第1話
頭の病気のリハビリに書いていた物が溜まったので、投稿してみます。
古き善きなろうの王道を目指してみました。よろしくお願いします。
「本当に来た……」
目の前に広がるのは、緑の山々と青く澄んだ空。
そして、その空を飛んでいるのは……翼を羽ばたかせるドラゴン。緑の草原を駆けるのは、3メートルを超える大きさの……ハリネズミ?
「本当にここが……」
『そうよ』
俺のつぶやきに、側にいた少女が答える。
『ここが、箱庭世界エクディウム。まあ、俗に言う異世界ね』
「あー、うん。そうだね」
俺には、そう返すしかなかった。さっきからの謎の生物もそうだし、そもそも空には太陽が三つもあって、なぜかグルグルと回っている。
うん、異世界だ。
俺の名前は、遠野彼方二十歳。生まれも育ちも日本人の、ただの平凡な大学生をやっていた男だ。
そんな俺がなぜこんな異世界にいるのかというと、話は数週間前に遡る。
「さあ、彼方くん!行くよ!」
大学の授業が終わると、幼なじみの桜咲真穂が声をかけてきた。彼女は、生まれた時から隣に住んでいる幼なじみで、俺にとっては家族のような存在だ。
容姿端麗で運動神経も抜群、人当たりもいい美少女と評判で、高校では本人非公認のファンクラブがあったくらいだ。おかげで、俺は幼なじみだというだけでやっかみを受けたり、ファンクラブの連中に仲間に引き入れられそうになったり、大変だった。
当の本人は、
「わたしにはダブル・ジョーカー様がいるから」
と言って、ファンクラブもラブレターも総スルーだったが。
ダブル・ジョーカーというのは、真穂と俺がハマっていたゲームのキャラクター、というかカードの『ダブル・ジョーカー・ドラゴン』の事だ。真穂は、「魔王でFight!Oh Yeah」というカードゲームにハマっていたゲーマーだった。
魔王でFight!Oh Yeah(通称魔フォー)は、俺達の元いた世界で流行っていたカードゲームだった。
ゲームのプレイヤーは魔王となり、下僕たるサモンドスレイヴ (俗に言うモンスター)や、魔王の勅命(自分のターンのみ使えるカード)や魔王の召し物(サモンドスレイヴに装備するカード)、魔王の名の下に(相手のターンのみ使えるカード)を駆使して敵魔王を倒すゲームだ。
真穂は、そのサモンドスレイヴの中でも『ダブル・ジョーカー・ドラゴン』というカードが大のお気に入りだった。
まあそれはとにかく、真穂はカードゲームオタクなちょい残念美少女だった。他にもまあ、残念な点はあったけど、彼氏の一人もいないのは不思議な所だった。
なんだろう、美少女には近付けないとかなんだろうか?
その日俺達は、魔フォーの新カードの発売の為に行きつけのカードショップでカードを大人買いして、帰宅していた。
「ああ、楽しみだな~。どんなカードが入ってるかな?」
「相変わらずフラゲには目を通さないのな?」
「フラゲはね……。早く知りたい気持ちはあるけど、やっぱりパックを開封するドキドキワクワクは失いたくないし」
「まあ、そうだな。情報無しからの運命の一枚に出会えたら最高だもんな」
「そうそう。まあ、ダブル・ジョーカー様には敵わないとは思うけどね。……なんか、今日やけにサイレンが聞こえない?」
真穂の言葉に、俺も気付いた。やけに多くのサイレンが、聞こえてくる。
「消防車?」
「いや、この音はパトカーじゃないか?」
「あ~、パトカーか。……なんか近付いて来てない?」
真穂の言う通り、パトカーのサイレンは近付いて来ていた。音が重なっているので、何台もいるようだ。
「なんだろうな?」
俺達が首を傾げるのと、道の先の角を曲がってワンボックスカーが現れるのが同時だった。そのワンボックスカーは、とんでもない速度で暴走していた。
「「あ」」
後ろにパトカーが現れて、そもワンボックスカーが追われている事に気付く。
ワンボックスカーは、猛スピードで迫ってくる。俺達二人に。あまりにも咄嗟の事で、体が硬直する。
「彼方くん!」
叫び声が聞こえた瞬間、俺は弾き飛ばされていた。それが、真穂が俺を突き飛ばしたと気付いた時には、遅かった。
ドンという嫌な音と共に、真穂が飛んだ。
ワンボックスカーは俺の前を通り過ぎ、真穂を撥ね飛ばしてその先の電柱に激突した。
「あ……。ま、真穂……?」
撥ね飛ばされて地面に倒れた真穂は、一度だけ血まみれの顔を上げて、小さく微笑んだ。
「……良かった……」
それが、俺が最後に聞いた真穂の言葉だった。
「真穂ー!!!」
桜咲真穂、享年二十歳。彼女は、俺を庇って死んだ。
後から聞いたが、真穂を撥ねたワンボックスカーは銀行強盗で、パトカーに追われて滅茶苦茶に逃げ回っていたらしい。強盗犯はその後逮捕されたが、無関係な犠牲者を出した事で警察は「無茶な追跡だったのでは?」と連日報道で叩かれている。
マスコミは俺の所にも取材に来たが、全て断ってもらった。
真穂は、俺を助ける為に死んだぞ!どう思うかだと?てめえらマスコミ含めてぶっ殺してやりたいわ!
真穂の両親も妹の歌穂ちゃんも、俺の両親も誰も俺の事は責めなかった。
「真穂の分も生きて」
そう言って、真穂のお母さんの果林さんが俺に一枚のカードをくれた。それは、『ダブル・ジョーカー・ドラゴン』。真穂の形見だ。
俺は、ずっと何日も引きこもっていた。ただ、形見の『ダブル・ジョーカー・ドラゴン』を見つめて過ごす。ポッカリと、胸に穴が開いたようだ。
「こんな事なら何か……」
ずっとそうやっていて、正直意識が朦朧としてきていた。このまま死んでしまえば、あの世とやらで真穂に会えるかな。そんな事も考えた。
『ここで死んでも、彼女には会えないぞ』
突然、誰かの声がした。
「?」
濁った目で部屋を見回すが、部屋には俺が一人いるだけ。
「幻聴まで聞こえてきたか……。どうせ聞こえるなら、真穂の声でも聞こえればいいのに」
『マホはマホでも、わたしはあなたの真穂ちゃんじゃないけどね?』
「!?」
今度は、女の子の声が聞こえる。でも、やっぱり部屋には誰もいない。
「?なんだ、さっきから?」
『ちゃんと、目を開けるがいい』
『そして、わたし達を見て』
「!?」
俺は、目を開いた。
目の前に、背中に羽の生えた女の子が立っていた。そして、その横には体が緑と黒のまだら模様で右腕が黒、左腕が緑色をした謎の生物……これはドラゴン?
その二人?に、俺は見覚えがあった。
「『ハーレム・クイーン・マホ』と『ダブル・ジョーカー・ドラゴン』!?」
俺は、思わず叫んでいた。
そこにいたのは、魔フォーのサモンドスレイヴそっくりの……物体だった。
女の子は、俺のデッキのフェイバリットカードで、聖天族の『ハーレム・クイーン・マホ』。カードとしてはそれほど強くないあまり使われないカードだけど、なんとなく気に入って使っていたカードだ。
もう一体の『ダブル・ジョーカー・ドラゴン』は真穂のフェイバリットカードで、魔竜族の中でも上位に位置するカードだった。まあ、真穂は一目惚れしたとかで能力関係なく使っていたが。
そんなカードのイラストでしかなかったはずの彼女達が、なぜか目の前にいる。それはつまり……。
「これは夢って事だな。なんかボーッとしてたから寝落ちしたか?」
『夢でも無いし、我らは幻覚でも無いぞ』
『そして、あなたの真穂ちゃんがいなくなった事もね』
俺の幻覚のくせに、こいつらは現実を突き付けてくる。やめろよ。現実なんか、もういらないんだよ!
『まったく……。そんな様じゃ、真穂ちゃんを探しに行けないわよ?』
カードのマホの言葉に、俺は顔を上げた。なんだって?真穂を探しに行くって?
「何を……。何を言ってるんだ、このスットコドッコイが!真穂は死んだんだぞ!俺のせいで!」
俺は、思わずカードのマホの胸ぐらを掴んだ。
ん?幻覚かと思っていたが、触れるぞ?
『別にあなたのせいではないでしょう?あなただって巻き込まれた被害者。あの場で悪いと言えるのは、銀行強盗と彼らを追い詰めた警察よ』
「それは、そうだけど……」
カードのマホは、俺の手を両手で外した。やっぱり、体温がある。
「……これ、現実?」
『そうよ?さっきからそう言っているでしょう?』
「え、じゃあその翼は?作り物じゃなくて?」
『本物よ。失礼ね』
カードのマホは、ふるふると翼を動かした。手では一切触れず。
「じゃあ、こっちのダブル・ジョーカーも着ぐるみではなくて?」
『当然であろう?触ってみればわかるだろう?』
触ってみると、感触は鮫肌のような感じで、その上体温を感じられる。そのせいで、俺は更に混乱する。
「え?つまり……、今俺の目の前では何が起こっているんだ?カードのサモンドスレイヴが実際に存在して、しかも死んだはずの真穂を探しに行けって言っている?いや、マジで何が何だかまるで意味がわからんぞ!?」
どう考えても夢にしか思えないのに、これは現実だと言う。現実?現実って、なんだ?未確認生命体と話すのが、俺の現実か?




