第16話
超越族は、魔法で変身した。
そうだ!それでこそ、改造人間だ!まあ、変身した姿はどう見ても怪人なんで、さすがは悪役って感じだけどな。
──・──・──・──・──・──・──
「ぬほー!」
鞭に縛られていたオッサンが、無理やり鞭を引き千切って拘束状態から脱出していた。なんだかんだと言っても、あれも超越族。パワーは、並み以上は当然あるみたいだな。
『!この!』
千切れた鞭をすぐさま再生させて、再び振るうマホ。やっぱり、あの鞭も魔力でできた無限鞭か。とりあえず、大抵の事は「魔力で解決」でよさそうだな。
さすがに今度は、オッサンも床を蹴って走って鞭を避けた。さっきはミサイルになって飛ばされていたから、避けられなかったんだな。
「マジカルアロー!」
走るオッサンを、リゥムが矢で射る。しかし、相手が一ヶ所に留まっていないと矢を当てるのはなかなか難しいのか逃げられてしまう。まだ慣れていないせいか、魔力を矢の形に集積させるのもそんなに速くないし。
鞭と矢を避けて、オッサンが立ち止まる。
「ぬう。こうも近付けないと、楽しめないずんねー。わかったずんよ。ずんも、これを使うとするずん」
オッサンは、胸からカードを取り出した。カードを収納している場所は、全員共通の場所のようだ。
ただ、それを入れる為のカードスロットが……。
「見るずん!」
オッサンはマホとリゥムに尻を向けると、カードスロットのシャッターを開いた。それは、なんと尻の割れ目。
ジュッカー・フィフティーンってのは、バカなの?ジュッカー・フィフティーンってのは、バカなの?大事な事だから二回言うけど、ジュッカー・フィフティーンってのは、本当にバカなの?(三回目)。
『なんなのアイツは……!?』
「えぇ……」
マホは更にイラついてるし、リゥムはドン引きしてる。当たり前だよな。
やっぱりジュッカー・フィフティーンってのは、バカだろう(数十秒振り四回目)。
「チョクメイ発動!『変身―メタモルフォーゼ―』!とう!」
何が「とう!」だ!変身ポーズががに股でケツにカード差し込んでるって、俺の知っている変身ポーズ史上最低のダサさだぞ!
そんな中で変身したオッサンの姿は、何とも言えない物だった。
『え~っと、タコギャン?』
「タコギャンだね……」
マホとリゥムが、唖然とした様子で言い合っていた。
オッサンは、腰から下が変化して、上半身が人間型マネキン・下半身タコの化け物になっていた。通常の足は見た所無く、タコのように吸盤の付いた足が八本生えている。
二人が言う「タコギャン」が、この世界のタコの名称かな。
「さーあ、楽しませてもらうずんよー」
両手をわきわきさせながら、オッサンが舌なめずりをする。
正直、端から見ているだけでキモい。男の俺ですらそう思うんだから、女の子には尚更だろう。
マホとリゥムが、身震いしていた。
『キモい!ホントキモい!』
「え!?」
マホが、鞭を振り上げた。が、その鞭が振るわれる前に、オッサンが動き出し二人との距離を詰めてくる。その移動速度が、異様に速い。
「速い!」
『なんで、急に!?」
マホは鞭を振るうが、オッサンにはあっさりとかわされて床を打つだけだ。
「足が八本あるんだから、速いに決まってるずんね!」
オッサンが、ドヤ顔で叫んだ。足が多いから、走るのも速くなる理論か。その理論が本当に正しいのかどうかは知らないが、オッサンには成果が出ている。
「いい加減にして下さい!」
ツーカーのハンマーパンチが飛んできたので、俺はまたそれを紙一重で避けて距離を取る。まーた、ツーカーは床に穴を開けてるよ。
「さっきから余所見をしすぎじゃないですか!?」
ツーカーは、怒っているみたいだ。まあ、さっきから周りもちょいちょい見ているせいでツーカーの攻撃はのらりくらりと避けているだけだからな。自分の事を蔑ろにされているとか思っちゃったか?
「わりーな。けど、仲間が側で別の相手と戦っているんだぜ?やっぱ、気になるだろ」
「だからって、目の前の相手に集中しないのは、ある意味失礼ですよ!」
お前らの戦いに、失礼とかあるのか?とは思ったが、まあそこはいいや。
「……むしろ、目の前の相手に集中していない相手にことごとく避けられている自分の不甲斐なさを反省する方がいいんじゃないかな?」
俺は、肩をすくめてツーカーに言った。確かに俺は集中していないが、そもそもそんな相手に避けられるのはお前の実力の問題だぞ、ツーカー。
「く……。槍を破壊した時は一撃入れられたのに……。だいたい、視線を逸らせておいてどうしてそんなに器用に避けられるんですか!?」
「ん?まあ、俺は昔から視野が広いってのと動体視力がいいってのはずっと言われてきたからな」
ダブル・ジョーカーに強化される前、向こうの世界にいた頃から俺は「見る事」に関しては色々褒められていた。その代表例が、視野の広さと動体視力。まあ、それが役に立ったなと思った事はほとんど無いけど。せいぜい、ドッジボールで最後まで逃げ回れたくらいだろうか?
で、それがダブル・ジョーカーの強化を受けたおかげで、更に研ぎ澄まされたんだぜ。
「そういう事だから、逃げ回るのだけは得意だぜ、俺は」
冷静に考えると偉そうに言える事じゃないけど、とりあえずドヤっておこう。ツーカーのハンマーパンチも、受けようとせずに最初から逃げるつもりなら、避けるのはそう難しくはない。
「つまり、捕まえてしまえば僕の勝ちというわけですね?」
「さあ?どうだろうな?」
「捕まえてあげますよ。僕を侮った事、後悔させてあげます」
「できるといいね」
ツーカーが悪どい笑顔を浮かべるので、俺も笑っておこう。悪どい笑顔選手権にノミネートされるレベルに笑えていればいいんだけど。
とは言え、ただ避けているだけだと埒が明かないので、俺はデッキケースに手を伸ばす。
「ん?」
右手が、ズボンの右後ろのポケットに触れた。そういえば……。
「おおおおお!」
ツーカーが、巨大な手を突き出して俺に迫ってきた。捕まえるの優先か。
「あははは。捕まえてごらんなさーい」
浜辺を追いかけっこするカップルのように、俺達は追いかけあった。いや、違うな。逃げる俺をツーカーが必死に追い掛けるだけなんだから、この場合は逃げる泥棒と追い掛ける刑事かな。
えーと、俺は誰の心を盗めばいいんだ?
「ちんぴょろぽーん!」
わけのわからない奇声を、オッサンが上げていた。
「ツーカーさぁ。あのオッサンの奇声はつい視線が向いちまうだろ?なんなんだよ、あれは一体!?」
「ジェイさんは、前からああですよ。正直、僕もちょっと耳障りです」
……ジェイって誰だ?あれ、もしかしてあのオッサン?あれの名前、ジェイだったっけ?ずんとか言ってたから、ずんだと思ってたぜ。
て言うか、ツーカーにも耳障りだったか。だよな。
そのオッサンは、物凄い蛇行した動きでマホとリゥムの攻撃を避け続けていた。その動きは不思議としか思えない踊りに見えて、なんかMPを吸い取られそうだ。
『キー!なんかムカつくー!』
オッサンの動きにマホは更にヒートアップし、こっちまでメチャクチャに鞭を振り回し始めた。え、まさかあの踊りには混乱の効果がある?
しかし、オッサンは突然進路を変更すると、一気にマホに近付いて来た。それは、鞭の軌道がマホの前から消えた一瞬。あのオッサン、マホをイラつかせておかしな攻撃をして彼女への進路が開くように仕向けていたのか!
『!?』
鞭をかいくぐって、オッサンがマホの懐に飛び込んで来た。
『コイツ!』
「オヒョイ!」
オッサンのタコ足の間から、例の棒が突き出ていた。と、その棒の先から黒い液体が、マホの顔めがけて発射される。
『きゃ!目が!?』
黒い液体がマホの顔に広がり、彼女から視界を奪ったようだ。もしかしてあれは、タコの吐く墨か。
「マホちゃん!?」
「まずはお前からずん!」
マホの視界を奪ったオッサンは、そのままマホに襲いかかった……りはせず、その横をすり抜けるとマホに気を取られていたリゥムに襲いかかった。
「きゃあ!」
オッサンは、リゥムを押し倒した。そして、八本の足でリゥムの手足を押さえ付ける。あれじゃあ、弓矢はおろか警棒も使えない。
俺は、進行方向を変えてツーカーに向かっていった。
「!?どうして!?」
「バク宙!」
「ぎゃん!」
俺はツーカーの目の前で飛び上がると、ツーカーの顔を蹴り飛ばしてその反動でバク宙をした。そして、体を捻って着地する。
「いただきマッスル!」
リゥムを押さえ付けたオッサンは、彼女の胸を鷲掴みにした。そして、乱暴に揉みしだき始める。
「のほー、柔らかいずーん!」
「いやぁ!やめてぇ!離して!」
リゥムは抵抗しようともがくが、八本足にガッチリ押さえられていてろくに動く事すらできない。
オッサンは、嫌がるリゥムに更に興奮して揉む手を加速させる。
「いやあぁ!」
「この張り、弾力!この柔らかさ!やっぱり、女の子は最高ずん!おひょ、んー」
「ひっ!やぁ!」
胸を揉みながら、オッサンは足を二本前に伸ばして、リゥムの顔を挟んで固定した。そして、あろう事か唇を突き出して顔を近付ける。キスを奪うつもりか!
リゥムは必死に逃げようとするが、顔も固定されてそれすら逃げられない。
「や、めてぇ!」
「キスも気持ちいいずんよ♪」
「天井とキスしてろ!!」
そんなオッサンの顎を、俺は蹴り上げた。ツーカーをバク宙で怯ませた一瞬の隙を突いて、こっちの間合いに入ったんだ。だいたい、混戦の中で女襲ってるなんて、隙だらけを攻撃してくれって言ってるようなもんだぜ。
「ぎゃへ!」
オッサンには完全に不意打ちだったみたいで、クリーンヒットを顎に受けて本当に天井まで吹き飛んでいった。ダブル・ジョーカーの強化のおかげで、俺の素の戦闘力も上がってるんだ。
「!トオノくん!」
「マホ!受け取れ!」
俺は、目の墨を拭ったマホに、ポケットから出したカードを放り投げた。ここに来る前、渡そうと用意したマホ専用のカードだ。
『彼方くん!うん!』
マホはカードを受け取ると、そのカードをチラッと見て俺の意図を理解したようだ。鞭の魔札道具からカードを排出し、素早く受け取ったカードをセットする。
『ナモト発動!『クイーンズ・フェザー・ウィンド』!』
マホが、カードの魔法効果を発動する。
俺が渡したカードは、名の下カード『クイーンズ・フェザー・ウィンド』。魔フォーでの効果は、場に『ハーレム・クイーン・マホ』が存在する時に発動できる名の下にカードで、発動したターンと次の自分のターンに相手フィールド上のカードの全ての効果を無効にする封殺カードである。
マホは、背中の翼を広げた。そして、その翼を左右に大きく羽ばたかせる。マホの羽ばたきが竜巻を巻き起こし、宙を飛んでいたオッサンを捉える。
「にょうは!?なんだずん!?変身が解除されたずん!?」
竜巻に巻かれて身動き取れなくなったオッサンは、なぜかタコ足が無くなって元のオッサンに戻っていた。竜巻を発生させて動きを止めるのは俺の予想通りだった(カードのイラストがマホが翼で竜巻を起こしているイラストだった)けど、変身まで解除したのは想定外だな。元のカード効果が封殺効果だから、現実でも封殺されたのか?
「リゥム!次の一撃にお前のありったけの魔力を込めろ!その一矢を、必殺技にまで高めるんだ!」
俺は、リゥムに背中を向けながら叫んだ。体勢をすぐに立て直したツーカーが、既にそこまで迫ってきていたからだ。
「いきなり攻撃に転じるなんて、カナタさんも意地が悪いですね!攻撃するならするって、言って下さいよ!」
「だったら笑ってんじゃねえ!」
俺は、ツーカーのハンマーパンチに自分のパンチを合わせた。正面から激突したパンチは弾かれるけど、勢いは押されてねえ。
「素手でもそこまでの力があるんですか!?どれだけ強いんですか、あなたは!」
「だから、そう思うなら笑ってんじゃねえ!」
攻撃を受け止めて、ツーカーは笑っていた。俺が強い事を確認して逆に喜ぶんじゃねえよ、ドMか!
「ええ~い!」
リゥムは床に横になったまま、弓の弦を力一杯引き絞っていた。そして、発現した矢をすぐには射らずに魔力を込める。
リゥムの矢は、どんどんと大きく太くなっていった。
「必殺技……、必殺技!」
リゥムが、動けない状態のオッサンに矢を向けた。矢は、もう十倍くらいの大きさになっている。
「ま、待つずん!?ずんは今、全然動けないずんよ!動けないずんを攻撃するのは、卑怯ずんよ!助けてずん!」
「あなたは、私がやめてと言っても、やめなかった!」
「ひぃ!」
オッサンの命乞いを、リゥムが一蹴した。因果応報だ!
「『マジカル・シュート・アロー』!」
リゥムが、必殺の矢を放った。リゥムの使う『イージスの盾』の必殺技、それが『マジカル・シュート・アロー』だ!
リゥムの放った矢は更に大きくなり、オッサンを飲み込んだ。
「ウ……、ラ……、ツ……、ワ……!」
リゥムの必殺技に飲み込まれたオッサンは、一瞬で光になって大爆発を起こした。いくら超越族と言っても、全身粉々になって吹き飛んではどうしようもないだろう。どう見たって、コアごと吹き飛んでる。
マホとリゥムの勝利だ!




