第51話
「やりました、カナタさん!わたし、出番がありました!」
ああ、うん。おめでとう。
で、出番あったのになんでここに来たの?
「はい。とりあえず、出番があった事の報告と、やらなければならない事をする為に」
やらなければならない事?それって、何?こっちの原稿には、何も書いてないけど?
……なんで、手を握るの?
「さあ、ベッドに行きましょうカナタさん!」
はあ?一体、何の話!?つか、なんで引きずるの!?
「だって、わたしはお父様から孫の顔を早く見せてくれとお墨付きを戴きましたから。これはもう、親公認でえっちする時ですよ!」
いや、それなんでトモヨちゃんが知ってるの!?あの時、君ユギカザさんの部屋にはいなかったでしょ!?
「さっき、本編の回想シーンで見ました。もう、これはヤるしかないなと!」
メター!おかしいから!それやったら、時系列とか色々おかしくなっちゃうから!
「大丈夫ですよ~。ここは、本編とは違う空間。言うなれば、フィールド上でも墓地でもない謎空間ですから。本編のわたし達は、ここであった事は知りませんよ~♪」
ナンターラ素材かよ!と言うか、異様に力つよ!
「うふふ。ここでは、カナタさんは無力なのですよ~。では、おいしくいただかせていただきますので」
トモヨちゃん、その舌なめずりはいかん!それは、駄目だってー!
だ、だ、だ……、ダレカタスケテー!
──・──・──・──・──・──・──
センターステージのシールド魔法が崩れて、魔物が押し寄せてきた。
その魔物の大群に立ち向かうのは、俺のサモンドスレイヴ『シノビ・マイスター』ことフウマとユギカザさん。
そんな状態でも、ミチヨさんは歌い出した。音楽を奏でる衛兵も昏倒して魔法が途切れた為、アカペラでの歌唱だ。それでも、王都の人々を鼓舞する為に、心を込めて一生懸命歌い上げる。
評議会メンバーは、センターステージから城内へと避難するようにユギカザさんから指示を受けていた。彼らがステージに上げられたのは暗殺者の為のカモフラージュでしかなく、ぶっちゃけ邪魔だったのだろう。
今回のオッサンを追い詰めた立役者のノオトくんも、衛兵に連れられてステージを降りていく。彼は、やっぱりロキヒノと違って戦闘向きではないみたいだ。
そんな誰もが忙しなく動いている中、一人だけ呆然と突っ立っている男がいた。
「……勇者様。あなたはそんな所で呆然と突っ立って、一体何をしているのですか?」
トモヨちゃんが、その男・勇者に向かって尋ねた。
友達が王の暗殺未遂で捕縛され、育ての親はその首謀者と糾弾されて逃走。勇者的には、あまりの衝撃的な出来事の連続で、パニックを起こしているのだろう。
同情の余地はない事はないけど、今はそんな場合じゃねえ。
「プリンセス……」
「今は、みんな戦っています。あなたは、勇者でしょう?今こそ、その名前に相応しい戦いを見せる時ではないのですか!?」
トモヨちゃんが、勇者を叱咤する。
しかし、それでも勇者はグズグズしていた。所詮、オッサンの指示が無いと動けない、操り人形だっただけの勇者には、トモヨちゃんの言葉も刺さらない。
「いや、でもハークロ様が……。バドラが、どうしてあんな事を……。私は、どうすればいいのですか、ハークロ様……」
事情はわからないでもないけど、今の周りを見ても自分の判断ができないのはいくらなんでも酷すぎるな。こいつ、どれだけ自分って物が無いんだよ?
そんな勇者を見て、トモヨちゃんはイラッとしたらしい。
パァン!と、トモヨちゃんが勇者の頬を平手打ちしていた。
「!……」
「自分の頭を使わないマリオネットに、用はありません。どこへなりと、消えて下さい。あなたは、存在が不愉快です!」
トモヨちゃんが、勇者を本気で切り捨てた。
ぶたれた事がショックだったのか、その後の言葉に心を打ち砕かれたのか、勇者はその場で膝を折って崩れ落ちた。
そんな勇者を一瞥すらせずに、トモヨちゃんは前に出る。その上空から、襲いかかってくる『ドリル・ペッカー』の集団。
『くっ!敵が……!だが、ここを突破されるわけには……!』
さすがのアクセル・スピーダーも、正面から押し寄せる魔物達を食い止めてステージへ行かせない事で手一杯だった。
「トモヨ!早く城内へ避難しろ!」
ユギカザさんが、声を上げる。ユギカザさんは、今の王都の戦力の要であるミチヨさんを守る為に、トモヨちゃんにまでは手が回らない。
フウマも、更に多くの魔物を相手にしてトモヨちゃんの警護に行けない。分身とか無いのか、分身とか!?……ああ!分身の術って、勅命カードじゃねえか!て事は、フウマ単体では使えないって事か!
「大丈夫です!」
トモヨちゃんが、鋭く叫んだ。
?何が、大丈夫なんだ?
「トモヨ?」
「わたしの事は、心配しないで下さい!わたしは、自分でどうにかします!」
トモヨちゃんは、そう言い切った。
いや、どうにかするったって……。トモヨちゃんに、一体何ができるって言うのさ?
「お前、一体何を!?」
「トモヨ!?」
ミチヨさんまで、歌を中断してトモヨちゃんの方に顔を向けた。
そのトモヨちゃんは、ドレスの中に手を入れて一枚のカードを取り出した。
「……行くよ、パーナさん」
トモヨちゃんが、そのカードを表に向けた。そのカードは……、サモンドスレイヴカードだった。
「!?そのカードは、サモンドスレイヴカード!?」
それを見た瞬間、ユギカザさんやミチヨさんも驚いていた。彼女がサモンドスレイヴカードを所持している事を、両親すら知らなかったようだ。
トモヨちゃんの前に、召喚魔法陣が発生した。
「花に太陽!生命を育む、自然の力!自由と平和を守る為、その恵みと共に、我に力を与えたまえ!サモンドスレイヴサモン!咲き誇れ!『サクラン・ミストレス』!!」
トモヨちゃんは、サモンドスレイヴカードを魔札道具のチョーカーに組み込むと、その召喚口上を唱えた。
その口上に合わせ、魔法陣からピンク色のドレスをまとった栗色の短めの髪の女性がその姿を現した。その女性の肩や背中からは木の枝のような物が生えていて、枝にはピンク色の花が咲いている。あれは、桜か。
あのサモンドスレイヴは、植物系獣生族の『サクラン・ミストレス』!その名の通り、桜の木の精霊だと言われるサモンドスレイヴだった。
まさか、トモヨちゃんが召喚士だったなんて……!
「パーナさん!」
『うん!『サクラ・ストーム』!!』
トモヨちゃんの言葉に合わせて、『サクラン・ミストレス』が桜の花びらを大量に舞い散らせた。その花びらが回転運動を始めて、桜の花びらの竜巻を作り出す。
その竜巻に巻き込まれた『ドリル・ペッカー』は、花びらに体をズタズタに切り裂かれて倒されていた。
見た目の優雅さからは想像できない、すげえ威力だ『サクラ・ストーム』。
「トモヨ、お前……」
「トモヨ、あなたそれはいつから……?」
唖然とする、ユギカザさんとミチヨさん。そんな二人に、トモヨちゃんは微笑む。
「お話は、後で!今は、この戦いを切り抜ける事が先決です!ですから、お母様。今は、歌の続きを!」
「!そ、そうね!」
トモヨちゃんの言葉に、ミチヨさんも歌に戻る。
「お父様はウィークポイントなのですから、あまり前には出ないで下さい!敵は、わたしとパーナさんが片付けます!」
トモヨちゃんは、ユギカザさんも抑えて自分が最前線に立った。確かに、ユギカザさんが殺される事は人間の敗北に繋がる。ユギカザさんだけは、何としても守らないといけない存在だ。
さっきからトモヨちゃん、『サクラン・ミストレス』の事を「パーナさん」って呼んでいるな。という事は、『サクラン・ミストレス』の本名が「パーナ」なのかな?
前線に立つトモヨちゃんの隣には、フウマ。
「カナタさんのサモンドスレイヴ様。一緒に戦っていただけますでしょうか?」
『あなた様を守る事も、拙者の与えられた使命。もちろん、御守りするでござる』
「……ありがとうございます」
トモヨちゃんは、優しく微笑んだ。そして一度目を閉じ、厳しい目で敵を見据える。




