第8話
俺とロキヒノの前に、黒ずくめの男が現れた。
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黒いコートに黒髪、持っている杖まで真っ黒と黒黒黒のオンパレード。コートの裾が足元まで長くて、この真っ黒具合。しかも、その黒がまた黒光り系なのが……。
よし、こいつの名前はGだな。
「ジィキ!お前、自分一人だけ魔法で逃れたなぁ!」
まだ息がある山賊モブの一人が、その男に向かって叫んだ。
お?そいつの名前、ジィキって言うのか。まごう事無いGキじゃねえか。
「ワシの防御魔法は一人用じゃからな」
Gが、汚物を見るような目で山賊を見下ろした。
どうやらこのG、防御魔法でローリングバルカンの攻撃を耐えていたらしい。ただ、その防御魔法は一人しか守れないので、迷う事無く自分を守ったみたいだ。
その行動自体は別に間違っていないし、至極当然の事だと思う。ただ、その汚物を見るような目はなんだよ?お前、山賊の仲間じゃないのか?……まあ、連中に仲間意識があろうとなかろうとどうでもいいんだけどさ。
ただ、リゥムとヒナギだったら自分より周りを優先するだろうな。
「お前も、山賊の仲間か!?」
ロキヒノが、剣先をGに向ける。
「仲間、というほどではないの。ただ、都合がいいから一緒にいたまで」
「仲間である事には変わりねえだろ!お前もここで成敗する!」
ロキヒノが、剣を構えて斬りかかった。
「おっと。ワシは、剣で貴様と張り合う気は無いわい」
Gは、杖を掲げた。
「受けよ!『ブラック・サンダー』!」
Gの掲げた杖の先から、漆黒の電撃が四方八方に放たれた。
ん?『ブラック・サンダー』?というと、サイコロを振って出た目の数字に応じて場のサモンドスレイヴを破壊する勅命カードか。ちなみに、1が出ると相手サモンドスレイヴ一体破壊。2が出ると相手二体破壊できるが、3・4・5が出ると自分のサモンドスレイヴのみを全破壊、6に至っては自分サモンドスレイヴ破壊に加え次の自分のターンに発動コストが回復しないふざけたカードだ。
このG、見た目は四十後半っぽいのに、やけに爺さんみたいな喋り方をするのな。
「おわぁ!」
「無差別かよ!」
Gの落としてくる雷撃は無差別だったので、俺とロキヒノは慌てて逃げ回った。追尾機能は無いようなので、大きめに動き回って距離を取れば問題は無い。
「ぐげえ!」
ただ、あいつの周りの山賊連中はそうはいかない。ローリングバルカンで潰されて動けなくなっていた所に、雷撃が降ってくるのだ。
「おいおい……」
結局、Gの雷撃はまだかろうじて生きていた山賊達だけを、全滅させてしまった。
「自分の仲間にトドメ刺すか……」
「おう、手間が省けたぜ」
「どうせこやつらは生きていても邪魔なだけだしの」
うーん。こういう時、正義のヒーローなら「仲間をなんだと思っているんだ!」とか憤るべきなんだろうか?でも、自分を殺そうとした連中の為に怒るほど、俺も優しくないし暇でもない。
よし、山賊はどうでもいいや。
「今の『ブラック・サンダー』、俺のローリングバルカンを破壊したのとは違う魔法だな?」
実際、気になったのはこっちだしな。
「ん?そうじゃのう。お前さんの武器を破壊したのはこれじゃ」
Gが、懐から別のカードを取り出した。すると、杖の水晶玉からカードが飛び出てくる。あの杖、杖先の水晶がカードスロットになっているのか。
「お前達も斬り刻んでやろうぞ!チョクメイ発動!『カマイタチング』!」
カードを入れ替え、Gが再び魔法を放つ。
放った魔法は、『カマイタチング』。魔フォーのカード効果は、相手の召し物カードを全て剥がすカードだ。だから、ローリングバルカンも破壊されたのか。
ただ、ここでの魔法効果は風を操って真空波、つまりカマイタチを起こして周りの物体を切り裂く魔法のようだ。
ところで、鎌鼬って思いっきり日本語だが、こいつらわかって使っているんだろうか?
「うお!」
今度のは『ブラック・サンダー』とは違いランダムではなく、ちゃんと対象を指定できるようだ。つまり、目に見えるくらいの高密度なカマイタチが、俺を目掛けて襲ってくる。
「くっ!」
俺は、デッキケースに手を伸ばす。が、その俺の前にロキヒノが割って入ってきた。
「!?ロキヒノ!?」
「おらぁ!」
なんとロキヒノは、炎の剣でカマイタチを全て叩き落としてしまった。
わぁお、つっよ。
「ほう。ワシの魔法を剣で叩き落とすとは、貴様もやるのぉ」
「へ!タイマンなら負けねえってんだ!」
ロキヒノが、剣を振り払って不敵に笑う。
いや、実際強いんじゃないかロキヒノ。これでこいつを残して全滅って、山賊の数が想定より多かったって事かな?
ところで、タイマンって言葉も通じんの?
「このまま、てめえもぶった斬る!」
「だから、貴様と剣でやり合う気は無いと言ったであろう。貴様には、別の相手をくれてやろうぞ」
「?別の相手だと?」
「そうじゃ!発動せよナモト!『ネクロマンサー・フォー・アダルト』!!」
Gが、発動を宣言する。
今、『ネクロマンサー・フォー・アダルト』と言ったか?魔フォーでは、『ネクロマンサー・フォー・アダルト』は破壊されたサモンドスレイヴを出来る限り場に復活させる魔王の名の下にだ。発動コスト以外は条件もいらないぶっ壊れカードで、発売されてすぐに「使っちゃダメカード」に認定された黒歴史カードやんけ。
この効果を考えると、現実の魔法効果は……。
しかし、いつ聞いても変なカード名だ。
「な、なんだこいつら!?」
ロキヒノの驚いた声がして、俺は顔を上げた。
死んだはずの山賊達が、まるでゾンビのように立ち上がっていた。やっぱ、こうなるか。
「まさか、魔法で生き返ったのか!?」
「いや、生き返ってはないな。そもそも、首の無い奴まで動いてるし」
「お?あ、ホントだ」
「あれは、魔法で死体を動かしてるんだ。つまり、山賊連中はあの黒野郎に操られるだけの人形になったって事だな」
起き上がる動きを見る限り、動き自体はゾンビレベルなのでロキヒノには蹴散らすのは容易いと思う。ただ、心配なのはその数と、魔フォーのゲームと違い使い捨てのカードも捨て場に送られない事だ。
「人形なら、どって事はねえ!だいたい、動きが遅いぜ!!」
ロキヒノは、剣の一振りで三体のゾンビを吹っ飛ばした。
しかし、ゾンビは味方がやられた事を意にも介さず、前進を続ける。
「何っ!?」
それだけじゃない。吹っ飛ばしたゾンビも、何事もなかったかのように立ち上がり、また戦列に加わっていた。
やっぱり。『ネクロマンサー・フォー・アダルト』のカード自体を破壊しないと、ゾンビは何度でも蘇り続けるという事だ。
そして何より、問題があった。
「おい、G!お前……今魔法を同時に二つ使っているな?」
俺が叫ぶと、Gは嫌らしい下卑た笑いを浮かべた。
「ほう、よく気付いたの?」
「気付くも何も、お前まだ『カマイタチング』のカードを魔札道具から抜いてないだろうが。そんな状態で『ネクロマンサー・フォー・アダルト』を使ってんだから、気付くに決まってるわ!」
「!?カナタ、それって!?」
「俺は、魔法を同時に二つ使えるのは、一つの種族だけだって聞いたぜ?……お前、魔王族だろう?」
俺が言うと、Gはニヤーリと更なるゲス顔を晒した。
こいつといい山賊連中といい、なんかどんだけ悪い顔で笑えるか競ってるのか?お前らの笑い顔とか見ても嬉しくないわ!
「よく気付いた。あの雑魚共も気付いておらんかったのに」
Gが、黒コートを翻した。すると、ズルリといかにも悪魔って感じの尻尾が現れる。なるほど、魔王族を識別するのはその尻尾か。それ以外は、人間とあまり変わらない感じだからな。山賊連中も気付かなかったのは、どうかと思うが。
魔王族の尻尾、典型的な悪魔の尻尾って感じだが、あれは女の子に生えてて初めて絵になるんじゃねえかな?おっさんには、似合わねえ。
「魔王族が人間領国内で悪事をしていれば、討伐されても文句が言えない事は、わかっているだろうな!?」
ロキヒノが、ゾンビを真っ二つにしながら叫ぶ。人間領国の王子だから、他種族に勝手にされたら怒るわな。デリート許可!ってヤツか。
左右に真っ二つになった奴すら、動こうともがいていた。さすがに足一本腕一本では立ち上がれないが、一本ずつの腕と足で地面を這いずっていた。
キモ!
「二百数十年前に初めて勝っただけで、イキるでないわ人間めが!貴様らなぞ、ワシら魔王族からすればただの実験ネズミよ!」
ネズミって獣生族じゃね?
なんてツッコミを入れる隙も無く、Gが俺にカマイタチを放ってくる。なので、俺は森の中を木を盾にしながらジグザグに逃げる。ローリングバルカンを見たからか、G本人は完全に俺を狙っているようだ。その分、やたらいるゾンビをロキヒノが一人で引き受ける事になる。
「カナタ!」
「ロキヒノは、死体連中をなんとか凌いでてくれ!その間に、俺が魔王族を片付ける!」
「頼んだぞ!」
俺は、Gのカマイタチを避けつつ、デッキケースからカードを何枚か引き出した。
「ん?」
カードを五枚取り出した後、なぜかカードがデッキケースから出てこなくなった。カード自体はケースに入っているのに、何かが蓋をしているかのように引き出せない。
「……五枚引いてそれ以上引き出せない。まさか、手札制限?」
魔フォーのルールでは、プレイヤーが一度に手に持てる手札は六枚上限だった。そして俺は今、手札を五枚とパスケースに入れている一枚の計六枚持っている。
まさか、現実がゲームのルールに縛られている?魔法だけじゃなく、そんな所まで?これは一体……。
と考え込んでいる暇無い戦闘中だし、考えたって答えなんか出るわけねえ!もう、この世界は一枚のカードから生まれたでいい!
「とりあえず、『プレート・シールド』!」
俺は手札からカードを一枚抜き出すと、振り向きざまに発動させた。
発動したカードは、召し物カードの『プレート・シールド』。まあ、その名の通りの防御力を上げる盾を装備するカードだ。
発動と同時に、俺の目の前に大きな分厚い盾が発生して、Gのカマイタチを弾き返した。俺の身長くらいの、デカい盾だ。こんなん、強化されてなかったら普通の人間にはとても持てねえぞ……。
「ほう、さすがよの。『カマイタチング』を弾く盾か」
シリアスな戦場には合わない名前だな、と思いつつ俺は手札に目をやる。色々と反撃の手段が来てるけど、今はロキヒノを早く助けないとだから、悠長にしている余裕は無い。出し惜しみは、無しだ!
「だが、盾にいつまで隠れていられるかの?その盾が崩れた時が、貴様の終わる時じゃ」
Gが、いちいち煽ってくる。けど、それに俺はピーン!と来た。
これは、あの台詞を言う時だ!
「……そいつはどうかな?」




