第61話話その2
『あ~。それにしても、お風呂上がりのトモヨちゃん、いい匂い~』
マホが、トモヨちゃんの頭に顔を埋めて、髪の匂いをくんかくんか嗅いでいた。
うーん、女同士だからこそ許される絵面だな。マホが女じゃなかったら、ロリに密着して匂いを嗅ぎまくる変態だぞ。
「あはは。くすぐったいですよ、マホさん」
くすぐったさに身をよじりつつ、でも嫌がらないトモヨちゃん。
うーむ、尊い。俺は、部屋の壁か観葉植物になるべきか。
『はぁ。お風呂上がり、いいよね。二階のお風呂って、どんな感じだったの?一階は、なんか温泉旅館みたいな感じの大きなお風呂で、四人で一緒に入ったんだ。あれは、凄く良かったよ~』
風呂の事を思い出して、赤面してその時の事を反芻している様子のマホ。つか、それ反芻してるの絶対に風呂の気持ちよさとかじゃないだろう……。
「マホさんが良かったのは、みなさんの裸ですよね?」
トモヨちゃんが、苦笑しながらツッコミを入れていた。まあ、誰でもそう思うよね?
『お風呂も良かったよ?まあ、お風呂は合法的に裸になれる場所だし、やっぱりねぇ』
デレッとした表情になる、マホ。
「お前……。暴走のあまりに手を出すなよ?」
「女の子に裸で迫られても一切手もつけられないヘタレよりは、よっぽどいいと思いますけどね~」
あ、矛先がこっちに向いてきた。
『確かにそうだよね~、彼方くん?』
「マホさんも、そうでしたね」
『ん?わたしもって?』
「あのですね……」
トモヨちゃんが、マホに何かを耳打ちしていた。まあ、十中八九さっきの風呂での事を話しているんだろうけど。
話を聞いたマホは、俺をジト目で睨み付けてきた。
『彼方くんさぁ。さすがに、女の子に恥をかかせ過ぎじゃない?トモヨちゃんだって、勇気を出して行ったのにさ。ねぇ?』
「ホントですよ、さめざめ……」
トモヨちゃんが、泣き真似をする。
いやまあ、恥をかかせてしまっているのはわかるんだけどさ。
『ああ、かわいそうなトモヨちゃん。もう、わたしとえっちする?』
マホが、トモヨちゃんを抱き締めて誘いをかける。
あれが成立したら、何になるんだろう?百合NTR?
「それも悪くないですけど、とりあえずはわたしがカナタさんを食べてからにして下さい。わたしの初めては、全てをカナタさんに捧げたいので♡」
トモヨちゃんが、微笑んでマホに答えた。
あ、あそこまで明快に言い切られると、正直に言えば光栄の極みで嬉しい。ただ、目の前で言われると、どう反応していいか困る。ちょっと、顔が熱い。
あと、やっぱり俺が食べられる側なのな。
『……うん、わかるよ。だから、彼方くん?さっさと、トモヨちゃんに食べられちゃってね?ふふ、彼方くんってば顔真っ赤』
「くすくす。カナタさんってば、ウブなんですから~」
二人にイジられて、俺は顔を背けるしかできなかった。
アカン、このタッグには俺では太刀打ちすらできないわ。
(ダブル・ジョーカー!あの二人を止める策を考え出して!)
(『すまないが、馬に蹴られたくないので君個人の恋愛事情にはノータッチでいかせてもらおう。我も、恨みは買いたくないしな』)
(相棒ー!)
ダブル・ジョーカーにまで、見捨てられたよ!孤立無援だよ!
『それじゃあ、明日ね?』
「はい、明日です」
マホとトモヨちゃんが、何かを企んだ様子で、ニヤリと笑い合っていた。
ああ、明日は乱入が二人になるのかな……?明日は、風呂場に鍵を掛けておくか。
(『確かあの風呂場、鍵は無かったぞ?』)
(……それも、トモヨちゃんの策略か!)
(『君に勝ちの目が全く無いな?ははは』)
(笑うな……)
なんて無力なんだ、俺。
「じゃあ、おやすみ」
「おやすみなさい、マホさん」
『うん、おやすみ~』
話を終えたので、俺とトモヨちゃんはマホの部屋を後にした。
二階の自分の部屋に帰ろうと階段を上がっていると、その途中に上から降りてきたメィムと出会った。
「ん?メィム?」
「あら、カナタとトモヨちゃん?一階にいたの?」
「ああ。ちょっとマホに話があってな。お前こそ、なんで上から?」
「カナタに話があって部屋に行ったんだけど、誰もいなかったから」
ああ、ちょうど入れ違いになっていたのか。
「なんだ、話って?」
「あ、うん。……えっと、昨日話したわよね?あたし達、これからもあんたについてくって考えてる話」
階段の途中で立ったまま、メィムは話を始めた。なので、俺も壁にもたれかかってその話を聞く事にする。
トモヨちゃんは付き合う必要は無いと思うんだけど、まあ一人でさっさと行くような子ではないわな。そっと俺の側に寄って、大人しく控えている。
どこまでも、理想の嫁!
「ああ、言ってたな」
「あの話、正式に話し合って決めたから。あたし達三人は、あんたの側についていくわ。どこまでも、ね?」
そこだけ聞くと三人も俺を!?って思っちゃうけど、リゥムとヒナギはともかくメィムは違うよな。こいつ、特に俺には興味無いらしいし。
「……『カゼタチイヌ』の事か」
まあ、そっちの件だろう。
「ええ。あいつがダークネス八武衆だって知った以上は、あいつを追いかけるにはあんたの側にいる事が一番だと思うのよ。あんたがダークネスと明確に敵対した以上、あいつもあんたを狙おうとするだろうし」
「まあ、そうだな。標的としては、十分なネームバリューを貰っちまったな」
「ええ。……それで、あんたにお願いがあるの。『カゼタチイヌ』との決着は、あたし達の手で着ける。だから、あんたはあいつを倒さないで」
メィムが、俺の目を見て訴えてくる。
自分達の手で、因縁の決着を着ける。その決意は固く、恐らく三人の総意だろう。何しろ、懸賞金稼ぎを生業にしてしまうほどの想いだし。
「あいつは、異様に強いぞ?」
「わかっているわ。それでも、あたし達の手で終わらせなきゃ、あたし達は前には進んでいけないし」
「……ふぅ。善処はするよ。ただ、命と引き換えとかそんな真似はさせないぞ?」
三人がヤバそうなら、俺は戦闘に介入する。特にこいつは、二人を生かす為なら自分を犠牲にしてしまいそうな気配がするからな。
「……さすがに、そこまで入れ込む気は無いわよ。三人一緒でなきゃ、ね」
メィムは、少しため息をついて肩の力を抜いた。
本当に、そう思っているのか?
「ま、そういう事なんで『カゼタチイヌ』に関してだけは、あたし達に任せて?ブラック達にも、そこんとこ伝えておいて。じゃ、おやすみカナタ、トモヨちゃん」
話を終えて、メィムが階段を降りていく。
「ああ、おやすみ」
「おやすみなさいです」
俺とトモヨちゃんも、二階へ上がる。
「本当によろしいのですか?なんだか、メィムさん自分を犠牲にしてでも倒しそうな気配を感じましたが……」
二階に到着すると、トモヨちゃんが言ってきた。メィムの気の入れよう、トモヨちゃんにも感じられたか。
「本懐は遂げさせてあげたい気はするけど、どうしようもない時は介入するよ。死なれるよりは、俺がトドメを刺して恨まれる方がいい」
親しい人の死なんて、もうたくさんだから。
「……わたしは、いつどんな時でもカナタさんの味方ですからね?」
トモヨちゃんが、そっと手を握ってきた。
「……ありがとう」
ああ、どこまでも寄り添ってくれるなぁ、トモヨちゃん。こんな子、俺には出来すぎな子だろう。
……せめて、あと六年待ちか。
「六年?ああ、十六歳ですか。でも、こちらの世界では十六歳という年齢には何も意味が無いのですが?」
トモヨちゃんが、苦笑しながらそんな事を言った。
心の声を読んだ!?と思ったけど、もしかして口に出てたのかな?
(『うむ。思いっきり口に出ていたな』)
そっかぁ。アホな俺。
「早く、こちらの世界の常識に馴染んで下さいね?そして、一刻も早く結ばれましょう!」
「だから、焦んないでって……」
毎日催促されんのかな、これ?
(『毎時レベルになるかもな』)
不吉な予言、やめて?
「じゃあ、おやすみ」
「はい、おやすみなさいませ」
さすがに、就寝は自分の部屋に帰るわな。よかった。
(『ところで、君は彼女の話をどこまで信じている?』)
「ん?トモヨちゃんの話か?」
ダブル・ジョーカーが、尋ねてきた。まあ、気持ちはわかる。
(『うむ。正直、胡散臭さの方が強くてな』)
「気持ちはわからないでもないけど、俺は一応は信じるかな」
(『あの話をか?』)
「ぶっちゃけた話、内容は荒唐無稽で現実離れしたおとぎ話にしか聞こえない内容だ。ただ、嘘をつくならもうちょっとマシな嘘をつくだろうよ。あのトモヨちゃんだぜ?あのトモヨちゃんが持ってきた時点で、まあ本当の事ではあるんだろ」
俺の正体も真穂の事も知っていたし、話している様子に嘘は感じられなかったからな。
(『逆に、君がそう考えると踏んであのような話をしたかもしれないぞ?』)
「んなもん疑い出したらキリねーわ」
(『……ん。それもそうだな』)
「それに、さ。やっぱり、信じたいじゃないか。あの子の想いってヤツを」
凄い勢いで好き好きオーラと言葉をぶつけてきてくれるからな、トモヨちゃん。手は出せないにしても、やっぱり嬉しいじゃん!
(『まあ、陰キャが掴んだまたとない機会だしな』)
そう!なんでかは知らないけど、今一生に一度レベルのモテ期が来てるんだよ!たまには、いい気分にも浸らせてくれ!
(『ふ。まあ、精々捨てられないように気を付けるのだな?』)
「まあ、頑張るよ」
しかし、アレとかアレとか男の情けない所散々見られてて、浮気にすら寛容そうなトモヨちゃんって、何をすれば幻滅するんだろう?正直、地雷が予想つかな過ぎて、逆になんか怖いな。
(『魚が嫌いとか、些細な事でキレそうな感じだろうかね?』)
魚は、骨が喉に刺さって四苦八苦してからは苦手なんだよ!
ただ、多分それすら知っているだろうし。
(『戦いから逃げる事すら、受け入れそうだしな。……うむ。あの様子では無制限に甘えさせてくれるだろう!存分に甘えさせてもらい、ママになってもらうといい!』)
あの子、十歳!俺の、半分!
寝よ。
そして、朝。
ベッドには、なぜかトモヨちゃんが一緒に寝ていた。




