第18話
塔の中で、超越族こと改造人間と戦った俺達。強力な超越族の力に苦戦するも、俺達は見事超越族四人を倒す事に成功した。
ガッチャ!楽しいデ……、いや違うそうじゃない。
──・──・──・──・──・──・──
「……ふう」
俺の放った『トレンシャルトリビュート・ブレイカー』は壁を壊して外へ飛び出して、山の方へと消えていった。
あの魔力の激流、あの後どうなるんだろう?……考えるのやめよ。
「うおー、さすがはカナタ。技もド迫力だなー」
ロキヒノが、そんな事をつぶやいていた。いや、お前の首引っこ抜きもかなりの迫力だったぞ?
「ふわ~。私よりずっと凄いよ~」
『まあ、そこはさすがの彼方くんだし』
「だね~」
マホとリゥムが、そう言い合って笑っていた。
うーん、さすがって言われてもなぁ。ダンシャクグモとかガエルとかのモブじゃない、俗に言うネームドの敵を倒したのってツーカーが初めてなんだけどな。万策尽きしカバもGも、全部ダブル・ジョーカーが倒してたし。山賊連中は戦闘不能にしたけど、トドメ刺したのロキヒノとGだったしな。
ネームド倒したし、昇進確定だ!
「やっぱりトオノさん、凄い……」
ヒナギが、俺の方をぽや~とした顔で見つめていた。
「カナタ無傷?ずるいわね」
メィムは、マントで体を隠していた。メィムは、マーシーにブラウスを引き裂かれていたからな。まあどっちかと言えば、ブラウスだけで済んでまだマシだったって感じだったけどな。
まあその、ごめんな?ついつい、見てしまって。でもまあ、ガン見してたわけじゃないからいいだろ?
「全員無事……とはいかなかったけど、とりあえず生き残ったみたいだな」
俺は、改めて周りを見回した。
ツーカー達四人の改造人間を殲滅し、俺達は六人全員生き残っている。戦闘自体は、俺達の完勝と言っていい。
ただ、ロキヒノは全身血みどろだし、メィムは服の破損とマーシーの『コーラ崩し』を受けて足とか肌の露出部分に青アザを作っている。青アザは、ヒナギの方が多いな。
マホは、顔に受けた墨が拭いきれていないけど、これは傷でもないか。オッサンごときに胸を揉まれたリゥムの精神的ダメージの方が、心配かもしれん。
俺は、最初の方に壁に叩き付けられたくらいで、その痛みも既に治まってるからメィムの言う通り無傷と言えるかな。ツーカーが俺を気に入っていたせいで手心を加えてたみたいだし、これが俺の真の実力かと言われると微妙かもだけどさ。
とりあえず、俺達は集合し、ロキヒノの手当てをする。ちなみに、手当て担当はリゥムに任せた。
「大丈夫か、ロキヒノ?」
「ああ。深いのは左肩だけだから、他は放っておけば治るだろう」
そう言って、ロキヒノは鎧を脱いで左肩にだけ応急処置を受け、包帯を巻かれていた。他の傷には、困った事につばを付けている。それで済ますんかい。
「ここでは、精々応急の血止めくらいしかできないけど…」
「それで十分だよ。王宮に帰ったら、トモヨに魔法かけてもらうからさ」
「?トモヨ?」
ロキヒノの言葉に、俺はつい反応してしまう。なんか、日本人っぽい名前がロキヒノの口から出てきたぞ?
「ん?ああ、トモヨは俺の妹だよ。トモヨ・リードギルフ」
「へー、ロキヒノには妹がいるのか?」
ロキヒノの妹って事は、王女様って事だよな。日本人っぽい名前は、たまたまか。
「ああ。俺には、弟と妹が一人ずついるんだ。弟は、ノオト・リードギルフって言って俺の五つ下。トモヨは、そっから六つ下だったかな?」
この国の王家は、跡取りがとりあえず三兄弟なのか。第二王子が十六歳で、王女様は十歳。上と下で、倍の差があるのな。
ん?ロキヒノにノオトにトモヨ……。しりとりか!
「王女様に魔法をかけてもらうって?」
「ああ。トモヨは、どういう魔法なのかは知らないけど傷の治りが早くなるっていう魔法を使う事ができるんだよ。トモヨが言うには、人間の本来持っている自己回復力を高める魔法だから回復するわけじゃないって言ってるけど、俺は回復魔法だと思ってる」
「ふーん、そんな魔法が……」
回復魔法か……。今のデッキには入ってないけど、プレイヤーのHPを回復する勅命カードとか使った場合はどうなるんだろう?この戦いが終わったら、ダブル・ジョーカーに聞いてみるか。
「というか、それはカードではなくて?」
リゥムが、尋ねた。ああ、そういやカードを使った魔法の発動だったら「どんな魔法か知らない」なんて事にはならないな。少なくとも、名前はわかるだろう。
「それが、カードを使わないんだよ。どうやってんだって聞いても「秘密です」としか答えないし。あいつも、カナタみたいに色々規格外なんだ。謎の魔法は使うし、時々予言めいた事を言うし、何より十なのに俺より頭がいい!」
ロキヒノが、悔しそうに吠えていた。
「あの、あんまり暴れないで」
「ああ、わりぃ」
王女様は、規格外キャラか。なんか、少し興味を引かれるな。
ただ、最後のヤツは妹がどうこうよりお前自身の問題じゃねえか?勉強の出来で負けてるんなら、それはお前のただの怠慢だぞロキヒノ。
「ところで、鎧の方もあちこち破損してるけど、大丈夫なのか?確か、王家の秘宝なんじゃなかったっけ?」
ロキヒノの鎧にも、所々に穴が空いていた。ヒナギの防御魔法が効いていたはずの鎧を貫通してくるとか、何だかんだで強かったな超越族。
「ああ。そいつは、放っておけば勝手に修復していくから問題無い」
ロキヒノがサラッと言ったけど、凄いなその能力!
「自動修復能力のある鎧?何気に凄いな。どんな原理でなってるんだ?」
「知らね。昔の王家に仕えてたハーリンだかラーリンだかいう部下が、鎧に魔法をかけたらしい。どんな魔法をかけたかまでは、オラシラネ」
ロキヒノは、両手を上げて「お手上げ」のポーズを取った。
「お前……。それ素性がわからないって事じゃないのか?よく使えるな?」
「素性?そんなん、働きぶりを見ればある程度の事なんて多目に見るさ。能力が高くて仕事できる奴が一番さ。お前もな、カナタ?」
ロキヒノが、俺にウィンクしてくる。
まあ、素性がわからないってのは俺も同じだからなぁ。ロキヒノは、能力主義というか成果主義か。柔軟な対応ができそうな感じは、高評価だな。
「えっと。応急処置をしますのでブラウスを脱いで下さい、メィムちゃん」
あっちでは、ヒナギがメィムの破れたブラウスを応急処置しようとしていた。
ヒナギ、ソーイングセットを持ち歩いているのか?家庭的というか、女子力高いというか、凛々しく戦ってた姿とは別人だな。
「……マホ。ちょっとあんた、あっち向いてなさい」
メィムは、マホの視界から逃れようとしていた。
『え~、なんで~?』
当然、マホは不満の声を上げる。あいつ、戦闘中はさすがに見てなかったか。
「なんでって……。自分の胸に聞いてみなさいよ?」
『ん~?聞こえないんでメィムちゃん聞いてみて?』
胸に手を当てていたマホは、ずずいと自分の胸をメィムに突き出してきた。美少女の痴態を見るだけじゃなく、自分が美少女に弄られるのもありなのか、あの天使は。何て言うか筋金入りだな、マホは。
俺の事はまあ、十年一緒に戦ったから情でも移ったんだろう。
「いいから!……まったく、変な事はしないでよね?」
メィムは、片手でマホを押し返した。それから、観念したのかため息をつく。
『大丈夫大丈夫。踊り子さんには手は触れません~』
「誰が踊り子よ。……カナタとロキヒノも、こっち見ないでよね!」
メィムが、俺達男勢にも牽制を入れてきた。
「はいはい」
「了解だー」
今更とも思ったけど、俺はメィムに背中を向ける。ロキヒノも、座っている位置をメィムが見えない位置にずらしている。
メィムがブラウスを脱いでいる衣擦れの音がして、少しだけドキドキしてしまう。まあ、その下は既にさっき見てしまったんだけどな。メィムにバレたらぶっ飛ばされそうだから、この事は黙ってよう。
「ん?」
ふと、視界に入った床の上に何かが落ちているのに気付いて、俺はそっちに近付いた。床に落ちていたのは、一枚のカード。
取り上げると、それは『変身―メタモルフォーゼ―』だった。
「ああ、マーシーが吐き出してたヤツか」
カードごと消滅した他三人と違って、マーシーはカードを排出していたからな。せっかくだし、回収しておくか。
まあ、俺のデッキにも一枚入っているんだけど、カードゲームで使ってた頃の名残だから使う事を想定してなくて、デッキの底に沈めてあるんだよな。ゲームとしては、いきなり強力サモンドスレイヴを出せる使えるカードだったし。
「俺が使ったら、どんな姿になるんだろう?」
ふと興味を持ったが、今は確かめるのはやめておこう。下手に変な物に変身して弱体化とか食らったら、今は洒落にならん。
俺は、カードを回収してロキヒノの所に戻った。もちろん、メィムに顔は向けられないんでムーンウォークで後ろを向かずに後退した。
「しかしまあ、超越族とか言うだけはあったな。強かったぜ」
応急処置を終えたロキヒノが、鎧を着直していた。
「いや、それを正面から力でねじ伏せたお前も大概だと思うが……」
「そこはまあ、鍛えまくってるからな」
人間って、鍛えればロボットのパワーも超えるの?
それはそれとして。
「ロキヒノ。準備が整えば一気に最上階に乗り込もうかと思うが、どうだ?」
俺の提案に、ロキヒノは即うなずいた。
「ああ。奴ら、魔竜を改造するって言ってたな。人間ですら、あれだけのパワーを持ったんだ。魔竜を超越族にされたらどんな事になるかわからん」
「ん。こうなった以上、悪いがイッヌは後回しだ」
「そうね。それは、全面的に同意だわ。あと、もういいわよ」
俺とロキヒノとの会話に、メィムが入ってきた。見ると、ブラウスの破れた箇所を糸で縫い合わせている。
結構仕事速いな、ヒナギ。
「メィムちゃん。正直強度はあれなので、あまり無茶な動きをしないで下さいね?」
ヒナギが、心配そうにメィムに声をかけている。そりゃ、こんな場所じゃ応急処置が精一杯だわな。戦闘に耐えるのは、厳しいかも。
「それこそ無茶な話よ?戦闘中にそんな事気にしてられないし、それで死んだら意味が無いわ。だから、えっとなんだっけ?ジャッカーだかデッカーだかを倒した後に、気にする事にする」
メィムは、苦笑した。まあ、羞恥を気にする前にまずは生き残る事優先だな。
ちなみに、ジュッカー・フィフティーンな?電撃隊とかジェイとかが更に付きそうな、そんな名前じゃないからな?
「それは、そうですね……」
「そうだ、ヒナギ」
俺は、そんなヒナギに声をかけた。
「はい?」
「こっちの銃をお前に渡すから、剣を俺に返してくれ」
俺は、銃をヒナギに差し出した。
「え?それをわたしに、ですか?」
「ああ。こいつは、遠距離から攻撃できる武器だ。接近戦をしなきゃいけない剣よりは、ヒナギに向いてると思うんだ」
まあ、剣で頑張るヒナギは、それはそれでカッコよかったんだが。
「なるほど。それでは……」
俺とヒナギは、武器を入れ替えた。
「これはどうやって使う物なんですか?」
「そもそもなんて武器なのよ?最後の凄い攻撃だけは見てたけど、どんな攻撃するのかは見てなかったのよ」
そもそも最後の必殺技以外は銃で攻撃してないけどな、俺。
「こいつは拳銃だ」
「!拳銃!?ああ、歴史で習った事があります!これがそうなんですか……」
ヒナギは、物珍しそうに銃を眺めていた。拳銃が歴史書案件かぁ、この世界。
「使い方は?」
「えっと、まずはこう持って……」
俺は、ヒナギの手を取って銃の持ち方を教えた。
ハッ!これは俗に言う、手取り足取りというヤツなのでは!?……まあ、いいか。口で説明するよりは遥かに速いし、仕方ない。
ヒナギは顔を赤くしててうつむき加減だけど、ちょっとの間だから耐えてくれよな。たとえ触られるのが嫌でもさ。
「ここの引き金に指をかけて、それを引くと魔力の弾が発射されるから、相手に向かって撃つ感じで……」
「ふ~ん。リゥムの弓と似たような感じだけど、弦を引かない分こっちの方が簡単?」
「まあそうだけど、同じ魔力の攻撃だから攻撃の威力はリゥムのヤツの方が上なんじゃないかな?飛んでいく媒体が矢の方がでかいし」
本物の銃とは違って、魔法攻撃だからな。まあ、実際にはどうかわかんないけど。
「両手でしっかり固定して、相手を正面に捉えて撃つといい」
「は、はい。がんばってみます」
俺が手を離すと、ヒナギは柔らかく微笑んだ。
そんなに、俺に手握られてるの嫌だった?離した途端、めっちゃ嬉しそうなんだけど。それはさすがにちょっと凹むぞ、ヒナギ。
「あたしの魔法だと『サンダー・プレヴァレット』よりは『サンダー・グレネイド・シュート』に近い?」
メィムの『サンダー・プレヴァレット』は散弾で『サンダー・グレネイド・シュート』は一発のレーザービームだから、近いのは確かにそっちだな。
「そんな感じだな」
「リゥムもヒナギもいい物貸してもらっちゃって。あたしには何か無いの?」
「え?でも、お前何かいるか?近接も遠距離も一人で対処できるし、動きも秀でてる。戦闘に関しては、結構オールマイティーな有能じゃん」
「まーねー」
俺の言葉に、メィムは胸を張っていた。
実際、メィムは強いんだよな。近付けば格闘でボコボコだし、離れてもサンダー魔法が飛んでくるので距離を開けても安心できない。こいつが敵だったら、かなりやりづらい相手になるぞ。
……フラグじゃねえ!
「剣使うか?」
「別に、必要は感じないわね」
俺が持っている剣を示すと、メィムは首を横に振った。
「だったらいらんだろ」
「そうね、いらないわ」
「なら言うな」
「いいじゃない。言いたい年頃だったのよ」
なんだそりゃ。
「授業は終わったか?そろそろ、先に進もうぜ」
ロキヒノが、前進を促してきた。まあ、今は一刻を争う事態になってしまったからな。
「ああ、わかった。あとはヒナギ。時間が無いけど、自分で使いながら慣れてってくれ」
「はい。行きましょう」
俺達は、先へ進む事にした。
「……」
俺は、一度だけホールの中を振り返り、外に出た。今は、感傷に浸っている場合じゃない。




