第50話その2
それは、今朝の事。
//「そうだ、ユギカザさん」
朝、一度はユギカザさんの部屋を出た俺は、もう一度部屋に戻っていた。
「ん?どうしたカナタ?」
「今日の力比べ、昨日の評議会のメンバーや色々な人が見に来るんですよね?」
「ああ。まあ、主に手の空いている衛兵達だとかだがな。それが?」
「はい。……正直、その中に変な奴が混じっていてユギカザさん達を狙ってくるとも限りません。なので、それの対策をしておいた方がいいかと思って」
さすがに、証拠が無いのでオッサンの名前は伏せた。ユギカザさんを前に、迂闊な事は言えないもんな。
そんな俺を、ユギカザさんがじっと見つめていた。
「……トランドの事か」
ややあって、ユギカザさんが静かに言った。
うわ、完全に見透かされてる。ていう事は、ユギカザさんもその事には気付いていたって事か。
「あ……。気付いていたんですか?」
「そりゃ、あいつが王になりたがっている事はな。あいつは、感情を隠すのが下手なんだよ。俺を、殺したい目で見てくるのも一回や二回じゃない。そんなもんずっと向けられりゃあ、さすがに気付くさ。そして、先日のロキヒノの一件だ。まったく、ずいぶん露骨になってきたと思ったわ」
どうやら、ユギカザさんは丸っとお見通しだったらしい。まあ、こっちに来て一週間足らずの俺に気付かれるくらいなんだから、よっぽどバカなんだろうなあのオッサン。議長になれたのも、親かなんかの七光りか?
「ミチヨや、トモヨも色々動いていたみたいだがな。あいつらから聞いたのか?」
そこまでお見通しですか。
「まあ……。ロキヒノに対する動きは、俺が見ててもおかしかったので」
「確かにな。今まではまあ、地位もあるしで泳がせてきたが、ロキヒノに対して舐めた真似をしてきたから、それもそろそろ終わりにしようかと考えている所だ。トモヨに対する視線も嫌な感じだったが、そこはカナタがいれば問題無いよな?」
ユギカザさんが、ガッツリ俺を見つめてくる。
うぅ、圧が凄い。
「……まあ、できる範囲で」
「ん。孫の顔も、早く見せてくれよ?」
「十歳の子に何を期待してるんですか……」
「はは。で、対策ってのは?」
「あ、はい」
俺は、デッキケースに入れていたカードを三枚ほど取り出した。昨日の夜、デッキトップに移動しておいたカード達だ。
「影になり、光となりて敵を討て!千里を駆けて、闇夜に光る流れ星!忍びなれども、忍ばずいけ!サモンドスレイヴサモン!現れろ、『シノビ・マイスター』!」
俺は、人間族のサモンドスレイヴ、『シノビ・マイスター』を召喚した。
「おお!」
『『シノビ・マイスター』、カゲトラ・フウマ。推参』
召喚の魔法陣から、忍者装束に身を包んだ『シノビ・マイスター』が姿を現した。いかにも忍者な黒一色な装いで、目元以外の露出が一切無い。
うん、ニンジャ!
「よく来てくれた、『シノビ・マイスター』。朝から済まないな」
『お初にお目にかかります、主様。主様の命に従うのは、忍者として当然の事でござる』
おー、ござる言葉出たー!これぞ、忍者!どこかの流浪人も使ってたけど、それは聞かなかった事にしよう。
「『シノビ・マイスター』は、どう呼べばいい?」
『どうぞ、主様の心のままにでござる』
「うん。だから、呼ばれたい呼び名は無い?」
『拙者に、でござるか?……許されるのであれば、「フウマ」と』
なんとなく遠慮気味に、『シノビ・マイスター』が答えた。
やっぱり、一緒に戦う仲間だからな。呼び方も、相手の気に入る呼び方にした方が色々と捗ると思うんだよね。
「そっか。じゃあ、よろしくなフウマ」
『は!』
「おー、これがカナタのサモンドスレイヴかー。しかも、何体か呼べる内の一体なんだよな?」
ユギカザさんが、椅子から立ち上がって近付いてきた。忍者装束のフウマを、結構ジロジロとガン見している。
「ええ、まあ」
『サモンドスレイヴ、『シノビ・マイスター』と申しますでござる』
フウマが、ユギカザさんに向かって丁寧に頭を下げた。ただ、結構無理やり「ござる」を語尾に付けてないか?
「ああ、俺はギルフォードライ王国国王のユギカザだ。……この姿は、カナンガ領にいると噂されているニンジャってヤツか?」
こっちの世界でも、彼らは忍者と呼ばれているんだ?そして、噂されているという事は、あくまでその存在は秘匿されているという事だな。
『はぁ……』
公に存在を認知されるとやりづらいからか、フウマは曖昧に言葉を濁した。さすがに、はいと堂々と宣言するわけにはいかないわな。
「まあ、それはともかく」
俺が、横から口を出す。
「フウマ。お前には、力比べの間ユギカザさんと王家の人達を護衛してほしい。もちろん、できるな?」
『は。影ながら、でよろしいでござろうか?』
「どんな事ができる?」
『王様には失礼をしまして。影に潜む事ができるでござる』
フウマは、ユギカザさんに近付くとその姿を消した。どうやら、ユギカザさんの影にその身を隠したらしい。
それだ!忍者だから、そういうのを期待したんだよ!
「おお?俺の影に入ったってのか?さすが、サモンドスレイヴだな!」
『この状態での会話も可能でござるが、そちらからは話しかけない方がよろしいかと』
フウマの声だけが、ユギカザさんの影から聞こえてくる。
「まあ、虚空に話しかける変な奴に思われるな。こちらからは話しかけないが、何かあればそちらから教えてくれるのだな?」
『王様にのみ聞こえるように耳打ちするでござる』
「おう、よろしく頼む」
『主様』
フウマが、影から出て来て俺に声をかけてきた。
「ん?なんだ?」
『拙者も、ダブル・ジョーカー殿とスケール殿に話して、主様の監視システムとの連動が可能になるようにしていただいてござるです。よって、拙者の見た物聞いた事を主様にダイレクトにお伝えする事が可能になっているでござる。あと、主様の言葉を拙者に離れていても伝える事も可でござる』
「スケールのっていうと、V2ホッパーか。そんな事ができるのか?」
『忍術『壁に耳あり障子に目あり』でござる』
魔力に匹敵する便利技、忍術キター!
「監視システム?」
「はい。俺は、仲間のサモンドスレイヴからこの王都を空から見張れるような力をもらっているんですよ。見えるのは俺自身だけなので、実演はできませんが」
スケールの車内モニターと違って、V2ホッパーは俺の脳内モニターだから他人には見せられないからな。まさか、ここでV2ホッパーを打ち上げるわけにもいかないし。
「ほう、そんな事までできるのか。さすがだな」
「俺の仲間が優秀なんですよ」
「だが、それを使役するカナタは更に凄いという事だろう?」
『拙者らが命を預けるに値する方でござる』
お前まで乗らなくていいんだぞ、フウマ。
「フウマ。あとお前にいくつか魔法を使っておく。その力を使って、ユギカザさん達を守ってくれ」
『御意』
「どんな魔法を使うんだ、カナタ?」
「はい。一つは、さっき使った『ミラーミラージュ』です。これを、ユギカザさんを対象に使って、フウマとコンボさせます」
俺は、手札として持っていた『ミラーミラージュ』をユギカザさんに見せた。
「コンボ?」
「フウマ。もし何か暴漢でも襲ってくるようなら、お前がこの魔法を発動してユギカザさんの姿を借りて撃退しろ」
『拙者が、王様と入れ替わるわけでござるのですな?』
「ああ。もちろん、入れ替わったお前もやられるんじゃないぞ?そして、ユギカザさん。その時はフウマが合図すると思いますので、発動と同時にその場を離れて下さい。その時には、ユギカザさんの姿は誰にも見えなくなっているので」
「なるほど。さっきのカナタのような状態になるわけだ」
ユギカザさんが、腕を組んでうなずいた。
魔法の効果は、さっき俺自身が使って確認したから多分大丈夫だろう。あと心配なのはフウマとの入れ替わりがうまくいくかだけど、そこはフウマに期待するのみ!
「あと、もう一枚のカードも使っておくから、頼むぞフウマ」
『主様の期待に、必ず応えて見せるでござる』
俺は、二枚の魔法をフウマに使うと、ユギカザさんの護衛任務に着かせた。もちろん、何も無ければそれにこした事はないと思ったんだけど。//
「バカな……。救世主が、事前に用意していただと……」
なんかあった時の念の為に用意していた策だったけど、まさか使う事になるなんてな。まあ、フウマを忍ばせていたからV2ホッパーの監視範囲外の王城内の様子も見れていたから、それだけでも役には十分立っていたんだけどな。
「ああ……。さすがは、カナタさん。なんて、なんて最高の人なんでしょう……。ああ、早くカナタさんをいただきたい……!」
トモヨちゃんが、顔を真っ赤にして恍惚の表情をしながらそんな事をつぶやいていた。
て言うか、俺がいただかれる立場なの!?
「よかった、あなた……。ありがとう、カナタさん」
ミチヨさんのホッとしたため息が、マイクを通じて聞こえてくる。
「さすがは、救世主様だ!」
「まさに、王国を救ったぞ!」
「よかったな、お前。カナタのおかげで、人類が絶滅する大戦犯にならずに済んでな。お前も、カナタに感謝するんだな」
ユギカザさんが、暗殺者に槍を突き付けて言った。
ん?どういう事?
「そ、それはどういう事だ?」
暗殺者も、ユギカザさんの言っている事の意味がわからなかったらしい。不思議そうに聞き返している。
「ふん、知らないのか?バトル・ファイオー前哨戦では、試合期間中に王が死んだらそちら側の敗北になるのだぞ?」
!そうだったのか!首都を落とされたら負けっていまいち曖昧な表現だと思っていたけど、要は王が討たれたら負けって意味だったんだ!それで、この世界の国は王制ばかりだったんだな。
だから、そういう細かい所をしっかり説明しろよダークネス!
「な……!」
暗殺者は、驚愕していた。この暗殺者も、その条件は当然のように知らなかったようだ。
「なんと、そうだったのか……」
「救世主様は、それを知って王を守っていたのか……」
評議会メンバーも、その事は知らなかったらしい。あの、議長のオッサンすら驚いた顔をしているよ。
あと、俺もそんな事知らなかったからな?だいたい、今日この日にバトル・ファイオーが始まる事なんてわかるわけないし。
「……バドラ?お前、バドラじゃないか!?」
突然、勇者が声を上げた。見ると、勇者は暗殺者に向かって声をかけている。
それを聞いて、暗殺者はバツが悪そうに顔をそむけた。
「……勇者。この男を、知っているのか?」
「は、はい。そいつは、私と同じ孤児院で育ったバドラ・モンスーンと言いまして、友達です。ただ、最近は私が孤児院から離れたので会っていませんでしたが……」
ユギカザさんに聞かれて、勇者が答える。
この暗殺者、名前はバドラ・モンスーンと言って、勇者と同じ孤児院出身の男らしい。それならば、当然勇者は知った顔だな。そして……。
「ほう……。これは、どういう事だトランド?その孤児院は、お前の経営する孤児院だったはずだな?当然、お前はこいつの事を知っているな?」
ユギカザさんが、オッサンに顔を向けて詰問した。
勇者と同じ孤児院出身ならば、それは当然あのオッサンの経営していた孤児院だという事。なら、オッサンが知っているのは当然だろう。
「ワ、ワシは其奴が誰に依頼されて暗殺を行ったのかは知りませんな!」
だらだら冷や汗を流しながら、オッサンが弁解する。
いや、オッサンよ。ユギカザさんは、誰に依頼されたかは聞いてないんだが?
「ほう。こいつは、誰かに依頼されて俺を殺しに来たのか?」
ユギカザさんが、更にオッサンに聞いた。そいつは確かにユギカザさんを殺そうとした暗殺者だけど、そいつ本人の意思で来たのか誰かに依頼されて来たのかはわからない。それを、わざわざ断言するなんてね。
オッサンも、自分の言った事の意味が理解できたのだろう。「しまった!」と言いたげな、そんな表情をしている。
こいつが評議会メンバーをステージに誘導したのは、戦いのどさくさに紛れて暗殺者をユギカザさんに接近させて、暗殺を実行させる為か。評議会メンバーがいれば、衛兵を大勢ステージに上げても怪しまれないってわけだ。
「バ、バドラならずいぶん前に孤児院を出て行ったはずですなぁ。その後、どうしていたかなどは、知りません。ま、まあ別にプロの暗殺者というわけではないのでしょう。もしプロの暗殺者ならば、任務に失敗したならば自害しておるはずでしょうからな」
何やら、焦って支離滅裂な事を言い出すオッサン。というか、これは……。
「くっ!」
暗殺者が、素早く立ち上がってステージを走り出した。その先には、何も無い。暗殺者は、ステージから外へと飛び出そうとしていたようだ。そこから飛び下りたら、恐らくバリア魔法にぶつかってそのまま城外へと放り出される可能性が高い。放り出されたら、まあまず死ぬな。
オッサンの奴、暗殺者との接点を消す為に自害するように命令を出したな!
「!おい!」
『そうはいかんでござるよ』
だが、暗殺者の進行方向にフウマが先回りしていた。
『そなたのような者の為に、主様は二手も三手も先を読んで用意をされていたでござる!受けるがいい、『ライドルン・ロープ』!』
フウマが、袖口からロープを飛ばした。
俺はフウマを護衛につける際、『ミラーミラージュ』と一緒に『ライドルン・ロープ』も発動させていた。暴漢は、大事な証人でもあるからな。即殺すよりは、取っ捕まえて洗いざらい吐かせた方がいい。
「んー!ん!」
フウマの放ったロープは、暗殺者の足と手を縛り上げ、口にも猿ぐつわを噛ませた。舌を噛んで自害するのを防ぐ、ナイスな縛り方だ。
「……さて、トランド?生き証人も捕まったが、言いたい事は何かあるか?」
「で、ですから!ワシは何も関係無いと……!」
焦った様子で、それでも否定するオッサン。
けど、今のはあまりにもあからさまだったぜ?暗殺者は、明らかにオッサンの言葉を聞いて行動を起こしていたんだから。
「それは、どうかな?」
突然、誰かの声が響いた。そして、どこからともなく聞こえてくるカンコーンという、謎の音。
「え?」
その声を出したのは、ノオトくんだった。
ノオトくんは、ユギカザさんの隣まで歩いてくる。
「ノオト?」
「トランドさん。あなた、こんな事を言っていましたよね?」
そう言うと、ノオトくんは懐からカードを一枚取り出した。そして、同時に大きめの鉄でできた扇を取り出す。
「チョクメイ発動、『吹き込みマッスル』!」
ノオトくんは、鉄の扇を開いてカードをセット、魔法を発動させた。どうやら、あの鉄扇が彼の魔札道具だったみたいだ。
そして、発動した魔法はさっきから音楽を再生させている、勅命カードの『吹き込みマッスル』。
魔法の発動と同時に、誰かの会話が聞こえてきた。『吹き込みマッスル』は、音楽だけでなく音であればどんな物でも記録、録音ができる魔法だったようだ。つまり、あの魔法自体がICレコーダーみたいな物かな。
“「ロキヒノ王子は、生き残ってしまったか」”
“「山賊か人拐いドラゴンのどちらかの討伐で、ロキヒノ王子が死ぬと踏んでいたのに、失敗しましたな、議長」”
“「まったく……。わざわざバカ王子にのみ教えた上で、ろくな人員が揃わない内に出発させたというのに。運のいい奴め。ワシが王になる為には、王族が絶たれなければならないというのに」”
声は、そんな事を話し合っていた。その声は、オッサンと前哨戦の一番最初に殺されたコシギーンとかいう評議会メンバーの会話だな。
「トランド様……」
「今のは一体……」
他の評議会メンバーが、オッサンから距離を開けた。その声は、誰が聞いてもオッサンとわかるくらい、鮮明な録音だったのだ。いつ録った物かは知らないけど、ロキヒノが助かった事を話しているって事は、つい最近の事か。
「僕は、あなた達が話しているのを聞いて、録音していたんですよ」
「やるじゃないか、ノオト。トランドよ、何か申し開きはあるか?」
ユギカザさんが、ノオトくんの頭を撫でた後、衛兵に手で合図をした。それに合わせて、何人かの衛兵がオッサンに近付いていく。
「だ、だからワシは……」
追い詰められようとしていたオッサンは、急に懐に手を入れて何かを取り出していた。取り出したのは、パスケース。つまり、パスケース型魔札道具か。
「チョクメイ発動!『タマヤーポム』!」
オッサンはパスケースを、ステージに向けて放り投げた。
「いかん!」
ユギカザさんは、咄嗟にミチヨさんに駆け寄ってその耳を塞いでいた。ミチヨさんも、ユギカザさんの耳を両手で塞ぐ。
次の瞬間、パスケースは破裂した。強い光と音が、ステージ上に発生する。
オッサンの発動した魔法は、勅命魔法の『タマヤーポム』。カードゲームの効果は相手の発動コストを1減少させる効果だけど、現実の魔法効果は激しい光と音を発生させて相手を昏倒させる魔法らしい。
殺傷能力の無い魔法みたいだけど、破裂がステージ中央で起きた為に集まっていた衛兵の多くが直撃を受け、昏倒してしまう。
ユギカザさんとミチヨさんは耳を塞いでいたので助かったけど、問題は多くの衛兵が倒されてシールド魔法を展開する人間までいなくなった事。
「今じゃ!」
その混乱の隙を突いて、オッサンが逃走した。
「ト、トランド様!」
「トランドはこの際構うな!衛兵は、評議会メンバーを守れ!」
シールド魔法を使う者が消えた事で、魔物が直接ステージに攻撃を仕掛けられてこれるようになってしまったのだ。この状況では、オッサンの追跡に人員を割くわけにはいかないよな、そりゃ。
「『シノビ・マイスター』!迎撃を手伝ってくれるか!?」
『もちろん。王様方を守る事が、拙者の任務でござる!』
クナイや手裏剣を放ち、魔物の迎撃に向かうフウマ。敵は多いけど、何とか凌いでくれよな!頼むぞ、フウマ!




