第56話
長いような短いような、前哨戦一回戦が終わった。
「では、次はわたしのターンですね?」
えー?結構、トモヨちゃんのターン多かったような気がするけど?こっからは、俺の方からトモヨちゃんに攻撃するターンだよ?
「やぁ~ん。どこにどんな攻撃をされちゃうのでしょうか?どきどき~」
そんな、思いっきり期待に満ちた目で見つめられても、多分君の期待する事はしないと思うよ?
「え~?わたしを全裸にして壁に磔にして、鞭で叩きながら「洗いざらい吐け!」って責めるんじゃないんですか?」
いや、どういう状況だよ!君、俺をなんだと思ってるんだよ!?
「それくらいしないと、わたしは肝心な事は話しませんよ?という事です」
うぅ……。確かに、手強そうなんだよなトモヨちゃん。虚実織り混ぜて話すの、めっちゃうまそうだし。
「それはもう……。あ、カナタさんの事が好きなのは、揺るぎ無い真実ですからね?」
……!
あ、ありがとう。
と、とにかくここからはちゃんとトモヨちゃんに色々しゃべってもらうからね?
「ここからが、わたしのステージだ!」
花道!オン・ステージ!……何言わせるねん。
──・──・──・──・──・──・──
「マホさん。背中、治療しますからこちらへ」
トモヨちゃんが、マホを王家専用食堂へと連れていった。
と言っても、彼女はなぜか俺の手を握ったまま放さなかったので、俺もついていくしかなかったし、マホにくっ付いてメィム・リゥム・ヒナギも一緒だし、何ならミチヨさんまでついてきたくらいだった。
「俺は、装備置いてくるわ」
「手伝うよ、兄さん」
ロキヒノは、剣や鎧・マントを置きに部屋に戻った。それを手伝う為に、ノオトくんもついていった。
彼、本当にロキヒノの事を好きなんだな。……きっと、兄として!
そういうわけで、食堂にやって来たのは俺とマホ達女子陣四人に、トモヨちゃん・ミチヨさんの親子二人。
「結構、広範囲ですね?これ、本当に大丈夫なのですか、マホさん?」
マホの翼をじっくりと観察して、トモヨちゃんが尋ねた。
『あはは……。ちょっと、痛いかも』
マホが、苦笑いをして答えた。
やっぱり、結構なダメージじゃん。その状態でミイナと空中戦を繰り広げていたんだから、無理しすぎだよ。
「これはもう、本格的な治療が必要ですね。仕方ありません」
そう言ってトモヨちゃんは、またドレスの中からカードを取り出した。彼女が取り出したカードを見て、俺とミチヨさん以外の四人が驚く。
『あれ!?トモヨちゃん、それってサモンドスレイヴカードなんじゃ?』
「はい、そうですよ?」
「え?じゃあ、トモヨちゃんって召喚士だったの!?」
「まあ……職業を聞かれたらそうなりますでしょうか」
メィムの質問に、トモヨちゃんがにっこり笑顔で答えた。
いや、君の職業欄は「王女」じゃね?
(『王女がサモンドスレイヴ召喚だと!?』)
あ、ダブル・ジョーカーも驚いている。
「トモヨちゃんが、召喚士だったなんて……」
「驚きました……」
「ふーむ。召喚するのなら、召喚口上をフルでよろしくね?」
俺が注文をつけると、トモヨちゃんはビクッとなって俺の方に顔を向けた。
「え?ここで、ですか?」
「そりゃ、召喚には口上が付き物でしょ?」
「そ、それはそうなんですが……」
この場での召喚口上には、トモヨちゃんは少し恥ずかしがっているようだった。
でも、君さっきの戦いの中ではしっかりフル口上を唱えて召喚してたよね?あの時は非常事態のある意味高揚していた状況だから、その時はやれたと?
「召喚口上ってあれ?カナタがサモンドスレイヴ召喚する時に言ってる、呪文みたいなあれ?」
「そう、それ。まあ、召喚士の決め台詞みたいなもんだな」
「あれって、必ず必要なんじゃないの?トモヨちゃん、あんまり乗り気じゃないみたいだけど?」
「ああ。あれは、無ければ無いで構わないっちゃ構わない物ではあるんだよ。メィムは、俺が今日桃浦とブラックを口上無しで召喚したのは見てなかったか?」
リゥムとヒナギはトモヨちゃんと一緒になって王城に避難していたから知らないだろうけど、メィムはあの時一緒にいたから見てたと思ったけどな。
「あ!そうだ!そうか、あれ絶対に必要なわけじゃないんだ」
俺が言うと、メィムも思い出したらしい。
「え?それじゃあ、どうして必要の無いその口上を唱えるの、トオノくん?」
「そりゃもちろん、その方がカッコいいから!」
拳を握って、俺は力説した。
ただ「出ろ!」だけ言って召喚するのみじゃ、やっぱり味気ないじゃないか。長い口上を唱えて降臨、満を持して!って感じで呼び出した方が、こっちのテンションもモチベも上がるってもんじゃん!
(『わかる。わかるぞ、マスター!』)
(わかってくれるか、ダブル・ジョーカー!)
(『呼ばれる方も、やはりここぞという盛り上がる場面で呼ばれれば、気合いが入ろうというものだ!合体ロボが、合体の掛け声無しで淡々と合体するなど、絶対にあってはならない事態だ!』)
(同志よ!)
(『マスター!』)
心の中で、俺とダブル・ジョーカーは抱き合った。やっぱり、お前は最高の相棒だ!
「「「「「『あ~』」」」」」
食堂内には、何とも言えない微妙な空気が流れていた。ミチヨさんまで、「あ、察し」みたいな感じで苦笑してるし!
やっぱり、男のロマンは男にしか理解できないか……。
『ダブル・ジョーカーまで、一緒になっちゃって……』
マホが、小声でつぶやいていた。あいつには、ダブル・ジョーカーの声だけは聞こえるんだっけか。
「でも、口上をビシッと決めてサモンドスレイヴを召喚するトオノさんはカッコいいですよ」
ヒナギが、空気を読んでフォローを入れてくれた。
「あはは……。お世辞でも嬉しいよ、ヒナギ」
「別に、お世辞では……」
「これからは、お前の前だけで口上唱えるよ」
「え?それは……」
これからはもう、君の為に生きるよヒナギ!
「カナタさん!」
なんか、俺の前にトモヨちゃんが顔を出してきた。
「わたしの口上、しっかり見ていて下さいね?」
なぜか、トモヨちゃんはさっきとはうって変わってやる気満々になっていた。さっきの嫌そうな空気、どこ行った?
「花に太陽!生命を育む、自然の力!自由と平和を守る為、その恵みと共に、我に力を与えたまえ!サモンドスレイヴサモン!咲き誇れ!『サクラン・ミストレス』!!」
チョーカーにカードを組み込んで、トモヨちゃんが口上を唱える。しっかり叫んでいるばかりか、右手を高く掲げて完全召喚やる気モードだ。
トモヨちゃんの作った魔法陣から、『サクラン・ミストレス』が召喚された。
『おぉ~。本当に召喚した……』
「……人?」
「でも、枝が生えてる?」
「獣生族さん?」
(『本当に、彼女が召喚士だったか……』)
呼び出された『サクラン・ミストレス』は、ゆっくりと目を開いた。
『来たよ、トモヨちゃん』
「休む間もなく呼び出してごめんなさい、パーナさん。パーナさんをみなさんに紹介したいのと、あとマホさんを治療してほしくて」
『ん。ああ、なるほど。結構な傷ですね。うん。わかったよ、トモヨちゃん』
トモヨちゃんに言われて、『サクラン・ミストレス』はマホの方を見て理解したらしい。それから、食堂に集まっている人間を見回す。
『えっと、みなさん初めまして。私、トモヨちゃんのサモンドスレイヴを務めさせていただいています、『サクラン・ミストレス』のパーナ・ヨモグリーと申します。どうぞ、パーナとお呼び下さい』
その『サクラン・ミストレス』こと、パーナ・ヨモグリーさんが挨拶をしてきた。なんかマスターのトモヨちゃんに合わせたのか、サモンドスレイヴとは思えない礼儀正しい人というか獣生族のサモンドスレイヴだ。
桃浦やサトシにも、見習わせたいな。
ふっと、パーナさんが俺の方に顔を向けた。すると、パーナさんがにこっと笑って会釈をしてくれた。
なんか、桜の木の精霊だとわかっているのに、見た目が女子高生みたいな若い女の子に見えるのでちょっとドキッとするな。
「あ、えっと。俺は……」
顔を向けられたので、俺は自己紹介をしようとした。
『あ。トモヨちゃんを通じてみなさんの事は把握させていただいています。カナタ・トオノさん。マホ・ブルームさん。メィム・ウィステリアさん。リゥム・ウィステリアさん。ヒナギ・エンリさん。そして、トモヨちゃんのお母さんのミチヨさん』
パーナさんは、一人一人に顔を向けながら丁寧に名前を呼んでいった。
なんか、ついパーナ「さん」とさん付けで呼んでしまう、そんな雰囲気のある人だなぁ。まあ、人じゃないけど。
『こんにちは、はじめまして~』
「はじめまして」
「はじめまして、よろしくお願いします~」
「はじめまして、パーナさん」
「あなたは、ずっとトモヨと一緒にいてくれたのかしら?」
『はい』
「いつから?」
ミチヨさんが聞くと、パーナさんはトモヨちゃんに視線を向けた。それを受けて、トモヨちゃんがうなずく。
「そこの所はわたしが答えますから、パーナさんはマホさんの治療に取り掛かってもらっていいですか?」
『うん、わかった。それでは、あとの事はトモヨちゃんに聞いて下さい。……マホさん。少し、翼を広げていただけますか?』
『はい』
パーナさんに言われて、マホは翼を広げた。その翼に、パーナさんは両手をかざす。
『……『ライス・ヒーリング』』
パーナさんの全身が、淡く光り輝いた。そして、その光がマホの傷口に降り注いでいる。
あれ?この光って……。
(『王女の治療魔法と同じ物だな。大地の魔力を吸い上げて、癒しの魔法に変換している。同じ物というか、このサモンドスレイヴがやっていた事なのだろう』)
「それじゃあ、トモヨちゃん?君の治療魔法って……?」
「はい。パーナさんにわたしの体を通して使ってもらっていました」
俺の質問に、トモヨちゃんはうなずいて答えた。
なるほど、治療魔法が実際に使えるのはパーナさんで、その力をトモヨちゃんを通して外界に影響を与えられるようにしていたのか。
「そういう事だったのね。それで、トモヨ?あなた、一体いつからパーナちゃんと?」
ミチヨさんは、パーナ「ちゃん」呼びだった。
「お父様がまだ戻ってませんが、話してもいいのでしょうか?」
「あの人には私から説明するから大丈夫よ」
「そうですか。……わたしがパーナさんに出会ったのは、五歳の誕生日です」
トモヨちゃんが、小さく微笑んで言った。彼女は今十歳だから、五年前って事か。
「五歳の誕生日?それって、確か……」
「はい。わたしが、このチョーカーを受け取った時です。パーナさんは、このチョーカーの中にいたんです」
あのチョーカーは王家の秘宝だとかで、トモヨちゃんの五歳の誕生日に彼女に渡されて、そしてその中にパーナさんがいたと言う。
これはあれか、チョーカーに封印されていたとかか?
「パーナちゃんがチョーカーの中に?つまり、チョーカーの中にカードが装填されていたという事なのね?」
「はい。いつからそこにいたのかはパーナさんも定かではないそうですけど、わたしがこのチョーカーを着けたら出てきてくれたんです」
「そうなのね……」
「はい。それで、パーナさんはわたしと一体化してくれて、わたしを守ってくれているんです」
パーナさんとトモヨちゃんが、一体化……。
(『どうやら、我とマスターのような関係になっているようだな』)
(やっぱ、そうなのか?)
(『恐らくはな』)
「治療魔法を使ってわたし達を助けてくれていたのも、実はパーナさんです。わたしは、体を貸していただけです」
『いや、トモヨちゃんがいてくれないと私は魔法を外に出せないから、そこはトモヨちゃんの力だよ?』
パーナさんが、トモヨちゃんをフォローする。
今更ながら、あの治療魔法の『ライス・ヒーリング』ってどういう意味なんだろう?ダブル・ジョーカーは、なんかわかる?
(『さあな。ライスと言っているのだから、米でも好きなんだろう』)
(やっぱ、ライスって米の事なんかな?)
なんで米なの?




