第9話
王子様が、スキルアップした。
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「接近戦の『フレア・ブレード』!遠距離戦の『バーナー・シュート』!俺、超パワーアップじゃねえか!これが、オウドウってヤツか!お前すげえな、カナタ!」
ロキヒノが、炎を吹き出しながらはしゃぎ回っていた。……こいつ、本当に王子か?
あと、なんでそこで俺が凄いって話になるんだよ?どういう理屈でそういう結論に至ったんだよ?脈絡の無い意味不明なAGEは、むしろ下げてるようにしか見えないからな?
「つーか、ロキヒノって今まで炎の剣のカードだけしか持ってなかったのか?」
「ああ。それで事足りたからな。細かい戦法使うより、真っ正面から切り伏せていった方が早いしよ」
ああ、脳筋かロキヒノ……。だから、本当にお前は王子なのかと。ちゃんと教育しろよ、王家の人。
「はぁ……。それが今回のゾンビ連中には効かない事はわかったな?」
「ああ、あれは参ったよ。あんな魔法を使ってくる奴がいるとはなぁ……。今までは、『フレア・ブレード』で無双できてたんだぜ?」
「まあ、炎の剣を突き刺して炎で灰にしていけば対処できない事はなかったが、一瞬で灰にできるわけじゃないから、あの数じゃ燃えながら迫ってくるのに捕まって一緒に燃やされるだけだったろうな。だから、さっきの火炎放射魔法は使えると思う。ただ、今後のためにも王族だったら王家で使い方を教育されてこい」
「そうだなぁ。いやまあ、勉強って俺は苦手なんだよ。なんとなくやってりゃ、ちゃんとできてたしよ」
ロキヒノの言葉に、俺は頭を抱えた。あかん、こいつ本気で先の事は何も考えていない脳筋チンピラ王子だ。こいつ、第一王子って言ってたよな?
大丈夫か、この国?
「運の良さに胡座をかいていると、肝心な時にエライ事になるぞ?……まあ、いい。とりあえず、まずは森を出よう。森の中に留まるのは視界が悪すぎる。何が出てくるかわからないからな。話をするにしても、もう少し見晴らしのいい場所へ移動しよう」
「あ、俺の部下達が……」
「遺体の事か?……まずは、お前の安全を確保してからだ」
「でも、よ……」
部下の遺体を野晒しにしたくないって気持ちは、まあ理解できる。だけどな。
「お前の部下達は、王子であるお前を守る為に死んでいったんじゃねえのか?そいつらに報いる為にお前がやるべき事は、何が出てくるかわからない場所での作業か?それとも、そいつらの死を報告する為に外へ出る事か?」
ため息混じりに、俺は言った。
俺達に助けを求めた奴も、自分よりロキヒノを優先していた。それを考えれば、倒れた兵士達もロキヒノの身を第一に考えて行動していたのが想像できる。だったら、お前がやるべき事なんか一つしかないだろうが。
「……王都へ戻る事」
俯きながら、ロキヒノが答えた。悔しさに拳を震わせているが、それを耐えて大局を見るのが王子のやる事だからな。
「そうだ。じゃあ、外へ出るぞ」
と言ったものの、俺達も森の奥まで入ってしまっていて、いまいち方向がわからない。マホ達は、どっちにいるっけか?
(ダブル・ジョーカーわかるか?)
(『ああ、そこから北……。いや、左に向かって歩いていくといい』)
(左か。いやー、ダブル・ジョーカーがいてくれて助かるぜ。ダブル・ジョーカーってかなりチートな存在だよな?チートなドラゴン、チードラゴンって感じ?)
(『ダサイ。そもそも、チートなのは誰に聞いても、我ではなく我を使役し魔法を一度に二個も三個も使ってくる君だと答えると思うぞ?』)
(魔法が二個三個使えるのは、ダブル・ジョーカーが強化してくれたおかげなんだろ?)
俺は、心の中で肩をすくめた。自分で強化したって言ったじゃん、ダブル・ジョーカー。俺も、そのつもりで使ってたんだが。
(『いや?我がやった事は、身体能力の強化とこの世界への知識強化のみだぞ?魔法を何個も同時に使えるのは、君自身の能力だ』)
(え?)
俺は、思わずポカンとする。
え?ダブル・ジョーカーが強化したんじゃないの?
(どういう……事だ?え?ダブル・ジョーカーが強化してないのに、なんで俺は魔法の同時発動ができんの?)
(『知らぬ。それは我の管轄外だ』)
(嘘ぉ?え、俺人間だよな?)
(『我には、この世界で言う人間族と感知できるな。まあ、そこはチートという事でいいのではないか?チートな人間、チンゲンという事で』)
(人を野菜みたいに言うな!)
なんか、よくわからない謎が出てきてしまった。
おかしいなぁ?俺は、平凡に平凡を重ねたただの男なのになぁ。出自も平凡で、「平凡な高校生」とか言いながらヤクザの息子だったりしないし、じっちゃんの名にかけたりしないし、前世の記憶も前前前世の記憶も無い。
……うむ、わからん!よって、忘れよう。
「とにかく、森を出ようぜロキヒノ」
「ああ」
俺達は、森の中を周囲を警戒しながら歩き出した。途中、死んだ部下の遺体を見てロキヒノが頭を下げながら。
『あ!彼方くん、大丈夫!?』
森の出口まで行くと、マホ達が出迎えてくれた。
「本当に王子様だ……」
一緒にいたロキヒノを見て、メィムが小さくつぶやいていた。一目見ただけでわかるって、やっぱり有名なのかロキヒノは。
「この子らが、お前の仲間かカナタ?」
「ああ。仲間つうか知り合いっつうか……。まあ、仲間だな。あ、さっきの人は?」
「あ、はい……」
俺が聞くと、ヒナギが少し離れた場所に顔を向けた。そこには、シートが掛けられている。その下に横たえられているだろう事は、すぐにわかった。
まあ、見つけた時点で手遅れっぽかったからな。
ロキヒノは、そこまで歩いていってシートをめくり、頭を下げた。
「ありがとう。お前のおかげで、俺は生き残る事ができた。すまない」
「えっと、他の人は……?」
リゥムの質問に、俺は無言で首を横に振った。
「そうなんだ……」
「そもそも、なんで王子様がこんな所で山賊と戦っていたのよ?」
「詳しくは知らんが、討伐に来たとかなんとかモブ山賊が言っていた。とりあえず、森から離れたら聞いてみよう」
そういう事で、俺達は森から離れて街道に移動した。
「俺は、ギルフォードライ王国の第一王子、ロキヒノ・リードギルフだ。今回は、世話をかけてわりぃ」
ロキヒノが、マホ達に自己紹介しつつ頭を下げた。
今まで気にしなかったが、この人間領国は名前をギルフォードライ王国っていうのか。
「き、気にしないで下さい。えっと、懸賞金稼ぎのメィム・ウィステリアです」
メィムも頭を下げつつ、自ら名乗った。なんか、メィムが敬語で話してるのが既に珍しく感じる。
「メィムの双子の妹のリゥム・ウィステリアです」
「メィムちゃん、リゥムちゃんと同じ懸賞金稼ぎチームのヒナギ・エンリです。すみません、助けられなくて」
リゥムとヒナギも、ペコリと頭を下げる。まあ、この二人はそれが普通だし。
『はじめまして。彼方くんのパートナーのマホ・ブルームです』
マホは、微笑んでそんな風に言った。
「ん?マホは、パートナーって事でいいのか?」
俺がつい口に出すと、マホの笑顔が崩れた。
『わたし達は、十年一緒に戦い続けてきた魂のパートナーでしょ?それ以外に、どう表現するの?』
「ふむ。戦友、親友、ご主人様と犬……。そうだな。パートナーが一番適切か」
『最後の何……?』
「聖天族?」
ロキヒノが、マホの翼を見て驚いていた。マホの翼は、そりゃ目立つからな。
『あ、はい』
「聖天族の子がウチにいるのは珍しいな。聖天の人って、クリスティアからあまり外に出ないイメージだったけど」
ん?聖天族の領国は、クリスティアと言うのか。なんか、そんな感じ。
『まあ……。わたしは、あくまで彼方くん個人のパートナーでここにいるだけなので』
マホにとっては、マホ自身がこの国にいたいわけじゃなく、俺がいるからマホもここにいるってだけだもんな。ホント、助かるよパートナー。
「そうなんだな。強そうなドラゴンを召喚したり聖天族の子をパートナーにしたり、お前は本当に凄い奴だなカナタ?」
ロキヒノが、なぜか俺を褒めてくる。
だから、そこはダブル・ジョーカーやマホを褒めろっての。有名人と友達のお前すげえ、みたいな褒められ方しても嬉しくはねえよ。
「ところで、ロキヒノはなんでこんな所で山賊とやりあっていたんだ?」
「ああ、王都に山賊と人拐いドラゴンの話が来てな。で、だったら俺が両方討伐してやるって思って来たわけよ」
ロキヒノが、若干胸を反らしてドヤ顔的に答えた。
ここの山賊はおろか、あのドラゴン連中も討伐しようと?なのに、前座の山賊にロキヒノ以外全滅させられるって……。それで、なんでドヤ顔できるんだ?
「お前……。それで、何人連れてきたんだよ?」
「手の空いてる奴を、十人だな。まあ、俺の力で片付けられると思ったし」
能天気に答えるロキヒノを見て、俺は頭が痛くなってきた。今までどんな生活をしてきたのか知らないが、根拠の無い自信だけは一人前かよ。
「お前な……。今の状況を見ても、そんなバカな事が言えんのか?」
「あ、いやまあ……。ちょっと甘く見ていたと思ってる」
あ?部下を全滅させて、ちょっとか?
「お前の過信が、部下を全滅させた事を忘れるな?あと、お前が今生きていられるのは部下達の犠牲の上に成り立っている事もな」
「それは……。わかってる。反省してるよ、すまないカナタ」
「いや、俺に謝っても仕方ないだろう。謝るなら、犠牲にした兵士の家族にするんだな」
俺に謝ってどうする。
「ああ、王都に帰ったらそうするつもりだ」
「はぁ……。そうしろ」
「ちょっとちょっと」
横から、メィムが小声で話しかけてきた。
「ん?なんだ?」
「その……。王子様にそんな偉そうな態度でいいの?」
メィムは、心配そうに耳打ちしてきた。まあ、普通は相手が国の王子だと思えば萎縮して敬語使いとかになるわな。ただ、
「別に。今の所、俺にとっては身の程を弁えないバカでしかないからな」
俺は、音量を調整するのも面倒臭くて、普通の声でメィムに答えた。
先の事を何も考えずに行動し、そのツケを部下に命で支払わせる愚か者。今の所、俺の中でのロキヒノの評価はそれだけだ。そんな相手を、「王子様王子様」と持て囃す気にはならないな。
ふと見ると、リゥムとヒナギもハラハラしているようだった。まあ、彼女達の気持ちはわかるけど、少なくとも今のロキヒノにこっちがへり下る理由は無いわ。
「カナタの言う通りだ。今の俺に、偉そうにする資格は無い。カナタが来なきゃ、多分殺されてたしな」
ロキヒノは、自嘲気味に笑った。
まあ、それが自覚できるならまだマシか。ここで「無礼者が!余は人間族の王子なるぞ!」とか言い出したら、ダブル・ジョーカーに食わせてた所だ。
(『今の我のエネルギー源は君の魔力だから、生物は食わぬぞ?』)
(でも、腕引き千切ったり足引き千切ったりとかは好きだろ?)
(『……そうだな。嫌いではない』)
あっさり肯定する、ダブル・ジョーカー。そうか、好きなのか……。




