第6話その2
……何かが聞こえる。これは……。
「えーんえーん」
子供の泣き声?この声は、確か……。
「こんなの、嫌だよ……」
声は、泣きながらつぶやいている。この声は、小さい頃の真穂?
「だから、わたしが……!」
泣き声が、止まった。
「うーん」
朝。
寝覚めは、意外とすっきりしていた。何か夢を見たような気もするが、よく覚えてない。代わりに、ここが異世界だという事は、覚えているぞ。
異世界生活二日目。って感じかな。
「ダブル・ジョーカー。起きているか?」
(『おはよう、我がマスター。もういいのか?』)
俺が声をかけると、ダブル・ジョーカーがすぐに返事をしてきた。さすが、もう起きていたようだ。
「おはよう。自分でもビックリするくらい、いい目覚めだよ」
(『それは何よりだ。今日から我々の本格的始動になる。よろしく頼むぞ、マスター』)
「お前もな。気付いた事があれば、その都度教えてくれな?」
(『ああ』)
俺は、とりあえずスウェットを着替えた。昨日の服は、寝る前に掛けておいた『そよ風ドライヤー』のおかげか、なんとなくパリッとしている気がする。
食堂に行くと、マホ達四人も食事に下りてきていた。四人共昨日の服を着ているが、寝る時とか洗濯とかはどうしたんだろう?
『はうぅ~』
あと、マホが何かトリップしているのも気になる。
「おはよう」
「おはよう、トオノくん」
「おはようございます、トオノさん」
「おはよう、みんな。……マホ、どうした?」
俺が聞くと、三人が首を横に振った。
「なんか、昨日お風呂に入ってからずっとこんな状態で……」
「風呂?なんかあった?」
「特に何も。時間短縮の為にあたしとリゥム、ヒナギとマホで入っただけよ?なんかあった、ヒナギ?」
「いえ、特には……」
ヒナギは首を傾げていたが、それを聞いて俺は大体の事を察した。
昨日は、一応スメルだけで満足するつもりだったのに、一緒に風呂に入ったんじゃなぁ。百合の女王を突然のパラダイスに放り込んだら、こうもなるか。
ただまあ、ヒナギの反応を見る限り変態チックな目でガン見したり、過度なスキンシップをしたりは我慢したようだ。そこは偉いぞ、百合の女王!普通はそんな事は褒められる事でもないけど、よく頑張った!これからも、我慢しろよ?
「今日は、どういった感じに動く?」
「とりあえずここの役所のプロワ見に行って、そこで何も無ければナード町に向かおうかと思ってる」
「ナードって町ってどれくらい離れてるんだ?」
「歩いても、夜には着けると思うよ?」
「移動手段は?」
「馬車を使う事もできますが……」
「つっても急いでるわけでもないしね。あたしら的には、のんびり歩いて行こうかと思ったけど、カナタはどう?あんたは、急いでるんじゃないの?」
メィムからの呼び名が、呼び捨てと「あんた」に変わっていた。予想通り、パーソナルスペースの距離感近そうだ。まあ、こっちもやりやすくていいが。
「急ぐたって、急いで行く目的地が無いしな。だからまあ、徒歩に付き合うよ」
「そ。じゃあ、役所行って、そのまま町を出ましょう」
「あ、その前に」
俺は、メィムの提案に待ったをかけた。
「ん?何?」
「この町に魔札道具を買える所ってあるかな?マホの為に一つ欲しいんだ」
俺は無しでもいいけど、マホは魔札道具が無いと魔法使えないみたいだからな。やっぱり一つはいるだろう。魔札道具は、買えるそうだし。
「ああ。確か、あったわよね?」
「役所の近くにあったよ武道具店。品揃えまでは見てないけど」
武道具店!おお、ますますRPGっぽい!これぞ、異世界ー!
(『君らの世界でも、町中に武器を売っている店はあるだろう?日本刀の店だとか、猟銃などを売っている店だとか。そう、珍しくもなかろう』)
(まあ、アメリカとかではコンビニで銃とか売ってるんだろうけど。日本では、なかなかお目にかかれなかったからな)
(『さすがのアメリカでも、コンビニでは売っていないだろう。それは偏見だぞ』)
なんとなく、ダブル・ジョーカーの呆れた様子が伝わってくる。
『あ、おはよう彼方くん。いつ来たの?』
マホが、ようやくトリップ状態から戻ってきたようだ。そこそこ前にはいたんだがな。
「「「あはは……」」」
そんなマホに、三人も苦笑していた。
そういう事で、俺達はホテルを出ると役所へと向かった。役所の掲示板、プロワには色々な依頼の概要が張り出されている。その中にやりたい仕事があれば、職員に言って都合つけてもらうらしい。
依頼書は当然この世界の字で書かれているはずだが、ダブル・ジョーカーのおかげで俺にも読む事ができた。ただまあ、割に合うのかそうでないかの相場はよくわからない。
結局、ここにはメィム達の気に入る依頼は無かったらしい。
で、今度は側にあった武道具店に向かう。
「へー」
武道具店には、剣や盾などのお馴染みの武器から、ただカードを入れる為だけのパスケースのような魔札道具。更に、魔法を使う為の勅命や召し物、名の下にが並んでいた。なんか、店の半分くらいカードショップみたいになってるんだが。
「結構カードあるんだな」
「ん~?でも、見た所基本的な初歩カードしかない感じよ」
「初歩カード?」
「ちょっと火を出したり、ちょっと水を出したり、そういう生活に使うカードの事だよ。どちらかというと、生活必需品だから」
電気とかの無いこの世界だと、生活自体も魔法で成り立っているわけだ。
「あの、すみません。彼女に、魔札道具を買いたいので魔力量の測定を」
「はい、いらっしゃい。おや、天使様ですか。ここらじゃ珍しい」
ヒナギとマホが店主に声をかけ、店の奥に魔力量の測定に行った。
「魔力量を測定するのに意味はあるのか?」
「魔力量によって、使えるカード使えないカードあるからね」
「魔札道具にもグレードがあって、大きい魔力に見合わない魔札道具にすると、魔札道具の方が壊れちゃうから」
「つまり、魔札道具に魔力キャパシティがあって、キャパシティオーバーすると壊れるから自分の魔力を測っておく事で自分の適正値を見極めろ、と」
「まあ、そんなとこ」
魔フォーの場合発動コストが0になると何もできなくなるが、こっちでは魔札道具が壊れてしまう感じか。めんど。
「だったら、最初から一番グレードの高い魔札道具にしておけばいいだけじゃ?」
「簡単に言うけど、グレードの高い魔札道具って高いのよ?例えば、あそこの盾を見てみなさい。あれで高級魔札道具だと思うけど」
メィムが、壁に掛かっている大きな盾を指差した。カバと同じような、防具兼魔札道具か。と、その値札を見て俺は思わず吹いた。
「一千万ギルガメ!?」
その盾は、とんでもない値段が付いていた。
「魔札道具って、もしかして上を見るとキリがないのか?」
「そうよ。果てが無いのよ」
「うへぇ。あ、昨日の魔札道具鎧、持ってくれば高く売れた?」
金になるなら、今からでも取ってくるけど。
「あれは、竜サイズだからねぇ」
「人間領国では多分あまり高くないかと。魔竜領国ではわからないけど」
二人の言葉に、俺はうなずいた。人間では使えないサイズだし、使えるようにする為には加工が必要だからな。手間に見合わないかな。
「あと、本人の魔力が低すぎると逆に起動しない物もあるらしいしね」
「そっちは、燃料が足りない感じか?」
「だと思う」
「何事も、適正が一番って事よ」
身の丈に合わせろ、て事だな。
「さすがは、天使様」
測定に行ったマホが、ヒナギと戻ってきた。測定を担当した店主が、驚いているようだった。
「どうだったの、マホの魔力量?」
「マホちゃん凄いですよ!レベル12オーバーだそうです!」
ヒナギが、若干興奮ぎみに言った。あの子があれだけ興奮するって事は、レベル12というのはかなり高いんだろう。
「レベル12オーバー!?凄いわね!?」
「ウチではこれ以上上は測れませんので、あとは王都で測定してもらって下さい」
高いどころか、測れるレベル振り切っちゃったのか。
(『あやつは、色ボケぐうたらクイーンだが、聖天族の女王を勤めただけはあるからな。あやつのレベルを測定するのは、人間には無理であろう』)
(褒めてんのか貶してんのかわからんな……)
(『一応、褒めているぞ?』)
(一応って付けている時点で、褒めてないな……。カードの『ハーレム・クイーン・マホ』の召喚コストが20だったな。ダブル・ジョーカーが30だから、魔力量もそんな感じなのかな?)
(『カードのパラメーターとは違うが、まあ大雑把にはそういう認識でいいだろう』)
あ、ダブル・ジョーカー何気にドヤッてる。カードとしては、ダブル・ジョーカーの方が能力上だからかな。
「ですので、天使様には店内の魔札道具のあちらのグレード4以上の物を選んでいただけるとよろしいかと」
店主は、マホに使える魔札道具を勧めた。ニコニコなのは、高めの魔札道具を勧められるからか。つっても、予算には限りがあるからな?
そういう事で、マホは店内の魔札道具を見て回った。
『ん?これって?』
マホは、棚に置かれていた棒を持ち上げた。カードを入れるスロットがついているので魔札道具のようだが、刃物が付いていたりトリガーが付いていたりしない。本当に棒という感じで、リゥムの警棒に似ている。
『これって何ですか?』
「手元に付いているボタンを押してみて下さい」
『ボタン……?』
棒の手元には、ボタンが付いていたらしい。それをマホが押すと、棒の先から何かがぬるんと出てくる。
『わ。これって……』
「鞭の魔札道具です」
それは、鞭だった。
『うわぁ……』
鞭を見て、なぜかマホは目を輝かせていた。あれは……、あれか?女王様の本能か?
結局、マホはその鞭を買った。そこそこいい魔札道具だったようで、20000ギルガメというお値段だった。いきなり、予算半分飛んだよ。
ついでに、俺もパスケース型の魔札道具を買っておいた。こちらはグレード最低ランクのかなり安い魔札道具で、値段は10ギルガメ。
「使うの、それ?」
「んにゃ」
メィムの質問に、俺は首を横に振った。
「持っているか聞かれる事があれば、これ見せればいいかなって。ちょっとチラ見させとけば、わかる奴は雑魚だと思って油断を誘えるかもしれないし」
どれだけ効果があるのかはわからないけど、何かの役には立つだろ。立たなくても、10ギルガメならまあ、たいした出費じゃないし。
そんなわけで、俺達の準備も完了した。
「それじゃあ、行きましょうか?」
「俺とマホは道を知らないので、案内頼むな?」
「うん、任せて」
「がんばります」
「はぐれないでよ?」
『うん。がんばってついていくよ』
「それじゃあ、しゅっぱ~つ!」
メィムを先頭に、俺達は一路ナードの町を目指して出発した。




