第53話
いよいよ大詰めだなぁ、伯爵。
「伯爵さんって、どなたですかカナタさん?」
ああ、トモヨちゃん。
伯爵って地位は、こっちには無かったんだっけ?まあ、ちょっとしたネタなだけなんで気にしないで。
「はあ……。まあ、いいですけど。それはそれとして、確かに前哨戦も大詰めな感じになってますね?」
ね。トモヨちゃんまで、サモンドスレイヴ出してくるし。あれは、一体何なの?
「そこの所は、本編中で追々……」
いいんだけどね。
まあ、俺はこれが終われば次の場所に行かなきゃならないだろうし(ボソッ)。
「あら、カナタさん?まんまと逃げおおせるつもりでしょうけど、そうはいきませんからね?それはもう、王族の権力をフル活用して絶対逮捕しちゃいますから」
逮捕って……。俺、何も悪い事はしてないよ?
「いいえ。あなたは、大変な物を盗んでいきました。わたしの心です♡」
知ってんじゃん、トモヨちゃん……。
あんたのお宝、いただくぜ!
「はい!前も後ろも、全部差し上げます!」
そういう事言わない……。
──・──・──・──・──・──・──
「マジカルアロー!」
リゥムが、魔法の矢を放つ。でも、その矢もラントボルの竜巻に巻き込まれて、明後日の方向へとねじ曲げられて飛ばされていく。
「嘘!?魔力の矢も駄目なの!?」
「マジカルショット!」
当然のように、ヒナギの魔力弾も竜巻に巻かれて届かない。
『無駄ギュル!無駄ギュル!お前達、みんな吹っ飛ぶといいギュル!』
道に停まっていた馬車の荷台も、建っている家屋も吹き飛ばし、四人を追うラントボル。どう考えても、四人を追いかけるのに夢中になっていて、ユギカザさん抹殺の使命を覚えてなさそうな奴だ。
その四人は、竜巻から逃げながら遠距離攻撃で応戦していた。まあ、全部勝手に曲がっていくんだけど。
「まあ、『サンダー・グレネイド・シュート』が効かなかったからそうだとは思ってたけど、二人の武器でも駄目か……」
「これが効かないとなると、多分必殺技でも駄目だよね?」
「恐らくは。あれも、結局は魔力の集中攻撃ですし」
確かに、あの竜巻が魔法攻撃まで巻き込む以上、同じような魔力攻撃の必殺技も効かないのは想像に難くない。
「あんなのがクラ会館で発生したら、そりゃ助からないわよね……。むしろ、カエさんが生き残ったのが、奇跡だわ」
メィムが、悔しそうに言った。
どうやら、例の「クラの惨劇」とやらはクラ会館という建物の中で起こった事みたいだ。何か集会でもあって、そこにメィムとリゥムの父親やヒナギの母親が出席。そして、なぜかいたラントボルが暴れて、惨劇が起きたというわけか。
建物の中にあいつが現れたら、大変な事になるぞ?今のように、外を逃げ回れないし。
『よくわからないけど、あいつの下半身の竜巻を止めないと埒が明かないね』
両手を左右に振りながら、ブラックが後ろを伺う。一応、何かを仕込んでいる?
確かに、ラントボルは下半身が竜巻をまとっていて、その竜巻を上半身側に上げたりしていたな。なんだろう?下半身はなんたらちゃん走りみたいに、常に走ってるのか?
「止めるたって、どうしろって……。あ!ヒナギ!あんたの『スロー・ライフ』で止める事はできない!?」
「あ、はい!やってみます!」
ヒナギは、走りながら腰の後ろに差していた杖を取り出して、カードをセットした。そして、立ち止まって振り返る。
あの巨大なグレート・バリアリーフすら動きを鈍らせたんだから、可能性は十分ある。行け行けヒナギちゃん!
「チョクメイ発動!『スロー・ライフ』!」
左手に持った杖を前に出して、ヒナギは『スロー・ライフ』を発動した。ラントボルをロックオンして、魔法が走る。
突然、ラントボルの周りでパンッという音が鳴った。それは、まるでラントボルの周辺で何かが弾かれたかのよう。
『?なんだギュル?』
今の音に、ラントボルは不思議そうに周りを見回している。その見回す動きに、特に淀みは見られない。
「駄目です!『スロー・ライフ』も弾かれます!」
ヒナギが、振り返って回避行動に戻る。
さっきのは、『スロー・ライフ』が弾かれた音か。直接的な攻撃魔法じゃない『スロー・ライフ』まで、ラントボルには効かないか。完全魔法効果耐性を持っているなんて、厄介なサモンドスレイヴだな。
ゲームだったら強そうだけど、俺は使わないな。あんなキャラ見せられたらな。
「マジで!?何なのよ、あいつ!?」
「そうなると、『引っ越キネシス』で無理やり動かすのも無理って事だね?」
「恐らくは……。すみません、お役に立てなくて……」
なぜか、謝るヒナギ。いや、そこで謝る必要は無いだろうに。
「謝る必要は無いわよ。しかし、それじゃあどうすれば……」
『んー。一応、考えはあるんだけど……』
ブラックが、ボソッとつぶやいた。
いや、何か策があるならもっとはっきり言おうぜ?
「何かあるの、ブラック?」
『まあ……』
策を考えていそうなブラックは、なぜか歯切れが悪かった。
「だったら、それをやってみてよ!なんか問題があるの?」
『問題というか……。準備が必要だから、その間君達から離れなくちゃならなくてさ。そうすると、守れなくなっちゃうし……』
ブラックが、ため息混じりに答えた。
それを聞いて、ポカンとする女子三人。いや、少しの間離れなきゃいけないからってだけで反撃する事を躊躇するとか、構ってちゃんか!
「いや、あたしらだって自分で自分の身くらい守れるわよ?」
「そうです!一応、ここまで戦って来ましたから!」
「お願いします、『ゲン・ムレイザー』さん。わたし達には、今の所有効な反撃手段が見つかりません。ですので、それを試していただけませんか?」
ヒナギが、ブラックに頼み込む。三人には有効な打開策が思い付かないので、今はブラックのその策に期待するしかないのだ。
『……ブラックでいいよ。それじゃあ、一つ賭けてみましょうかね』
ハットを目深に被り、ブラックが言った。それを聞いて、笑う三人。
「ええ!頼むわよ、ブラック!」
「お願いです、ブラックさん!」
「あなたに託します、ブラックさん」
三人が、ブラックにうなずく。
ブラックサン……。あれ?もしかして、「王の石」とか腹に持ってない、ブラック?
『三人は、あいつを引き付けつつあいつをあの高い石の塔までおびき寄せて』
走りながら、ブラックが道の先にある高い石の塔を指差した。その塔は、石造りの頑丈そうな塔で、一番上に大きな鐘が付いていた。王城にいた時に聞こえた事はないけど、何かがあった時に鳴らされるような鐘なんだろう。昼になった時とか、今回みたいな非常事態が起こったりした時とかに。
「あの塔ね?どれくらい、時間を稼いでいけばいい?」
『五分もあれば十分!じゃあ、僕は先に行くよ!』
ブラックは、翼を広げて飛んでいった。
「五分か。全力疾走でもそれ以上かかるって……」
その塔は、三人の移動速度ではそれ以上にかかりそうな距離にあった。
「むしろ、あいつに捕まらないように全力疾走するわよ!」
「うん!……それはそれとして、お姉ちゃんそのブーツは何なの?自分で走ってないよね、それ?」
今更ながら、リゥムとヒナギがメィムのローラーブーツに気付いたらしい。
「ええ。これは、カナタから借りたローラーブーツ。いや~、勝手に走ってくれるから凄い便利なブーツだわ」
「ああ、それもトオノさんの魔法なんですね?わたしの拳銃や、リゥムちゃんの弓矢と同じような」
「そ。おかげで、あたしもパワーアップアップってわけよ~!」
嬉しそうなメィムを、微笑んで見ているリゥム。
「そうなんだ。やっぱり、トオノくんは凄いね」
「ですね。本当に、素敵な人……」
ヒナギが、顔を赤くして微笑んでいた。
あのね、ヒナギちゃんさぁ。こんな切羽詰まった状況で、なんかこう想いに浸るみたいな行動はちょっと控えよう?あの鼬バカ野郎、色々な物を吹っ飛ばしながら迫ってくるんだから、ちゃんと周りを見ながら逃げよう!
「うん……」
リゥムまで、顔を赤くして微笑みだしたよ!
君達はさ、さっきもそうだったんだけど、時と場合を考えよう?少なくとも、今は好きだ嫌いだ惚れた腫れたとか言ってる場合じゃないの!
「まったく、あんたらは……」
メィムは、呆れたように顔をしかめていた。
「……気持ちはわかるけど、今はしっかり前を向いて!あたし達は、生きてカナタの所まで戻らないといけないんだからね!」
メィムが、二人を引き締めるように言った。それを聞いて、二人もシャンとする。
さすがは、メィム。引き締める所は引き締める、ちゃんとしたリーダーやってるじゃん。と言うか、リゥムだけじゃなくヒナギにとってもお姉さんだな。
「あ、うん!」
「はい!絶対に、絶対にトオノさんの所に戻りましょう!」
三人は、遠距離攻撃でラントボルを牽制しつつ石の塔へと走る。
その石の塔の天辺に、ブラックが立っていた。既に準備は済んだのか、じっと目を閉じて三人の到着を待っている。
そして、ブラックはゆっくりと目を開いた。
「来たわよ、ブラック!!」
メィム達三人が、塔の前の広場まで到達した。当然、それを追ってラントボルもついてきている。
塔の前は、広場になっていた。ここも既に避難しているようで、特に市民も兵士達も、魔物の姿も無い。
『三人は、最大威力の技を準備して!』
そう言って、ブラックが塔の先から飛んだ。広場に入ってきたラントボルに、一直線に向かって行く。
『さあ、イタチ君!僕のマスターが優秀か、それとも君のダークネスの方が優秀か決着を着けようじゃないか!』
『ダークネス様は、誰にも負けないギュル!』
ラントボルが、竜巻を上半身へと伸ばしてブラックを迎え撃つ。そのまま突っ込めば、今までと同じように吹き飛ばされるだけだ。
しかし、ブラックは方向を変えて、更に上空へと高度を上げた。メィムは為す術なく飛ばされたけど、ブラックには翼があって飛べるんだよ!
「リゥム!ヒナギ!あんた達の必殺技っての、行くわよ!」
メィムが、左拳を握りながら叫ぶ。あいつはさっきからカードを入れ替えていないので、『サンダー・グレネイド・シュート』を撃つ構えだろう。
「うん!」
「行きます!」
リゥムは矢をつがえて、ヒナギは銃を両手で構えた。二人とも、必殺技の発射体勢に入っている。
ブラックは、かなりの上空に飛び上がると今度は急降下を始めた。
『ギュル!?』
ブラックは、ラントボルの直上から降下していた。竜巻の影響を受けにくい、直上から攻撃を仕掛けようというのか。ただ、その影響の無いエリアはラントボルの体分の非常に狭いエリア。ピンポイントに狙うには、かなり厳しい。
『無駄ギュル!』
ラントボルが、移動してブラックを竜巻に巻き込もうとする。とりあえず、直上ががら空きなのは確実なんだな。
『遅い!『ストリングス・カオス・ホール』!』
ラントボルが動く前に、ブラックが両手を握り込んで上に上げた。それと同時に、広場のあらゆる場所から糸が立ち上がってきてラントボルを取り囲んで渦巻いていく。
『なんだ、これはギュル!?』
糸は、ラントボルの竜巻と同じ方向に渦巻いて、そのまま絞まっていく。見ると、糸は広場だけでなく石の塔や町中からも伸びて来ているので、逃げる途中に仕込んでいたのがこれらしい。
『フィーッシュ!』
ブラックの糸が、ラントボルをグルグル巻きにした。
フィールドのあらゆる場所に仕込んでおいた糸で取り囲んで、敵をがんじがらめにする。これが、ブラックのある意味必殺技になる『ストリングス・カオス・ホール』か!
『げへぇ!と、止まったギュル!?』
がんじがらめになって、ラントボルの動きが止まった。そして、竜巻も消滅する。
ラントボルは、尻尾を五本も持つ鼬の化け物だった。
『さあ、今だよ!』
ブラックが地面に着地して、ラントボルを引きずり下ろした。
「行くわよ、リゥム!ヒナギ!『サンダー・グレネイド・シュート』!」
「『マジカル・シュート・アロー』!」
「『トレンシャルトリビュート・ブレイカー』!」
三人が、同時に技を放った。三つの技は、一体となって身動きが取れないラントボルに向かって飛んでいく。
『ちょ、ちょっと待つギュルー!?』
三人の攻撃が、思いがそれぞれの親の仇へと届く!
が次の瞬間、ラントボルを上空から降り注いできた光が造り出した光の柱が、取り囲んだ。その光に裁ち切られたのか、ブラックの糸が千切れる。
そして、その光の柱に三人の必殺技まで弾き返されてしまった。
「ああっ!?」
「な、なんで!?」
「わたし達の必殺技が弾き返された!?」
『しまった!準備に時間をかけすぎたか!』
『た、助かったギュル……』
ラントボルが、再び竜巻をまとった。




