第60話その2
「まあ、絆が一つって事で」
「はい。繋がりポイント1という感じでしょうか?」
トモヨちゃんは、にっこりと笑った。
「さて、わたしのお話はそんな所です。何か、まだ知りたい事はありますか?」
トモヨちゃんが、風呂の椅子に腰かけて尋ねてきた。とりあえず、ようやく裸体見せ付けは終了か。
「いや、とりあえずは無いよ?これで、君の想いを疑う必要は無くなったから、まあよかったよ」
「あ~、酷いです。わたしがカナタさんを好きだと言ったのは、嘘一つ無い曇りなき真実ですよ?」
「うん。信じるよ」
そういえば、まだ体を洗っていなかった。背中を洗ってもらっただけなので、他の場所もちゃんと洗っておくか。
なので、手元にあったタオルで洗い始める。
「ねえ、カナタさん?終わったら、わたしの体も洗ってくれませんか?」
洗っていると、なぜかそんな事をトモヨちゃんが言ってきた。
「え?自分で洗えば?」
「でも、カナタさんが使っているタオルは、わたしのタオルですし」
あ、このタオルってトモヨちゃんが背中を洗ってたタオルか。そういや、俺が使っているタオルは腰に巻いていたんだった。
「まあ、別にその腰のタオルを渡していただければ自分で洗いますけど?」
なんか、トモヨちゃんの視線が腰のタオルに集中しているのを感じる。
「……えっと、ボディスポンジとかは無いのかな?」
「わたしが、そんな物を用意させると思いますか?」
この風呂場、よく見たらボディスポンジはおろか、洗面器すら無かった。極力、体を隠せる物を排除したのか。
「……策士」
(『なんとしても見たい、見せたいという鉄の意思と鋼の強さを感じるな』)
「行動に、一本筋が通ってるね、君……」
「ロリっ子ですから♪」
「自分で言うんかい……」
仕方ないので、自分を適当に洗った後、彼女の背中も洗ってあげた。自分の局部とかは、見えないようにささっと。
「ありがとうございます♪」
「いいよ」
背中を洗った後、うなじ周辺と両腕も洗った。
「はい。後は、自分でやって?」
俺は、タオルをトモヨちゃんの手に渡した。と言うか、押し付けた。
「え~。前はやってくれないんですか~?」
「そこは、自分でして下さい」
トモヨちゃんに背中を向けて、俺は湯船の方に向かった。
「ちぇ~」
という、王女様らしからぬ声が聞こえて、自分で洗い始めた気配を感じる。なので、俺はそのまま湯船に浸かる。湯船にタオルは浸けられないし、早めに入っておかないと。
「ふぅー」
湯船に浸かると、なかなかいいお湯だった。
「ん。なかなかいい湯だな。特に今日は、走り回って疲れたしなぁ」
んーと、湯船の中で伸びをする。
まあ、走り回った疲れより、今トモヨちゃんの相手をしていた分の方が疲労感大きいんだけどさ。
(『彼女、下手な敵より手強いな?』)
(物理的反撃ができないからな。対抗手段が無さすぎるわ)
(『下手に暴力に訴えると、ご褒美になりかねんしな』)
(さすがに、そこまでは……)
無い、と信じたい。
「では、失礼します」
トモヨちゃんが、湯船に入ってきた。普通の旅館の温泉並みの広さのある湯船なのに、当然のように隣に座ってピトッと引っ付いてくる。
「お触り禁止ね、お互い」
「え~。と言うか、それを言う立場逆じゃないですか、普通?」
「でも、君は言わないでしょ?」
「はい。わたしは、お触りオールオッケー派ですから」
なぜか、凛々しい表情をしてトモヨちゃんが言った。ぎゅっと、両手をかわいく握ってもいる。
「だろうね」
「ホントにもう……。注文の多い旦那様です」
「俺、そんな無茶な注文してる?」
「裸のカナタさんを前にしてわたしに待てを指示するなんて、鬼畜の所業ですよ?」
「そこまでかい!」
結構、常識の範囲内でお願いしてるはずなんだけどなぁ。俺とトモヨちゃんでは、常識という物の認識に若干のズレがあるみたいだな……。
(『若干か?』)
……かなりのズレがあるみたいだ。
「……手は、握ってもいいですか?」
少し恥ずかしそうに、トモヨちゃんが頼んでくる。
あれだけ積極的に裸を晒していたのに、手を繋ぐ事を提案するには恥ずかしさを感じる物なの?とは思いつつ、俺は左隣にいるトモヨちゃんに左手を差し出した。
まあ、手を繋ぐくらいなら、ね。
トモヨちゃんは、嬉しそうに俺の手を握った。と、指と指を絡ませて握るこの手の繋ぎ方は、俗に言う恋人繋ぎってヤツか。
「うふ……、うふふ……」
手を繋ぐと、トモヨちゃんがいきなり笑い出した。
「?トモヨちゃん?」
「あはは。これは、この繋いでいる手は夢じゃないですよね?カナタさんは、夢の中じゃない。今現実にわたしの前にいるんですよね!?」
トモヨちゃんは、そこにある事実を確認して嬉しそうに笑っていた。
うー、ちょっとヤバい。そんな嬉しそうなトモヨちゃんを見ていて、胸がときめくと言うか、愛しさが湧いてくる。
い、いや!この感情は、自分を認めてくれた子に対する感謝的なヤツだ!きっと、そうに違いない!
「ん。俺は、ここにいるよ」
「はい!」
この子を泣かせないように、絶対に守ろう。俺は、そう心に決めるのだった。
「そういえば、これで繋がりポイント2ですね。どれだけポイントを貯めれば、最終目標に到達できるのでしょうか?」
「頑張れ、一億ポイント」
「一億は酷いです……」
その後は、特にたいした会話をせずにのんびりと暖まった。一応、今日散々戦って疲れている俺に気を使ってくれたみたいだ。
いや、もっと別の場面で使ってほしかったかな、その気の使い方。
「それじゃあ、出ようか?」
「のぼせちゃうのもあれですからね」
俺達は、風呂から上がる事にした。
湯船から出る時、トモヨちゃんがガン見してきたけど、速攻でタオルを巻いてガードしておいた。
「むぅ……。ちょっとくらい、サービスしてくれても……」
「いや、今までは一方的にサービスしてあげたでしょ?」
「う……、それはそうですが。……まあ、次はわたしがサービスする番でしたね?」
「いや、既に君はサービス過多な所あるよ?」
脱衣場に行って、体を拭いてスウェットに着替える。
「服は、こちらのかごに入れておけば明日メイドさんが洗濯してくれますよ?」
トモヨちゃんが、脱衣場にある大きなかごを指差して教えてくれた。そこは、洗濯物を入れるかごで、洗濯自体は通ってくるメイドさんがやってくれるらしい。
「ああ、そうなんだ。でも、俺はこれが一張羅でさ。あと、トモヨちゃんは早く服を着ようか?」
俺は、服の替えがスウェットしかないんだよね。マホが、それよりカードだ!って言うからそっち優先させたから。今から考えると、やっぱりもう少し服を持ってくるべきだった。
そして、トモヨちゃんはバスタオルで全身を拭いた後、なぜか服を着ずに裸のまま立ち尽くしていた。脱衣場のかごには着替え用のパジャマ?や下着が入っているようなので、着替えがないわけではなさそうなんだけど。
「……カナタさん。申し訳ありませんが、お願いを聞いていただけませんか?」
着替えもせず、トモヨちゃんが言ってきた。
正直、嫌な予感しかしないんだけど。
「……えっと、何?」
警戒しつつ聞くと、トモヨちゃんはかごの中の白いパンツを両手で広げて、こっちの方に見せてきた。
「服、着せて下さい」
「はぁ!?」
自身のパンツを持って、わけのわからない事を言ってくるトモヨちゃん。
やっと終わったという希望を与えられたと思ったら、実はまだ終わっていなかったという希望を奪われる絶望。その時人は最も美しい顔をするという、これがファンサービスってヤツなのかよ!!
「なんで!?」
「わたしは、王女様ですよ?カナタさんだって、アニメで見た事あるでしょう?王子様や王女様は、着替えもお付きの者に任せるのでできないというような事を」
ああ、確かにオーホホホ的な笑いをする高飛車お嬢様がそんな事をさせているようなアニメが、何かあった気がする。いや、オッサンだったかな?何かは、思い出せないけど。
でも、トモヨちゃんと言うかリードギルフ家は、わざわざそんな事をさせるような気がしないけどな。
「えぇ……。それ、ロキヒノとかもやってるの?」
「ロキヒノお兄様は、お付きの人がするのを待つだけの堪え性が無いですから」
「ああ、ロキヒノは……。それじゃあ、メイドさんに来てもらって……」
「こんな夜遅くに、呼び付けるつもりですか?」
一応敷地内にいるとはいえ、確かにこんな時間にわざわざ着替えの為にメイドさんを呼び付けるのは、迷惑だろう。
「じゃあ、マホ達を呼んで……」
「この状況を見せるんですか?」
全裸のトモヨちゃんと脱衣場にいる、風呂上がりの俺。
うん、変な想像しかされないな。婚約してるからとか、トモヨちゃんは成人してるからとか言った所で、聞く耳持たないだろう事は目に見えている。特に、メィム。
「メィムに命を狙われるだろうな……」
「ついでに、わたし泣きます♪」
なんて事を、嬉しそうにトモヨちゃんは言った。それ、俺に対する死刑宣告だから!
「はぁ……」
結局、俺が折れるしかどうしようもないわけで。
トモヨちゃんの差し出す、小さなパンツを受け取った。……俺、こんな事をする為にこの世界にやって来てたっけなぁ?
(『この世界では合法だ。安心するがいい』)
(お前な……。そうだ、ダブル・ジョーカー。俺目をつむっているから、お前が指示をしてくれないか?)
(『スイカ割りのようにか?』)
(そうそう)
「ちなみにカナタさん?ちゃんと目を開けて前を見ないと、膝蹴りとか飛んでいって危ないと思いますよ?」
そこへ飛んでくる、トモヨちゃんの指摘。おぅ、お見通しデスネー。
(『諦めたまえ。彼女の方が何枚も上手だ』)
俺の二十年は、少女の十年にすら及ばないのか……。
仕方ないから、意を決してトモヨちゃんの前にかがむ。いや、後ろから着せようかと思って後ろに回ったらしつこく振り返るんだもんよ。
「わたしの後ろに立つな、です♪」
超凄腕のスナイパーか!
「……右足上げて?」
俺が指示すると、素直に右足を上げてくれるので、足を通してパンツを履かせる。
(『将来の子供の世話の予行演習だと思えばいいのではないか?』)
(どっちかと言うと、介護している気分なんだが……)
パンツを履かせて、次にやけに大きめのパジャマの上を着させた。小さい彼女にはサイズ違いかと思えるようなでかパジャマで、袖で指まで隠れちゃってるよ。
萌え袖パジャマか……。
(『君の教育は、行き届いているな』)
(だから何もしてないって)
そして、パジャマのズボンは見当たらなかった。
「?パジャマの下は?」
「無いですよ。これが、完成形です」
両手を左右に広げて、トモヨちゃんがポーズを取った。
それはネグリジェとかではなく、単純にズボンを履いてないだけに見える。まあ、そういう事かな?
(『彼氏のシャツ状態であろうな』)
(萌えに理解ありすぎだろ)
(『オタクの理想の幼な妻だな』)
「えへへ……」
萌えを体現させて、にっこりと微笑むトモヨちゃん。
(『次は、裸エプロンか?』)
はぁ、頭痛いわ……。




