第13話
マホは、Sの女王でもあった(ドン引き)。
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『あ~、楽しかったぁ~』
マホは、大満足できたようだ。心なしか、肌がつやつやしている感じ。うーむ、やっぱりマホは怒らせたら怖そうだ。桜咲真穂は、そうでもなかったんだけどな。まあ、結局二人は別人だからか。
「よう、早かったな。もう下は調べてきたのか?」
ロキヒノが、苦笑いをしながら聞いてきた。あのマホの姿には、ロキヒノも引いていたようだ。
「いや、二階もガエルとかダンシャクグモとかがいっぱいいてな。数が多かったから三階もヤバイんじゃないか、と確認に来たわけなんだけど……」
「ああ、下もあれだったのか。……まあ、ここは見ての通りだ。一階は?」
「一階は何もいなかったからサッと見て回ったけど、イッヌはいなかったわ」
メィムが、そう言って肩をすくめた。やっぱり、一階はがら空きだったか。
「ところでカナタ?お前その剣と槍はどうしたんだ?」
「どうしたって。魔法で出したに決まってるだろ?それより、こいつらを少し調べた方がいいな」
俺は、廊下に転がっているコウモルの残骸に近寄った。そこは、生物の死体が転がっている現場と言うよりは、壊れた機械が捨てられたスクラップ置き場に見える。
「はぁ!?魔法で出したって……。お前、剣と槍を両方出したのか!?それって、同時に魔法を二つ使ってるって事だろ?え?お前、まさか魔王族だったのか?」
ロキヒノが、すっとんきょうな声を出して驚いていた。
まあ、気持ちはわからんでもないが、そんな叫ばなくてもいいだろう。
「違う。あいつらみたいな尻尾ないだろ、俺には」
「あの、ロキヒノさん。トオノさんは光魔法も一緒に使っているので、三つ同時に使っています。ですので、魔王族ではないかと……」
ヒナギが、控え目にフォローしてくれた。けど、フォローになるだろうか?
「そ、そうか。ライトも使ってたっけか。……三つ同時!?」
ロキヒノの驚きは、更に増していた。それこそ、ギャグ漫画のキャラクターのように飛んで驚いている。ロキヒノがヅラだったらヅラも一緒に飛んでいってただろうに、そこは残念だな。見たかったぜ、その場面。
「やっぱり、魔法を同時に使ってたのね。それも、三つとか……」
メィムは、不思議そうな顔をしながらうなずいていた。彼女も、さっき階段を上がってくる前に言おうとしていたのは、それだったんだろう。自分の聞きたい事の答えが聞けてうなずいたけど、魔法の同時使用には不思議顔って感じか。
「わぁ。トオノくん凄いね~」
リゥムは、能天気に笑ってた。あれ?逆にこの子の反応の方が不思議だ。疑問一切持たないのか?
「……はぁ。メンドクサイから最初に言っておく。俺は、魔法をいくつか同時に使う事ができる。いくつまで使えるかは、試していないので定かじゃない。今度余裕のある時にでも試してみようかとは思っている。で、なんで複数使えるかは、俺にも理由はわからない。なぜか使える、としか言いようがない。だから、俺に質問するな。聞かれても何もわからん、管轄外だとしか答えようがないからな」
俺は、ため息混じりに答えた。聞かれても答えようがないんだよ。異世界渡りが原因というのはあくまで俺の想像だから、根拠0だし。
そういう事で、最初にこれだけ言っておけばこれ以降いちいち聞いてこないだろう。
「お、おう……。わかったぜ」
「り、了解……」
「……うん」
「わかりました」
全員が、納得してくれたようだ。なんか全員凄く微妙な苦笑いだが、オタク特有の早口にポカンとしている陽キャ集団の空気を感じたのは、気がつかなかった事にしよう。
うう……、真穂ならノッてくれるんだけどな。どこいんだよ、真穂ー?
「それはそれとして、だ」
俺は、改めてコウモルの残骸に向き合った。それから、持っている剣と槍を見る。
「とりあえず、持っててくれるかヒナギ?」
俺は、左手の剣をすぐ側にいたヒナギに渡した。残骸を調べるのに両手塞がってたら、さすがに調べられないんだ。
「は、はい」
ヒナギは、杖を自分のベルトの腰の所に差すと、俺の剣を両手で受け取った。そっと、大事そうに胸で抱えているけど、別に大切な物じゃないから扱いは適当でいいんだぞ。
俺は、コウモルの残骸を槍で分解する。
「どうだ?」
「ああ。見る限り鉄……というか機械の塊だな。ただ、神経や筋肉の繊維も見えるし、血も流れてるっぽい。まあ、これが血液なのか駆動用の潤滑油なのかは成分分析でもしないとわからないが、そこまでする必要は無いだろう」
俺は、コウモルの頭も分解、というか解剖をした。まさか、大学で単位とは一切関係無いのに教授の趣味だけでやらされた蛙の解剖が、こんな所で役に立つなんて。人生、何があるかわからんもんだな。
「一応、脳はある……。うーん、こいつはあれかな?」
俺は、解剖を終えて立ち上がった。何とも、気が重い。
「何かわかったか?」
「わかったというか、こいつらは予想してた通り機械と生物の融合体みたいな感じだな。多分生物をベースにして機械で改造した存在、改造生物って感じじゃないかな」
「改造生物?つまり、鉱石族って事か?」
「んー、俺は鉱石族を解剖した事が無いから一概には言えないが、獣生鉱石族って感じじゃないか?俺のイメージは鉱石族って無機物が動いてる感じで、こいつみたいに有機物な部分は無いと思ってたんだけど、どうなんだ?」
俺は、逆にロキヒノに聞いた。俺は鉱石族をまだ間近で見た事無いから、その辺の判断はつかないんだよな。
聞かれたロキヒノは、困ったような顔をしてメィム達に顔を向けていた。
「どうだろうな……。みんなは知ってるか?」
「さあ……」
「鉱石族さんは、私達も見ないね」
「知り合いいませんからね、鉱石族」
ロキヒノもメィム達も、鉱石族に関してはあまり詳しくないようだ。
『彼方くんの認識で合ってるよ』
ロキヒノ達の後ろから、マホが答えた。さっきから満足げにトリップしていたが、ちゃんと話は聞いていたらしい。
『鉱石族は、無機物が魂とコアを持って進化した存在。彼らに、有機体な部分は無いわ』
「やっぱりそうか」
『うん。だから、彼方くんの推測通りだと思う』
マホが、確信を持って言った。まあ、推測通りって事は、事態は厄介な方向に進んでいるという事だわな。
「はぁ……。また面倒な事態になってるわけだ……」
『多分ね』
「面倒な事態?どういう事だ?」
ロキヒノが、頭の上に「?」マークを浮かべながら聞いてきた。それを聞いて、俺はため息をつく。
「改造生物だって言ったろ?こいつらが改造生物である以上、こいつらを改造した黒幕的存在がいるって事だ。自然に発生する生物じゃないだろうからな」
「お、そうか!」
ロキヒノが、ポンと両手を打った。
「確かに、そうよね。それで、こんな所に集まっているって事は……」
「普通に考えれば、秘密裏に改造が行われているって事だろうな。ロキヒノが知らんみたいだし」
「確かに、そんな話は俺は聞いてないな」
人間領国のトップが知らない以上、国の政策ではありえない。
「これがガエルやらコウモルなんかを改造するだけならそれほど害があるとも思えないが、まあそれで済むとは思えないな」
「まさか、人間も……?」
ヒナギが、顔を青くしてつぶやいた。
「聞いた話じゃ、人間が行方不明になったとは言ってなかったろ?」
「ああ。拐われたのはイッヌだけだ。けど、それはイッヌが守ったから逃げれたって言ってたから、もしかすると……」
「だな。このまま行けば、いずれ人間が改造される為に拐われる事態が起こるかもしれないな。いや、確実に起こるだろう」
だから、厄介だっての。明らかにこれ、「悪の秘密結社」の案件だぞ。
「誰がやってるんだ、これは!?」
「俺に聞かれても知らねえよ」
「何の目的でこんな事してるのかしら?」
「うーん。まあ、定番だとこういう連中の目的は「世界征服」だろうな。今度の場合は、生物全てを機械化生命体に作り替えて機械生物で世界を牛耳る。そんな所じゃないかな、と思うな」
悪の秘密結社の目的だったら、やっぱりその辺だろう。まあ、悪の秘密結社も世界征服も今じゃ特撮番組でも見かけない、一昔前の話だけど。
「世界征服!それを、鉱石族がやっているのか!?」
「鉱石族がやっているのかはわからないが、改造生物を作って意味があるのは鉱石族じゃないかとは思う」
「鉱石族め!バトル・ファイオーが始まる前に、ウチの国を支配しようっていうのか!?」
ロキヒノが、怒って床を蹴った。
ん?今、ロキヒノ何を言った?バトル・ファイオー?何の事だ?
「カナタ!これをやってる奴は、今どこに!?……て、そんな事カナタに聞いてもわかるわけなかったな」
たりめーだ。
「まあ、実際はわからないけど」
俺は、天井を見上げた。
「ここにこんだけ集まっている以上、ここには何かがあると思うぜ?下手すりゃ、ここが生産工場だって可能性もな」
廃墟同然のこんな所に、敵のアジトがある。これもまた、古き時代の特撮番組のお約束だろう。
「近くに、採石場とかあるかな……?」
「?ま、まあとにかく!このまま上に上がっていけば、何かわかるかもしれないんだな?」
「他所ではそういう話を聞かないなら、まあここに何かはあるんだろう。メィム達は、何か聞いた事はあるか?」
「ううん」
「聞いた事無いね」
「ありません」
三人は、同時に首を横に振った。
「じゃあ、上を目指すしかねえな!」
「その事なんだが、ロキヒノ?」
血気に逸るロキヒノに、俺は質問を投げかけた。今のままだと、一人で最上階まで走っていきそうな勢いだ。
「ん?」
「俺達の目的は行方不明になったイッヌを探す事だ。改造生物の謎を突き止める事じゃない。そこの辺は、ちゃんとわかっているんだろうな?」
俺の質問に、ロキヒノはポカンと首をかしげた。ああ、これは質問の意図がわかってない感じだな。
「何か違うか?イッヌを探して階を上がっていけば、結局は全階攻略する事になるじゃねえか。同じだろう」
「同じじゃない。……もし仮に、次の四階でイッヌが見つかれば、俺達の任務は達成。ここに残る理由は無くなって、町に帰るだけだ。そういう話で来たんだぞ、俺達は」
「あ、それは……そうだが」
「なら、どうするんだ?イッヌを見つけたら任務完了か?それとも、残業申請出すか?」
残業申請って、雇い主側が出すのかは知らねえけど。
「……頼む。これは、見過ごせる事じゃない。今回の問題を、俺と一緒に調査してくれ」
ロキヒノが、頭を下げてきた。
ホントこいつは、目的を果たす為なら頭も下げる、きちんと筋を通す人間だな。案外、いい王様になるんじゃないか。庶民の俺が、偉そうに言う事でもないけど。
「まあ、そういう事なんで、その分も上乗せして請求するといい」
俺は、笑ってメィムに向けて言った。そこの三人は、「イッヌの捜索」という契約でここまで来ているからな。ちゃんと、追加報酬の言質は取っておかないと。
「……ありがと、カナタ。でも、わざわざ念を押さなくてもロキヒノはそういう所うやむやにしないと思うわよ?」
俺の言葉に、メィムは困ったような笑みを浮かべていた。まあ、念の入れすぎじゃないかとは俺も思ったんだけどな。
「一応な。じゃあ、ロキヒノ。今回のミッションは行方不明のイッヌの捜索。並びに謎の改造生物の調査、もしくは黒幕の殲滅。辺りでいいか?」
「!ありがとう、みんな!」
ロキヒノが、嬉しそうに顔を上げた。そんな嬉しそうな顔を見せられちゃあ、やる気出さないわけにはいかないだろ。
「そうなると、三手に分かれるのは中止しよう。この先、何が待っているかわからないからな。全員で移動しよう」
「そうね。その方がよさそう」
俺達は、バラバラでの探索を止めて、集まっての移動をメインにする事にした。




