第59話
俺達は、王城から別宅へと移動した。とりあえず、マスコミ対策らしい。
そこで、トモヨちゃんが言った。「桜咲真穂」の名前を。彼女が知っているのは、ただ単に向こうの世界の事だけってわけではないみたいだ。
この謎は、俺が必ず解き明かす!じっちゃんの名にかけ……て、俺のじいさんはただのサラリーマンだったらしいんだが。
『そんな事より彼方くんさぁ?わたしの事は拒否してたのに、なんでトモヨちゃんとは一緒にお風呂に入ってくんずほぐれつしてるの?』
くんずもほぐれつもしてねえ!だいたい、中身を見れば、トモヨちゃんに乱入されたのはわかるだろ!?
『でも、トモヨちゃんの事は追い出さないし』
あの状況で、追い出せるわけないじゃん……。追い出そうとしたら、一体何をし始めるか、想像もつかんぞ?
『とりあえず、屋敷中に響き渡る悲鳴を上げそうね?』
だろ?
それはそれとして、お前なんかめっちゃ艶々してんな?
『あ、わかる~?いや~、一階のお風呂も大きくて時間も遅いしで、彼方くんがトモヨちゃんとちちくりあっている間にわたし達四人でお風呂に入ったんだ~♪』
ちちくりあってねえ!
もう本性バレてるだろうに、よく一緒に入ったな……。
『さすがに、仲間だし無茶な事はしないって信頼してくれてるんだと思うよ?わたしも、心のシャッターを切って心のメモリーカードに保存しただけだし』
秒速でシャッター切ってそうだな?
『一回で、32ギガが一杯になっちゃった』
シャッター切り過ぎ!
──・──・──・──・──・──・──
「はい。桜咲真穂さんです」
トモヨちゃんが、しっかりとした声でそう言った。
マホ・ブルームではなく、桜咲真穂。それは、聖天族のマホじゃなくて、向こうの世界で死んだ幼なじみの真穂の名前。
まさか、トモヨちゃんがその名前まで知っているなんて……!
「トモヨちゃん……。どうして、君がその名前を知って?」
「ん?……聞きたいですか?」
トモヨちゃんが、そんな事を聞いてくる。その声色は、多分いつもの小悪魔な表情をしている時の声だ。
「あ、当たり前だよ!?」
「そうですか。……じゃあ、わたしとえっちして下さい」
「はあ!?」
あーもうー、交換条件でまたわけのわからない事を言い出したよ!だから、何でもかんでもそこに絡めないでっての!
「……というのは、さすがに姑息ですね?あまりにも無理やりは、わたしも望む事ではありませんし。そういう事は、やっぱり双方合意の上での方が互いに幸せです」
あ、さすがにそこは思い直したか。そうだよ?無理やりは駄目、絶対。
「でしたら、わたしの方に顔を向けて下さい」
言い直した、トモヨちゃんの要求がこれ。
いや、でもそれはそれで問題が……。トモヨちゃんの方を見ろという事は、自動的に彼女の裸も目に入るというわけで。
「え、でもそれは……」
「お話をするなら、話す相手の方を向くのは当然の事ですよね?ソッポ向いたままでは、お話はできませんよ?」
確かに、それは正論だ。
「でも、そっちを向くという事は、必然的に、ね……?」
「見てくれなきゃ、何も話しません」
ああ、駄目だな。こりゃ、ちゃんと対面しないとガチで話してくれそうに無い。話さないまま風呂を出たら、一生話してくれなさそうな気もするし。
「そ、それじゃあこれ」
俺は、トモヨちゃんが落としたバスタオルを拾って後ろ手に渡した。それやるなら、やっぱりこれは必要で……。
けど、トモヨちゃんが受け取ったバスタオルが、ひょいっと捨てられるのが見えた。
「いりません」
バスタオルを巻く気も無しか、トモヨちゃん。
「……はぁ。どうしてそんなに見させようとするの?恥ずかしくないの?」
とりあえず、最後の抵抗を試みてみよう。
「別に、恥ずかしくないわけではないのですが……。一応、こちらにも事情がいくつかありまして……」
トモヨちゃんが、苦笑した感じの声で答えた。
事情?男に裸を無理に見させる事に、どんな事情が?とりあえず、トモヨちゃんが露出狂では無さそうな事だけは、ちょっと安心か。
「事情?どんな事情があるの?」
「それは、わたしの話を聞いてからにして下さい」
トモヨちゃんは、俺が彼女を見ない限り何も話さないつもりらしい。
はあ、降参だ。
「……わかったよ」
仕方ないので、俺は体を回して彼女の方に向いた。視線は上げ気味で顔を注視するけど、やっぱり視界の端に体は映ってしまっているわけで。
「これでいい?」
「はい、ありがとうございます。ちなみに、わたしの裸はどうでしょうか?」
「どうでしょうかと聞かれても……」
なぜか、トモヨちゃんが感想を求めてくる。
つっても、じっくり確認しなくても子供体型なのはわかるし、それをどう評価しろというのだろうか?
「ごめん。ちょっと、なんて言ったらいいかわからない」
「もう……。カナタさんは素直過ぎですよ?まあ、そこがまたいいんですが」
トモヨちゃんは、苦笑していた。ガキで、ごめんねー。
「さて。どこからお話しましょうか?」
「君は、桜咲真穂がどこの誰なのかは知っているんだよね?名前を知っているというだけじゃなく」
「はい。知っています」
「それはつまり、俺がどこの誰で、どこから来たのかも知っているという事?」
「はい」
トモヨちゃんは、俺の質問にしっかりとうなずいた。
「カナタ・トオノさん……、いえ遠野彼方さん。地球というエクディウムとは別の次元にある世界の、日本という国で生まれた二十歳の大学生さん。この世界には、サモンドスレイヴのマホさんとダブル・ジョーカーさんに連れられて、日本からこちらの世界へ異世界転生をした桜咲真穂さんを探す為に転移されて来られました」
トモヨちゃんが、微笑みながら答える。
彼女の言った事は、一言一句間違いの無い事実だった。俺の正体・経歴を、見事に把握している。
「……本当に、俺の事を知っているんだね?」
「何度も言っているじゃないですか?わたしは、カナタさんの事なら何でも知っていますよ、と」
「ああ……。婚約に際して、俺の経歴を調べる素振りすら無かったのは……」
「調べても無意味なのはわかっていますし、調べなくてもわたしが一番カナタさんの事を把握していますから」
胸に手を置いて、ドヤ顔をするトモヨちゃん。そういう仕草をされると、つい目がそっちに向いてしまうから、ちょっと勘弁して?
「どうして、君がそこまで知っているの?まさか、君も向こうの世界から転生してきたとか?」
「わたしは、この世界で生まれてこの世界で育った、この世界の住人ですよ。日本に行った事は無いですし、カナタさんと出会ったのも昨日が最初です」
「それじゃあ、一体どうして……」
「う~ん、そうですねぇ……」
トモヨちゃんは、なぜかお腹を押さえて考え込んでいた。
いや、だからそういう事されると目が向いちゃうんだって。今君は膝立ちだから、色々丸見えになるんだってばよ!
「なんか、お腹でも冷えた?湯船に浸かった方がいい?」
今の状況なら、湯船に浸かって話をした方が視線的にはいいかもしれない。
「え?いえ、そんな事はないですよ?」
「だって、そのお腹を押さえてる感じが……」
「ああ、これですか?……こうすると、視線誘導されちゃいますよね?」
トモヨちゃんが、ウィンクして言った。
確信犯か……!
「とりあえず、詳しい事を話す前にわたしの自分語りから始めていいですか?」
トモヨちゃんの自分語り?まあ、ここまで来たら彼女自体の事も知りたい事ではあるので、別に問題は無いな。
「隙あれば自分語りってヤツだね?まあ、別にいいよ」
「こちらの世界にネットは無いんですけどね~。それでは、コホン」
トモヨちゃんが、少し咳払いをする。
ところで、これから話を始めるなら彼女も椅子に座った方がいいのではないだろうか?ずっと膝立ちって、結構辛くない?
「椅子に座れば?ずっと膝立ちは、アレでしょ?」
「いえ、別に。こっちの方が、座っているより色々体が見えるでしょう?」
ああ、裸を見せ付けていたわけなのね?……ホント、何なんだこの子?
「とりあえず、わたしはギルフォードライ王国の国王であるユギカザ・リードギルフとミチヨ・リードギルフの間に、王族の第三子で長女として生まれました。一応王女扱いはされていますけど、権力的にはほとんど何も持たない、オマケのようなモノです」
トモヨちゃんが、話し出した。
自虐?かと思ったけど、この子はそんな性格では無いので、純粋な事実なのだろう。
「五歳でパーナさんに会って以降のパーナさん関係の話はしたので、今回は別の話をしますね?……わたしには多分生まれつきで、変わった事が起こっていました」
「?生まれつきという事は、パーナさんとは無関係?」
パーナさんは、五年前に出会った間柄だからな。
「恐らくは。……わたしは、物心ついた明確な記憶がある頃から今まで、ずっと一つの夢を見続けてきました」
「一つの夢?えっと、それは夜寝ている時に見る夢?」
「はい、そうです」
「ずっと見てるって、同じ夢を延々と?」
俺が尋ねると、トモヨちゃんは首を横に振った。
「いえ、夢の内容自体は変わっているのですが、夢が連続して続いていっているという事ですね」
「それって……」
「簡単に言えば、夢の中で連続ドラマがずっと続いているような感じです」
「なるほど……。夢って、起きたらすぐ忘れる事が多いけど……?」
「その夢は、全く消えません。まるで、わたしが実際に体験したかのように」
忘れない記憶、か。それは、確かに変わっている。ただ、それって……。
「記憶が消えないって、それは脳が寝ても休んでいないって事では?疲れていたりとか、そういうのは大丈夫なの?」
「はい。そこも不思議なのですけど、寝覚めはメチャクチャスッキリしています」
トモヨちゃんは、満面の笑みだった。……なら、いいんだけど。
「その夢は、非常に不思議な夢です。その夢は、一人の人間を主人公にしたストーリー仕立てで、わたしはその横に立って一緒にその人生を送っているような立ち位置になっていました。もちろん、夢の主人公はわたしの事には一切気付かないのですが」
「つまり、幽霊みたいな物?」
「その主人公の視点からすれば、そうですね。実際、わたしは所詮夢を見せられているだけなので、その人には手も触れられませんし声も届かないですから」
「観客みたいな物だね?」
観客というか、テレビの視聴者か。
「そうです。……夢自体は、それほど山あり谷ありの、血沸き肉踊るような劇的な物ではありません。自称平凡な主人公さんが、普通の日常を普通に送っていくだけの、普通の日常ドラマです」
「それだけ?」
「はい。主人公さんは普通に日常を送って、日々学校に行って、友達と笑い合ったり、バカな事をしたり、えっちなハプニングにドキドキしたり、かわいい女の子に目を奪われたりと、どこにでもいる男の子でした」
?その夢の主人公って、男か。
「主人公は、男子なんだ?」
「はい。……その男の子には、隣に住んでいる幼なじみの女の子がいました。本人は認めていないようでしたが、男の子はその女の子が好きだったみたいです。甘酸っぱいですよね、本当」
十歳の子に、甘酸っぱいと微笑ましく見られているぞ、夢の主人公くん?
「甘酸っぱいって……」
「本当に、自分の恋心を認められずに、幼なじみに素直になれない様子はいかにも青春という感じできゅんきゅんしちゃいますよ!」
トモヨちゃんが、両手を握って力説する。
俺はあまり読まないけど、少女マンガ的な展開なんだろうか?俺は、好きならちゃんと好きって言ってしまえばいいのに、と思うけどな。
「コホン。……まあ、相手の女の子も素直ではないタイプだったんですけどね?お似合いと言えばお似合いなのかもしれません」
なんか、トモヨちゃんの自分語りというより、夢ドラマのレヴュー欄みたいになってきたな。まあ、好きなだけ語らせるけど。
「でも、男の子が一番楽しんでいたのは、幼なじみの女の子と遊んでいる時でした。……特に、女の子と「カードゲーム」を遊んでいる時とか」
トモヨちゃんが、わざわざカードゲームという言葉を強調した?
「そのカードゲームって?」
「『魔王でFight!Oh Yeah』。通称、魔フォーです」
じっと俺の目を見つめて、トモヨちゃんがそう言った。
というか、それって……。
「……ここまで言えば、わかりますよね?その主人公とは、カナタさんの事です」




