第1話その2
けど、二人……二体はリアルを持って迫って来るわけで。
『まあ、気持ちはわかるわ。ただ、この際常識はかなぐり捨てなさい。常識に囚われていては、いい結果は生み出せないわよ?』
『……お前はお前で、その論理的より直感的な物言いを改めろ。この世界には、この世界の常識がある。我々の世界とは違うのだぞ?』
ダブル・ジョーカーは、天使のマホに苦言を呈していた。このダブル・ジョーカーというドラゴン、真面目生徒会長系か?
『だって……』
「……世界が違う?」
『クイーンのマスターよ。これから我々が話す事を聞いてくれないだろうか?これは、我がマスターである桜咲真穂嬢に関する事でもある』
ダブル・ジョーカーが、俺に言ってくる。ダブル・ジョーカーの声色は真剣そのもので、聞かなければならないような気にさせる。
それに何より、真穂の事だと言う。
「まあ、言い合いしててもしゃあないし、聞かせてくれよ?」
俺は、腹をくくった。これが夢でも俺の妄想でも、とりあえず話を進ませないと。
『わたし達はあなた達の持っているカードに描かれているイラストと同じ姿だけど、同じ存在では無いわ。何より、わたし達はこうして存在している』
「そうだな。触れたし、体温も感じられる」
マホの手は、結構柔らかかったな。真穂は、あんな冷たくなって……。
『我らは、こことは違う世界、君にわかりやすく言えば異世界エクディウムの存在だ』
「?エクディウム?て、魔フォーの舞台設定の?」
魔フォーは、エクディウムという世界で魔王が覇権を争う設定になっていた。
『そう』
「え?なんで魔フォーと同じ設定の世界が?」
『知らないわ。作った制作者に聞いて?』
『我らの世界からこちらの世界に渡った者が作ったか、それとも逆にこちらからあちらに渡った者がいるか……。まあ、詳細は不明だ』
そこで、詳細不明なのかよ。こっちからすれば、お前らの存在が詳細不明なんだけど?そこには、疑問は無いわけなの?
「管轄外ってヤツか。お前さんらが来れてるんだから、昔から来てるのがいても不思議じゃないって事だな?」
『でも、わたし達は同じ名前のカードを媒体としてリンクさせてこっちに来ているから、そのゲームが作られる前には同じ方法では来れないはずなんだけど』
「そうなのか。まあ、考えても答は出ないから考えたって無駄ってわけだな」
今が既に、異常な状態だからな。どうにでもなれー。
『いかにも。では、肝心の我がマスター、桜咲真穂嬢の話をしよう』
「そうそう。真穂の話って、何の事だ?真穂は……死んだよな?」
『結論から言おう。彼女は、この世界では死亡した。だが、存在は消えていない』
ダブル・ジョーカーが、そう言い切った。
「存在が消えていないって、どういう事だ?」
『一言で言えば、異世界転生よ。その辺の所は、あなたの方が詳しいでしょう?』
異世界転生!死んだ主人公が現実世界から異世界に転生して、チートやら魔力やら貰ってやりたい放題やって無双するというあの!?
「え?まさか、真穂は異世界に転生したのか?」
『ええ。それも、エクディウムにね』
「えぇ……。真穂、主人公だったのか。なるほど、道理で。あいつ、生きてた時からチートじみたスペックしてたもんなぁ」
容姿も能力も、人間とは思えない。それこそ、漫画の主人公みたいな真似してたからな。何より、逆ハーレム物みたいにモテまくっていたし。
ある一点の欠点を除けば、だけど。
『そういう事で、我がマスターはエクディウムで生きている』
「そうか……。異世界で生きてるって言われて、喜ぶべき事なんだろうか?」
俺は、腕を組んで考えた。生きていると言われれば嬉しいっちゃ嬉しいが、異世界にいるんじゃ会いに行けない。連絡を取る事すら出来ないぞ。
『まあ、微妙よね?外国ならまだしも異世界じゃね。……そう思ったから、わたし達が今回来たわけよ』
「?どういう事だ?」
『あなた、真穂ちゃんに会いたいでしょ?結局、死ぬまで好きだって言えなかったしょうがないヘタレだし』
「誰がヘタレだ!そもそも、別に好きじゃないし。……でもそりゃ、会いたいさ。あんな終わりなんて、嫌に決まってんだろ!」
ずっと続くと思っていた未来を、突然奪われたんだ。会えるなら、また会いたい。
『ならば、我らと共にエクディウムに渡り、マスターを探さぬか?』
「は?」
ダブル・ジョーカーの言葉に、俺は思わず間抜けな声を出してしまった。
『あら。本当に目を丸くする人間っているのね』
マホがそう言った以上、本当に俺はポカンとしていたのだと思う。
「それはつまり、俺にも異世界転生しろって事か?」
『君の場合は我々と共に移動するので、転生ではないかと』
『あなたの場合は異世界転移ね』
異世界転移か。オーラなロードが、開きそうだな。
「そ、そんな事が出来るのか!?」
『我々の力を使えば』
『わたしは、聖天族の元女王だしね。ダブル・ジョーカーはしがない探偵だったっけ?』
『知識の番人だ、バカ者め』
なんか、軽口を叩き合ってる。キャラ的には、マホは軽めでダブル・ジョーカーが真面目系っぽい。
おかしいな。このカードのマホ、顔だけじゃなく性格まで真穂に似てるぞ?
「移動って、俺も死ななきゃ駄目なのか?」
『あなたは、そのまま移動だからわざわざ死ぬ必要は無いわ』
『但し、この世界からはいなくなるので、失踪という形にはなるかもしれぬがな』
「そりゃ、そうだよな?二つの世界に同時に存在出来るわけないし」
行方不明者扱いか。まあ、捜索願いが出されなきゃ、世間的には消えた事なんてわからないだろうけど。
『そういう事。どうする?わたし達はあなたを向こうに連れていく事は出来るけど、向こうから送り返す事は出来ないわ』
「そうなのか?」
『君がいなくなれば、この世界との縁が切れてしまうのでな』
「つまり、帰ってこれない可能性がある。というより、帰ってこれない可能性の方が高いという事か?」
『ええ。向こうの世界に、真穂ちゃんはいるわ。でも、当然あなたの両親やこの世界の友達はいない。多分、数で言えばこっちの世界の方が知り合いは多いわよ?で、どうする?』
マホが、選択を迫ってきた。それは、真穂に会う為にこちらでの全てを捨てるか、真穂一人を諦めるかの二択。
その二択なら、選ぶのは一つしかない。
「行く。真穂に会いに行く。今のまま、後悔を抱えたままで生きていける気がしない。結果がどうだろうと、もう一度会わなければ俺は先に進めない」
俺は、決意した。もう一度会って、言えなかった一言を言うと。
『うん。そうでなきゃ』
「それじゃあ、これから行くのか?」
『我々にも準備がある。君も、身辺整理をするといい』
「身辺整理って……」
部屋でも片付けろ、と?
『ご両親には話すなり、書き置きをするなりしておくといいわよ?まあ、わたし達の事を話したら十中八九どっかの病院に連れて行かれると思うけどね』
「ショックでおかしくなったと思われるのが関の山だな」
『では、準備が出来次第また来る』
ダブル・ジョーカーは、あっと思う間もなく消えた。
「消えた……」
『あそこのカードを媒体にしてエクディウムに戻ったのよ』
マホが、机の上に置いていたダブル・ジョーカーのカードを指差す。
「つまり、これは次元間移動用の扉って感じか?」
『まあ、そうね』
「このカードをここに置いておけば、いつでも行き来出来るのでは?」
『言ったでしょ?縁が繋がってないとその扉は開かないのよ』
そう、うまくは行かないって事か。世の中、簡単には行かないよな。
「……このカードを持っている人って他にもたくさんいると思うけど、どうして俺や真穂の所に現れたんだ?世界で一枚ってカードじゃないし」
俺が聞くと、マホは少しだけ黙った。
『まあ、わたし達が気に入ったからよ。あなた達、わたし達を手に入れてから一度もデッキから抜かなかったでしょ?大切にしてくれれば、愛は深まるものよ』
マホが、俺から顔を背けて答えた。なんだか、顔を赤くしているので、やけにかわいらしい。真穂に似ていると思っていたが、外見以上に中身も似ているみたいだ。
「そっか。これからもよろしくな?」
『ええ。こちらこそ』
マホが、俺に微笑んでくれた。その微笑みは真穂そっくりで、正直今はまだ辛い。
「準備って、何すればいいんだ?着替えとか?」
何日分、用意すればいいのか。
『旅行に行くんじゃないんだから。着替えとか言っている場合じゃないと思うわ。あなたが用意すべきは、持って移動できる分のカードよ』
「カード?て、魔フォーのだよな?」
『ええ。ここじゃ説明しても実感できないと思うから詳しくは省くけど、きっとあなたを助けてくれると思うわ。だから、持っていける限り持って行きなさい』
「そ、そうか」
俺は、部屋のカードを収納しているファイルに目を向けた。カードって、案外束になると重いんだよな。
『それじゃあ、わたしもまた来るわね』
「ああ、また」
マホも、そう言って消えた。
それからしばらく経って、マホとダブル・ジョーカーがやって来た。
『準備はいいかね?』
「ああ」
『ご両親には?』
「旅に出てくるって書き置きを書いといた。とにかく、世界を見てくるって」
いつになるかわからないけど、満足したら帰ってくるとも書いておいた。満足、できるといいな。俺の満足はこれからだ!
『そう』
「しかし、異世界転生つか転移って、こんな準備万端でするもんなのだろうか」
『詳しくは知らないけど、普通は突然起きるものじゃないの?あなたの真穂ちゃんみたいに』
「普通はそうだよな?……そういや、マホのカードの設定だとマホの「ハーレム・クイーン」の名前って、自分好みの女の子を何人も侍らせてハーレムを築いていた結果付いた名前らしいけど、それって事実なん?」
俺はせっかくなので、気になっていた事を尋ねてみた。カードの『ハーレム・クイーン・マホ』は、何人もの女の子を囲っている「百合の女王」という設定だったのだ。
『な、なんでそんな事……!』
マホは、思いっきり赤面して動揺していた。ここまであからさまだと、まあ。
『事実だ』
ただ、なぜかそう答えたのはダブル・ジョーカーだった。
『うげ!なんであんたが知ってるのよ!?わたしとは、生きた時代違うでしょ!?』
『フ。知識の番人を舐めるなよ?』
『ぬぅ……。油断ならぬ奴』
よくわからないけど、魔フォーの設定通りにこいつは百合ハーレムを築く奴らしい。可愛いのに、もったいない。と思うのは、多分余計なお世話か。
「うーん。とりあえず、ダブル・ジョーカーは凄いんだって事は理解できた。あと、マホは女好きと」
『女好きって言い方はやめて!かわいいものを愛でるのは女の子の本能なのよ!』
『女の子ねぇ……』
『なんか言った?』
マホの鋭い視線が走る。あ、これ怒るとめっちゃ怖いやつだ。
『別に……。そろそろ始めるぞ?用意はよいな?』
ダブル・ジョーカーが、確認してきた。それはつまり、この世界を去る時間が来たという事だ。
『ええ。準備はいいわよね?』
「もちろん」
俺は結局、服装はただの普段着。カードの入ったストレージボックスを詰めるだけ詰めた、背中に背負うリュック。あと、異世界だから電波届かないだろうけどスマホやタブレットを持って、軽装にまとめた。邪魔になってもあれだしな。
そして、心の準備も既に済んでいる。心残りが無いとは言わないが、それでもやりたい事が俺にはあるんだ。
『それでは、始めるぞ。目を閉じ、心を平静に保つといい』
マホとダブル・ジョーカーが、俺を挟むような位置に立った。
『これから先の事、不安だろうけどわたし達は常に一緒だからね?それに、あそこにはあなたの真穂ちゃんがいる。だから、彼女の事だけ考えて』
マホの声と共に、何かブーンという低く唸るような音がする。そして、
「待ってるよ、彼方くん」
真穂の声がした。そして、扉の開く音。
そして俺は、異世界エクディウムに降り立った。




