第15話その2
カッと、ツーカーが光を放った。この光の中で、変身するのか?
ヤベェ、ちょっとワクワクする。このキーワードからして、やっぱり仮面のバイク乗りみたいになんのか?それとも、五色の集団ヒーローみたいな感じ?まさか、他の星から来た無愛想な宇宙人みたいに巨大化はしないよな?
とにかく、ワクワクを思い出すんだ!
「はぁー!」
光が薄れて、変身したツーカーが、その姿を現した。
「……えー」
それを見た瞬間の俺の感想が、それだった。
目の前にいたのは、両手がやけに巨大化したゴリラだった。
「え?ゴリラ?変身して、ゴリラになったん?」
「ええ、そうですよ。見て下さい、この肉体美。パワー、スピード、肉体美。まさに最高の芸術じゃないですか、ゴリランゴ」
ゴリラツーカーが、ボディビルダーのようにポーズを取っていた。
こいつ、筋肉フェチか?しかもやたら俺を気に入っている所を見ると、こいつのストライクゾーンは男+筋肉か。俺は筋肉は特に鍛えてないから、純粋に顔で気に入られたって事だな。……嬉しくない。萎えるわー。
そういえば、この世界ではゴリラはゴリランゴと言うのか。もうちょい、なんかなかったんだろうか、名前候補。
「いや、変身するんだったらやっぱり仮面のヒーローとか、赤や青のカラフルな姿に変わるんじゃないのかよ?」
「?何の話です?」
異世界人には、夢のヒーローの事はわかってもらえないか。悲しいなぁ。
「そもそも、超越族がなんでゴリランゴになるの?え?全員そんな感じになったりするわけなん?」
「何を言っているんです?僕がゴリランゴになったのは、『変身―メタモルフォーゼ―』の魔法効果ですよ。『変身―メタモルフォーゼ―』の魔法効果は、使用者のイメージでなりたい姿に変える事。別の人が使えば別の姿になりますよ」
「なるほど。そんな効果なのか、それ」
使用者が変われば、全く別の変身形態が現れるカードか、『変身―メタモルフォーゼ―』。あのオッサンだったら、イケメンアイドルとかにずっと変身してそうだが、効果には限度があるって事かな。
「それじゃあ……。行きますよ!」
「!」
ツーカーが、巨大な拳で殴りかかってきた。変身しても元の超越族のスピードは変わってなく、一気に距離を詰めてくる。
ツーカーの巨大パンチを、俺は槍の柄で受けた。
「ぐっ!?」
握り拳だけで1メートル近くありそうなそれは、もはやハンマーのようなものだった。その衝撃に、俺は吹っ飛ばされてしまう。
「がはっ!」
吹っ飛ばされた俺は、そのままホールを飛んでいって、壁に叩き付けられた。そして壁から落ちて、壊れたベッドを更に壊しつつ床に転がる。
「いってぇ!」
俺は、背中を押さえて立ち上がる。ダブル・ジョーカーの強化+ヒナギの『アラウンド・カオス・シールド』の防御アップで傷とかはないけど、壁に叩き付けられるのは単純衝撃なのでさすがに無効にはならない。
「まだまだぁ!」
ツーカーが、追撃して来る。
「く、この!」
二つのハンマーの連続攻撃に、俺は防戦に回るしかなかった。さっきの痛みに怯んだ瞬間に、完全に攻勢に回られてしまった。
ツーカーの攻撃は、速い上に重かった。その衝撃は、ビリビリ体の芯に響いてこっちの動きを鈍らすほど。
「はははは!」
ミシッと、ツーカーの攻撃の最中に小さな音が聞こえた。
「!これは!」
「くらえぇ!」
ツーカーの拳を叩き付けられた槍の柄が、粉々に砕け散った。
「つぁ!」
槍を失った俺に、ツーカーは更にパンチを打ち込んでくる。なんとか腕でガードしたが、また吹き飛ばされて反対側の壁にまで飛ばされた。
「ぐはっ!……まさか、『サガン・スピア』を破壊されるとはね」
また壁に叩き付けられた俺は、ゆっくりと立ち上がった。
いやー、強化されてなかったら今ので死んでたぜ。ダブル・ジョーカーとヒナギに、あとで感謝を伝えないと。
「言ったでしょう、本当の本気だって」
「だな。今回は、ゴリランゴ凄いって褒め方でいいのかな?」
「ええ。凄いでしょう、ゴリランゴは?」
ツーカーが、若干前傾姿勢でゆっくりと近付いてくる。
さて、どうしたものか。
「おりゃあ!!」
ロキヒノが、ブルンを弾き飛ばしていた。
ちょい劣勢気味な俺と違って、ロキヒノは優勢らしい。つか、あのパワーは人間超えてないか?俺みたいに何かの強化を受けていない、純粋に鍛えた結果だろ?それで超越族追い込むとか、とんでもねーな。
だから、なんであれで山賊ごときに追い詰められてたんだよ?
「くっ!」
ブルンが、手刀を構えてロキヒノに飛びかかる。でもロキヒノは、剣でことごとく手刀を受け止め、弾き返してしまう。
「そりゃぁ!」
「くっ!」
ロキヒノはブルンに蹴りを入れた後、剣を大上段から振り下ろした。それをブルンは慌ててバックステップでかわして、少し後退する。目標を失った剣は、そのまま床に叩き付けられて、床に穴を開けた。
ロキヒノ、ホンマツエー。負ける気はしないけど、ツエー。
「驚いた……。王子様、あなた強すぎじゃなくて?あなたも十分、人間超えているわよ」
「まあ、一応王子ではあるからな。人間領国最強くらいは目指さねえとよ。まあ、俺より強い人間いるけどな」
へえ、あのロキヒノよりも更に強い人間がいるのか。どんな奴なんだ?つか、それは本当に人間なのか?
「既に最強でしょうに。……仕方ないわね。これを使いましょう」
そう言ってブルンは、胸の膨らみからカードを取り出した。
いや、ツーカーと同じ位置なんだけど、女性型のマネキンのそこからカード取り出すのはどうよ?
そしてカードスロットは、なぜか左の太ももの内側、足の付け根近くにあった。
いくらマネキンだとわかっていても、やっぱり男子はドキドキしちゃうだろ!なんでそんな所に作るんだよ!?
「チョクメイ発動、『変身―メタモルフォーゼ―』」
ブルンが発動させたのは、ツーカーと同じ『変身―メタモルフォーゼ―』だった。奴らは素の戦闘力自体が高いから、自分の能力を更に伸ばす事ができるあのカードの魔法だけで十分だって事か。
「変身!」
「!?なんだぁ?」
ロキヒノの前に現れたのは、髪が獅子のたてがみのように逆立ったブルンだった。髪の量が増えて伸びているが、体自体はそのままだ。よかった、またゴリランゴになるかと思ってひやひやしたぜ。
「髪が伸びた?」
「行くわ!」
ブルンは伸びたもみあげを両手で握ると、ブンブンと頭を回して髪を振り回し始めた。あれ、なんだっけこれ?これに似た動き?あれか、歌舞伎か。
ブルンの髪は、振り回す度に伸びていった。
そして、その髪をブルンはロキヒノに向けて飛ばした。髪はいくつかの束になって、その先が鋭い針のようになっている。
「な!?この!」
ロキヒノは、慌てて剣で髪を叩き落とす。しかし、数が多過ぎて打ち落としきれずに、何本かがロキヒノに到達してしまう。
「ぐあ!」
ロキヒノの鎧は全身を覆うタイプじゃなくて、上半身だけを守る軽装アーマーだったので、それ以外の部分に針を受けてしまう。それでも、直撃をできるだけ避けているのは剣士としての本能か?
ロキヒノは、右のこめかみから血を流していた。腕や足からも、あちこち出血している。
「くそ!」
ロキヒノは、ブルンから距離を開けるように走り出す。
「逃げても無駄よ!」
ブルンが、更に髪を伸ばしてロキヒノを追いかける。どこまで伸びるんだよ、その髪は?
ちょっとは、オッサンに分けてやれよ……とつい思ってしまう。
「おら、行きやがれ!突撃ジェイ!」
マーシーが、オッサンを持ち上げてマホ達に向かって投げつけていた。
オッサン、ミサイル代わりか!
「うっひょうー!お・ん・なー!」
ミサイル代わりにされたオッサンだが、むしろ喜んで飛ばされていた。その行く先には、女子が四人。それに、高速で寄っていけるのだから、オッサン的には願ったり叶ったりって状況か。
『こっち来るな、このオッサン!』
マホが、罵りながら鞭を振るう。あっちの鞭の部分も魔力で形成されているのか、すげえ勢いで伸びていくぞ。
「ほ?」
鞭が、オッサンの体を縛り上げた。
『ええぇ~い!』
マホは鞭を振り回し、オッサンを床に叩き付けた。
「おほー!」
やっぱり、縛られて喜んでるよあのオッサン。
「えっとえっと……、マジカルアロー!」
リゥムが、縛られたオッサンを矢で射抜いた。
そこは別に要らないと思うんだが、掛け声付きで矢を放つのはかわいいな、リゥム。しかも、一生懸命考えた掛け声が「マジカルアロー」とか、わかってるな。思わず、心の中でサムズアップだ。
「お痛!お尻痛!おほー!」
マジカルアローが、オッサンの尻を直撃していた。矢は弾かれていたが、オッサンのケツも欠けてきてるな。
「バカか、アイツ。確実にダメージ受けてんじゃねえか。まあ、アイツが全壊しようと知った事じゃねえわ」
「あんたも一緒に壊してあげるわよ!」
マーシーには、メィムとヒナギが向かっていた。近付きたくないオッサンには遠距離攻撃ができるマホとリゥムが、接近戦をしそうなマーシーには格闘系のメィムと剣装備のヒナギが相手するらしい。
「はは!てめえ、ケンカ殺法かよ!上等だ!相手んなってやるよ!」
マーシーが、嬉しそうに笑ってメィムに殴りかかる。言動からそうじゃないかと思ってたけど、やっぱりマーシーはケンカ好きのチンピラだったか。
「このチンピラが!何を偉そうに!」
メィムもそう思ったらしいが、お前も大概口悪いぞ。
殴り掛かってきたマーシーの拳を片手で弾き、その隙にメィムはもう片方のパンチを打ち込む。しかし、マーシーはメィムのパンチに拳を合わせて迎撃。二人は、足を止めてその場で打ち合った。
「えい!」
足を止めたマーシーに、ヒナギが剣を突き出した。
「ち!」
剣の直撃はダメージを受けるのか、マーシーは軽くジャンプして剣をかわす。だが、その着地地点には、メィムが先回りしていた。
「食らいなさい!『サンダー・プレヴァレット』!」
マーシーの腹に左のパンチをぶち込んだメィムは、そこから0距離射撃で『サンダー・プレヴァレット』を発動させた。既に、カードは仕込んであったみたいだ。
「ぐはっ!」
光の散弾を0距離射撃で全て受け、マーシーが吹き飛んでいく。そのままマーシーは壁をぶち抜いて、廊下に飛び出した。
「よし!今のは会心の一撃でしょう!」
「やりましたね、メィムちゃん!」
「ヒナギのサポートも完璧だったわよ~」
メィムが、ヒナギに抱き付いて頭を撫で回した。褒めてるんだろうけど、空いたもう一方の手で胸をまさぐっているように見えるのは、俺の気のせいか?
「や!ちょ、メィムちゃん……!」
ヒナギが、顔を真っ赤にして身悶えてる。
あれは、戦闘中でなければマホが理性崩壊してたぞ?エッッ!
「や、やめ……あん」
「うへへへ。よいではないか、よいではないか」
お前、どこの悪代官やねん、メィム。
「ぎゃははは!いいぞ!それでこそ、殺しがいがあるってもんだ!」
マーシーが、壁を蹴りでぶち破って、雄叫びを上げて戻ってきた。自分で開けた穴とは別の壁をわざわざ蹴り破ってくるとか、その行動に何の意味が?
そして、マーシーの腹にも大きな穴が空いていた。人間なら死んでいる傷だが、マーシーはピンピンしてる(オイルはだらだら流してるけど)。
このケンカ好き、ダメージ受けて興奮してるみたいだ。顔は歪んだ笑顔(顔芸)だし、高笑いしてる。まあ、あと例の棒がアレな状態なんだが、それは見なかった事にして記憶から消したい。
「やっぱり、コアを破壊しないと駄目って事ね?」
メィムはセクハラを止めると、ヒナギの前に出た。さりげなくヒナギを守る位置に移動する、このイケメンめ。
「そうよ!それじゃあ、第二ラウンドと行こうぜ?俺を、もっともっと楽しませてくれよな!」
マーシーが、右手のカードを示した。あれもそうか!?
「チョクメイ発動。『変身―メタモルフォーゼ―』!」
マーシーは、額にあったカードスロットに、カードを差し込んだ。やっぱり、あれも『変身―メタモルフォーゼ―』だ。
「変身!」
「う!」
「ああ!」
変身したマーシーは、一言で言えば狼男に変わっていた。鋭く光る牙と爪。全身を覆う金色の体毛。変身したからか、先程開けた腹の穴まで塞がっていた。
「一からやり直しかぁ……。やるわよ、ヒナギ!」
「はい!」
メィムは拳を固め、ヒナギは剣を両手で構える。
「ずいぶん余裕ですね?あっちこっち、余所見ばかりして!」
ツーカーのハンマーパンチが飛んできたので、俺はそれをひらりとかわすと少し移動して距離を取った。俺に当たらなかったハンマーパンチは、そのまま床に叩き付けられて床に穴を開ける。
「あちこち床を壊さない方がいいよ?いずれ、床が抜けちゃうって」
ツーカーの周り、床がボコボコなんだよな。
変身した超越族と俺達との戦いは、まだ続く。俺達の戦いはこれからだ!




