第7話その2
『どちらかというと関わりたく無さそうだったが、関わるのだな?』
「目の前で倒れられてるんじゃな。ヒナギやリゥムも自分から関わりに行ったし、それを前にして放っておこうぜなんて言えないだろ?」
本当は、スルーしたかったけどな。
『まあ、そうだな。ふふ……』
「むぅ、笑うなよ。ところで、空から森の様子は見えるか?木が邪魔で見えない感じだが」
『血の匂いが続いている。恐らく、その先にいるだろう』
その辺は、さすがダブル・ジョーカーだ。俺には、何も感じないのに。
「よし。じゃあ、とりあえずそれらしいのを見つけたら、俺を降ろしてお前は上で待機していてくれ」
『我が蹴散らさなくていいのか?』
「なんか、召喚できる人間はレアらしいからな。様子見しよう。あ、ヤバそうなら乱入してくれよな?」
いきなりダブル・ジョーカーを暴れさせても、王子ってのに驚かれる可能性あるし。変に、敵認定はされたくない。
『わかった。まあ、君は身体能力も上げてあるし、罪悪感を感じないようにしておいたので普通の人間相手に遅れを取る事は無いだろう』
「?罪悪感?どういう事だ?」
聞いてないぞ、それ?
『下手に罪悪感を持たれて敵を逃がしたり見逃したりすれば、そこから窮地に陥る事もある。そんな事で死なれては、我も困るのだ。君は、君自身と我、二つの命を背負っているのだからな』
「な、なるほど……。ドラゴンの死体を見ても何にも思わなかったのは、そういうわけだったのか」
『ここはもう、君の生まれ育った世界ではない。命を奪う事を躊躇うな』
ダブル・ジョーカーの言う事は、もっともだった。昨日のカバだって、俺達の事を本気で殺そうとしていたんだ。俺は、躊躇していたら自分が死ぬ世界に来た。殺されるのは嫌だし、真穂を探す為にも死ぬわけにはいかないんだ。
だから、ダブル・ジョーカーの言う事をそのまま受け入れた。
───それでも。この時の俺は、もっと考えるべきだったじゃないかな、と思う。───
森の上から見ていると、何人もの死体が転がっているのが見える。粗末な服装の山賊らしい男達と、鎧を着けている兵士らしき者達が半々。いや、兵士の方が多い。
『いたぞ』
ダブル・ジョーカーが、高度を上げた。その眼下、森の中に開けた広場のような空間に、王子?らしき男とそれを取り囲む山賊の群れがいる。
追い詰められている王子のような白い鎧にマントの男は、燃えるような真っ赤な髪をした精悍な顔付きをしていた。イケメン……と思ったが、若干柄が悪そうに見えるのはなんだろうか?王子様、だよな?
対する山賊連中は、考えるまでもなく悪人だなって顔ばかりだった。いやー、悪役モブだな絶対。
『まあ、こやつらは恐らく中央で犯罪者となって逃げてきて山賊になった犯罪者だろうからな。それ相応の奴らであろう』
「見たとこそんな感じだな。じゃあ、ちょっと行ってくる。ヤバそうになったら、適当に乱入してくれ」
『まあ、素手でも大丈夫だろうが、最低限の用心はするのだぞ?』
「わかってるって。あと、試したい事もあるからな」
俺は、ダブル・ジョーカーの背中から、5メートルくらい下に向かって飛び降りた。強化されている安心感からか、全然怖くない。
「ハッハァー!追い詰めたぜ、王子様よぉ!」
「俺達を討伐に来たとか言っといて、連れてきた部下さん達は全滅だぜ!!」
「お前ら王族に王都を追われた借り、てめえをぶっ殺して返してやるぜぇ!」
「だが、お前達もだいぶ減ったぜ?残りは、俺が片付けてやるぜ!」
途中聞こえた言葉は、とても王子とは思えない言葉遣いだった。むしろ、チンピラっぽい。
剣を構えた王子と、それぞれに武器を構えて王子に襲い掛からんとする山賊。その真ん中に、俺は着地した。
「おいっしょーい!」
「な、なんだ!?」
「空から降ってきた?」
「よう。あんたが、王子様って事でいいんだよな?」
俺は、王子の方に顔を向けて聞いた。なんか見れば見るほど王子のイメージから離れていくので、なぜか敬語を使う気にもならない。
「ん?ああ。俺が、この国の第一王子、ロキヒノ・リードギルフだ!」
王子が、自分自身を指差してドヤ顔で名乗った。名前はロキヒノ・リードギルフというらしいが、なんつうか王家特有のエレガントさやロイヤルな空気感が1ミリもないな。
「お前は?」
「俺?別に王子様に覚えてもらわなくてもいいけど、遠野彼方。いや、カナタ・トオノか」
「カナタ、か。お前、今空から降ってきたか?んー、山賊の仲間じゃねえよな?」
「そうだ!! なんだ、てめえは!?」
山賊が問答無用で襲いかかってこないのは、一応警戒しているからか。何の前触れも無しに空から降ってくれば、正体を確かめたくなるのは人間の性だわな。
「通りすがりの正義の味方だ、覚えておけ。あ、やっぱ覚えてなくていいや」
ロキヒノはともかく、山賊に名前覚えられても嬉しくないしな。適当に流すに限る。
「なんだぁ、こいつ?」
「本当に通りすがりなのか?」
ロキヒノの問いに、俺はうなずいた。
「ああ。街道を歩いていたんだけど、ここの近くであんたの部下?みたいな人が倒れているのに遭遇してな。王子様を助けてって言われたから、とりあえず様子を見に来た」
「そうか。そいつは?」
「今、俺の知り合いが見てるけどあの様子じゃ、多分……」
「……そうか」
ロキヒノは、悲痛な表情をした。実際、部下を全滅させてしまったんだ。これでもし、部下の死を一切気にしない奴だったら見捨てて帰る所だった。
まあ、こんだけ痛みを感じているならいいだろう。
「それじゃ、助っ人に来てくれたってわけだな?」
「まあ、そんなとこ。間に合ってよかったよ」
「あははは!お前みたいなガキが一人増えただけで、何の助っ人になると思うんだ!」
俺達の会話を聞いていたのか、山賊が一斉に笑い出した。
ガキって……。一応、これでも俺二十歳超えてるからな!まあ、向こうにいる時から高校生、酷い時には中学生に間違えられていたから、仕方ない面はあるが。
「つか、お前なんも持ってないけど、武器は!?」
「んー。武器ってぇと、これかな?」
ロキヒノが聞いてくるので、俺は買ったばかりの魔札道具パスケースを取り出した。実は既に、見せる用のカードを一枚装填してある。
と、俺がパスケースを出すと、山賊連中が一斉に笑い出した。
「ギャハハハ!なんだその魔札道具は!?」
「最低グレードの魔札道具じゃねえか!」
「んなグレードで、武器になるかよ!!」
山賊連中は、好き勝手嘲笑してくれる。
よしよし。実験その2、この魔札道具を見せれば、初見の相手の油断は誘えそうだ。そういうのが命取りなんだぜ、チミ達?
「……よくわからねえけど、それはグレードが低い魔札道具なのか?」
ロキヒノが、少しだけ首をかしげて聞いてきた。
ああ、さすがは王子。最低グレードの魔札道具とか、見た事無いのか。むぅ、そういう立場の人間には効果無しか、油断誘おう作戦は。
「どうだろな?それより、ロキヒノの方は剣士?使うのは剣だけ?」
「ん?俺は、こいつだ」
ロキヒノは、左手で取り出したカードを、構えていた剣に差し込んだ。ああ、あの剣が魔札道具だったか。
「メシモノ発動!『フレア・ブレード』!」
魔法の発動と同時に、ロキヒノの剣が炎に包まれた。炎の剣か!
今のは、炎タイプのサモンドスレイヴに着けて攻撃力を上げる『フレア・ブレード』か。炎タイプのサモンドスレイヴは俺も真穂も使っていなかったので馴染みの薄いカードだけど、現実に現れるとカッコいいな炎の剣!
ただ、こんな森の中で炎の剣はどうなん?
「……山火事にならん?」
「『フレア・ブレード』の炎は、狙った対象物だけを焼き尽くす炎だぜ?燃え移ったりしねえさ」
「そうなんだ。やっぱ、魔法すげえな」
「んな事より、お前も用意しろカナタ!」
「ああ、わかってるよ」
俺は、少し笑って両手を重ねて前に出した。左手には、パスケース。そして、その下に重ねている右手には、既に出しておいたカードを一枚持っている。
山賊連中も、余裕かましてるのかさっさと襲ってこないのはバカだな。
「召し物発動!『ローリングバルカン・キャノン』!」
パスケースに隠して、俺は右手のカードを発動する。
俺が発動したカードは、召し物カード『ローリングバルカン・キャノン』。鉱石族のみに使える召し物で、自分のサモンドスレイヴの攻撃力を上げて同時にファイトする相手のサモンドスレイヴの攻撃力を下げる効果を持つカードだ。
カードを発動すると、どこからともなく銃身が五つもくっ付いた大きなガトリング砲が発生して、ゆっくりと降りてくる。まさに、カードのイラスト通りのガトリング砲だ。結構重いけど、ダブル・ジョーカーが強化しておいてくれたからか、扱うのも問題無い。
これなら、実験その3もコンプリートだな。
実験その3は、「決められた種族のカードを俺に使えばどうなるか?」だ。どうやら、俺は種族関係無しにカードを使えるみたいだな。その辺気にしなくていいのは、ありがたい。
「うお。なんか、デカいのが出たな!?」
「ああん!?なんだぁ、棍棒か?」
「ヒョロガキが、そんなデカいの使えるかよ!」
「逆にお前が振り回されるだけだっての!」
山賊連中は、ローリングバルカンを見てまた笑う。いや、お前ら何でも笑えばいいってもんでもないんだぞ?
それはそれとして、こいつら(とロキヒノ)は銃の事を知らないのか?まあ、一般的な銃の形とは程遠い形してるけど、ただ振り回す事しか思い付かないのはどうよ?もしかして、飛び道具系の武器は鉱石族に進化してしまうから、人間族には普及してないのかも。
「ハッ!わざわざ出てくるから何をするかと思って見てやってたが、もういいな!おい、お前ら!こいつらぶっ殺すぞ!」
先頭にいる、顔に「悪役モブ1」と書かれた男が、後ろの山賊連中に向かって吠えた。そこで初めて、そいつが山賊のリーダーだとわかった。
おいおい、もうちょっとリーダーシップ発揮しろや。顔の文字も「悪役モブ」から変化無いぞ。
「ヒャッハー!」
「八つ裂きだぁ!」
「殺す前に、あのガキ掘らせろ!!」
なんか気持ち悪い声が聞こえたが、とりあえずスルーで。
山賊連中は、世紀末戦争後世界のモブよろしく、襲いかかってきた。だったら、髪型もモヒカンとかにしとけや。モヒカンにする髪が無い?知らん、それは俺の……。
「くっ!カナタ!俺の背中、お前に預けるぜ!」
「あー。それは嬉しいんだけど、とりあえず俺の前に出ないでくれるか?」
前に出ようとするロキヒノを、俺が制する。
「え?なんでだ?」
「危ねえからさ」
そう言うと同時に、俺は引き金を引いた。ローリングバルカンの銃身が回転を始め、五つの銃口からパラララという音と共に光の銃弾が発射される。
ローリングバルカンと一緒に銃弾が出てこなかったから多分そうだろうとは思ったけど、やっぱりこの銃の銃弾は魔力で出来た魔力の弾丸のようだ。つまり、弾切れ無し!おまけに反動も無し!やっぱすげえな、魔法。
「うぎゃあ!」
「な、なんだ!?ぎゃあ!」
「いぎゃぁ!」
ローリングバルカンの銃弾の雨にわざわざ飛び込んできた山賊連中は、まともに直撃を受けていた。一応射線を下げておいたので当たるのは腰から下だったが、ローリングバルカンの威力が高すぎて足が千切れ飛んだり、腰から下が吹っ飛んだりしている。
まあ、ダブル・ジョーカーのおかげ?せい?で、俺は何とも思わず爆撃を続けるんだけどな。だいたい、殺そうとしてきたんだから、仕方ないよね!
「うぎぃあぁ……!」
「足が、足がぁ……」
山賊連中が、悶絶する。一応命はあるが、戦闘継続は無理だろう。
「ぎ、ぎざばいった……ぎゃあ!」
何かを言おうとした山賊のリーダーを、ロキヒノが炎の剣で突き刺した。と言うか、首をはねた。
「すげえな、カナタ!けど、息の根はしっかり止めとけ!」
「ロキヒノ?」
虫の息の山賊連中の首を、ロキヒノが次々と落としていく。
別にトドメまでは……とも思ったけど、よく考えたらロキヒノは部下を皆殺しにされてたんだった。それなら、報復されても仕方ないよね、モブ君達!
突然、ビュオォって感じの風の音が鳴った。
「!?」
次の瞬間、ローリングバルカンの銃身が断ち切れた。銃身が破壊されたからか、ローリングバルカン自体も手元から消滅した。
魔法で出来たローリングバルカンが破壊されるって事は、魔法攻撃か!?
「なかなか、強力な魔法を使うようじゃな」
倒れた山賊連中の奥に、黒いコートをまとった黒髪の男が立っていた。右手には、先に黒い水晶玉の付いた元祖!魔法の杖みたいな杖を持っている。
どうやら、モブじゃない奴がいたみたいだ。




