第51話その2
魔物を蹴散らし、時にはサトシに片付けさせて、俺達は移動していた。そうして辿り着いたのは、さっきとは違う広場。ここには、魔物もいなければそれと戦う兵士達もいない、誰もいなくなった空間だった。
『いやー、この俺とこれだけの長時間戦えた奴は、五百年振りくらいか?さすがは、救世主だけはあったな。楽しかったぜ?』
サトシが、剣を肩に担いで笑った。いかにも楽しそうな表情だけど、楽しかったってのどういう意味だよ?
「ん?なんで過去形なんだよ?まあ、てめえを倒してしまえば強敵だったなって思い出に変わるだけだがよ」
『ははは、言う言う。だがよ、俺も一応大将からこの国の王を殺ってこいと命令はされてるからな。いつまでもお前だけに構っているほど暇でもねーんだわ』
「命令?命令なんか、ガン無視しそうなお前が?」
あいつ、ダークネスの事はガンガンバカにして任務なんか無視して暴れ回るようなタイプにしか思えないのに、一応命令を受けていた事は覚えていたらしい。
『まあ、そうだな。だが、大将はバカだが力は俺よりも遥かに強いからな。ガン無視してばかりもいられねえんだよ。まだ前哨戦が終わらねえって事は、誰も王を殺してないって事だしな。面倒だが、俺が殺りに行くしかねえだろ?一緒に来た連中は、俺以上に身勝手な連中ばかりだからな』
一見無軌道で何も考えてなさそうなサトシも、一応周りを見回す能力はあったらしい。まあ、二人は個人的な事情に固執してるし、もう一匹はそもそも何を考えているのかよくわからない系。
これじゃあ、こいつが舵取りするのも仕方ないか。
「てめえが一番マシとか、終わってんな八武衆!」
『まったくだ!』
いや、お前も同意すんのか!
『さあ!『ベノム・マサラ』よ!解き放て!』
サトシが、剣を掲げて叫んだ。
次の瞬間、剣が巨大化した。全長は15メートル程の長さになって、横幅も太さも五倍くらいの超巨大剣。
こんなの、巨大ロボットが武器として持っていても不思議じゃない、むしろそっちの方が納得のトンデモ兵器じゃん!
「な、なんじゃそりゃ!?」
『これが、『ベノム・マサラ』の最大解放!潰れろ、救世主!!』
サトシが、剣を振り下ろしてきた。
こいつ、その巨大な剣で斬りつけるんじゃなくて、叩き潰すつもりかよ!
「くっ!」
回避が間に合わなかったので、俺は『アゴ・ストーム・セイバー』を横にして巨大剣を受け止める。
「ぐっ!」
巨大なだけあって、重さも半端なかった。受け止めた時の衝撃か、俺の立っている地面が陥没してしまう。
『このまま、真っ二つにしてやるよ!』
「いらねえわ!」
サトシが、どんどんと剣を押し下げてくる。上から力を掛ける方が遥かに有利で、このままだと確かにいずれ刃が俺の所まで届いてしまう。
この状況をなんとかするには……。確か、向けていたはず!
「V2ホッパー、射出!」
俺は、受け止めた状態のままでズボンの尻ポケットに入れていたV2ホッパーを発射させた。手には持っていないけど体に密着はしていたので、V2ホッパーの衛星はちゃんと発射される。
衛星を上に向けて入れといて、よかったぜ!
『なんだ!?』
衛星は真上に飛び、巨大剣の刃に当たって爆発した。その爆発の勢いで、巨大剣が一瞬だけ浮き上がる。
その瞬間に俺は、剣の刃の範囲から抜け出した。
受け止める力が無くなった巨大剣は、そのまま地面に突き立った。よほどの衝撃なのか、地面が先の方まで割れてしまう。
『よく避けた!だが!』
サトシは、素早く巨大剣を地面から抜いて、今度は横一文字に斬りつけてきた。俺は、剣を縦にして受け止めるが、今回はその衝撃に押されて吹き飛ばされてしまう。
つか、なんであんな巨大な剣をそんな素早く動かせんだよ!?
「ぐはっ!いってぇ!」
飛ばされた俺は、体勢を入れ替える暇もなく家屋の壁に叩き付けられた。
でも、その痛みに怯んでいる余裕すら与えず、上から巨大剣の刃が迫ってくる。それにV2ホッパーを当てて勢いを削ぎ、その間に大きく移動してかわす。
『は、妙な技も使うじゃねえか。やっぱ、お前と戦っている方がおもしれえわ救世主』
いつの間にか、サトシとの距離は10メートル程開いていた。とは言え、奴の射程距離が長すぎてこの距離でも向こうの攻撃はこっちに届く。こっちからは精々V2ホッパーを飛ばすくらいしか攻撃手段が無いとか、不公平だ!
そうなると、こっちの取れる手段はただ一つ。
「……」
俺は、『アゴ・ストーム・セイバー』を見下ろした。今までの戦いの中で、ずっとチャージしていた魔力が遊園地の時と同じくらい溜まっているのを感じる。
俺の必殺技を、叩き込んでやる!
『お?なんかやる気か?顔付きが変わったな』
サトシには、バレてるか。つっても、何をするかまでは読めないだろう?
『いいじゃねえか。ゾクゾクするぞ?この生きるか死ぬかのギリギリこそ、戦いの醍醐味ってヤツだ!』
サトシは、本気で嬉しそうに顔芸を見せた。狂気の沙汰だな、こいつは。
「そもそも死なねえサモンドスレイヴのくせに、何が生きるか死ぬかだ。消滅しても、明日には元通りになるんだろうが」
『あ?ああ、普通のサモンドスレイヴはな。だが、大将はバカだからな。俺らには、死ぬとサモンドスレイヴカード自体が燃えて無くなってしまうというシステムをわざわざ付け足したんだよ。だから、安心しな?八武衆は、一回死ねば復活はねえよ』
サトシが、肩をすくめてそんな事を言った。
は?サモンドスレイヴって、一度消滅しても何度でも蘇れるのが利点だろ?それなのに消滅してしまうシステムを、ダークネスがわざわざ自分のサモンドスレイヴに追加するって、一体何の為に?自分で部下の利点を消して弱点を作る事に、どんな意味があるんだよ?
「なんだ、そりゃ?そんな事をダークネスがお前らにして、何の意味があんだよ?味方を不利にして、ダークネスにどんな得があるって言うんだ?」
思わず、俺は聞いた。いや、マジで理解できん。
『大将はバカだっつったろ。その答えは、「そっちの方が緊張感が出て面白いだろ?」だったわ』
「は?……それだけか?復活システムを破棄したおかげでスーパーパワーアップしたとか、そういうのは……?」
『あるわけねえだろ。大将だぞ?』
サトシが、吐き捨てるように言った。
うわぁ、あいつマジで面白いからって思い付きだけで生きてるのか?
『この前哨戦も、本戦が始まる前に脱落する種族がいたら面白いって理由だけで始めたらしいからな』
「マジか?他に理由無しか?」
『本人は、そう言っていたぞ?まあ対外的にはこの世界は生物のキャパシティが決まっているから、定期的に減らす必要があるとかほざいていたが、まあ適当に思い付いた言い訳だろうな。あれは、絶対必死で生き残ろうとしているお前らを眺めて楽しんでいる、クズの所業だ』
割とクズな人殺しのサトシにすら、クズ扱いされているダークネス。部下のこいつが言うんだから、まあ真実なんだろう。
ただ、この世界にキャパシティがあるっていう話は気になるな。
「世界にキャパシティがあるって話は本当なのか?」
『知るかよ。この世界は完全に閉じていて、増えすぎると定員オーバーするから二百四十八年ごとに減らさなきゃ、とかドラゴンの質問に答えていたわ。それが本当なのかなんて、俺にわかるわけはねえ』
ドラゴンっていうと、ラビッツの事か?
この世界が完全に閉じているという事は、海の先には本当に何も無いって事か?どうやら、ダークネスはこの世界の構造とかを把握しているようだな。
『それ以上知りたかったら、大将に直接聞きな。まあ、バトル・ファイオー閉会式にしか直接姿現さないチキンだけどな!アハハハハ!』
そこまで扱き下ろして、本当にいいのかサトシよ……。一応、お前のマスターじゃないのかよ?
『じゃあ、俺もとっておきを見せてやろう。最終決戦って、ヤツだな!』
サトシは、巨大剣を持ち上げると、頭上でブンブンと回し始めた。あの巨大剣のパワーに、更に遠心力をプラスして攻撃するつもりか?
それに対して、俺は『アゴ・ストーム・セイバー』を両手で構える。何とか、こっちの必殺技を奴より先にぶち込むのみ!
それでも足りない場合は……、勇者の技をランクアップさせた技を叩き込む。
ブンブンと、巨大剣が風を切る音だけが響く。
「はあ、はあ!」
そこへ、聞こえてくる誰かの息遣い。
「はあ!」
サトシのすぐ側の路地から、何者かが広場に駆け込んできた。
「!?お前は!?」
「?ひ、ひぃ!救世主!」
その男は、俺を見て焦った声を出した。
広場に飛び込んで来たのは、センターステージから逃走したオッサンだった。ステージから逃走した後、王城からも逃げ出してこんな所まで走ってきたようだ。いつの間にか俺達は、王城からそう遠くない場所まで戻って来ていたらしい。
よりにもよって、こんな場面で。
「オッサン!お前!」
「ひ、ひぃ!く、来るな救世主!」
俺が声を掛けただけで、オッサンは逃げようとする。暗殺を阻止されて糾弾された事、かなりのトラウマになってるみたいだな。
逃げようと背中を向けたオッサンは、すぐ側で巨大剣を振り回しているサトシの姿に気付いた。
「ひぃ!た、助けてくれ!」
サトシを普通の人間だと思ったのか、オッサンはよりにもよってサトシに助けを求めてすがり付いていた。
いくら切羽詰まっているからって、少しくらい周りを見ろや。あんなデカい剣を振り回す人間が、どこの世界にいるか!……なんとなく、ロキヒノなら振り回せそうな気がしない事もないけど。
『あ?邪魔だ!』
「ごへ!」
オッサンにすがり付かれてイラッとした表情になったサトシは、オッサンを右足で真上に蹴り上げた。
うわ……、多分あれ金的。
「あ」
「げひょ?」
真上に飛んだオッサンを、振り回された巨大剣が通過した。
オッサンは、腰から上下に両断された。赤い血を盛大に撒き散らしながら、オッサンは半分になって落ちていく。
「ワシの……体……?う、うぎゃあぁぁ!痛い痛い!誰か、誰か助けてくれぇ!体が、ワシの体がぁぁ!助け……、きゅうせいし……、たす……」
ひとしきり騒いで、オッサンは事切れた。
いや、あのタイミングで出て来られて、体を真っ二つにされてるんじゃ、いくらなんでも助けられないっての。
『なんか知らねえが、行くぞ救世主!!』
サトシの意識からは、オッサンの事は一瞬で消えたらしい。
まあ、運が無かったって事でな。俺も、オッサンに構ってる暇はちょっと無いんだ!あばよ、オッサン!
『食らいやがれや!『ハンマー投げ斬り』!』
サトシは、振り回した剣をハンマー投げの要領で横一文字に斬り払ってくる。サトシの腕力、巨大剣の重量、遠心力。全てをパワーに変えたこの技こそ、サトシの必殺技と言っていいのだろう。
ただ、もっといいネーミングは無かったんかい!?
「俺の必殺技、その3!『ストーム・セイバー・スラッシュ』!!」
俺も、サトシに対して『ストーム・セイバー・スラッシュ』を放った。白銀に光る魔力のエネルギーが、闇の塊のようなサトシの巨大剣とあいつ自身に向かっていく。
『!魔力の斬撃か!ち!』
サトシは、一目見て俺の技の本質に気付いたらしい。ああ、そうだよ!斬撃を魔力に乗せて飛ばした、飛んでいく斬撃波だよ!
俺の『ストーム・セイバー・スラッシュ』と、サトシの『ハンマー投げ斬り』が真正面から激突した。二つの技の激突で激しいスパークが、主にサトシの目の前で起こる。
そんな中、俺は駆け出した。
『こいつの魔力!なんてパワーだ!だが……、何!?』
10メートルの距離を一気に詰めて、俺はサトシの懐へと飛び込んだ。奴は、『ストーム・セイバー・スラッシュ』を押し返そうとしていた為に、俺の接近にはすぐには気付いていなかった。
剣を、水平に構える。勇者が高速の三段突きならば、俺はその四倍だ!
敵の体を時計に見立て、一時から十二時までの超高速の十二段突き。つまり、十二シシ突き!
「必殺技その4!『クロック・ワーク・スタブ・クロー』!!」
超高速の十二連突を、巨大剣の手元で止まっている魔力をまとわせて、サトシに向けて打ち放った。『ストーム・セイバー・スラッシュ』の魔力が『クロック・ワーク・スタブ・クロー』と合体して、十二の斬撃に変化してサトシを直撃する。
『ぐおおぉぉ!!』
サトシの叫びと共に、あの巨大な剣が砕け散った。
そして、魔力のエネルギーにサトシが飲み込まれて吹き飛んでいく。家屋を消滅させ、アパートに穴を開けてその先の道で大爆発を起こした。
「はぁ、はぁ……。どうだ!」
今の一撃は、確実に手応えがあったぜ!実際、サトシは吹き飛ばしたし、あれだけの巨大剣も叩き折ってやった。
折れた巨大剣の剣身は、広場に転がっていた。と、その剣身が崩れ出して、小さな光の玉になって消え始めていた。サトシの剣は、殺した人間の血と怨念で大きくなっていると言っていたから、もしかしたら剣に縛られていた人々の怨念が浄化されて崩れていっているのかな?
本当かどうかはわからないけど、そうだったらいいなって個人的には思う。
『アハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』
道の先から、高笑いが聞こえてきた。その声は、どう聞いてもサトシの声。
今の一撃でも、倒せなかったのかよ!
「くそ!」
俺は、慌ててサトシの所へ向かった。
サトシは、全身から真っ赤な血を盛大に噴き出しながら、道の真ん中に仁王立ちして笑っていた。
『これだぁ!これが、戦いだぁ!この痛み!この血!これが、これが俺が求めていた物だ!救世主ぅ!お前は、お前は最高だぁ!!』
高笑いに狂気的な笑顔を浮かべ、サトシが叫ぶ。
やべえ……。こいつ、完全に頭イっちまってる奴じゃねえか。ボコボコの血みどろにされて、逆に顔芸をするほど喜んでやがる。
正直、俺の理解を超えていて鳥肌が立ってくるぜ……。
『さあ、救世主。続きを始めようか!!』
サトシは、剣を構える。その剣は、巨大化していた剣身が消えた結果、普通の長さのただの西洋剣になっていた。
「……!」
その剣を見た瞬間、背筋を強烈な寒気が走った。さっきまでよりかなり小さくなったはずなのに、さっきより倍は嫌な感じがする。
「なんだ、その剣は……!?」
『は、さすがは救世主だな。『ベノム・マサラ』の真の恐ろしさに気付いたな?』
確かに、頭の中で警告が鳴っている。はっきり言って、あの巨大剣の時の方が全然マシに思えるくらい、悪寒しか感じない。
『『ベノム・マサラ』は、殺した人間の怨念を勝手に吸い取ってコーティングしていくバカな剣だからな。まあ、鞘を付けたまま戦っていたようなもんだ』
あの威力と破壊力で、あの剣はまだ鞘から抜いてもいなかったらしい。そんなのが解き放たれたら、一体どれほどの力を発揮するというのか!?
『それを、お前が破壊してくれたんだぜ、救世主。礼を言っとくぜ、救世主さんよぉ。ありがとうよ』
くそ、武器破壊をしたどころか、武器のリミッターを解除させただけかよ!?逆に、あいつに有利な事をしてしまっただけじゃねえか。
「礼なんかいるかよ」
俺は、『アゴ・ストーム・セイバー』に視線を落とす。さっきの一撃で、『アゴ・ストーム・セイバー』に溜めた魔力は底をついた。また、一から魔力を溜めないといけないけど、果たしてサトシがそれをやらしてくれるかだ。
『遠慮するなよ!お代は、お前の命で十分だ!』
サトシが、剣を高く掲げた。
その瞬間、光が走った。




