第56話その2
「どうして今まで隠していたの?」
「隠していたと言いますか……、言う機会を無くしまして。その、わたしが伝えた予言の大部分がパーナさんが見た物でして。それをお父様に伝えたら、「わたしが」予言したと方々に言い始めて……。気付いた時には、パーナさんのおかげだと言えなくなってました」
トモヨちゃんが、苦笑いをしながら答えた。
彼女の予言も、パーナさんの能力だったのか!その予言をパーナさんの事を伝えずに話したら、トモヨちゃん自身が予言者扱いされて言えなくなってしまったわけか。
「ああ……。あの人、「ウチの娘は凄い!」って感じで吹聴しまくってたわね」
「はい……」
ミチヨさんは、ため息をついていた。そして、食堂に「ユギカザさんは親バカか」という空気が流れる。
「つまり、俺が救世主になるっていうのもパーナさんが見た予言なんだ?見たのは、今回の前哨戦の様子なんですか?」
俺は、パーナさんに聞いてみた。
正直、今回の戦いで俺は救世主的な活躍をしたような気はしないんだよな。結局、サトシも倒しきれずに逃げられたし。
なので、どんな場面を見たのかは純粋に気になる。
『さあ?』
ところが、なぜかパーナさんは首を横に振っていた。
え?見たんじゃないの?
「カナタさんが救世主になる予言は、パーナさんの予言じゃありません」
トモヨちゃんが、きっぱりと言った。なので、顔を彼女に向ける。
「え?それじゃあ……?」
「予言の大部分がパーナさんの予言だと言いましたよね?……カナタさんの予言に関しては、わたしの予言です」
微笑みながら、トモヨちゃんが答えた。俺が救世主になる予言は、パーナさんとは関係無くトモヨちゃんが予言した事らしい。
「え?そこは、トモヨちゃんが予言したの?」
「はい」
「それじゃあ、やっぱりトモヨちゃんにも未来を予知する能力があるって事?」
「カナタさんの事に関してだけですけど。あれでしたら、もう一つ予言しておきましょうか?わたしとカナタさんは、近い内に結婚します♡」
にっこり笑って、トモヨちゃんがそう予言した。
これ、予言か?
(『どちらかと言えば、願望ではないか?彼女、ずっと言っているではないか』)
(だよな……?)
「あらあら。これは、確実に起こる予言ね」
ミチヨさんが、楽しそうに言った。
と言うか、全員から微笑ましい視線をなぜか俺に向けられているんだけど?
(『子供の結婚願望なんて、微笑ましいではないか』)
(いや、微笑ましく見られてるの俺なんだけど?)
(『……結婚おめでとう』)
(ダブル・ジョーカーさん!?考えるの放棄しないで!?)
「ただ……」
ミチヨさんが、真剣な表情をして俺を見つめてきた。なんか、さっきとは空気が少し違う感じがする。
「カナタさん。一つ、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。何でしょうか?」
「私もユギカザさんも、あなたの事は信頼しています。トモヨがこれだけ懐いていますし、ロキヒノも助けてくれて、王都も救っていただきました。なので、あなたへの信頼は揺るぎ無いのですが……。その、一応ながらあなたの経歴を調べさせてはみたのですが、一切わからなかったのです。あなたは、どこで生まれた方なのでしょうか?」
ミチヨさんが、俺の目を真っ直ぐ見つめながら聞いてきた。
まあ、いくらトモヨちゃんやロキヒノが気にしていないと言っても、娘と結婚しようって相手を親が調べないわけないよな。で、どれだけ調べたって俺の経歴なんて出てくるはずもないわけで。
ミチヨさん、一気に核心突いてきたな。
その質問を聞いて、メィム・リゥム・ヒナギの三人が顔を見合わせていた。当然この三人も知らない事だし、そもそも今まで気にしてなかったんじゃないだろうか。
マホは、「ヤバい!」って顔をしている。こいつはまあ、俺の出自を知ってるしな。そのマホの治療をしているパーナさんは、なぜか顔を逸らしていた。パーナさんの態度は、どういう事だろう?
「そんなに重要ですか、お母様?」
ため息混じりに、トモヨちゃんがミチヨさんに聞いていた。
この子はこの子で、よくわからない。むしろ、君は気にならないの?
「別に、どこの高校を出たとかは興味無いのだけどね?ただ、結婚するならばやっぱりカナタさんのご家族にご挨拶は必要じゃない?できれば、仲良くしたいし」
ミチヨさんが、笑って答える。
ああ、両親ね。確かに、それは重要だ。でも、ウチの両親この世界にいないしなぁ。
(『今、王女を連れて向こうへ戻ったら、君の両親はどういう反応をするだろうな?』)
(十歳の子と婚約したって報告しろと?「旅の間に何やってたんだ!」って、怒られると思うぞ?)
(『ふむ。では、王女を連れて向こうへ戻る方法でも探してみるか』)
(面白がるな)
「ああ、そういう事ですか。でも、それは無理ですよ。カナタさんのご家族は、もう遠い所へ行かれてしまいましたから」
!?トモヨちゃんの言葉に、俺は思わず顔を上げた。
遠い所行ったって、死んだって言ってるんだよな!?いや、両親はまだ死んでないけど、なんでそんな事言ってるのトモヨちゃん?
「あ……。そ、そうなの?」
ミチヨさんが、困惑した表情になった。
(『まあ、天涯孤独の身だという事になれば、さすがに追及しないのではないか?』)
あ、俺に対する追及をかわす為のトモヨちゃんのデマカセか!
「ですよね、カナタさん?」
「あ……。うん、じゃなくてそうです。その、俺はもう天涯孤独の身で」
とりあえず、トモヨちゃんの助け船に乗っておこう。この世界では天涯孤独の身だというのは、嘘ではないしな。
「そうだったんですね……。ごめんなさい。辛い事、思い出させてしまいましたね?」
「いえ。気にしないで下さい。今は、信頼できる仲間もできたので大丈夫ですから」
一度だけ食堂にいる全員を見回して、俺はミチヨさんに答えた。
来たばかりの俺に親切にしてくれた連中もいるし、デッキの仲間達もいる。俺はまあこの世界で一人だけど、独りじゃない。
「トオノくん……」
「はい、トオノさん……」
リゥムとヒナギが、顔を真っ赤にしてうなずいていた。
いや、君達のその辺の感情は、ちょっと予想外なんだけどな。
「経歴が必要でしたら、王女と結婚とでも書いておいて下さい。それならば、十分に保証になるでしょう?」
「そうね。……いえ、私とユギカザさんの息子にしておくわ」
「なんですか、それは……」
なんだか、ジト目になっているトモヨちゃん。ジト目でもかわいいな!
(『しかし、彼女の言う遠い所というのはどこなのだろうな?』)
(ん?死んだって事じゃ?)
(『向こうの世界も、ある意味遠い所であろう?』)
(ああ、なるほどな……)
その問題があったな、そう言えば。とは言え、さすがにそれは軽々しく他人のいる前で聞けない事だし。二人っきりにならないと、な。
『はい、終了です』
パーナさんが、マホにそう言った。見ると、あれだけボロボロになっていたマホの翼の傷が塞がって、すっかり元に戻っている。
『うわ~!痛みがすっかり無くなっちゃった!ありがとう、パーナちゃん!』
『どういたしまして』
あれだけの傷を治してしまうなんて、あれは正真正銘の回復魔法だな。トモヨちゃんは自己治癒力を強化するだけとか言ってたけど、普通に回復じゃん。
(『召喚前では、どうしても発揮できる力に制限がかかるのだろう。なので、王女の中にいる時は自己治癒力の強化が限界だと』)
(そうなるのかな。ダブル・ジョーカーは、あんな事はできないのか?)
(『さすがに無理だ。あれは、大地に根差した植物系獣生族の中でもより高位の精霊にしか使えない物だ。我は、魔竜族だぞ?』)
(知識の番人にも、できない事はあるか)
(『知っている事とできる事は違うぞ』)
(そりゃそうか)
「凄いわね、パーナちゃん。今回は大勢の怪我人も出ただろうから、あなたのような力を持つ人がたくさんいればよかったのだけど」
ミチヨさんが、感心したように言っていた。
確かに、あの回復力は凄い。むしろ、戦闘中も一緒にいてほしいほどだ。
『すみません……。基本的に、私は一度に一人ずつしか回復できないので……』
申し訳なさそうに、パーナさんが謝る。さすがのパーナさんも、集まった怪我人を一斉に回復するとかいう芸当はできないらしい。
「ああ、ごめんなさい。パーナちゃんは、何も悪くないわ。パーナちゃんよりも、私達人間にももっと力があれば、と思っただけなのよ」
『……はい』
「あー、腹減ったー!そろそろ、メシにしようぜ?」
食堂に、ロキヒノとノオトくんがやって来た。装備を外して着替えてきたロキヒノは、なぜか甚平姿だった。
甚平もあるんか、この国。
(『騎士から侍、忍者までいるこの国で何を今更。タキシードからメイド服、甚平に浴衣まで何でも取り揃えているぞ?ちなみに、体操服はまだブルマらしい』)
(その情報、いる!?)
そういや、前哨戦の間に昼食時間過ぎていたな。
「……あれ?誰?」
ロキヒノが、パーナさんの存在に気付いたらしい。
『あ、初めまして。私、トモヨちゃんのサモンドスレイヴを務めさせていただいていますパーナ・ヨモグリーと申します』
パーナさんは、ロキヒノとノオトくんにも丁寧に挨拶する。
「お、そうなのか。俺は、トモヨの兄貴のロキヒノ・リードギルフだ。よろしくな!……あれ?」
挨拶を交わしてから、ロキヒノが動きを止めた。
「……えっと、誰のサモンドスレイヴだって?」
『はい、トモヨちゃんのサモンドスレイヴをさせていただいています』
パーナさんの言葉を飲み込むのに、ロキヒノは数秒かかった。
「ト、トモヨのサモンドスレイヴー!?」
ロキヒノが、叫んだ。
反応、おっそ!
「反応遅いです、お兄様」
「反応遅いわよ、ロキヒノ」
「反応遅いよ、兄さん」
全員から、総ツッコミを受けるロキヒノだった。




