第9話その2
それはともかくとして、ロキヒノの答えを聞いてメィム達三人はホッと胸を撫で下ろしていた。
ああ、とばっちりで彼女達まで罰を受ける可能性があったか。それは考えてなかったな。そこは、俺も反省だ。
「それで?これからどうする?」
「あ、ああ。まずは、近くの村に行ってヒキャクを飛ばして王都に連絡して人員を回してもらう。遺体をずっとここに放置しておきたくないし、家族の下に帰さないとだからな」
「ヒキャク?」
初めて聞く単語が出て、俺はつい首をかしげる。ホテルとかで電話は見かけなかったけど、何か遠く離れた場所と連絡をつける手段があったのか?
(『連絡、というほどの事ではない。昼夜を問わず移動して、連絡事項を伝えに行く仕事を生業とする者がいるのだよ。君達の世界での郵便業者という所だな。あと、同じ名前の存在が過去にいただろう?』)
(ああ、飛脚か。え?日本の江戸時代レベルなの、ここ?)
(『通信機器は、そんなレベルだ。まあ、鉱石族や魔王族、聖天族ではまた別の連絡手段があるらしいが、その辺はそちらの領国に行って確かめるといい。とにかく、機械が鉱石族になるせいで人間族の文明レベルは少々発展途上だと認識しておくといい』)
「それに、人拐いドラゴンの討伐隊も新たに編成しないとな。今度は、十分な戦力を整えないと……」
ダブル・ジョーカーと話していたせいで、ロキヒノのその言葉には、俺の反応は遅れた。
「その人拐いドラゴンでしたら、トオノさんが倒しましたよ?」
満面の笑顔で、ヒナギが言った。いやぁ、いい笑顔だ。話の内容はともかく。
「へ?カナタが倒した?」
「ええ、カナタがもう倒してます。懸賞金も貰いましたし」
「強かったです、トオノくん」
『まあ、彼方くんにとっては雑魚でしたから』
「ちょ、ちょっと待て。それは俺じゃなくてダブ……」
「マジか!」
俺の言葉は、ロキヒノの叫び声にかき消された。
「ここに来る前には、もうサクッと倒してたのかよ!?さすが、カナタだな!」
「はい、それはもうサクッと。さすがのカナタでした」
「ホント凄かったよね~。さすがはトオノくんって感じだったよ~!」
「はい。本当に凄いです、トオノさん」
『そこはまあ、彼方くんだからね~♡』
マホはどうなのかわからないが、他の人間は明らかに本気で言っているのが、俺的に非常に心苦しかった。
「なんなん、これ……。褒め殺しってヤツ?」
(『さすかな』)
(お前までやめろ、ダブル・ジョーカー)
お前が言うと、もはや嫌みだぞダブル・ジョーカー。
「あのドラゴンを倒したのは、あくまでダブル・ジョーカー……。俺の相棒のドラゴンの方だ。凄いのはそっちなんで、褒めるなら相棒にしてやってくれ」
「けど、それを召喚して使役できるのはカナタだろ?だったら凄いのはカナタじゃねえか」
「ですよね~」
「だよね~」
「やっぱり、凄いのはトオノさんですよ」
『彼方くんが召喚しなきゃ、ダブル・ジョーカーも出てこれないしね』
俺の意見は、五人の連携で粉砕された。
あれぇ?ロキヒノと女子四人が、すっかり仲良くなってるぞ?変なとこで意気投合してるんじゃねえよ……。
「なんだかなぁ……」
俺は、ただため息をつくだけだった。なんでこんな事になってんだぜ、俺ー!
「ま、まあ。それはともかく、今回も戦利品でカードを手に入れたから、こっちはメィム達で分けてくれ」
俺は、回収した五枚の内三枚をメィム達に渡した。『コップ一杯の水を』は生活用で使えそうかつ俺の持ってきたカードには入っていないので、そのまま俺が貰っておく事にした。
そして、もう一枚。
「ロキヒノ。このふざけたカード、お前の炎で燃やしてくれ」
俺は、ロキヒノに『ネクロマンサー・フォウ・アダルト』のカードを渡した。死体をゾンビにして操るなんてカードは、さすがに許容できねえわ。
「まったくだな。『フレア・ブレード』!」
ロキヒノは、炎の剣で叩き斬った。材質が紙なので、さすがに簡単に燃え尽きる。
「おお、炎の剣!」
「カッコいい…」
ロキヒノの炎の剣を見て、マホ達が感嘆の声を上げていた。そういや、四人はこいつの魔法知らないもんな。
「ふん。ざまーみろ」
ロキヒノは、地面に落ちた灰すらも踏みつけていた。主に苦しめられたのロキヒノだからな、しゃーない。
結局、渡したカードはメィムが『ブラック・サンダー』を、リゥムが『カマイタチング』を、なぜか『ソロ・シート』をマホが手に入れていた。
「防御系魔法はわたしにはそこそこありますので」
と言って、ヒナギがマホに譲ったのだ。
「……なんか、メィムってサンダー魔法が多い?もしかして、タイプは「光」かな?」
「ええ、そうよ。リゥムが「水」でヒナギが「地」だっけ?」
「うん」
『リゥムちゃん「水」タイプかぁ……。やっぱり、水着を普段着に』
「マホちゃんまでやめて!」
「聖天族の人達は、ほとんどが「光」タイプだと聞きますけど、マホちゃんもですか?」
『うん。でも、全員がそうだってわけじゃないよ?聖天族だけど「闇」の子も一応いた事はいたし』
「カナタはそういや何タイプなんだ?」
まあ、話の流れ的に俺の所に来るわな。
「んー。まあ、「闇」かな」
当然、俺は自分のタイプなんて知らない。なので、適当に「闇」にしておこう。なぜ「闇」かと言うと、ダブル・ジョーカーの属性が「闇」だからだ。
「へー。人間で「闇」って珍しいな」
「?そうなのか?」
「まあ、珍しいってだけでいないわけじゃねえけどな」
「あんなドラゴン召喚できますし、「闇」でも不思議じゃないかと思います」
メィムが、ロキヒノに言った。いや、メィムの敬語、慣れないな。頑張って使っている様子は面白いけど。
「さて……。とりあえず村に戻るとして、俺はロキヒノが王都に戻るのを見届けるまでついて行こうと思うが、いいかロキヒノ?」
俺が提案すると、ロキヒノだけじゃなくマホ達まで驚いていた。まあ、相談はしてなかったから当たり前か。
「え?そりゃ、俺にとってはありがたい事だが、お前はいいのかカナタ?どっかに行く途中だったんじゃねえの?」
「お前を放っておくと、帰りにも余計な事に首を突っ込みそうだからな。助けた手前、家に帰るまでは引率しないと」
「おいおい……幼児じゃねえぞ?一応、これでも二十一だからな」
「は?お前年上かよ」
言動がイキった中学生レベルなんだが、それでも一個上なんかい!
「ん?カナタはいくつなんだ?」
「二十だ」
「お、そうかそうか。なら、俺の事は兄さんと呼んでもいいぞ?」
「わかったよ。今度高い高いしてあげるよ兄さん」
「扱いが赤ん坊!」
「そういう事で、こいつ一人にしとくと心配なんで王都に着くまで見守ってくる。マホは、メィム達とナード町に行っとくといい。俺も、終わったらそっちに行くから」
俺は、改めてマホに説明した。ナード町に行きたがっているのはマホだから、彼女には先にそっちに行ってもらって、俺は後から合流で問題無いだろう。その間、マホもメィム達といられるからいいはず。
だったんだけど、マホは不機嫌そうな顔をしていた。
『あのね、彼方くん?わたしは、彼方くんのパートナー!離れて行動するつもりは無いの!彼方くんが王都に行くっていうなら、わたしも行くよ!わかった?おーけー!?』
マホは、物凄い勢いで捲し立ててきた。あれ?女の子の方メインにする、と思ったんだけどな。
「オ、オーケー。……ごめん」
『はい、よろしい』
マホは、フンスと鼻を鳴らしてうなずいた。
まあ、なんだかんだで自分を優先してくれるのは嬉しいかな。さすが、十年来の魂のパートナーだぜ!
『って事でごめん。わたしから行きたいって言ったのに、王都の方に行くよ』
マホが、両手を合わせてごめんねポーズを取って三人に謝っていた。確かに、行きたいと言い出したのはマホなのにな。
メィム達三人は顔を見合わせて、互いに笑っていた。
「別に謝る必要は無いわよ」
「マホちゃん達の為に無理にスケジュール変えたわけじゃないし」
「そうですよ。自分達の家に帰るついでだっただけですし」
「っていうか、あたしらも一緒に行くわよ?」
メィムの言葉に、俺とマホは同時に首をかしげた。
「え?でも、家に帰るんじゃ?」
「一旦帰るか、って考えてただけだからね。予定していたわけじゃないし」
『でも、おうちの人はいいの?』
「一応、私達成人してるし、仕事してるから自分の事は自分で責任持つように言われてて、何も問題無いよ」
「むしろいつまで家にいんの!って言われてたしねぇ」
メィムがそう言って、リゥムと笑い合っていた。女子二人だと、やっぱり結婚は?結婚は?とか言われてたんかな?
「わたしの所は定期的に連絡するように言われてますけど、こないだ帰った所ですし」
「ヒナギちゃんのパパさん、過保護だもんね~」
「言わないで下さい……」
メィム達の話を聞きながら、少しだけ両親を思い出す。俺は一人息子で親子仲も普通の、どこまでも平凡な家庭だった。俺の書き置き見て、どう思っているかな。
「それに……」
メィムが、俺とマホに顔を寄せてきて小声で言ってきた。
「王子様に顔売っときゃ、王都でいい仕事回してもらえるかも、だしさ」
メィムが、ウインクする。
ああ、ロキヒノとのコネ作りか。
「特に、王城での仕事は高給だって聞いてるよね」
リゥムが、話に入ってきた。
王城での高給+危険の無い仕事を世話してくれそう(実際ロキヒノにできるかはともかく)な相手が目の前にいるんじゃ、そっち優先して当然だわな。つか、ロキヒノって人間領国一の玉の輿やん。
俺は、苦笑した。
「まあ、護衛は多いほどいいだろうし、この子らも来るって事なんだが、いいか?」
「ああ。もちろんだ。よろしく頼むぜ、みんな」
ロキヒノは、マホ達の同行も快諾した。
「じゃあ、村に戻って準備しようぜ?ちなみにロキヒノ?お前王族だけど金は持っているのか?」
「は?そりゃ、持ってるさ。王族をなんだと思ってるんだ?」
「いや、王族ってお付きの人間が事前に全てお膳立てするから買い物の概念すら知らないようなイメージが」
「どっから出たんだ、そのイメージは?金の価値を知らない王族なんて、国が滅ぶ元だぜ?んなもん、最初に学習するに決まってんだろ」
この国の王家は、意外にしっかり教育をしているみたいだな。……なのにロキヒノがこれなのは、問題はロキヒノ自身って事か。
「よし、村に戻ろうぜー」
ロキヒノが、先頭を切って歩き出した。仕方ないので、俺達もあとに続く。




