第5話その2
次のミッションは、宿屋探しだ!
「そうだ、二人とも!」
役所から離れようとした俺達に、入り口から顔を出したメィムが声をかけてきた。まだ荷物を抱えている所をみると、担当部署に行く前に戻ってきたようだ。
「『?』」
「あたしらが戻ってくるまで、そこで待ってなさいよね?」
「勝手にどこか行かないでね?」
「すぐに戻ってきますから」
それだけ言って、三人はまた中に戻った。それだけを伝えに、わざわざ戻ってきたらしい。
『なんだろ?』
「さあ?」
よくわからないが、三人がわざわざ戻ってきたくらいだ。もしかするとドラゴンに関しての事情聴取でもあるのかと思って、俺達は待つ事にした。「このドラゴンは彼女らが本当に倒したのか?」とか聞かれたら、全力でうなずいてやろう。
すぐに、と言っていたが意外と時間がかかり、三つ目の太陽も消えてしまった。
家の玄関先に掛けられたランプに、それぞれの家が火を灯している。街灯も無いし電気も無いので、町の灯りはランプ頼りか。
「魔法で明るくしたりしないのか?」
『魔法でやると、明るくしてる間常に魔力を消費し続けないといけないからね。ランプの方が効率はいいでしょ?それに、外に立ってなくちゃいけないし』
「ふむ……。それもそうか」
とりあえず、雑談で時間を潰す。
「あ~、もう!依頼したなら用意もしときなさいよ!」
役所から、メィム達がようやく出てきた。結局、俺達は呼ばれなかったな。
「なんか、半分諦めてた感じだったね?」
「何組も懸賞金稼ぎの人達が、返り討ちに遭っていたみたいですし」
「よう、終わったか?」
俺とマホは、三人に近付いた。
「ええ。悪かったわね、待たせて」
「ごめん。もう、暗くなっちゃったね」
「お待たせしました」
『なんだか、時間掛かったね、手続き?』
「これがさぁ。懸賞金貰いに行ったら全然用意してなくて、そっこから一から集め始めたのよ。役所中のお金を集めても足らなくて、職員の人達の財布からも出してて」
メィムが、ため息混じりに言った。役所、まさか倒されるとは思ってなかったのか、懸賞金を用意していなかったらしい。いや、懸賞金懸けたのオメーらだろ?
「その間、ず~っと待たされちゃった」
「ドラゴンの頭は見物に来る職員の人多かったですね」
「確かに。一目見ようって感じでごった返していたわね。あのまま行くと、記念の展示室とか作るかもね」
「帰る時、万歳三唱で見送られて恥ずかしかった~」
リゥムが、赤くなった頬を押さえていた。よかったぁ、行かなくて。
「まあ、めっちゃ感謝されるのは悪くない気分ではあったけどね。まあとにかく、時間は掛かったけど懸賞金は貰ってきたわけよ。で、はい。これ、二人の分」
「『え?』」
メィムが、何かの包みを俺とマホに差し出してきた。今の言葉を聞く限り、それはもしかして懸賞金の一部?
「二人の分ってなんだ?」
『え?もしかして懸賞金?』
「そうよ。二人も戦ってくれたし。そもそも、竜を倒したのあなた……カナタさんだし。本当なら取り分一番多くするべきなんだけど、そこは五等分で許して?」
どうやら、本当に俺達にも懸賞金を分けるつもりだったらしい。と言っても、俺達はただ通りすがりに巻き込まれただけだし、自分自身にも危険が迫っていたから戦っただけだしな。仕事でやっている人の分を目減りさせて、俺らが貰うのはちょっと……。
『そ、そんなのいいよ?わたし達、たまたまそこにいただけだし、自分達が助かりたいからやっただけだから、お金なんて別に……』
マホが、両手を振ってそれを辞退していた。うん、同じ事考えてくれていて、なんだか嬉しいぞ。
「いいから!」
けど、メィムは包みを強引に俺達の手に握らせた。そこそこ重いし、チャラチャラ音がするので、これは硬貨かな?
(『この世界に紙幣は無いからな』)
(ああ、そうなのか)
「竜の軍団を倒して貰って、ボスも倒して貰って、ここまで運んで貰って。なのに懸賞金だけはこっちの懐にポイッ、なんて懸賞金稼ぎとしてのプライドが許さないのよ」
「今回はね~。私達あんまり働かなかったし、気にしないで受け取って?」
「むしろ、楽しすぎました」
「うーん」
俺は、包みを見つめた。どうも、働いている女の子からお金を貰うっていうのが、なんとなく抵抗あるんだよな。
「……さっきヒナギにも言ったけど、あんまり遠慮されるとこっちも傷つくからね?」
「あ」
メィムに言われて、俺は気付いた。この状況、さっきのヒナギと同じだ。
俺は、大きく息を吐いた。
「了解。そういう事なら、まあ受け取っとくよ」
『うん。ありがとう、メィムちゃん、リゥムちゃん、ヒナギちゃん』
俺達は、それを受け取る事にした。まあ、なんだかんだ言っても金が入るのはありがたい。無一文だったからな、俺。
「うんうん。それでいいのよ」
「どういたしまして」
「こちらこそ、ありがとうございます、です」
『彼方くん、リュックに入れておいて?』
「わかった」
とりあえず、貰った金は俺のリュックに二人分入れておく事にした。
(銀行とかあればいいんだが……)
(『銀行はあるにはあるが、預けるだけで利子とかつかないし、下ろす為には預けた町の預けた銀行に行かなければならないから、その町に住み着く人間でないと不便だぞ?』)
(そうなのか?そうか。俺達はこれから、あちこち回る事になるだろうから、銀行に預けるのは得策じゃないな)
(『そういう事だ』)
銀行は、俺には用無しだな。
(ちなみに、今回貰った……五等分だから二万ギルガメか?貨幣価値としてはどれくらいのレベルに当たるんだ?)
(『十万ギルガメあれば、一年は遊んで暮らせるくらいだ。五分の一でもまあ、しばらく金には困るまいよ』)
(そんなになのか!?……あれ、あの万策尽きしカバって意外に強敵だった?)
(『我にとっては雑魚だが、人間にとっては厄介な相手だったかもな』)
(そっかぁ。最初からダブル・ジョーカーいてくれて、俺ラッキーだったな)
(『感謝なら、真穂嬢にするのだな』)
(だな。真穂がお前に惚れてくれて、感謝感謝)
(『ん……』)
真穂、サンキュー!
「二人って、この辺住みなの?それとも、立ち寄っただけ?」
俺が仕舞っている間、マホが三人と話していた。
『わたし達は立ち寄っただけだよ。メィムちゃん達は?』
「私達も、仕事で来ただけだよ」
「昨日来て、どれくらいの期間になるかと思っていたのですが……。まさか、一日で終了するとは思いませんでした」
『!昨日来たって事は、今日はホテルに泊まるんだよね?』
マホが、ヒナギの言葉に食い付いた。お、寝床見つかりそうか?
「は、はい。さすがに、もう暗くなってしまいましたので…」
『じゃあ、案内してよ。わたし達、まだ今夜泊まる所も決めてないんだ』
「あら、そうなのね?いいわよ、案内してあげる」
『やったぁ。彼方くん、ホテル連れてってくれるって』
「そうだな。じゃあ、ホテルを紹介してもらおう」
俺は金をリュックに仕舞うと、リュックを担いで立ち上がった。
「オッケー、ついてきなさいな。迷子になっちゃ駄目よ?」
何だか引率の教師みたいな事を言って、メィムが先頭切って歩き出した。
「さすがに迷子にはなんねーよ」
俺達は、メィムについていった。
到着したのは、ホテル『宿屋』。宿屋という名のホテルらしい。
「どっちなんだよ……」
思わず、俺はツッコミを入れた。
「さて。入る前に一つだけ確かめたい事があるんだけど?」
メィムが、やけに真剣な顔をして尋ねてきた。
「?なんだ?」
「カナタさんとマホって、兄妹?」
何を聞くかと思えば。人間と天使だぞ、俺達。兄妹には見えんだろ。
「いや、違うぞ?」
『うん、違うよ』
「じゃあその……。恋人?」
「それも違うな」
『……違うね』
相手カードの精霊だしな!カードには欲情しねえな、さすがに。いや、マホはかわいいけどね!見た目は、超美少女!
ホゥとため息をヒナギがついていたが、なんだろ?
「わかったわ。じゃあ、行きましょう」
よくわからない確認を済ませて、俺達はホテルの中に入った。まあ、その理由はすぐにわかるんだが。
部屋は空いていたので、部屋を一つ用意して貰った。
「そりゃまあ、家族でもない、恋人でもない男女を同じ部屋に泊めさせるわけにはいかないでしょ」
それが、理由だった。うん、まあそれはいいんだが。
『いいの?わたしがメィムちゃん達の部屋に泊まって』
マホは、メィム達の部屋に一緒に泊まる事になった。
「いいわよ。元々、三人で一部屋借りてたし」
「後から追加だから、マホちゃんは半額なんだって」
「ベッドも二つありますから、二人ずつでいいですし」
三人も一つの部屋で泊まっていたから、問題無いらしい。半額で金が浮くというのは魅力的だが、問題は泊まるのがマホだという事だ。
百合の女王だぞ、あいつ。
「マホ……。間違っても三人に手を出すなよ?」
俺は、小声でマホに耳打ちした。
『いくらわたしでも、今日会ったばかりの子達にいきなり無茶な事はしないよ~。今回は、スメルだけ。しかも、三人共アレみたいだし、最高のスメルが堪能できそう~』
マホも、耳打ちで返してきた。案の定、かなりヤバイ感じか。変に暴走して、ボロを出さない事を祈るしかないな。
俺達は、一旦部屋に上がった。荷物を置いてから、食堂に集合して夕飯をとる事になる。
「……風呂とトイレはあるか」
俺は、ざっと部屋の中を確認した。電話やテレビは無く、トイレやバスは完備している。水道らしき物のコックを捻ると、水が出る。
「水道というインフラはあるのか?電気は通ってないみたいだが」
『いや。このホテルでは屋上のタンクに魔法で水を溜め、各部屋に下ろしているだけだ。上下水道システムは、この世界には無い』
「つまり、再利用システムが無いから使った分はそのまま捨てるってわけか」
『そうなるな』
キュビーン!閃いた!
「つまり、上下水道のインフラ設備の特許を取って広めれば、現代知識で大儲けができて無双できるって事か!?」
これぞ、異世界物の王道!
『君はそれを広められるほど、上下水道システムに詳しいのかね?』
「いいや、まったく!上下水道なんて勉強した事無いな!で、ググろうにもスマホは使えないよな?」
『オフラインの物は使えるだろう。ググるのはまあ、ここに電波が届いているわけないからな。諦めてくれ』
なるほど、つまりは。
「よし!現代知識の敗北だ!」
『いや、敗北したのは君の知識量だと思うが……』
とりあえず、俺は夕飯を食べに出る事にした。




