第19話
改造人間を撃破した俺達は、マンション塔の最上階に向かった。
その道中、当初の目的だったイッヌを保護する事にも成功。一足先に、マンション塔から安全な場所に避難させた。
さあ、あとはこの悪の組織の幹部と首領を倒すだけだ!
走り続けようぜみんな!ライディング……なんでもない。
──・──・──・──・──・──・──
俺達は、慎重に十階へ上がる階段を登った。
「あれ?何か明るい?」
階段の出口からは、今までと違い光が漏れていた。これは、もしかして十階には灯りが点いている?相手は鉱石族だし、まさか電気か?
と思ったけど、違った。
「あれ?屋上?」
十階には、そこが屋上かと見紛うほどに、天井が無くなっていた。ただ、最初から屋上ではない事は、外壁が取り囲んでいる事からわかる。ここは、わざわざ外回りの壁だけを残して中の壁と天井を取り除いて作った吹き抜けスペースらしい。
「何のためにわざわざこんな……」
多分、そこはジュッカー・フィフティーンが来てから整備されたんだろう。壁とかの撤去跡が、比較的新しい。
壁が取っ払われて広くなったフロアには、ベッドというか改造用と思われる台が所狭しと並べられていた。ざっと見ただけでも、三十台くらいだろうか?それは、まるで野戦病院に設置された治療ベッドのような様子。
「あいつらが、例の奴らか」
改造台の間には、千手観音のように腕が六本生えて顔まで前後に二つある、仏像がロボットになったみたいな物体がせわしなく動いていた、この世界に仏像があるとは思えないんだけど、ホント千手観音ロボだな。全長は57メー……なんて事はなく、2メートル弱くらいかな。
千手ロボは、二つの顔と六本の腕で改造台に載せられた生物をあっという間に機械生命体へと変えていく。今改造されているのは、くちばしの鋭い鳥のようで、あれはもしかするとキツツキだろうか。
「改造されているのは、キツツツキかしら」
「だね」
キツツキの名前、こっちではキツツツキかよ!いや、キツツツキって……!言いにくいわ、キツツツキ。
「あ!フロアの奥を!」
フロアの奥には、まるで十字架のような磔台が立てられていて、そこに一匹のドラゴンが磔にされていた。黄色く小さなドラゴンで、背中の翼も尻尾も小さい魔竜とは思えないかわいらしいドラゴンだ。体長は、2メートルも無さげか。
「あれは確か、『シャイン・ポケッツ・ドラゴン』?」
そのドラゴンの姿は、魔フォーのサモンドスレイヴ『シャイン・ポケッツ・ドラゴン』に似ていた。見た目がかわいらしいマスコット系のサモンドスレイヴで、正直強くはないけど女性プレイヤーに可愛がられて意外に人気のカードだ。何かの投票がある度に、上位に食い込んでくるかわいいけど憎い奴。
その十字架の前に、他の改造台よりも大きな改造台が置いてあり、その上には磔になっている『シャイン・ポケッツ・ドラゴン』よりも大きい、体長4メートル弱の『シャイン・ポケッツ・ドラゴン』が両手足を拘束されて寝かされていた。
「あれって、もしかして魔竜の親子?」
リゥムの言葉に、俺は無言でうなずく。同じ姿でそのままサイズアップしているから、多分磔にされているのが子供で寝かされているのが親か。
「あの魔竜を改造する気か。けど、魔竜があの程度の拘束を抜けられないのか?」
「磔にされてる方はグッタリしてて、寝かされてるのは気を失ってるのか死んでるのかって感じね」
『お待たせ。ちょっと離れた茂みに避難させてきたよ』
階段の出口の所で様子を伺っている俺達の後ろに、マホが帰ってきた。階段じゃなく外を飛んできたのか、帰ってくるのはえーな。
「ああ、お疲れマホ」
『ありがと。て、あれが鉱石族の科学者?』
「多分ね。あと、奥の魔竜を改造するんじゃないかしら」
「ん!違う感じの奴が出てきたぞ」
ドラゴンの載せられた台の前に、今までとは違う鉱石族が姿を現した。
現れたのは、白衣をまとい向こう側が見えない分厚いレンズの入った眼鏡をかけた、いかにもマッドサイエンティストという風貌の鉱石族。もちろん、鉱石族なので腕も顔もロボットで、眼鏡も顔と一体化している。男を模した人型だけど、どこから見ても立派なロボット科学者だ。
他と一線を画す風貌、その雰囲気。間違いない。こいつが、ジュッカー・フィフティーンの首領・バリアリーフか!
「グッド、アフタヌーン。ドラゴーン」
バリアリーフは、語尾を変に伸ばすイラつくような話し方だった。そのバリアリーフは指を鳴らすと、改造台の上の親ドラゴンに電撃が走った。
「ああああ!」
親ドラゴンが、悲鳴を上げて改造台の上で暴れる。しかし、両手足を縛る拘束はその力にもびくともしない。
「あ、あ、あぐ……」
親ドラゴンが、顔をバリアリーフに向けて睨み付ける。『シャイン・ポケッツ・ドラゴン』はクリクリした目がかわいいマスコット系ドラゴンなんだが、あんな電撃で攻められていてはそんな余裕はないわな。目付きは険しく、噛みつきそうな様子だ。
「鉱石族ぅぅぅ!」
親ドラゴンが、拘束具を外そうと手足をばたつかせる。
なんか、声を聞くとあの親ドラゴンは女性?メス?に聞こえるな。
「おやおやー?まーだ学習できないのかーね?君が暴れれば、それは全て娘に行くと散々やったではなーいか?」
バリアリーフがバカにしたように言うと、今度は磔にされている子ドラゴンの方に電撃が走った。
「きゃあぁぁぁ!」
子ドラゴンが、悲鳴を上げる。バリアリーフが「娘」って言ってたように、声の感じはメスだな。
「なるほど。親のドラゴンが下手に抵抗すれば、娘が電撃で攻められるってわけか。あれは、簡単には手を出せないな」
『人質……というか竜質?』
「卑怯な真似を!」
「酷いです!」
「くぅ……」
親ドラゴンは、暴れるのをやめた。それに合わせて、子ドラゴンの電撃も止まる。
「あぅ!……マ、ママ」
子ドラゴンは、息も絶え絶えに親に顔を向ける。やっぱり、母親か。
「フーククク。君ら親子を捕まえてから一週かーん。ついにこの時が来ましたーよ。獣生族から人間族まで改造した実験の成果を、見せてあげましょーう」
バリアリーフが、まるで手術前の医師のように両手を上げた。すると、両手からメスのような刃物がたくさん出てくる。バリアリーフの腕は二本だけど、改造道具をたくさん腕に仕込んでいるのか。
「ツーカー達は、ドラゴン改造の為の実験台でしかないって事かよ」
バリアリーフの言葉に、俺はムカついた。正直ツーカー達は敵だったから俺が怒る必要は無いんだけど、あんなにはっきり実験台だと言われるとイラッと来るぜ!
そのバリアリーフの動きに合わせて、他の十四体の千手ロボがゾロゾロとドラゴンの改造台に集まってくる。
「改造を始める気か。さて、どうするべきか……」
相手は十五体いるし、何より二体のドラゴンが捕まっているからな。何か手を考えないと、面倒な事になるのが目に見えて……。
「ごちゃごちゃ考えてる場合じゃねえ!」
ロキヒノが、剣を抜いて立ち上がった。
「ええ!もう黙って見てられないわ!」
メィムまで、叫びながら立ち上がっていた。
ああ、直情径行のこの二人に今の状況で待てとか無理だったな。
「メシモノ発動!『フレア・ブレード』!行くぞ、鉱石族!!」
「叩き潰す!」
ロキヒノは『フレア・ブレード』を発動させ、メィムは『サンダー・プレヴァレット』を手甲に組み込んでフロアに躍り出た。そのまま、二人して一気に鉱石族目掛けてダッシュしていく。
「ピピピー。敵性存在確認。数2、人間族。ピピピー」
「迎撃部隊、発進」
ロキヒノとメィムの姿に気付いた千手ロボが、迎撃行動に移った。
空からさっき改造していたキツツツキやコウモル、壁の向こうからはダンシャクグモやムカデチがゾロゾロと現れて、ロキヒノとメィムの進路を阻止しようとする。ナメゴンQもいるけど、やっぱおせえわあいつら。
「ほーん。あれは、入って来ていた荒らしですーか。フン、下の改造した人間達は役に立ちませんでしたーか」
いちいちイラッとする事を言ってくる、うっとうしい奴だなバリアリーフ。
『わたし達も行こう!』
マホも、カードを鞭に挿入しつつ二人を追う。
「それじゃあ、私達も……!」
「ヒナギ、リゥム。二人に話がある」
「え?」
後に続こうとするヒナギとリゥムを、俺は呼び止めた。
「二人には、やって欲しい事があるんだ」
「わたし達に、ですか?」
「何をするの?」
「ああ」
俺は、二人に説明した。
「……て事だ」
「なるほど」
「わかりました。やってみます」
「ああ。頼むぜ」
俺は二人に作戦を与えて、フロアに飛び出した。
「マホ!マホは飛んでる奴を頼む!」
『うん!』
マホは、翼を広げてキツツツキやコウモルの撃退に飛び上がった。空を飛ぶ相手にはマホが適任だし、あいつの鞭は複数を相手するのに向いている。
「おーう?あれは、聖天族ではないですーか。これはラッキー。聖天族のサンプルまで手に入るとーは。お前達、聖天族を捕らえなさーい」
バリアリーフがマホの姿に気付いて、眼鏡をクイッとずり上げた。
いや、その眼鏡顔に一体化してるだろう!?今、どうやってクイッてした!?
「「「「「了解」」」」」
バリアリーフの命令を受けて、千手ロボの内の五体が足の裏からジェット噴射を吹き出して、上空のマホへと向かっていった。
おぉう、人間領国って中世ヨーロッパ?レベルの文明相当なのに、鉱石族はジェットで空を飛べるんかい。いやまあ、鉱石族が敵に回るから文明レベルが下がるんだけど、あまりにも世界観メチャクチャすぎないか?歪みすぎだろ、この異世界。
『彼方くんの愛に守られたわたしに、あんた達なんて敵じゃない!』
マホが、鞭を物凄い勢いで振り回す。その鞭は、まるで分裂したかのように同時にキツツツキやコウモルを打ち、破壊する。
その鞭の技みたいなの、昔漫画で読んだぞ?禁じられた鞭、だったっけ?送り仮名いらんかったかな。
ただ……、マホさんや?多分使ってるのが『マイ・スイート・ハニー』の魔法だからなんだろうけど、そういう言い方は自粛していただけるとありがたいかな。なんか、周りからニヤニヤした視線を向けられて困る。
『勤勉!』
それもやめろ、マホー。
「人間……と、天使……?」
親ドラゴンが、戦っている俺達に顔を向けてつぶやいていた。突然の乱入者に驚いているんだろうけど、さすがに自分達の改造を阻止しに来たとは思うまい。一応味方だからな、俺達は。




