第60話
酷かった……。
「何を嘆いているのですか、カナタさん?」
ああ、トモヨちゃん。
いや、前回の話だよ。あの話、一話丸々裸で過ごしたんだよ、俺とトモヨちゃん。
「ですね~。いや~、ずっと夢の中でしか見れなかったカナタさんの裸を生で見る事ができて、眼福でした」
ああ、生がどうこう言ってたのはそういう……。
「はい。正直、自分的には見慣れていると思っていたのですけど、やっぱり生で見るのは全然違いますね?格別でした!」
そ、そう……。
とりあえず、次の話に行こうかな?
「ちなみに、わたし達はまだ裸のままですよ?今度はカナタさん、どんな事をしてわたしを興奮させてくれるのでしょうか?楽しみです!」
何もしません。興奮するなら、一人で何とかして?
「一人でしろ、ですか。一人でする所を、見ていてくれるという事ですか?それはそれで、興奮するような……」
いやホント、勘弁して?君の相手をしていると、三回は打ちひしがれるよ……。
「こんな時代じゃ、一人で打ちひしがれますよね?」
キバって行くぜ!
「唐突ですね……」
──・──・──・──・──・──・──
「まあ、そんな感じでわたしはずっと、カナタさんを見てきたわけです」
お話は、まだ続いていた。
トモヨちゃんは、なぜかくるりとその場で一回転した後、また膝立ちに戻った。椅子に座る気は、特に無いのね?
この子、対等がどうとかの前に見られる事喜んでない?
(『恐らく、マスターに全部見られて内心興奮状態だと思うぞ?』)
(わざわざ一回転したのは、背中も見せたいって事かな?)
(『背中というか、尻だろう?』)
(せっかく言及避けたのに……)
「それで、出会った当初から好感度マックス状態だったんだね?」
出会って即プロポーズ!と来たもんだからなぁ。
「わたしからすれば、今までずっと見てきたドラマの主人公に直接会える!という状態でしたからね。こうやって、メチャクチャ触って、言葉を交わせるんです。もう、テンション上がりまくりですよ」
トモヨちゃんが、俺の胸に触ってきた。つーか、なんでそこをくりくりする?
「こねくり回さないで?」
「いいじゃないですかぁ。カナタさんは男の子なんですから。あ、あれでしたらわたしのもこねくり回しますか?わたしは、いつでもオッケーですよ?」
少しだけ、胸を反らせるトモヨちゃん。つっても、ねぇ……。
「あのね……。君が俺の生活をずっと見てきたのなら、俺にそういう趣味が無い事もわかってるよね?」
「……まあ、そうですね。どちらかと言えば、おっぱいの大きい人の方が好み。メイド服が趣味ど真ん中で、全体的に大人の女性をオカズにしてましたね。タイプ的には、わたしのお母様みたいな感じ……」
トモヨちゃんが、俺をジト目で睨んできた。
うん、実はミチヨさんはかなりタイプ。あと、今まで会った中だと、人間態のラナさんとか惹かれるよね。リゥムは、次点かな……。
「あ、あはは……」
まあ、哀れほど薄っぺらな子にそんな事は言えないから、俺は笑って誤魔化した。
「その割には、好きになったのは桜咲真穂さんなんですから、胸の大きさなんて何も関係無いじゃないですか」
トモヨちゃんが、ため息混じりに言った。
ム、さっきも言ってたけど、それは違うよ?
「あのね、トモヨちゃん?俺は、別に真穂の事が好きだったわけでは……」
「だから、そこが甘酸っぱいって言ってるんです。ホントに、素直じゃないんですから。自分の生活を捨ててまで違う世界に追いかけてきておいて、好きじゃないなんてそんな事あり得ませんよ?」
うぐ……。確かに、好きか嫌いかの二択を迫られれば好きの方を選ぶけど、今回の件はそれがメインじゃ無いんだよなぁ。
「あのね……。俺は、そんなつもりでこの世界に来たわけじゃないんだよ。……正直、あのままだと生きていける気がしなかったから……」
俺は、自分の右手を見下ろした。
自分を助ける為に真穂が死んで、笑って生きていけるほど俺は強くは無かったよ。何度か、本気で手首を切ろうかと思ったくらいだし。
俺がこの先生きていく為に、この世界に来たんだ。
「……あの時は、わたしも辛かったです」
トモヨちゃんの言葉に、俺は顔を上げた。彼女も、悲痛な表情をしている。
「桜咲真穂さんが事故で亡くなられて、カナタさんが本当に死ぬほど落ち込まれて……。それを、わたしはただ見ている事しかできなかった。そこにいるのに、目の前にいるのに!わたしには、抱き締め慰める事も、声を掛ける事すらできませんでした」
トモヨちゃんは、やっぱり画面の向こう側にいるただの観客だからね。それは、夢という舞台の性質上仕方ない事だ。
「こんなに好きなのに、肝心な時には何もできない……。今更ながら、どうしてわたしにこんな役割を与えたのか、この運命を課したどこかの誰かを恨みました」
「まあ、何もできないくらいなら、最初から何も知らなければよかったからね」
「はい。……ただ、そこに光明が差したんです。カナタさんの所に、ダブル・ジョーカーさんと『ハーレム・クイーン・マホ』さんが現れたんです。なんと、桜咲真穂さんがわたし達の世界に転生して、カナタさんまでこの世界に来るって言うじゃないですか!」
トモヨちゃんの表情が、一気に明るくなった。本当に、光明が差したかのように。
「桜咲真穂さんが亡くなられたというのに不謹慎ながら、わたしは胸が躍りました。カナタさんが、同じ世界にやって来る!夢じゃない、現実でカナタさんと触れ合える!それこそ、わたしの夢の実現です!」
「トモヨちゃん的には、ドラマの主人公がそのままテレビから這い出てくるかのようなのかもね?」
「はい!それで、わたしはその日から準備を始めました」
「準備?」
「わたしがカナタさんを物にする為には、どうしても自分が王女であるという事が邪魔でした。王女ですから、こちらの世界に戸籍も何も無いカナタさんとの結婚なんて許してもらえませんし、おいそれと駆け落ちができる環境でも無いですし」
あー、俺は戸籍すら無いもんな。はっ!俺、この世界じゃ就職もできないじゃん!
「そこで、思い出したのがバトル・ファイオーです。歴史を見る限り、今年が始まりの年だと予想できたので、これを利用する事にしました。カナタさんが、この国を救う救世主になるので、わたしが結婚すると予言を出して」
「それって、つまり……」
「口からデマカセです♪」
そういう事か。そりゃ、パーナさんは知らないわな。真っ赤な嘘じゃ……。
「それ、バトル・ファイオーが行われなかったり、俺が戦わなかったり活躍しなかったらどうするつもりだったのさ?そもそも、会えるかどうかも定かじゃないのに」
「バトル・ファイオーが行われなければ、カナタさんに恐れをなして行われなかったとすればいいですし、戦功なんて王族の特権で捏造すれば問題ありません。それが、権力ってものです。出会いに関しては、何も心配しませんでした。だって、わたし達は運命の赤い糸に結ばれている存在ですから。会えるに決まっています」
トモヨちゃんは、堂々と言い切った。……強いな、この子。レスバ最強っぽい。
「まあ、夢を見れば今どこにいるのかはだいたいわかりますから、どうしようもない時は逮捕しに行きましたし」
ああ、俺の行動って常に把握されているのか。
ただ、逮捕は酷くない?
「ですので、わたしが認める人以外の人との浮気は駄目ですよ?そんな事したら、浮気相手の所に踏み込みますから」
トモヨちゃん警察、怖すぎだろ。
「そんだけ信頼してくれているなら、えっちな事に関しても信頼して待ってくれたらいいんじゃないかな?その、俺の好みは知ってるんだしさ。そんな、焦らなくても」
どうしてか、えっちな事に関してだけはやたら前のめりなんだよな、この子。トモヨちゃん自身がえっちなだけって可能性もあるけど、なんか焦っているようにも見えるし。
(『君が、そういう教育をしたからであろう?クイーンも似たような感じであるし』)
(いや、一言の言葉も交わしていない子達を教育したって言われても……)
「それは、そうなのですが……。ただ、どうしても……」
「?何か理由でも?」
「……カナタさんは、この世界の人ではありませんから、万が一でも突然元の世界に戻ってしまう可能性があります……」
トモヨちゃんが、視線を逸らして言った。
確かに、俺はこの世界で生まれた存在じゃない。ある日突然、元の世界に強制送還されるなんて事があっても、不思議じゃない。
「それは……。無い、とは言い切れないかな」
「でしょう?それで、その事に関してダブル・ジョーカーさんがいい事を教えてくれたんです!」
「?ダブル・ジョーカー?」
トモヨちゃんに何か言った、ダブル・ジョーカー?
(『いや。そもそも、王女とは会話もしていないぞ?』)
(だよな?)
力比べまでは、トモヨちゃんはダブル・ジョーカーを直接見ていないはずだし。
「ダブル・ジョーカーが、何か言ってたっけ?」
「ダブル・ジョーカーさんは言っていました。縁が結ばれているから、次元を越える事もできていた、と」
縁?そういや、ダブル・ジョーカーが初めて俺の前に現れた時に、そんな事を言っていたような気がする。
「お二人の縁は、カードを通じた友情みたいな関係ですよね?それで次元を越えられる縁を結べるなら、直接肉体を繋げればもっともっと強い縁が結ばれるのではないかと思いまして。たとえ世界が別れても、またすぐに出会えるくらいの強い縁が」
「それは……」
どうなん、ダブル・ジョーカー?
(『うむ。まあ、直接的な肉体の接触ならば、より縁が強くなる事はあり得るだろうな。特に、君と王女は男と女だからな。直接繋がれるのは大きい』)
(そ、そうか……)
うーん、ダブル・ジョーカーに肯定されてしまったか。
「だから、安心が欲しいんですよ。カナタさんがいなくなる前に繋がれれば、きっと強い縁が結ばれたはずだ、と」
トモヨちゃんの言う事は、納得できてしまう内容だった。かと言って、「じゃあするか!」とはいかないわけで。
「あと、単純に興味もあります。カナタさんが見ていたビデオの人達は、何だか凄く気持ち良さそうでしたし」
「あー……」
やっぱりえっちだね、君……。
(『やはり、君の英才教育の賜物だな』)
(俺は無実だー!)
オラは、悪くない!悪くないずらー!
「……言っている事はわからないでもないんだけど、今の俺は酷く中途半端な存在になっているから、手を出す資格が無いと言うか、するべきじゃないと言うか……」
今の俺は、根なし草の状態だからな。誰かの人生を責任持って支えてあげられるかというと、難しいと思う。だいたい、戸籍すら無いから就職すらままならないし!
(『王女なら、喜んで戸籍を作ってくれると思うが?』)
(そして、配偶者に自分の名前を入れておくだろうな)
(『はは、違いない』)
「もう……。カナタさんは真面目と言うか、堅物ですねぇ。まあ、そういう女の子にはビクビクしちゃう所もとってもかわいいんですけど。DTってヤツですね~。ああ、わたしが女の子を教えて差し上げたいです」
十歳の子に、なんで上から言われているんだろう俺……。いや反論はできないんだけど、君だってそうなんじゃないの!?
「とは言え、本当にある日突然消えられては困ります。ですので……」
トモヨちゃんが、俺の首に手を回して抱き付いてきた。て、これって……。
「ん……」
トモヨちゃんが、キスをしてきた。逃げ、られなかった。
「ん!?」
と言うか、舌を入れてきたよこの子!?
「ん……、あ……」
「んん……」
さすがに、この状態で引き剥がすのはあまりにも空気読まな過ぎなので、俺はされるがままにするしかなかった。
「はぁ……♡」
トモヨちゃんは、顔を真っ赤にして満足そうに唇を離した。
「ト、トモヨちゃん……」
「うふふ。ごちそうさまでした♡」
扇情的な表情で、妖しく微笑むトモヨちゃん。その様子は、まるで大人の女性に見えた。
「とりあえず、一つ繋がりました。これ、わたしのファーストキスです。どうぞ、お納め下さい」
最初から、激しいなこの子は。その積極性は、ちょっと羨ましいかも。




