第12話
俺達は、古ぼけたマンションの中へと足を踏み入れた。
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マンションの中はシーンとしていて、薄暗かった。見る範囲には動く物体は何も無いし生き物の気配も無い。
正面入ってすぐには上に続く階段があり、奥には部屋もありそうだ。
……本気でマンションだな。もっと、ダンジョン的な構造を回る事を予想してたんだがな。これじゃ、マンション訪問だ。
「部屋があるみたいね」
「となると、部屋を一つ一つ回らないと駄目だね」
「こりゃ、手分けした方がいいな」
ロキヒノが、手近な部屋の扉を開けて中を見た。
どうやらここはワンルームマンションらしく、構造はシンプルな造りだった。中は当然がらんどうで、人が住んでいたかどうかすら怪しいくらい、埃が積もっている。
「ふーむ。光魔法か……」
俺は、デッキケースからカードを五枚ドローした。六枚目がドローできなかったのは、パスケースの一枚がカウントされているからだよな、やっぱ。
引いたカードは、『ローリングバルカン・キャノン』、『プレート・シールド』、『エンタメ・イリュージョン』、『ドラゴンバスター・ブレード』、『ガッシャン・ハンマー』。
まあ、カードは武器系魔法に見えるヤツを上から順に積み込んであるから、わざわざ確認するまでもなく光タイプは無いんだけど。
「ん、そう言えば……」
俺は、引いたカードをデッキの一番下に戻すと、ズボンのポケットに入れていた魔札道具パスケースを取り出した。
「そういや、こいつに入れてた一枚は……」
パスケースを確認すると、入っていたカードは名の下にカードの『迫真の発光』だった。魔フォーでは、相手の手札と場の全ての裏側で置いてあるカードを確認できるカードだったが、名前的にこれ光タイプじゃね?
『どしたの、彼方くん?』
「ライトになりそうなカード持ってるの忘れてた。とりあえず、使ってみる」
俺は、パスケースを掲げた。
「ナモト発動。『迫真の発光』」
俺が魔法を発動すると、パスケースが眩しく光り出した。
「!?」
「わ、眩し!」
結構な光量で、ここの部屋なら一発で明るくできた。モロに見ると、しばらく光が目に焼き付きそうな感じだ。
「お。カナタも、ランプになる魔法を持っていたか」
「凄い明るいわね」
「ああ。これで、俺も探索できるわ」
ライトな魔法を持っている人間が三人になったので、俺達は三手に分かれてマンションを探索する事にした。
「じゃあ、あたしらはこのまま一階を」
一階は、ライト担当リゥム・攻撃担当メィムのウィステリア姉妹。
『それじゃあ、わたしはかな……』
「あ、あのマホちゃん!」
マホが何か言おうとしたのを、ヒナギが遮っていた。
『はい?』
「えっと、その……。わたしが、トオノさんと一緒に行っていいですか?その……、トオノさんに付いて魔法の勉強をしたいんです!」
なぜか、めっちゃ叫んでいるヒナギ。なんか、必死?顔もなんか赤いぞ。
言われたマホは、しばらくポカンと動きを止めていた。それから、眉を下げて「やれやれ」とでも言いそうな微笑みを浮かべる。
『わかった。勉強になるかはわからないけど、まあ見てみて?彼方くん、ヒナギちゃんの事お願いできる?』
「ああ、わかった」
マホに背中を押されて、ヒナギが俺の所へとやって来た。
「あ、あの。ふつつか者ですが、よ、よろしくお願いしましゅ!」
ヒナギが、物凄い勢いで頭を下げてきた。
いや、落ち着け?めっちゃ噛んでるし、そもそもその言葉はここで使うべき場面じゃないぞ。
「そんな気合入れなくてもいいぞ?まあ、よろしくな」
「は、はい!」
とりあえず、俺とヒナギでもう一組。
「じゃあ、俺らは階段を一つ上がって二階に行ってみるわ。例のイッヌは、白くて左目の周りが黒縁になってるヤツだよな?」
「ああ、そう聞いてる」
「了解。じゃあ、行ってくる。行こう、ヒナギ」
「は、はい」
俺とヒナギは、部屋を出て階段へと向かった。
『それじゃあ、ロキヒノくん。余り物同士よろしくね~』
「なんか、言葉にトゲを感じるんだが……」
部屋を出る直前、そんな会話が聞こえた。
最後の一組が、ライト担当ロキヒノに相方のマホ。んー、この組は両方攻撃タイプかな?
「エレベーター無いから、下手すりゃ十階まで階段上がるのか……」
階段を上がりながら、俺が思わずつぶやく。今時、十階以上でエレベーターが無いとかマンションとしてやっていけないぞ?
「?エレ……?え?何の事ですか?」
つぶやきが聞こえたのか、ヒナギが首をかしげていた。まあ、ヒナギはエレベーターの事は知らないわな。
「ああ、何でも無い。……さて、二階だけど」
俺とヒナギは、二階に上がった。
二階は、更に暗く埃っぽかった。廊下には窓が無くて一階と違い玄関ホールも無いので、光を取り入れる場所がほとんど無い。おまけに風が抜ける様子も無いので、そりゃ埃は溜まる一方だわ。
「二階は任せたぞ」
マホとロキヒノが俺達の後ろを通って、三階へと上がっていった。
どうやらこのマンション、階段は一つだけらしい。火事とかなった時は、どうするんだ?消防法違反だろ、このマンション!
まあ、それはともかく。
「一応、用心しておくか」
俺は、デッキからカードを一枚引いた。さっきの手札はマリガンみたいにしてデッキに戻したからな。
一枚目に引いたのが、召し物カード『サガン・スピア』。サモンドスレイヴに直接攻撃できる能力を与える召し物だけど、まあここで使うとただ普通に槍が出てくるだけだろう。
「召し物発動、『サガン・スピア』」
魔法を発動させると、やっぱり普通に槍が現れた。
「ん。まあ、これでいいだろう」
「は~。トオノさんは本当に凄いですね?魔王族でも無いのに、魔法を二つ同時に使えるなんて。前からそうなんですか?」
ヒナギが、俺の槍を見つめながら言った。まあ、槍とライトを同時発動してるからな。
「まあ、そうかな……」
「それは、魔法の才能でしょうか?それとも、何かの理由が?」
「んー、どうだろう?俺には理由はわからないんだよな」
俺は、肩をすくめた。ダブル・ジョーカーの仕業だとばかり思ってたんだが、そうじゃない以上理由はさっぱりわからないんだよ。
「そうなんですか?何か、トオノさんに特別な事情とかは……?」
「さあ……」
あるっちゃあ、ある。もしかして、あっちの世界から異世界渡りをしてくると魔法の発動数が増えるのかもしれない。
まあ、言えるわけないけど。
「こっから先、何が出てくるかわからないから、ヒナギは俺の後ろから離れるなよ?」
「は、はい。それじゃあ、わたしも」
ヒナギは、ごそごそと懐からカードを取り出した。羽織ってるマントの内側にポケットがあるみたいだ。
「メシモノ発動。『アラウンド・カオス・シールド』」
ヒナギが、召し物カードを発動した。使ったのは、召し物カードの『アラウンド・カオス・シールド』。一定空間内の味方の防御を上げるとか言っていた、防御魔法だな。
俺とヒナギの体が、ほんの少しだけ淡く光った。まあ、暗闇を照らすほどの光量は無いが、多分見る方は暗闇の中でボンヤリ光る姿が見えるんだろう。
夜見たら、幽霊にしか見えないだろうな。
俺達は、手近な扉を開けてみた。一階もそうだったが、ここは全室鍵は掛かっていないみたいだ。
「真っ暗?」
部屋の中は、廊下と同じように真っ暗だった。ここの部屋は窓があるはずだから、外の光が入ってくるはずなんだが、カーテンでも閉めてる?
な、わけはなかったな。
「!この音……!?」
部屋の中から、カタカタと音が聞こえていた。この音は、金属が触れ合うというか動く音か?
パスケースで部屋の奥を照らすと、そこには無数の蜘蛛のような物体が蠢いていた。しかも、ただの蜘蛛じゃない。体長1メートルを超える大きさで、脚も入れると3メートル以上の巨大蜘蛛だろう。
おまけに、あいつらどう見ても素材が鉄だ。鉄の蜘蛛だよ!
「!ダンシャクグモ!?それも、あんなに大きい……!?」
ヒナギが、思わず叫んでいた。
この世界では、蜘蛛はダンシャクグモって言うのか?なんか、芋みたいな呼び名になってんな。男爵クモ?
ダンシャクグモ達が、一斉にこっちを向いた。そして、怪しく目を光らせる。
「あわ……」
「ヒナギ、下がれ!」
鉄のダンシャクグモ達が、カシャカシャ音を立てながら素早く近付いてきた。巨体の割に、動きが機敏だ。
「この!」
俺は、ヒナギの前に出ると先頭のダンシャクグモを叩き斬った。『サガン・スピア』の切れ味がいいのか鉄っぽい割に脆いのかはわからないが、ダンシャクグモは真っ二つになって転がった。
「よし、これなら!」
俺は、パスケースを胸ポケットに入れると、『サガン・スピア』を両手で握ってダンシャクグモを迎え撃つ。
「どりゃあ!」
正直、槍とか薙刀とか扱った事無いんだけど、体が軽くてバッサバッサと斬り伏せていけた。これが、ダブル・ジョーカーの言っていた身体能力の強化か!なんか、雑魚をバサバサ倒していけるのは無双ゲームみたいで楽しいぞ♪
「えいえい!」
ヒナギも、杖を両手で持って近付いてくるダンシャクグモをポカポカ殴っている。どう見ても効いてなさそうだが、絵的にはめっちゃかわいいな、ヒナギが。
「ヒナギ!廊下へ!」
「は、はい!」
和んでいる場合でも無いので、俺達は廊下へ出る。敵が出てくるルートを玄関一本に絞れば、迎撃もやり易いからな!
「そりゃそりゃそりゃそりゃ!」
廊下に出るとすぐに振り向いて、玄関から外に出てこようとするヤツを槍で突きまくる。馬鹿正直に玄関から出てこようとするから、入れ食い状態。
と、思ったら。
「うわっ!」
ダンシャクグモが、いきなり口から糸を吐いてきた。俺は、慌てて槍を引いて糸をかわすが、その間に何匹かの廊下への侵攻を許してしまった。
つか、蜘蛛って口から糸は吐かんよな!?いや、なんとかって種類の蜘蛛は口から吐くらしいけど、それは例外だったはず。口から糸を吐く蜘蛛なんて、特撮映画とかアニメの産物だぜ。特に、蜘蛛男とか言うの!
結局、わらわらとダンシャクグモが廊下に這い出てくる。ヒナギの防御魔法も展開してるから負ける気はしないが、こうわらわらいるのは単純にメンドイ。
「なら……!」
俺は、デッキからカードを一枚引いた。引いたカードは、『アゴ・ストーム・セイバー』(召し物カード)。「風」タイプに使える、攻撃力アップ召し物だ。
「召し物発動!『アゴ・ストーム・セイバー』!」
俺は、『アゴ・ストーム・セイバー』を発動させた。なんかカッコいい装飾の鍔の付いた西洋剣が、そのまま左手に発生する。
よし、これで俺は槍と剣の二刀流だ!気分はトリニティ!




