第14話その2
「ところで、君達はどこの町の人間だい?こんな所で改造人間になっているんじゃ、町では行方不明者として騒ぎになっているんじゃ?」
ついでなんで、そんな質問も投げかけておいた。まあどうでもいいちゃいいんだけど、一番近いイッヌの捜索依頼を受けた町では、人間が行方不明だという事は聞いていなかったからな。まさか広範囲の町に誘拐に行っているのか、気になったんだ。
「僕達は、クルナ町の人間ですよ。元、ですけど」
「え?でも、イッヌの行方不明は聞いたけど、人間が行方不明になっているなんて話は聞かなかったけどな?」
「それはそうでしょうね?何しろ僕達は、銀行強盗に失敗して逃亡中ですから。逃亡犯は行方不明扱いにはしないでしょう」
ツーカーが、笑いながら言った。いや、銀行強盗に失敗した事をそんな明るく言われてもどう反応しろと。
「てめえがあの時ポカしなけりゃよう!」
「すまんずん、すまんずん」
マーシーが、ガシガシとオッサンを蹴っていた。なんか知らんが、オッサンのせいで銀行強盗は失敗したらしい。
なんとなく無能そうだもんな、あのオッサン。
「まあ。そういう事でここに隠れていたんですが、一週間ほど前にバリアリーフ様達がやって来ましてね。バリアリーフ様達は他種族を鉱石族に作り替える研究をしているそうで、ここを実験場にするつもりで来たらしいです」
「実験場ね……。どうしてこんな所に?」
「さあ?まあ、人間領国は他に比べて他種族が住んでいる割合が多いからじゃないですか?実験するには、サンプルは多い方がいいでしょう?」
ツーカーの言葉には、一理あった。来たばかりの俺ですら、既に六つの種族に出会っているんだから、人間領国には全部の種族が住んでいるのかもしれない。
まあ、聖天族に関しては向こうの世界から一緒だったマホだけど。
「それで改造された人間のサンプルが、君達か」
「はい。人間代表です」
なぜか、胸を張るツーカー。
たまたま近くにいただけじゃん、というツッコミはさすがに野暮かな。
「人間としては殺されたようなものだろ?その割には、悲壮感が無いというか……。勝手に改造されて怒ってないの?」
「怒る?んー」
ツーカーは、キョロキョロと辺りを見回し始めた。そして、近くの壁に歩み寄る。
「ふん!」
ツーカーは、右手を握ると壁をぶん殴った。なんと、そこの壁が今の一撃で粉々に破壊されて、ポッカリと穴が空いてしまう。
「うお……」
「素手で壁を……」
武闘派のロキヒノやメィム達も、魔法も武器も使わずに壁をぶち抜いたのを見て驚いていた。
「僕達は、人間を遥かに超えるこのパワー。病気も怪我もなく、寿命すら無くなった不死身の体。これだけの物を手に入れたんですよ?今更、人間なんかに拘る必要なんてどこにあるんですか!?僕達は、人間よりランクアップした超越族になったんです!怒るどころか感謝ですよ!」
ツーカーが、両手を左右に広げて言い切った。
確かに、死なない体には憧れるよ。それが真穂にあれば、俺は今ここにいる事はなかっただろう。でも、彼らのそれは何か違う気がする。
「……まあ、本人がそれで満足しているならとやかくは言わないけどな。ただ、それは本当にランクアップか?」
「人間以上の存在になったんです。ランクアップ以外になんて言うんです?」
ずっと笑っていたツーカーの笑顔が、ここに来て崩れた。
「人間以上じゃなくて、人間とは別の物になっただけなんだから、ランクは上がってないだろう。だから、言うならクラスチェンジだね。……上じゃない」
「僕達は、人間よりも上の上位存在ですよ」
ツーカーは、やけに人間より上の存在という事に拘るな。何か、コンプレックスでもあるんだろうか。
まあ、彼の生まれや育ちがどんなだろうと、俺には関係無いし今更だからいいや。
「何を拘っているのかは知らないけど、人間以上というのはインパクトに欠けるんじゃないかな?」
「?じゃあ、どう言えばいいんです?」
「そりゃまあ。「ツーカーという人間の名前はもう捨てた。今の私は神だ!ツーカー神と呼べ!」。こんくらいやった方がいいんじゃね?」
俺は、ちょっと悪者っぽく言ってみた。いやまあ、以前見た特撮番組の悪役の台詞のパクりなんだけどな。
「ツーカー神……。なんか、いい響きだ」
あ、意外にツーカーには好評っぽい。
「ツーカー、ツーカー。そろそろ話はいいんじゃないずん?せっかく四人もピチピチギャルがいるのに、いつまでもお預けは酷いずんよ」
オッサンが、ツーカーの肩を叩いてそんな事を言った。
さすが、時代遅れのオッサン。ピチピチギャルとか、今の時代にオッサン以外に誰が使ってるんだよ?
『やめて……。心の傷を抉らないで……』
マホが、頭を抱えて身悶えていた。
ああ、いたわ。
「ピチピチギャルって、あたし達の事?」
「多分……」
「変わった言い方ですね」
『うぐぅ』
メィム達三人が、更に追い討ちをかける。
やめてやれ。君らの言葉に一番ダメージを食らうのは、横にいるマホなんだぞ。その話題はスルーして差し上げろ。
「ちょっとくらいは待って下さいよ。どうせソーローなのに」
「にょうほ!」
あ、ツーカーがオッサンにクリティカルヒットかましたらしい。オッサンは崩れ落ちて、号泣している。
「うぅ、うぅ……」
「……君らは、寿命すら無くなった不死身の存在なんだよね?」
崩れ落ちたオッサンを眺めながら、俺は尋ねた。
「ええ、そうですよ」
「そんな存在なのに、そこのオッサン。あと女性とツーカーもそうなんだけど、人間を好きみたい……というか性欲があるみたいに見えるけどなんで?そのオッサン、エッチしようぜとか言ってたし」
ブルンとかいう女もロキヒノをもらうとか言ってたし、ツーカーも俺の事を気に入っているような事を言ってたしな。
「?何か変ですか?」
「性欲って、つまりは子孫を残そうとする生物の本能だよ?それは自分が死ぬからこそ生まれる欲求だ。でも、不死身の君らに子孫を残す意味は無いだろう?そもそも、子孫を残せるの?」
機械の体の鉱石族と人間の間に子供ができたら、その子供はどんな感じで生まれてくるのやら?
「なるほど……。まあ、そうですね。僕達には子孫なんて必要ありませんし、人間との間に子供を作る事もできません。無意味ですから。でも」
ツーカーは、自分のこめかみを指差した。
「脳改造はされていますが、脳はそのまま使っています。その為、記憶や感情は人間だった時のままです。だからね、好みの人とか見るとどうしても刺激されるみたいです。昔の性欲が、ね」
ツーカーは、舌なめずりした。
「つまり、クラスチェンジしても尚消えないのか。人間の性欲って奴は……」
「みたいですね。本当に、業が深いですよ人間は」
「じゃあ、エッチしようぜってのも気分だけ?」
「ん?一応、できますよ?こういう機能は付けてくれたんで」
ツーカーの股間部分のシャッター?が開いて、中から棒がせり出してきた。位置だけを見れば、男のアレに見えなくもない。
ただ、俺には魚雷発射管から魚雷が出てきたようにしか見えない。それか、遥か昔のアニメの設定資料で見た腹から出てくるミサイル。
「でも鉄じゃん……」
「鉄です」
ああ、そういう事か。こいつら、動くマネキン人形だと思っていたが、正確には動くダッチワ○フかよ。
「んったくもう~」
メィムは、顔を赤くして視線をそらしていた。あれはただの鉄の棒だけど、やっぱりアレ的な扱いになるのか。そういう事なら、そっから蛇を生やしたりするのはいかんよな、うんうん納得。
「う~ん」
リゥムは、なるべく見ないように視線をあちこち泳がせている感じだった。ただ、時々視線がツーカーに戻っていくのが、興味あるようで微笑ましい。何の興味かって言えば、それはねぇ……。
「はぁぅ~」
ヒナギは、耳まで真っ赤にしてうつむいていた。Y談に、恥ずかしそうにウブな反応を見せているその姿。
それだ!それこそ、求められている反応だよ、ヒナギちゃん!
セクハラオヤジか……!と、自分でセルフツッコミをしておこう。
『下品』
マホは、冷めきっていた目でツーカーを見つめていた。
ツーカーはともかく、オッサンにはその反応は止めておけ?多分、あのオッサンならむしろご褒美だって喜びかねない。
「それで、そのジュッカーとやらはまだここにいるんだよね?」
「最上階にいますよ。今日は、念願の魔竜を改造すると皆さん楽しそうでしたよ」
「魔竜の改造!つまり、メカドラゴンか……」
ちょっとだけ見たい気持ちはあるが、まあやらせちゃ駄目だろうな。この様子じゃ、万策尽きしカバなんか目じゃない強大な敵になりそうだし。
まあ、ダブル・ジョーカーの方が強いと思うんだけどな。
「魔竜まで超越族にしようってのか!?どう考えたって、ろくでもない事にしかならねえだろう!」
「まあ、そうだろうな。つっても、邪魔しに行かせては……?」
「行かせるわけ、無いでしょう?」
ツーカーが、ニヤリと笑った。
あー、また悪どい笑い選手権が始まってしまうのか。
「ジェイさん。そろそろ始めますので、立って下さい」
「んほぉ!ようやく始めますか!」
orzしていたオッサンが、元気よく立ち上がった。つか、今までずっとうずくまって泣いてたのかよ、あのオッサン。
「さっき言った通り、あの赤髪は私がもらうわよ」
ブルンは、真っ直ぐにロキヒノに向き合う。女子陣はともかく俺にも興味無いみたいだけど、ビックリするくらい悔しくない。
「ち。やらねーよ!」
ロキヒノが、剣を構える。そのロキヒノの闘志に合わせるように、剣の炎が強くなっている。
「あの生意気なクソガキは、俺が殺すぜ?」
「駄目ですよ、マーシー君。カナタさんは僕の物だ、誰にも渡さない。マーシー君は、ジェイさんと一緒に残りの木っ端を片付けて下さい」
「ちっ……。俺は軽い女には興味無いっつーのに」
「うわ、あいつもホ○?」
マーシーの言葉に、メィムが引いていた。いや、あいつは「軽い」女って言ってるぞ?何をもってマホ達を軽い女と考えたのかは知らないが、そっち方向じゃないだろう。
て言うか、そっちの言葉はあるのか。
「まあまあ。マーシー氏はずんと一緒に女の子を犯そうずん」
「黙れ」
マーシーが、絡んできたオッサンを蹴り飛ばす。
あのオッサン、一人称も「ずん」なのか。名前……がずんだったか、そういえば?いや、あの見た目で一人称が自分の名前か!キモ!
「何を勝手な事を……!」
「キモチワルイ」
「冗談じゃないです」
『わたしの目が黒いうちは、そんな舐めた真似させるわけないでしょうが、このキモ男野郎が!』
女子陣も、戦闘体勢を取る。マホとか、あれキレてるぞ。
でも、代わりにお前が食べるんだろ?とか、今ツッコミ入れられる雰囲気では無いな。うん、ちょっと残念。
「ちなみに、全身の毛が白くて左目の周りだけ黒縁になったイッヌは見た事ある?」
「?ありませんね」
「そう。ありがとう」
とりあえず、目的のイッヌの事はツーカー達は知らないか。
「ついでに聞くけど、超越族は鉱石族と一緒でコアを潰さないと止まらないのかな?」
「はい」
「なんでもペラペラしゃべんなよ、ツーカー」
「知られた所で困りませんし。まさか、情報を隠して不意打ちをしないといけないくらい自信が無いわけではないでしょう?」
ツーカーが、マーシーを煽る。味方まで煽るのか。
「あ?問題ねえよ」
「だったら、今度こそしっかり働いて下さい。あ、あと女の子達ですが。人間の女の子三人は犯すなり殺すなり何してもいいですけど、聖天族の子だけは殺さないで下さいね。聖天族を連れていけば、バリアリーフ様も喜ぶでしょうから」
「……け。わかったよ」
「了解ずん!」
『……ぶっ壊す』
勝手な事を言っているツーカー達の言い分に、マホは更に怒っていた。鞭を両手でピンっと引っ張って音を鳴らす、女王様ムーブをかましている。
「そういう事だから、全身くまなく破壊しろ。頭を落とした程度で油断するな。見た目が人間に近いからって、躊躇するんじゃないぜ?」
俺は、メィム達三人に向かって言った。マホとロキヒノは、姿形だけで敵に手心を加える事は無いだろうが、その三人は普通の子達だからな。ちょっち心配。
「いや、あの見た目はもう人間には見えないでしょ?」
「人形だよ、あれ」
「はい。油断しません」
三人は、しっかりと敵に向き合っていた。まあ、所詮マネキンだもんな。
「色々と教えてもらって悪いが、のんびりしている暇は無さそうなのでさっさと壊して先に進ませてもらうぜ?」
「心配しないで下さい。カナタさんは殺しませんから。両手両足を千切っても、体と頭は残しておきます。永遠に、僕と生きましょう」
空気が、緊張してきた。それは、戦いの空気。
今、俺達とツーカー達超越族との、バトルが始まる。




