第16話その2
「はぁ、はぁ。やった……」
リゥムは、肩で息をしていた。魔力を短時間で一気に集中させたから、負担がかかったかな。でも、それに見合う戦果だぜリゥム!と、心の中でサムズアップする。
『やったね、リゥムちゃん!』
マホが、嬉しそうにリゥムに抱擁していた。リゥムはまだ寝っ転がったままなので、当然マホも寝っ転がる形になる。
戦闘中だぞ、お前ら。
『さっきの技、凄かったね~!』
「ト、トオノくんがあんな感じにするようにって言ってくれたから…」
『技の名前を叫んでたのは?』
「そっちの方が強そうかな~って。名前は、適当……」
必殺技の名前は叫ぶ、基本だよな。わかってるじゃねえか、リゥム。
『カッコよかったよ、リゥムちゃん~。もう、惚れちゃうわ~』
マホは、デレデレした顔でリゥムに頬ずりしていた。リゥムを祝福するだけじゃなくて、抱きつけた事に対する喜びもあるな。
いや……!マホの奴、リゥムの胸に自分の胸を擦り付けて、リゥムの巨乳の感触を味わってやがる!大と小のめくるめくファンタジーの開幕だ!
何言ってるんだ、俺。
「あ、あはは。ありがとう、マホちゃん」
リゥムは、過剰なスキンシップに困ったような顔をしながら、マホの抱擁を受けていた。さっきは姉にキスされてたし、セクハラされまくってるなリゥム。うーむ、なんて不憫な子なんだ。
「でも、それはマホちゃんが動きを止めてくれていたからだよ。マホちゃんも、凄くカッコよかった」
『ありがと。でもまあ、そこは彼方くんのおかげなんだけどね?彼方くんがくれたカードがあったればこそ』
「私も、助けてもらっちゃった。凄いよね、トオノくん。自分も戦ってるのに私の事も気にしてくれて」
『ね~。さすがは彼方くん!略してさすかな!』
「あはは、さすかなだね」
二人は、上体を起こして笑い合った。
それは違う、それは違うぞお前ら。
「あらら。ジェイさん、負けちゃいましたか」
オッサンが倒された事を、ツーカーは意外そうではあったが、特に怒ったり憤ったりする事無く淡々とつぶやいていた。
「ん?ツーカーは怒らないんだな?」
「僕が怒るですか?ああ、仲間を倒されたからみたいな感じにですね?別に、怒ったりはしませんよ。所詮ジェイさんは下っ端で僕達の中で一番の小物でしたから、なんとも思いませんね」
さすが、悪の組織の構成員。仲間を「一番の小物」扱い、出たよ。つまりこいつらはあれか、ジュッカー・フィフティーン直属の四天王みたいなもんか。
「むしろ、人間と聖天族の二人がかりで下っ端相手とは言え、僕達超越族を倒せたのは賞賛に値しますよ。まあ、途中カナタさんも手を出してましたけど」
「まさか、それを卑怯だなんて事は言わないよね?」
「言いませんよ。さっきのは完全に油断というか欲望のあまり周囲への警戒を怠ったジェイさんの自業自得ですし。だいたい、あの人は前々からあれでしたから。迂闊者のくせに自己顕示欲だけは大きくて、必ず最後にミスる。あの時も、わざわざ僕が完璧な計画を立ててあげたというのに余計な事をして失敗するし……」
ツーカーが、ため息混じりに愚痴っていた。
ああ、銀行強盗はオッサンのせいで失敗したんだっけ。その計画を立てたのが、ツーカーなのか。
倒されても気にもされないオッサンは、少しだけ哀れな気がした。
「まあ、君達に何があったのかは興味無いし。それより、残りは三人。全員倒して、先に進ませてもらうよ?」
俺は、もう一度デッキケースに手を伸ばした。素手でも渡り合えるけど、いまいち倒せるイメージが湧かない。やっぱり、何かしら武器が欲しい所。
引いたカードは、召し物カードの『バンシューティング・ギャレン』。装備したサモンドスレイヴが、相手プレイヤーのHPにダメージを与えるとデッキからカードを一枚引く事ができる手札補充カードだ。
まあ、イラスト的には拳銃が出てきそうだな。そう思って入れたんだけど。
「召し物発動!『バンシューティング・ギャレン』!」
魔法を発動すると、やっぱり拳銃が現れた。ローリングバルカンとは違って片手で持てる拳銃で、銃口に穴が空いてない。弾を入れるリボルバーも無いし、銃口に穴も無いんじゃこれも魔力を弾丸として発射するタイプだろうな。
しかし、銃身が短い割に本体は少しゴツくて色が赤い。なぜか、無言で見ているだけの人になりそうな銃だ。
「新しい武器ですか」
「槍は壊されちゃったからねー」
「それはどんな武器なんですか?」
「戦う相手に聞いちゃうんだ?」
「まあ、見た事が無い物だったので……」
ふむ、やっぱり拳銃はあまり知られていないみたいだな。
「こいつは拳銃だよ。魔力を飛ばして敵を攻撃する、遠距離攻撃用の武器だね」
せっかくなので、答えておいた。まあ、特に目的があるわけじゃなくて、単なる気まぐれだけども。
「へー、それが拳銃ですか。作ると鉱石族になってしまうので作るのを禁止したと、歴史の授業で習いましたよ。そんな形だったんですね」
なるほど、作るのを諦めたんじゃなくて禁止してたのか。そうだよな。拳銃が鉱石族に進化したら、リボルバーでヴァレットなドラゴンとかになりそうだし怖いもんな。そりゃ、正式に禁止にするわ。
と、なぜかツーカーが笑っていた。
「?何笑ってんの?」
「いえ、カナタさんは本当にいい人だなーって。別に僕の質問に答える義務は無いのに、律儀に答えるんですから」
「あー、まあ……。まあ、あれだよ。ツーカーも、俺の質問には答えてくれただろ?だから、その礼みたいなもん?」
完全後付け理由だけど。
「敵に礼をするなんて、ますます律儀じゃないですか」
ツーカーは、やっぱり笑ったままだった。
「残念だなぁ。今回だけは、人間だった時にカナタさんと出会いたかったかも。今の僕にはブルンさんと違って穴は無いですし……」
ツーカーが、残念そうに言った。
いや、ツーカー元も男だろ?男なんだから穴なんて……、まあ無い訳じゃないけど。
「僕は、そういう生活をしてきた人間だったので」
「それって……」
俺は、眉をひそめた。それって、そういう事だよな?
「くす……。過去の僕の事なんて、カナタさんは気にしないで下さい。過去の人間だった頃のツーカー・ドーンはもういない。その名前はもう捨てたんです。今の僕はツーカー神!超越族のツーカー神です!」
ツーカーが、両手を広げて叫んだ。俺が教えた名乗り口上、完璧にマスターしてるじゃねえか。やるな、ツーカー神。
……ツーカー・ドーンがフルネームか。
「その言い回し、気に入ったな?」
「はい。不思議と気分が高揚する、素晴らしい言い回しです。これからは、これを自己紹介に使わせてもらいますよ」
「そうか。そいつは、残念だな」
「?なぜですか?」
俺が言うと、ツーカーは首を傾げた。
「せっかく気に入ってもらえたのに、もう使う機会無いからさ。俺が、今日ここで君を倒してしまうからね」
「ああ、なるほどね。ふふ、安心して下さい。これからも言い続けてあげますから。カナタさんが最悪首だけになってもね」
ツーカーが、自分の拳を打ち付けて笑顔を悪どい顔芸笑いに切り替えた。
さて、せっかくリゥムが目の前でやり方を見せてくれたんだ。言い出しっぺとしては、それを上回るヤツをぶっ放さないとな。必殺技ってヤツをさ。
[ジェイ・ソンシンドル]タイプ:水
職業:下っ端改造人間(超越族)
装備:鋼鉄の体
自身の体が魔札道具
所持魔法:チョクメイ『変身―メタモルフォーゼ―』(本人と共に消滅)
変身した形態はタコギャンを模した八本足の怪人
※超越族に改造された元人間のオッサン。人間としての年齢は三十六歳。
無能でバカだが自己顕示欲だけは一人前の男。仲間と銀行強盗を行うが、この男のミスで計画は失敗。町から逃亡して潜伏中に拉致され、改造された。
超越族になっても変わらない女好き。
マンション塔で、マホ・ブルーム&リゥム・ウィステリアと交戦。リゥムの胸を揉むという幸せにありつけたが、彼方の乱入からのマホの技に動きを封じられ、リゥムの必殺技によって塵一つ残さずに消滅した。




