第13話その2
「よし!早速上がろうか!」
「いいや。まずは、二階へ戻るぞ?イッヌの探索を後回しにしてきたからな。そっから始めないと」
「そっか。あ、この階も結局捜索はまだだしな。よし、じゃあ二階に降りよう」
ロキヒノが、張り切って階段に向けて歩き始めた。
「あ、こら。勝手に一人で行動するんじゃない。全員で行動するんだよ。行こう」
俺は、マホ達全員に移動を促した。今の状況では、はぐれるのはよろしくない。
マホ達も、ロキヒノのあとをついていく。
「あの、トオノさん。剣を」
ヒナギが俺の横に来て、剣を差し出してきた。解剖の為に、預けた剣だ。
「……そういや、剣はヒナギが持ったままでも消えていないな?」
今更ながら、俺はその剣が召し物カードの魔法効果で出した物なのを思い出した。その剣は、俺の手からヒナギの手に渡っているのに、消滅する事なく存在している。これはつまり、俺が魔法効果で出した武器をそのまま別の人間に渡しても使える、という事か。
「え?あ、はい。ずっと……」
ヒナギは、不思議そうな表情で俺を見つめてきた。ていうか、この子人の目を見つめて会話するタイプの人間みたいで、真正面で会話するのは少々照れ臭い。美少女との会話って真穂で慣れてたつもりだったけど、美少女にこうもじっと見つめられるのは初めてだ。
なので、つい視線を逸らしてしまう。
「とりあえず、その剣はヒナギが持っててくれ」
「え?わたしが、ですか?どうしてですか?」
「一応、お前の持っている杖よりかは攻撃力が高いと思うんだ。杖での魔法発動もできると思うから、実質魔法を二つ使っているようなもんだし」
「あ、そうですね。確かに、わたし『アラウンド・カオス・シールド』はまだ発動したままです。あは、凄いです。わたしも、魔法を二つ使っています」
ヒナギが、両手で剣を握って嬉しそうに笑った。まあ、実際は俺が出した剣を握っているだけなので、販売されている剣を装備しているのと変わらないんだけど。
「でも、わたし非力なので使えるかどうか……」
「まあ、振り回すだけでも杖よりは攻撃も強くなるだろう。ただ、刃には注意な。下手に触ると切れちゃうから」
「はい、気を付けます」
にっこり微笑む、ヒナギ。
……ちょっと幼い感じだけど、かわいい子だなこの子。なんつーかちょっと儚げな感じで、男の庇護欲を駆り立てる感じ。真穂はその点は全然違って、共に肩を並べる戦友みたいな感じだったんだよなぁ。
どっちがいいとかじゃなくて、みんな違ってみんないい!だけどな。
それはそれとして、俺達は二階に戻ってきた。廊下には、さっき殲滅したダンシャクグモとガエルの残骸がいっぱいだ。
「なんか、コウモルもそうだったがどいつもこいつもサイズアップしてるな」
ロキヒノが、興味深そうに残骸を眺めながらつぶやいた。
まあそうだろうとは思ったけど、体長1メートルを超えるこいつらのサイズはやっぱりサイズアップしているらしい。元のダンシャクグモやガエルは、サイズ的にそこまで大きくないんだろう。
「とりあえず、片っ端から調べていきましょう」
メィムが、階段降りてすぐの部屋の扉に手を掛けた。そして、無造作に扉を開けて中に入る。
「待って、お姉ちゃん。灯り灯り」
慌てて、リゥムがメィムを追う。メィムは光魔法を使ってないんだから、もう少し慎重な行動を取れよ。まったく、女版ロキヒノみたいだ。
仕方ないので、俺達も部屋に入ろうとする。
「「きゃ!」」
部屋の中から、メィムとリゥムの悲鳴が聞こえてきた。
「!?メィム!?リゥム!?」
部屋の中に入ると、メィムとリゥムが糸に巻かれていた。部屋の天井に、一匹のダンシャクグモがへばりついている。
ああ、これは油断してダンシャクグモの糸の直撃を受けたな?だから、勝手な行動はするなっての。
「おりゃあ!燃やすぜー!」
ロキヒノが、炎の剣を振りかざしてダンシャクグモを追いかけ回す。一匹なら、あいつに任せておけばいいだろう。
「何やってんだか……」
「いや~、失敗失敗」
「お姉ちゃんがかばってくれたのはいいんだけど……」
姉妹は、向かい合って糸にぐるぐる巻きにされて、一つになっていた。恐らく、ダンシャクグモに気付いたメィムがリゥムをかばおうと抱き付いたのだろう。二人は物凄い接近した状態で、顔とか超至近距離。キス一歩手前、みたいな感じ。
「動けるか?」
「それが、案外頑丈で……」
「全然動けない~」
二人はもぞもぞともがくけど、糸はビクともしない。こんなに固かったのか、これ。全部回避しといてよかったぜ。
ただ、見ている方は少しハラハラした。二人がもがく度に唇が接近して、触れそうになっていたからだ。その様子を、マホとヒナギが顔を真っ赤にしてガン見している。マホはともかく、お前もかヒナギ?
「どうしよ、お姉ちゃん?」
「どうしよも何も、この状態じゃあたし達にはどうしようもないわよ。カナタ、この糸切ってくれる?」
「ロキヒノの炎の剣で糸だけを燃やしてもらうから、鬼ごっこが終わるまでしばらく待っててくれ」
ロキヒノの炎の剣は、狙った対象だけを燃やすって言ってたからな。俺の槍やヒナギの剣では二人を傷つける恐れがあるから、今はあいつに任せよう。
「そう。じゃあ、リゥムとキスしながら待ってるから頼むわね?」
メィムはそう言うと、なぜか唇を尖らせてリゥムにキスを迫った。
「は!?なんでよ!?」
メィムの突然の奇行に、リゥムは首を振ってキスをかわす。まあ、首だけでは限度があるのでかわしきれず、ほっぺにチューする事になっていたが。
「『きゃあ~』」
そして、その光景を喜んで見ているマホとヒナギ。なんだ、これ?
「なんでいきなりキスしようとすんの!?」
「だって、この状態じゃキスくらいしかできないし」
首から下は動きが取れないからな、今。
「だからってキスする必要は無くない!?」
「え?あるでしょ?」
「どんな理由が!?」
「ん~。そこに唇があるから」
そんな、そこに山があるからみたいな事を。
「……イミワカンナイ」
リゥムは、呆れ返っていた。当然だわな。
結局、リゥムはしばらくメィムにキスされまくった。唇だけは回避したが、左右の頬に何回キスを受けたのやら。
「わりぃ。待たせたな」
ダンシャクグモをバラバラにしたロキヒノが、二人の糸を燃やした。
「ホントにもう……。わけわかんない事はやめてよね」
解放されたリゥムは、プリプリ怒りながら顔をハンカチで拭っていた。
「いいじゃない。スキンシップスキンシップ♪」
対するメィムは、満足げだ。
「相変わらず、メィムちゃんとリゥムちゃんは仲良しです」
『はぁ~。いい、姉妹百合を見せてもらいました。尊い……』
ヒナギの言葉によると、あの姉妹はあれで平常運転のようだ。仲はいいと、思うよ?ただ、ふと姉妹を拝んでいるマホを見て思う。
……まさかね?
そんな事がありつつ、俺達は二階・三階と探索。イッヌは見つからなかったので、四階に上がる。
「うわ……」
四階には、体長1メートルほどの目が角のように飛び出したナメクジの化け物が這いずり回っていた。とりあえず、名前はナメゴンQと言うらしい。
ナメゴンはともかく、Qはなんだ?
「オラオラオラ!」
ナメゴンQは、なぜか目から怪光線を飛ばして攻撃してきた。この怪光線は元のナメゴンQには無い機能らしく、改造された時に追加されたんじゃ?と言っていた(ロキヒノが)。
ただ、所詮はナメクジというかナメゴンQ。動きがスローなので避けるのは容易く、本体だけでなく怪光線まで遅いので何の脅威にもならなかった。
という事で、ナメゴンQはロキヒノとメィムの二人で殲滅する事に成功した。
『うぅ……。ナメゴンはなんか嫌』
マホはどうやらナメゴンQが苦手らしく、動かなくなった残骸にも近付こうとはしていなかった。なので、俺達がナメゴンQの残骸を脇にどかし、丁寧に通り道を作る。
イッヌは、四階にもその姿も、手がかりも無かった。
「次でようやく半分か」
ようやくマンション塔の半分、五階に到着した。しかし、五階は今までと少し様子が違っていて、個別の部屋と廊下が無かった。あるのは、階段上がってすぐに扉が一つ。これはつまり、大きな部屋(ホール?)が一つあるだけという事か?
「お。ここはなんか違うな」
「扉が一個だけって事は、部屋も一つだけって事かしら?」
「だろうね、お姉ちゃん」
「とりあえず、入ってみましょう」
『調べないとわかんないしね』
俺達は、ロキヒノを先頭に扉を開けて中に入った。性格的に王子なのに切り込み隊長だな、ロキヒノ。
そこは、1フロア丸々使ったホールだった。マンションで言う所の、住人が誰でも使える共用ホールというような感じか。日本とかだと、フィットネスクラブにあるトレーニングマシンが置かれていそうな場所だった。
その部屋の奥に、壊れたベッドのような物が置いてあった。
問題は、そこに人影があった事だ。
「あん?誰だぁ?」
「お、女がいるずん!」
「あ、かわいい子がいるわ~」
「あ、好み」
そこにいたのは、男が三人に女が一人。に、パッと見には見える一団だった。
「何あれ……。人形?」
そこにいたのは、マネキン人形にしか見えない体を持った、動く人形だった。そのくせ、顔から上だけは人間の見た目になっている。マネキン人形の胴体に、人間の顔(頭)を載せている感じだった。
あー、手遅れだったかぁ。改造人間。




