第55話その2
「おおー!」
そして、集まっている兵士や市民達から感嘆の声と拍手が起きる。
跳ね橋が降りて、王城の正面入り口が完全に開いた。そこには、ユギカザさんやミチヨさん、評議会のメンバー達が揃っていた。どうも、わざわざ俺達の出迎えに出て来てくれたみたいだ。
「おお!王様だ!」
「王様素敵ー!」
「ミチヨ様!」
ユギカザさんやミチヨさんにも、声援が飛んでいた。
なんか、ここの王家やけに人気あるなぁ。まあ、日本でも天皇とかには黄色い声が飛ぶ事はあったか。ただ、畏れ多いとかは感じないのかな、ユギカザさん達には?
「カナタ!ロキヒノ!それから他の者も、よく戻った!」
「あ、はい。只今戻りました」
ユギカザさんが、俺をハグしてきた。ただ、トモヨちゃんが全く俺から離れる様子が見られなかったので、俺とユギカザさんのハグの間にトモヨちゃんが挟まるという奇妙な体勢になっていたけど。
「ああ!王女様になりたい!」
そんな声も、いくつか飛んでいた。
「一体は勇者のサモンドスレイヴとして、他の四体は全てカナタのサモンドスレイヴか?」
近付いてくるロキヒノ達とは違って、ダブル・ジョーカーを筆頭にサモンドスレイヴ四人とストッパーは一ヶ所に固まって動かなかった。サモンドスレイヴだし、魔竜族や魔王族も混じっているので、遠慮しているのだろうか?
「はい。俺の、頼もしい仲間です」
「ふむ。四体も召喚できるとか、本当にお前は凄いなカナタ!」
そして、ユギカザさんにも背中を叩かれるのだった。何とかしてよ、この親子……。
「……そういえば、君のサモンドスレイヴは?トモヨちゃん?」
俺が尋ねると、トモヨちゃんがぎょっとした顔をした。お、珍しく彼女の意表を突けたかな?トモヨちゃんから、一本取ったぞー!
周りを見る限り、『サクラン・ミストレス』の姿が無いんだよな。
「え?カナタさん、知っているのですか!?」
「俺の情報網を舐めてもらっちゃあ、困るな?知ってるよ?あれ、『サクラン・ミストレス』だよね?」
「あ、はい。わたしの大切なサモンドスレイヴさん、パーナさんです。とりあえずは、カードに戻っていただきました」
トモヨちゃんは、ドレスの胸元から『サクラン・ミストレス』のカードを取り出した。戦闘が終了したから、今はカードに戻したのか。まあ、獣生族だしな。
種族の数が無いから仕方ないとはいえ、植物の精霊で獣生族だというのは違和感だな。
あと、君ドレスのどこにカード入れてるの?なんで胸元に手を突っ込んで、そこからカードを取り出してるの?
「その人の事は、話してくれるのかな?」
「それは、もちろん。ただ、それは静かな場所で」
トモヨちゃんが、周りを見ながら愛想笑いをした。まあ、こんな往来で話す事でもないかな。
俺の視界の隅に、すっかり意気消沈している勇者の姿が見えた。育ての親を失い、友達を捕らえられ、トモヨちゃんに叱責されたダメージは、まだ抜けきれていないらしい。
そんな勇者に追い討ちをかけるのは忍びないんだけど、あのままにしておくのもよろしくはないだろう。
「ちょっと、トモヨちゃんごめん」
「あ、はい」
トモヨちゃんに離れてもらって、俺は勇者に近付いた。
「勇者」
「……何ですか、救世主?あなたも、私を笑いに来たんですか?」
勇者は、すっかり卑屈になっていた。
「……はぁ。トランド・ハークロ、だっけ?あんたの育ての親」
「?それが、どうしたと言うんですか?」
「……彼は、ダークネス八武衆の一人、闇のサトシって奴に殺されたよ」
俺が言うと、勇者は目を見開いた。
「は!?何を……、何を言っているのですか!?」
勇者は、俺の胸ぐらに掴みかかってきた。
「彼は、サトシの剣で真っ二つにされて殺された。あいつは、大勢の兵士を殺していて、あんたの育ての親も巻き込まれたんだ」
「嘘だ!そんな、そんな事があるはずがない!」
勇者が怒鳴るが、怒鳴られても俺には怒りは湧いてこなかった。ただただ、不憫さというか哀れみが浮かぶだけだ。
「嘘じゃない。……死体は、今も道端に転がったままだ。だから、迎えに行ってやれ」
オッサンは、上下真っ二つにされただけで原型は残っているからな。いつまでも晒し者にしているのもあれだし、勇者が迎えに行けばいいだろう。
「く……。どこだ?それは、どこなんだ!?」
「……ダブル・ジョーカー!ストッパー!ちょっと来てくれ!」
勇者の質問には答えず、俺は二人を呼んだ。それに応えて、二人が飛んでくる。
『どうした、マスター?』
「ダブル・ジョーカー。勇者を、さっき俺達が会った場所まで案内してやってくれないか?そこから少し離れた所に、勇者の育ての親の死体が転がっているんだ。ストッパーは、勇者を連れていってやってくれ」
俺が頼むと、ストッパーも驚いていた。ダブル・ジョーカーは、特に感情を見せず無表情だったけど。
『ふむ、わかった。行こうか、ストッパー?』
『わかった。アダル、掴まれ』
「あ、ああ……」
ストッパーの手に足を乗せて、肩に手を回して勇者がストッパーに乗った。なんか、あの態勢は背中に掴まっているよりもカッコいいな。
ダブル・ジョーカーの先導で、勇者がストッパーに乗って飛んでいく。
ま、助けられなかった分の返しは、これでいいだろう?
「カナタ。今のは本当か?」
勇者が行ってしまうと、ユギカザさんが聞いてきた。その横からトモヨちゃんが出てきて、速攻で抱き付いてくるのがちゃっかりしてる。
「はい。ダークネス八武衆の一人に殺されました。……王城から逃げた後に、俺とサトシが戦っている場所まで逃げてきて。出てくるのがあまりにも唐突で、助けられませんでした。すみません」
「そうか、トランドがな……。まあ、カナタが謝る必要は無い。それより、ダークネス八武衆?サトシってのは、カナタがダークネスと話していた奴の事だな?」
ユギカザさんは、オッサンの話題は早々に終わらせた。まあ、生きていても反逆罪で死刑になるのが妥当だろうしな。
「はい。ダークネス八武衆とは、ダークネスが召喚したサモンドスレイヴの事らしいです。今回、その内の四人が王都に攻め込んできていました」
俺の報告に、ユギカザさんとトモヨちゃんが驚いていた。
「まあ……!」
「ダークネスのサモンドスレイヴが四人!?つまり、奴もカナタと同じようにサモンドスレイヴを四体召喚できるのか!?」
「いいえ。残りの四人は鉱石領国を攻めていたらしいので、俺の倍の八体召喚できるようです」
「八体召喚!?」
「カナタを更に超えるか……。さすがはダークネス、と言った所か」
ダークネスは、もはや規格外という言葉では言い表せないほどの存在なんだろうな。それこそ、奴の存在こそ本来の意味でのチートだろう。あいつの能力、完全に反則だよ!
「カナタ!後で、詳しい話を聞かせてもらってもいいか?あと、お前もなトモヨ?」
ユギカザさんが、俺とトモヨちゃんを見回して言った。
あ、まだユギカザさん達には話してないんだ、『サクラン・ミストレス』の事。
「わかりました」
「はい。さっき言った通り、カナタさんと一緒なら話します」
どうやら、トモヨちゃんは俺と一緒じゃないと話さないという事をユギカザさんに答えたらしい。ユギカザさん、それで納得したのか……。
そんな事を話していると、ダブル・ジョーカーが戻ってきた。
『案内してきたぞ』
「お疲れさん、ダブル・ジョーカー。……オッサンは、見つかったか?」
『ああ、すぐに見つけた。勇者とストッパーが側にいる』
まあ、嘆きの声でも上げているんだろうな。まだV2ホッパーで監視する事はできるけど、そんな事まで出歯亀する理由は無い。
「そうか。余計な仕事させて悪かったな、ダブル・ジョーカー」
『別に。たいした手間でもないしな。気にするな』
「ん。ユギカザさん。ちょっと、サモンドスレイヴに声をかけてきますんで」
「ああ。俺も、話をしてこないとな」
俺は、ユギカザさんと別れてサモンドスレイヴ一同が集まっている場所に向かった。ユギカザさんは、兵士達の方へと歩いていってるけど、軍関係者と話すのかな?
そして、しっかり俺に引っ付いてついてくるトモヨちゃん。
「さて、ダブル・ジョーカー。桃浦、ブラック、フウマ。全員、この厳しい戦いを戦ってくれてありがとう。おかげで、前哨戦一回戦は勝利する事ができたよ」
『我は我の戦いをしただけだからな。礼は不要だ』
ダブル・ジョーカーは、ラビッツとの因縁があったから、そう言うのはしゃーねーわな。
『いやー、楽しい戦いだったぜ!俺を呼び出してくれて、こっちこそサンキューだぜ、マスター!』
桃浦は、満足そうないい笑顔だった。暴れられて、よかったな桃浦。
『ま、楽しい体験させてもらったよ。ホント、女の子を三人も引き連れていくのは楽しかったよ♪』
ブラックも、楽しそうだった。メィムにリゥム、ヒナギとの珍道中ではあったからな。楽しめたなら、幸いだ。
『隠密任務こそ、拙者の真骨頂でござる。また、呼んでほしいでござる』
任務をしっかりと完遂させて、フウマもちょっと誇らしげだった。あの頭巾の下の顔、もしかしてニッコニコだったりするんだろうか?
「うん。また、次の戦いも頼むな?」
『任せるといい』
『また、楽しい戦いに呼んでくれよな!』
『僕はむしろ、楽な場面で呼んでもらえると嬉しいかな?』
『お任せ下さい』
俺は、四人をカードに戻した。
それと同時に、使っていた別の魔法も順次カードになって手元に戻ってくる。俺の使っていた『アゴ・ストーム・セイバー』。ダブル・ジョーカーを対象に使った、『エクストリーム・ジョーカー・フルバースト』。マホへの、『砦をまもるよカーテン』。メィムの『ドリル・ソニック・ブーツ』に、リゥムへの『イージスの盾』。ヒナギに渡した『バンシューティング・ギャレン』に、フウマに使わせた『ミラーミラージュ』&『ライドルン・ロープ』。
今回は、計十二枚も使ったのか。結構、使ってたな。
「ずいぶん、たくさん使いましたね?これだけたくさん使ったのは、初めてじゃないですかカナタさん?」
俺の手元のカードを見て、そう言うトモヨちゃん。
また、そう言う事を確信を持って言うんだから……。
「……やれやれ。君は、何をどこまで知っているんだい?」
「言ったはずですよ?何でも、と」
小悪魔な笑顔を浮かべて、トモヨちゃんが微笑む。
「まったく……。その小悪魔な仮面を剥がせばいいのかな?」
「仮面だけですか?もしよろしければ、服もご一緒にどうぞ?」
「しないから……」
この子は、本当に……。
とにかく、俺達は王城の中へと入っていった。




