第12話その2
「え?三つ、目……?」
ヒナギが、呆然とつぶやいていた。ヒナギ達には、三つ以上魔法の重ね掛けができる事を話してなかったからな。まあ、驚くか。
とはいえ、今はだらだらと説明してる場合じゃないので、俺は聞き流す事にした。
「我が槍と剣の力、確かみてみろ!」
俺は、槍と剣を振り回して突撃する。
あ、ちなみに噛んでないんで。
「キシャア!」
叫び声なのか機械の駆動音なのかわからない音を口から発しながら、ダンシャクグモは無駄に襲い掛かってくる。
少しは戦況分析とかすりゃあいいものを、奴らはただただ前進してくる。これは、虫故の判断力の無さなのか、機械故の感情の無さからなのか?まあ、虫なら獣生族で機械なら鉱石族だけど。
とにかく俺は、槍と剣を振り回すようにしてダンシャクグモを蹴散らしていった。端から見たら、くるくる踊るようにターンしながら戦っているように見えたんじゃないかな。
こうやって回りながら360度攻撃をしていると、奴等の吐く糸も弾き返したり斬り裂いて寄せ付けないように戦えていた。つーか、こいつらの武器は口から吐く糸と長い脚だけかよ。正直、ショボい。
「やっぱり凄い、トオノさん……」
ダンシャクグモにもどちらの方がより脅威なのか、と判断する事はできたらしい。全てのダンシャクグモがヒナギを放置して、俺の方へと向かってくる。
ああ、いいぜ!ヒナギを狙われるよりはよっぽど気が楽だぜ!十匹でも百匹でも、いくらでもかかって来やがれ!
バコンッと、突然後ろの方で音がしたのと、
「きゃあ!」
というヒナギの悲鳴が聞こえたのが、同時だった。
「!?ヒナギ!?」
振り返ると、ヒナギが倒れていた。
「ヒナギ!」
しまった!蜘蛛無双にかまけて、俺までヒナギを放置してしまったか。
俺は、慌ててヒナギに駆け寄った。
「だ、大丈夫かヒナギ!?」
「は、はい。大丈夫です」
ヒナギは、勢いよく顔を上げて答えてきた。とりあえず、致命的なダメージを受けたわけではないみたいだ。
「何があった!?」
「それがその、後ろから何か棒のような物で背中を突かれて……」
ヒナギが、背中を押さえながら立ち上がった。
幸い、『アラウンド・カオス・シールド』のおかげで致命傷は避けられたようだが、背後からの何かの攻撃を受けてしまったらしい。
くそ、蜘蛛に気を取られ過ぎてヒナギへの攻撃に対する警戒を怠った俺のミスだ。あまりにもサクサク倒せるから、ちょっと調子に乗ったんだよな……。
「棒……?」
俺とヒナギは、そちらの方へ顔を向ける。しかし、後ろに何者かの姿は無く、廊下と別の部屋に続く扉があるだけだ。
そういえば、さっきバコンッて音が……。
「なっ!?」
またバコンッという音がして、扉から何本もの棒が伸びてきた。いや、扉を貫通した棒が、部屋の中から突き出されているんだ。
「な、なんだぁ!?」
俺は、ヒナギの手を引いて慌ててその場から退避した。
あ、近付いてきていたダンシャクグモが何匹か、棒に弾き飛ばされている。
「なんだ、一体!?」
更に伸びてきた棒が、扉を粉砕した。そして、その扉の残骸を踏み越えて、ぞろぞろと何かが廊下に出てくる。
「あれは……」
「ゲスゲース」
出てきたのは、体長1メートルを超えた巨大な蛙、こっちの世界で言う所のガエルだった。こいつも、聞いていた通りに鉄のガエルだ。ただ、鳴き声が「ゲスゲス」って聞こえたんだが、ガエルだって鳴き声は「ゲコゲコ」とか「ケロケロ」とかじゃねぇの?
「こいつら、ガエルか?」
「はい。言われた通り、鉄のガエルですね。『ゲスガエル』みたいです」
「ゲゲス!ゲスゲース!」
名前『ゲスガエル』かよ!どおりで、ゲスゲス言ってるわけだ。
ガエル達は、一斉にこっちに舌を伸ばしてきた。ああ、さっきの棒はガエルの舌だったのかよ!
「なんの!」
俺は、槍を片手で高速回転させて盾のようにした。槍とか剣とかを前方で回して盾にする、アニメとかでよく見る防御方法だ。
槍の防御盾に、ガエルの舌は弾き返された。うむ、やってみたらできるもんだ。
「ち。ガエルが増えたか」
とりあえず舌は弾いたので、俺は槍を振り払う。
ダンシャクグモとガエルに仲間意識は無さそうだが、本能的なのかなんなのか俺達を共通の敵だと認識しているようで、両方がこちらに向いてくる。
「……ウザい雑魚が倍に増えた感じ」
俺は、思わずため息をつく。今の舌を弾いた感じで負ける事は無いのを実感したが、数が多いので殲滅するのがメンドクサイ。
ち、ローリングバルカンをデッキに戻すんじゃなかった。
「だ、大丈夫ですか、トオノさん?」
「ん?ああ、相手すんのは問題無いよ。ただ、片付けるのが面倒ってだけ」
心配そうなヒナギに、俺は精一杯の笑顔を向けた。どー見えてんのかな、これ?
ヒナギは、顔を赤くして視線を逸らした。この反応は……、不自然で変な笑い顔になってんのかなぁ?視線逸らすのって、どう考えても笑いこらえてるよな?
「シャァー!」
「ゲスゲース!」
ダンシャクグモとガエルが、群れになって襲い掛かってくる。
「ヒナギは少し離れてろ!」
「あ、あんまり離れると効果が……!」
「自分優先しろ!」
俺は、槍と剣を振り払って突入する。ガエルの舌を弾き、ダンシャクグモの糸を斬り裂き吹き飛ばしていく。
「ええ~い!」
ヒナギも、両手で杖を握ってガエルをぶん殴っていた。あの杖の魔札道具、案外固いのか鉄のはずのガエルをベコベコに凹ませている。
ただ、それでガエル連中もヒナギを敵認定したらしく、いくつかのガエルが彼女に向かっていく。なんとかしたい所だが、敵が倍になったんでこっちも余裕が無い。
「自分の事は自分でなんとかできます!トオノさんは、わたしを気にしないで下さい!」
ヒナギが、言葉を飛ばしてくる。おぅ?考えてる事読まれた?
槍でガエルを吹き飛ばしてダンシャクグモにぶつけ、そのガエルごと剣でダンシャクグモを真っ二つにする。その残骸の向こうから舌や糸が飛んでくるので、それらをかわしつつ手近なダンシャクグモを蹴り飛ばす。
向こうにいた頃はケンカなんて全然した事無かったんだが、頭で考える前に体が動いている。これはダブル・ジョーカーのおかげか、ダブル・ジョーカーのせいか?
「うわ!何この状況!?」
という声がしたので見ると、メィムとリゥムが上がって来ていた。ここの状況を見て驚いているって事は、一階は何事も無く探索を終えたって事かな?あの様子じゃ、イッヌも見つからなかったみたいだ。
「鉄のダンシャクグモと鉄のガエルです!」
「本当にいたんだ?」
「カナタ、あんた二刀流!?」
「数が多いから自分の事は自分でなんとかしろ!」
「わかったわ!行くわよ!」
メィムが、参戦してきた。リゥムはヒナギと二人で、後方に陣取る。まあ、二人一緒なら問題無いだろう。
「チョクメイ発動!『サンダー・プレヴァレット』!」
メィムが、『サンダー・プレヴァレット』を発動させて光の散弾を放つ。
ああ、そっちの方が便利だな。
「っていうか、こいつらなんなの!?獣生族なの?鉱石族なの!?」
「知らねえ!」
俺は、ガエルを叩き斬る。真っ二つになったガエルは、床に転がって動かなくなる。斬った時に液体を飛び散らしているが、それは血のように赤いけど、斬った断面は明らかに機械の部品だった。
じっくり見ていられないけど、これはもしかして機械と生物の融合体みたいな感じか?
俺とメィムの攻撃で、とりあえず廊下に出てきたダンシャクグモとガエルの大半を破壊というか倒す事には成功した。
「ふぅ」
「お姉ちゃんとトオノくん、息合ってたね」
「お二人とも強いです」
「ありがと。それよりカナタ?あんたそれ……」
「悪い、話は後だ。こうわらわらいるとなると、三階のマホとロキヒノが心配だ。先に三階へ上がろう」
俺は、メィムが何か言おうとしたのを遮って、階段へと移動を始めた。マホもロキヒノも弱くないが、ここにこれだけいる以上二人も数に押される可能性がある。正直、イッヌ探しよりは二人の安否確認の方が先決だ。
「そ、それもそうね。行きましょう」
「うん」
「はい」
俺達は、階段を上がって三階に上がった。そこも、二階と状況がほぼ変わらない、日の光の入ってこない薄暗いエリアである。
ここの見た目や構造はマンションなんだが、電気の無いこの世界で光源はどうするつもりだったんだ?まあ、仮にマンションだったとして、だが。
「ぬ?」
「きゃ!」
三階の廊下は、バサバサと何かが飛び回っていた。
「!コウモル!」
俺とリゥムが照らすと、そこに浮かんだのはこれまた体長1メートルはありそうな蝙蝠、この世界で言うコウモルだった。体長と羽がデカいせいで、半端なく吸血鬼っぽさを醸し出している。
もちろん、こいつらも鉄製みたいなんだけどさ。
「これは……」
コウモル達は、マホとロキヒノに襲い掛かっていなかった。むしろ、
『あははは!これ面白~い!』
鞭を縦横無尽に振り回して、マホがコウモルを追いかけ回していた。コウモルは、必死こいてマホから逃げ回っている。
「え?……これ、どっちが悪者……?」
若干サディスティックな表情で、鞭を振り回して逃げ回るコウモルを追いかけ回し、次々とバラバラにしていくマホ。
『ほらほら~!抵抗しなさいよ~!もっと大勢で、かかって来なさいよ~!逃げ回るだけじゃ、つまんないでしょう!』
マホから感じるのは、恐ろしいほどの「女王気質」だった。完全に、Sの女王じゃん。
「「「あ、あはは……」」」
メィム達三人は、明らかにドン引きしていた。
俺も、あのマホの姿には若干引いた。いや、自分も同じようなムーブをかましたけど、あの「Sの女王」にはさすがに引くわぁー。
三階は、マホが一人で制圧してしまった(ロキヒノは突っ立ってただけらしい)。




