メテオ』のカード。
「これも効くかはわからないけど、全く無反応よりはマシでしょ?私には、トオノくんから借りた弓矢があるし」
「そうね。借りとくわ、リゥム」
メィムは、リゥムからカードを受け取った。
「あの、わたしは何を?」
「ヒナギには、敵の動きを遅くする『スロー・ライフ』ってカードがあっただろう?あれで、あいつの動きをできるだけ遅くして欲しい」
ヒナギの手持ちカードにそれがあるのを、俺は今頃思い出していた。それで少しでも動きを制限できれば、作戦の成功率は上がる。
「あ……。でも、あれだけ大きいと目に見えて遅くなるほどの効果は出ないと思います。魔法を掛ける相手の大きさに比例して消費する魔力も多くなるんで、果たしてどれだけ保つのかもわかりませんし……」
相手の動きを遅くするって事は、相手を拘束するって事だもんな。あれだけの巨大な物体を拘束するんじゃ、ヒナギにどれだけ負担が行く事か。発動コストが高いカード、て事になるかな。
魔フォーでのコストは、いくつだったかいな?
「悪い。ヒナギには負担になるかもしれないけど、できるだけ使ってくれ。ほんの少し動きを遅くするだけでもいい」
「は、はい。わかりました。がんばります」
各人がそれぞれ、カードを用意する。ロキヒノも、遠距離攻撃に備えて『フレア・ブレード』を『バーナー・シュート』にチェンジする。
俺は、自分の武器に目を向けた。俺が今持っているのは、『アゴ・ストーム・セイバー』。切れ味鋭く強い剣だけど、宝玉壊しに向いているかと言われると、なんとも言えない。
「何かあったか?」
俺は、デッキからカードを一枚ドローした。
「!『ドリル・カイザー』!」
引いたカードは、召し物カードの『ドリル・カイザー』。召し物としては特殊なカードで、通常召し物カードは全部で四枚しか発動できないけど、これはその制限枚数を超えて発動できるカードだった。なぜかと言うと、このカードはサモンドスレイヴに装備するんじゃなくて、サモンドスレイヴが装備している召し物カードに装備するカードだから。
まあ、魔フォーの効果はいいや。
どっちにしても、これなら宝玉を破壊できそうな気がする。このタイミングで出てくるとか、デッキを組んだ時の俺ナイス!
「召し物発動!『ドリル・カイザー』!」
俺が『ドリル・カイザー』を発動すると、『アゴ・ストーム・セイバー』の前にドリルの先部分が現れた。そのドリルが『アゴ・ストーム・セイバー』の刃に合体し、まさにドリル剣の姿になる。
「おおー。なんか知らんけど、凄そうな武器だ」
「歯医者さんにある、ドリルみたいなヤツ?」
リゥムが、首を捻っていた。
ん?歯医者のドリルは、鉱石族に進化しないのか?でも、電気無しでどうやって回しているんだ、そのドリル?
『ちなみに手動』
マホが、そんな事をつぶやいていた。そうかぁ、手動でドリル回すのかここの歯医者は。なんかの魔法使えよ。
俺は、ドリル剣で突撃。マホに飛んでもらって、ロキヒノとメィムとリゥムに陽動。ヒナギに、拘束魔法を使ってもらう。今やれる布陣は、これがベターだろう。
ただ、やっぱり戦力も能力も足りないな。せめて、ほんの一瞬でもいいからグレート・バリアリーフの動きを止められれば……。
(『拙者にお任せ下さい、殿!』)
「!?」
いきなり、どこからともなく声が響いた。もちろん、その声は目の前にいる誰の声でもない。誰もその声に驚いていない所を見ると、その声が聞こえたのは俺だけ?
『今のは……』
いや、マホには聞こえた?
「て言うか、今のは頭の中に響いた?」
パチッと音がして、デッキケースが勝手に開いた。そして、デッキから一枚のカードが飛び出してくる。
カードが、俺の目の前に浮かんでいた。
「!『ブレイドラ・レンゲリス』!?」
俺の目の前に浮いていたのは、『ブレイドラ・レンゲリス』という名前のサモンドスレイヴカードだった。
(『ようやく、拙者の声が届きましたか、殿!』)
この声は、明らかに『ブレイドラ・レンゲリス』のカードから聞こえてくる声だった。つまり、俺に今話しかけているのは『ブレイドラ・レンゲリス』の精霊か!?
「お前が俺に話しかけているのか、『ブレイドラ・レンゲリス』?」
俺は、思わずカードに話しかけた。それで、周りのマホを除く全員が『ブレイドラ・レンゲリス』のカードの存在に気付く。
「?なんだ?」
「あれ、カードが浮いてる?」
「あ、それって……!?」
「トオノさんの、新しいサモンドスレイヴカード!?」
「『ブレイドラ・レンゲリス』。お前にも、精霊が宿っていたのか?」
(『はい!殿にお仕えして十年。ようやくこうして直接殿と会話でき、拙者は感無量でございます!』)
確かに、『ブレイドラ・レンゲリス』はデッキに入れたのがマホと同じ時期だったから、十年一緒に戦った戦友でもあるんだよな。
『なんだ。こっちに来てからはずっと無言だったから、あんたいないかと思ってたのにちゃんといたのね?』
(『お久しぶりです、マホ殿。いえ、ずっと一緒にはいたのですが、マホ殿が不用意に話しかけるなとおっしゃっていましたので……』)
ああ、ここに来た時にマホがダブル・ジョーカーとそんな話をしていたな。それを律儀に守っていたのか。
「?カナタも、マホもなんだけど……。誰と話しているの?」
メィムが、不思議そうな顔で聞いてきた。
ああ、『ブレイドラ・レンゲリス』の声は聞こえないのに俺達がしゃべっているから、おかしな状況になっているんだな。端から見たら、俺とマホは何も無い所に話しかけている危ない感じの人に見えるか。
「ああ、ちょっとな」
まあ、今は説明するよりもだ。
「『ブレイドラ・レンゲリス』。お前に任せろってのは、どういう意味だ?」
(『拙者のタイプをお忘れですか、殿?』)
「タイプ?……あ」
思い……出した。『ブレイドラ・レンゲリス』のタイプは、「氷」だ!
「やってくれるのか、『ブレイドラ・レンゲリス』?」
(『もちろんです!是非、殿の為に働かせて下さい!』)
俺は、『ブレイドラ・レンゲリス』のカードを手に取った。『ブレイドラ・レンゲリス』の力を使えば、この戦勝てる!
「みんな!少し離れてくれ!」
俺は、右手にカードを持って構える。それに対応して、地面に魔法陣が浮かび上がってくる。相変わらず、何を描いているのかさっぱりだけどな。
「!召喚か!」
「魔法陣!」
「う、うん!」
「新しいサモンドスレイヴ……」
マホ達が、俺から離れる。
そして俺は、『ブレイドラ・レンゲリス』のカードを天高く掲げた。
「見えない力を導く為に!その勇気研ぎ澄ませ!乾坤一擲、一必奏成!天下御免の侍魂!いざ、出陣せよ!サモンドスレイヴサモン!『ブレイドラ・レンゲリス』!!」
『我が身と魂!殿の為に!』
召喚口上と共に、魔法陣から一人の男が姿を現した。
その男は、黒の紋付き袴に白い陣羽織を翻す、二十代前半に見える若い男。一本の刀を携えるその姿は、まさに日本の侍!
しかも、結構なイケメンじゃん。
『殿!殿の命により、この『ブレイドラ・レンゲリス』トーリ・サッカー!只今馳せ参じました!』
現れた『ブレイドラ・レンゲリス』は、すぐに俺の前に膝をついて頭を下げた。
「ん?トーリ?」
『は!拙者の名は「トーリ・サッカー」と申します。以後、トーリとお呼び下さい』
そう言って、『ブレイドラ・レンゲリス』ことトーリ・サッカーが名乗った。
そうか。『ブレイドラ・レンゲリス』というのは、個人名じゃなかったのか。『ブレイドラ・レンゲリス』というサモンドスレイヴ名で、個人名がトーリ・サッカーってわけだ。
「これが、カナタのドラゴンじゃないサモンドスレイヴか……」
「人間?」
メィムは、不思議そうにつぶやいていた。
そうだな、トーリこと『ブレイドラ・レンゲリス』は、人間族のカードだ。
「わかった、トーリ。で、お前の力であいつは止められそうか?」
俺の問いに、トーリは体を起こしてマンション塔の方に顔を向けた。
『申し訳ありません、殿。さすがにあの大きさでは、拙者の力のみでは止められません』
『はあ?あんた、自分に任せろってわざわざ自分から出てきたんでしょうが。何を今更言ってるのよ?』
トーリの言葉に、マホが文句をつけた。まあ、気持ちはわかるけども。
「はいはい、どうどう。お前の力のみでは、って事だな?」
『さすがは、殿。はい、彼女の力を借りれば』
トーリが、一人の人間に目を向ける。俺も、それに合わせて彼女に視線を向けた。
「え?え?」
いきなり視線を向けられたリゥムが、おろおろとしていた。
「えっと、この人?はどういう人なの、カナタ?」
「詳しくは後に回すが、こいつは俺のサモンドスレイヴ、『ブレイドラ・レンゲリス』のトーリだ。こいつのタイプは「氷」。その力で、あのグレート・バリアリーフの動きを止める」
『拙者の力でも、あの巨大な敵を全面凍結する事は厳しいです。その為、水使いの貴女に力を貸していただきたいのです』
トーリが、リゥムに丁寧に頭を下げた。それで、ようやくリゥムも事の次第を理解したらしい。
「あ!それじゃあ、私が『しゃわしゃわん』のカードで……!」
「ああ。リゥムは、水を出すカードで大きな水の塊を作り出してくれ。それをあいつに食らわせて、トーリの凍結効果を倍加する」
トーリだけでは、パワーが足らないみたいだからな。大きな水の塊をぶつけてあいつを濡らせば、トーリの氷の力が及ぶ範囲も効果も増すだろう。多分。
「リゥムは、水の塊を作っててくれ。技を放つタイミングは、トーリに任せる」
『お任せ下さい』
「ああ。お前の技であいつが停止次第、俺が突撃して宝玉を破壊する。ヒナギは、それまでなんとかもつように『スロー・ライフ』を頼む」
「はい!」
「リゥムが動けない以上、陽動はロキヒノとメィムの二人で頼む。正直二人ではキツいとは思うが、なるべくあいつの注意を引き付けてくれ」
「おう!」
「リゥムの方には、あたしが絶対行かせないわよ」
その時、ズズン……と音がした。見ると、マンション塔が完全に崩れていた。どうやら、グレート・バリアリーフがマンション塔の破壊を終わらせたようだ。
「んー?あのニンゲーンどもめ、どこに行った?」
グレート・バリアリーフが、辺りを見回す。マンション塔の破壊にかまけて、完全に俺達を見失ってやんの。
「だが、どこに逃げても無駄ーよ!マ!アイビーム!!」
いきなり、グレート・バリアリーフが両腕を上げて、メインカメラっぽい所からビームを放った。両腕を上げた意味は!?
グレート・バリアリーフのビームは、俺達のいる場所とは見当違いの方向へ放たれた。そのままビームは近くの山の中腹に命中し、大爆発。なんと、山の形を変えてしまった。
とんでもねえ威力だ、グレート・バリアリーフ。
「あんなんが町に行ったら、大惨事どころじゃねえぞ!」
「奴との決着は、ここで着けるぞ!ここを、奴の終焉の場所にしてやるんだ!」
俺は、全員に向けて叫んだ。ここで、すべてのケリを着ける。奴に町に行かれたら、俺達の敗北だ!
「おうよ!」
「絶対勝つ!」
「がんばるよ!」
「はい!」
『ちゃんと働きなさいよ、トーリ!』
『委細承知!』
さあ、決戦の時間だ!




