第6話
俺達は、ホテルに泊まる事になった。
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「あなた達って、あんな山の中で何をしていたの?」
ホテルの食堂で食事中、メィムが聞いてきた。それに対して、俺は少し思案する。異世界から来た事は、言わない方がいいかな?
(『額に手を当てて熱を測ってくるだろうな』)
(色んな種族がいて、魔法まであるこの世界でも異世界は信じられない系か?)
(『異世界渡りはさすがにな』)
(そうなっちゃうか)
マホを見ると、俺の方に顔を向けてうなずいている。うーんと、この表情は話は俺に任せるって事かな?
「ん。人を探してたんだ」
「人?」
「どんな人?」
「俺の幼なじみ。名前も顔も、そこにいるマホとそっくりな女の子」
俺は、マホを指差した。時間が経てば経つほど、似てるように感じられてくるな。
「その人も、マホさんと言うのですか?」
「そう。桜咲……真穂桜咲って言うんだ」
「探してるって、いなくなったの?」
「ああ。ある日突然いなくなってな。で、手当たり次第探す事に」
うん、嘘は言っていないぞ?
「手がかりはあるの?」
「いや、まったく」
「だから手当たり次第って事ね。大変ね」
「そんな忙しいのに、貴重な時間をわたし達の為に使わせてしまって申し訳ありません、トオノさん」
ヒナギが、表情を暗くして謝ってきた。
あー、この子丁寧で優しい子なんだろうけど、ちょっと物事をネガティブに捉える傾向のある子っぽいな。遠慮がちで控え目、何事にも一歩引いて接する、典型的な大人しいタイプの子か。悪い子ではないんだけどな。
「別に気にしないで?あの辺にはいなさそうだったし」
「はい……」
「何があったのかは知らないけど、あなたも大変そうね?こっちのマホも、そのマホって子を探して?」
『うん。わたし、彼方くんと真穂ちゃんに会ったのは十年前くらいで、それからずっと一緒だったからね』
俺が『ハーレム・クイーン・マホ』をデッキに入れてから、もう十年になるのか。真穂がダブル・ジョーカーのカードをデッキに入れたのも同じだったな。
(『そうだ。大体、それくらいになる』)
(あ。十周年記念カード化選挙の投票忘れてた)
(『諦めたまえ』)
(誰か、『ハーレム・クイーン・マホ』の水着カードに投票しといてくれないかなー?)
(『ここで我に言われてもな。隣に本人がいるのだから、着てもらえばよかろう』)
(うーん。カードになるのと本人が着るのとでは、微妙に何かが違う気がする)
しかし、そうか。本人、横にいるんだな。
変な感じだ。
「それじゃあ、二人はこれからもその子を探して領国内を旅するの?」
『うん。他の領国にいる事がわかれば、他の国にも行くし』
あ、そうか。真穂は改めて転生してるんだから、人間領国以外にいる可能性もあるのか。え?そうなるとどうやって探せばいいんだ?
(『その点に関しては、後で部屋に帰ってから話そう』」
(何か考えがあるのか?)
(『うむ。だから、部屋に帰ってからな。あまり我と話していても、ずっと沈黙した状態だから少女達に不審がられるぞ?』)
(なるほどな。配慮最高ー)
サムズアップだ、ダブル・ジョーカー。
『みんなは仕事終わったから、家に帰るの?』
「ええ。おかげさんで、今回は結構稼げたからね。一旦帰って少し家に入れときたいわ」
「一応、こことか途中の町のプロワ見て、帰り道で受けられる仕事があれば、受けていくけどね」
リゥムが、にっこり笑って言った。プロワ?
(『町の役所の掲示板の事だ。そこに、日雇いの労働や討伐してほしい案件。あと、それこそペット探しのような雑多な案件が掲示されているのだ。固定の仕事をしていない者が、そこで仕事を探す場所になっている』)
(ふーん。異世界テンプレのギルドとかは無いのか?)
(『この世界には無いな。そういうのは役所仕事だ』)
ギルドも無いのか、この世界。そりゃ、冒険者もいないわな。
(だから懸賞金も役所に貰いに行ったわけか)
(『いや、あれは懸賞金を懸けたのが役所だからだぞ……』)
何でも窓口が役所じゃないのか、ここは。
『三人は、なんて町に住んでいるの?』
「あたしらは三人とも同じ町の出身で、ナード町って所に住んでいるわ」
『ナード町……。行った事ないなぁ。彼方くん!』
マホが、俺に顔を向けた。その視線から、言いたい事はすぐにわかる。真穂も、おねだりする時はビックリするくらい顔に出てたな。
「まあ、俺らには今の所目的地はないからな。いいんじゃないか?」
俺は、肩をすくめて答えた。今の俺達は特に何も手がかりが無い状態だから、向かうべき場所が無い。まずは、適当にブラついてみよう。
『うん!ありがとう!ねえ、みんな。わたし達もついていっていいかな?みんなの町、一度見てみたい』
マホが、無邪気に提案する。
あれとそっくりな笑顔を振り撒いて、男も女も落として来たんだよな、真穂。色恋沙汰よりカードに夢中な、アレな奴だったけど。あいつだったら、男もなんなら女だってより取りみどりだったろうに。
「「「……!」」」
マホの笑顔に、向けられた三人も顔を赤くしていた。お、異世界人の女の子にも通じるのか、あの笑顔。
「ま、まあ。拒否する理由は無いし……」
「あはは。私達は大歓迎だよ」
「はい。一緒に行きましょう」
三人は、受け入れてくれた。こういう時、マホがいてくれるのはありがたい。俺一人じゃ、絶対相手にされてないわ。
「ただ、せっかく一緒に行くんだから……。働きに期待しちゃうわよ?」
メィムが、俺にウィンクをしてきた。ああ、懸賞金高いけど面倒そうな依頼とか受けそうだな、こいつ。
メィムは、ヒナギとは逆に元気で押しの強い、男女分け隔てなく接するタイプだな。典型的なリーダータイプで、実際三人組のリーダーやってるし。ただなぁ、男子としては一番勘違いしやすいタイプなんだよな、こういうの。今まで、何人の男子に勘違いさせ期待させて、粉砕玉砕大喝采させてきたのやら。
「だからって、無茶な依頼を選んじゃ駄目だよ?」
その点、リゥムは強引さも感じないし、かといってただただ後ろに下がるだけという感じもしない。まあまだあんまり話してないけど、一番普通の女の子って感じかな。平凡、なんては言ってはいけない。
最も、彼女にはそれらを吹き飛ばす、一番の特徴が……。
(『セクハラとか言われるぞ?』)
(心の中だけだから!外には出さないから、セーフ!)
まあ、何にしても明日の予定は決まった。明日は、ナード町とやらに向かおう。
「それで?さっきの話の続きだが」
部屋に戻ると、俺はダブル・ジョーカーに話しかけた。
「真穂を探すあて、何かあるのか?」
(『あてというほどの物でもないし、目的地を決めるのに役立つ事でもないがな』)
「と言うと?」
(『真穂嬢は、この世界に転生した。だが、新たに生まれ変わったわけだから、人間である保証は無い。我のように魔竜やクイーンのように聖天族である可能性もある』)
「まあ、そうなるわな」
人間である可能性は、七分の一か。果たして、どうなのか。
(『だが、魂のあり方は変わらない。我が、感覚的に生存を感じ取れるほどにな』)
「ふむ」
(『なので、もし我が真穂嬢の側に近寄れば、恐らくリンクがまた結ばれると思うのだよ』)
「なるほど。リンクが結ばれれば、お前にはわかるのか?」
(『無論だ』)
「つまり、ダブル・ジョーカーにあちこち回ってもらって、リンクが結ばれる相手を探してもらうってわけだな?」
ダブル・ジョーカーのリンク、それが俺達に残された唯一の希望か。
(『そうだ。もちろん、我と君は一つだからな。君に、世界を駆け回ってもらう事になる』)
「当然だな。かなり難しい条件だが、何をしていいか手がかりが無いよりは遥かにマシだ。ちなみに、今の所はリンクの接続は無いよな?」
(『あれば教えている』)
「だよなー。まあ、やる事が決まったからいいか。俺達のやる事は、世界中を回ってたくさんの人に会って、リンクが繋がるかどうか確認する事。……気が遠くなりそうな作業ではあるけどな」
この世界に人間って、どれくらいいるんだか?
(『まあ、それは仕方ないさ』)
「だな」
俺は、リュックからスウェットとパンツを取り出した。着替えとか言っている場合じゃないとは言われたが、一応スウェットと明日のパンツを一枚だけ入れては来たんだ。
「洗濯とかはどうするか……」
(『確か、勅命カードの中に『そよ風ドライヤー』とかいうカードがあったであろう?それで汚れを飛ばしておくといい』)
ダブル・ジョーカーに言われて、俺はリュックからカードを一枚探し出した。そのカードは、勅命カードの『そよ風ドライヤー』。相手サモンドスレイヴ一体を指定して、それに装備されている召し物の効果を1ターンだけ無効にする勅命だ。
なんでそんな使い方になるんだ、これ……。
(『あともう一つ。君にも、色々とプライベートがあって、常に我が見ていると都合が悪い事もあるであろう?』)
「む。どういう意味だよ?」
(『君も人間だからな。なので、ロックと宣言するといい。その間の君の行動は、我にも感知できなくなる。何か用があるなら、話しかければロックは解除される』)
「そうか。今まで意識しなかったけど、お前俺の中にいるんだから俺のやっている事や考えている事はお見通しだもんな。もうひとりの俺とか呼んだ方がいい?」
もしくは、俺がお前でお前が俺でーウィーアー!
(『名前で構わぬよ。我と君は別人格だしな』)
「それもそうか。ロック中はどうするんだ?」
(『寝ているさ。たまには、頭を休めないとな』)
「そうか、わかった。じゃあ、今日の所はお休みかな?」
(『そうだな。何かあれば呼ぶといい』)
「ああ、頼りにしてるぜ?お休み。ロック」
俺がロックを宣言すると、不思議な事に俺の中から何かが消えた感覚があった。ただ、ダブル・ジョーカーと繋がっている感覚は残っている。これが、リンクが繋がっているという感覚なんだろう。
「……こっちの世界に来てまだ二十四時間経ってないはずなのに、なんか疲れたな。今日は、風呂入って寝よう」
俺は、風呂に入ってベッドに横になると、あっさりと眠りに落ちた。いきなり非日常の世界に来ちゃったからなぁ。精神的にクルのは、仕方ないか。




