第53話その2
上空から降ってきた光の柱が、サトシを閉じ込めていた。
『くそ!時間切れか!まだだ、大将!まだ終わってねえ!ここから出せ!』
サトシは、空に向かって叫ぶ。その間、光の柱をバンバンと叩いているけど、光の柱はビクともしない。サトシの攻撃よりも強力なのか、あの光の柱。
と言うか、時間切れ?
“「ぴんぽんぱんぽーん」”
口でチャイムを鳴らして、空にダークネスが現れた。
“「前哨戦第一回戦、タイムアーップ!」”
ダークネスが、首に掛けていたホイッスルを鳴らして叫んだ。
前哨戦のタイムアップって事は、三時間経過したのか!ユギカザさんは、まだ無事だよな?って事は、とりあえずはこっちの勝利か!
よく見れば、王都のあちこちに光の柱が立っている。この光の柱は、ダークネス軍を強制送還させる為のゲートか。
“「前哨戦の結果発表ー。今回の前哨戦は、人間族鉱石族ともに生き残りましたー。みんな、よく頑張った!パチパチパチー!」”
ダークネスが、わざとらしく拍手をする。
なんか、その言い方はイラッと来るぜ。こっちは、生きるか死ぬかの瀬戸際の戦いを、お前に強いられているんだ!茶化すな!
“「それでは、前哨戦終了なので僕の軍隊は順次おうちに帰しますねー。ああ、ゲートには触れない方がいいですよ。僕の加護を受けてないと触れたら消し飛んじゃうからね」”
しれっと、そんな事を言うダークネス。だから、そういう事は先に言え!
『くそ!まだだ!まだ終わってねえんだよ、大将!こっからが、おもしれえんじゃねえか!』
サトシが、地面に剣を突き刺して強制送還に抵抗していた。
何なんだ、こいつ。ダークネスの強制送還にまで抵抗してるとか、どんだけバトルジャンキーだよ。
けど、こいつの相手なんてするくらいなら、ダークネス自体を倒した方が早い。あいつが、こっちに来れば倒してやるのによ!
“「今回も、なかなか面白かったよー。それじゃあ、今回の前哨戦は終了ー。次回開催が決定したらまた告知するから、告知放送は見逃さないでね♪それじゃあ、シーユー」”
ダークネスが、ウィンクをして背中を向けた。
くそ、今すぐぶっ飛ばしてえ!
「くそ、ダークネス!逃げ回ってないで、今すぐここに来て俺と戦え!この卑怯者!」
俺は、思わず空に向かって怒鳴った。まあ、怒鳴った所でどうせあいつには届いていないんだろうけどな。
背中を向けて歩いていこうとしたダークネスが、突然ピタリと止まった。
“「……ずいぶん偉そうな口を利くね、人間君?」”
ダークネスが振り返り、睨みを利かせてそんな事を言った。
それは、まるで俺の暴言に合わせたかのようなタイミング。それどころか、その睨みは俺に向けているとしか思えない。
「まさか、俺の声が聞こえている……?」
“「聞こえているに決まってるじゃないか。僕を誰だと思っているんだい?神の中の神、王の中の王、神王ダークネスだよ?」”
俺のつぶやきにも、的確に答えるダークネス。
こいつ、この広い王都の中の俺一人のつぶやきを聞き分けて答えているのか!?それも、リアルタイムで!
「てめえ!俺の声が聞こえてやがったのか!」
“「だから、僕を誰だと……おやぁ?おやおやおやぁ?」”
不愉快そうに答えたダークネスだったけど、急に画面一杯に顔をアップにしてきた。何かを見つけて、覗き込んでいる感じか?
“「あれれー。おっかしいぞー?何、ボロボロになってんのサトシくぅーん?あれー?もしかして君、負けちゃったのー?」”
何やら某眼鏡の小学生探偵のような事を言って、ダークネスがサトシを煽り出した。俺のすぐ側に血みどろのサトシがいる事に、今更気付いたらしい。
『うるせえ、大将!俺はまだ負けてねえ!こっからが本番なんだよ!だから、こっから出せや!救世主!お前との決着は、まだ着いてないぞ!』
ダークネス本人に対しても、口汚く噛みつくサトシ。
“「あれれー。人間相手にボロ負けだなんて、サトちゃんちょっとイケてないんじゃなーい?やーん、カッコ悪ーい」”
更に、サトシを煽るダークネス。なんて楽しそうに味方を煽るのか、こいつは……。
『やかましい!いいから出せ!救世主と、決着を着けさせろ!』
ダークネスに煽られて、サトシも更にヒートアップする。
もういいから、サトシとダークネスで決着着けてこいや。お前も意外に煽り耐性低かったんだな、サトシ。
“「救世主、ね……。ねえ、人間君?僕の部下のサトシ君をそこまでボコボコにしたのは、君かい?」”
「……だったらどうした?」
“「ふーん。つまり、サトシ君の『ベノム・マサラ』の鞘を壊したのも君かな?」”
「……ああ」
『だから、こっからが本番だっつってんだ!早く、俺をここから出せ!』
横から、サトシが喚いてくる。
つか、うるさい。今は、お前の相手をしている場合じゃないんだよ!
“「はいはい。ちょっとサトシ君は黙ってて。……人間君、君名前は?「きゅうせいしゅ」という名前じゃないよね?」”
“「人間世界の救世主、カナタだ!」”
突然、ユギカザさんの声が響いた。どうやら、マイクを使って答えたらしい。救世主云々の話を聞いて、ダークネスが俺と話している事に気付いたんだろう。
“「人間世界の救世主、カナタ君か。いいねえ。そんな楽しそうな人材がいたなんて、もっと真面目に見ていればよかったよ」”
ニヤリと、底意地の悪そうな笑顔を浮かべるダークネス。
「そんな事どうでもいいから、今すぐここに来て俺と戦え!バトル・ファイオーなんて茶番、今すぐ俺が終わらせてやるよ!」
“「ふむ……。どれだけ身の程知らずかと思ったけど、サトシ君をそこまでボロクソのゴミ雑巾にまでしちゃうなんて、意外に言うだけはあるみたいだね?」”
『誰がゴミ雑巾だ!』
息をするように、味方のはずのサトシをdisるダークネス。まあ、サトシも散々貶してたからおあいこかな。
「さっさと来いや、ダークネス!それとも、俺が怖いのか!?」
“「あはは。いいね、その挑発。とはいえ、こんな楽しそうな人材をすぐに始末しちゃうのはつまらないしなー。うーん」”
ダークネスは、両腕を組んで考え込み始めた。
いや、何を悩んでいるのか知らないけど、さっさと俺の前に出て来いっての!こんなつまらないバトル・ファイオーなんて、今日で俺が終わらせてやるわ!お前さえいなくなれば、バトル・ファイオーも終わるんだろ!?
“「うーん……。あ、そうだ!ねえ、サトシ君?君、カナタ君と決着を着けたいと思わないかい?」”
『あ?だから、さっきからここから出せって言ってるだろうが!すぐにでも、決着を着けてやるよ!』
“「うんうん、そうだねー。でも、今からは駄目ー。前哨戦の時間が終わっちゃったからね。あくまで、決着はバトル・ファイオーの試合時間中に着ける事。……それじゃあ、カナタ君?一つ、賭けをしよう?」”
いきなり、ダークネスが提案をしてきた。
「賭けだと?」
“「そう。カナタ君、これから先にもし君がサトシ君を試合時間中に倒せたら、僕が君の所に行って戦ってあげてもいいよ?しかも、その時には僕の部下達にも魔物達にも一切手を出させない。僕が一人で、君と戦う。おまけに君の方は、どれだけ仲間を連れてきてもいい。まあ、君程の戦闘力がないと意味は無いだろうけどね?どうだい?破格の条件じゃない?これだけの条件のいい賭け、滅多に無いよ?」”
ダークネスが、楽しそうに提案した。
つまり、サトシを生け贄にしてダークネスを召喚しろ、という事か?
「それ、次の試合からサトシが出てこなくなる、なんて事になるんじゃないだろうな?」
“「アハハ。そんな間抜けな事をするくらいなら、こんな提案はしていないよ?大丈夫、サトシ君には絶対に出撃してもらうさ。お腹壊してるとか言っても、無理やり送り出すから、そこは心配しないで?」”
『壊すか!』
サトシのツッコミを、ダークネスは聞く耳持たなかった。
「こいつがどこに出るかのスケジュールは?」
“「そこは、直前の抽選結果によるからねぇ……。そこは、頑張って当てて?」”
「頑張って当てろたって……。七か国中二か国を予想した上で、そのどっちに来るかを当てろって言うのか!?」
地図を見る限り、国から国の間を三時間では行き来できないみたいだからな。つまり、サトシが出てくる予想を外した場合、別の場所へ駆け付ける時間的余裕は無いという事になる。
“「頑張れー」”
ダークネスは、右手の親指を立てて爽やかな笑顔を浮かべた。なのに、言っている事は相当のムチャ振りだ。
「お前……、ムチャクチャじゃねえか!」
“「そこは、カナタ君の運命力に期待するよー。……でも、ただただ僕だけがサービスするのはさすがに不公平だと思わない?」”
「いや、こっちはお前の茶番に無理やり付き合わされてるんだから、こっちの方が遥かに不公平を被っているんだが?」
“「そこで、バトル・ファイオーのルールに一つ項目を追加させてもらうよ?」”
ダークネスの奴、俺の言う事無視しやがった!
“「もし、救世主カナタ君が死んだら、エクディウム全生物の負けとみなして、今いる種族全部を絶滅させる事にするね」”
ニヤニヤ笑顔で、ダークネスがとんでもない事を言い出した。
「はぁ!?なんで、俺の生死にこの世界の生物全ての命の命運を賭けさせるんだよ!?」
“「ギャンブルは、やっぱりハイリスクハイリターンでしょ!美味しいリターンがもらえるなら、それ相応のリスクは背負わなきゃ。僕を倒す事ができれば、エクディウムの住人はこれから先、理不尽なバトル・ファイオーに巻き込まれる事がなくなる。何より、僕の気まぐれで殺される事も無くなる。万々歳じゃないかい?」”
「お前……。バトル・ファイオーが理不尽だってわかってるんならやめろよ!」
“「アハハハ!だって、面白いんだもーん。生き残る為に全力で抵抗する生物の姿ってヤツはさ。それをじっくり観察しつつ、ちょっと希望を与えてからの絶望に落ちる様子は、最高の喜劇だよ!これを見るのは、やめられないよー!」”
体を震わせて、ダークネスが叫ぶ。あれは、快感に打ち震えている変質者の類いだ。
「ふざけた事を……!」
“「クハハハハ!いやー、これから楽しくなりそうだわー。サトシ君も、次はそう簡単にボコボコにされちゃ駄目だよ?あんまり君が弱いと、カナタ君だって拍子抜けしちゃうからね。まあ、既にボコボコにされて格落ち感半端ないけどねー!アハハハ!」”
『俺はまだ本気出してないだけだ!』
ニートの言い訳みたいな物言いはやめた方がいいぞ、サトシよ……。
“「そういうわけだから、世界中のみんなー。人間族の救世主カナタ君を見かけたら手厚く保護してあげてねー?彼の死は、そのまま君達自身の死になるからね?」”
ダークネスが、世界に向けて宣言する。
ああ、完全に世界の命運を握らされちゃったよ。ただの平凡な一大学生だったのに、どうしてこうなった?
“「カナタ君も、それでいいかな?」”
「……ふん。どうせ、お前の事だ。俺の答えなんか聞かないんだろ?」
“「嫌だなー、ちゃんと聞くよ?聞いた上で、無視するけどね?」”
「余計質が悪いわ!……しゃあねえ!サトシを倒し、お前を俺達の前に引きずり出してやるぜ!」
俺は、剣の先をダークネスに向けた。どうせ、何を言っても奴のシナリオには乗せられるんだ。だったら、乗った上でそれをぶち破るのみ!
“「オーケー。ふふ、世界の命運を賭けた戦い。いいね、これは燃えるシチュエーションだよ!」”
『相変わらず、悪趣味な男だな、ダークネス!』
俺の後ろに、ダブル・ジョーカーがやって来てダークネスを睨み付けた。
“「おやぁ?あれ、君は……。これは、驚いた。何千年振りだい?もしかして、君サモンドスレイヴになったのかい?」”
さすがのダークネスも、ダブル・ジョーカーの存在には驚いているようだった。そして、ちゃんとダブル・ジョーカーの事も覚えているみたいだ。
『我は、救世主カナタのサモンドスレイヴだ』
“「なんだって!?君がカナタ君の!?うわー、どれだけ僕を楽しませてくれるんだい、カナタ君は?」”
「お前を楽しませるつもりなんかねえ」
『我がマスターと共に、ダークネス!我は必ず貴様を滅ぼすぞ!喪った命の鎮魂の為にも、必ずな!』
ダブル・ジョーカーが、拳を握ってダークネスに突き付けた。右手で剣を突き付ける俺と、左拳を突き付けるダブル・ジョーカー。
俺達は、視線を交わして不敵に笑った。
“「ああ、今回のバトル・ファイオーも楽しくなりそうだ。それじゃあ、神王軍は撤収!カナタ君、次も楽しませてねー!チャオー♪」”
今度こそ、ダークネスは手を振って消えていった。それに合わせるように、まだ生き残っていた魔物連中が光の柱を通って空へと消えていく。
『救世主!次こそ、決着を着けてやる!だから、俺を引き当てろよ!』
「やかましい!次こそ、完璧にぶっ飛ばしてやるよ!」
『は!首を洗って待っていやがれ!』
サトシも、光の柱の中を上がって消えていった。
王都から、ダークネス軍が撤退していった。色々と犠牲は出てしまったものの、人間族は前哨戦第一回戦を勝利したのだ!
───そんな王都を、離れた場所から見ている男が一人。
その男の存在している所は、王都から離れた場所だった為にV2ホッパーの監視範囲外であり、彼方もその存在には気付いていない。
「これは、驚きだ。まさか、ダブル・ジョーカー様が人間のサモンドスレイヴになっていたとは」
黒いスーツの男は、苦笑いをしながら掛けていたサングラスをずり上げた。
この男、背中から伸びた翼を羽ばたかせて王都での戦いを観察していたのである。そして、ダブル・ジョーカーが彼方のサモンドスレイヴだと宣言した場面も目撃していた。
この男の名は、アスカ。人間に擬態した魔竜族で、ある存在からダブル・ジョーカーを探すように命じられたドラゴンだった。
彼は、『ツキタネ・シーカバー・ドラゴン』を倒した人間を探して王都へとやって来て、前哨戦に遭遇したのである。そして、目的のダブル・ジョーカーが人間のサモンドスレイヴとして存在している事を知ったのだ。
「これは、報告をしなければ、な」
アスカは、王都とは逆の方向へと飛んでいった。───




