第2章:夢か真か
人々の行き交いが絶えないここは、ユーバの数多くの都市でも一、二位の賑わいをもつ都市エンタールのとある場所である。その場所は、ビルとビルの間に作られた空中公園であり、人々にとって恰好の待合い場所であった。
ゼロは、そこの中央に設けられた噴水に向かって設置されているベンチでシェイルを待っていた。約束の時間よりもかなり早く着いたので、ゼロは目まぐるしく形を変える噴水をただ眺めていた。横から人か近づく気配がする。
「ごめんなさい。待たせてしまって」
申し訳なさそうな顔でシェイルがやってきた。ゼロはすくに立ち上がり、シェイルを迎える。
「いいえ。元々早く着くつもりで家を出たので、それにまだ約束の時間にもなっていませんし気にしないで。さあ、行きましょう」
シェイルは納得できなかったが、ゼロが構わず歩き出したので、しかたなくついて行く。シェイルはゼロの傍らを歩きながらゼロの顔を伺う。どうやら機嫌は良さはそうだ。カッコイイ顔してるなあ、とじっと見つめていることに気づきシェイルは頬を赤く染め慌てて前を見る。
「シェイルさん」
急にゼロから声を掛けられたシェイルは声を裏返しながらも返事をした。
「ところでどこに行きますか?」
「服を買いに行こうかと。場所は分かるので、私が案内します」
それから二人の会話は止まってしまった。シェイルは私から誘ったんだから私から話さないと、思い何を話そうか考える。しかし先に話したのはゼロだった。
「シェイルさんは、ここに来るの初めてですか?」
「いいえ。2度目ですよ」
「広いですよねここ。クーロイスには連絡橋はありましたが、空中公園なんていう広さのものはありませんでした」
二人の横を子供たちが元気よく走り去って行く。
「そうですよね。私も初めて見たときはびっくりしました。大きな木があったり、噴水があったり。とても開放的で、いいなあと思いますけど。一度雲よりも高いところからビルを見下ろすのってどんなふうだろって興味本意でやったことがあるんです」
「どうでしたか?」
「百聞は一見に如かずです。」
シェイルはゼロの手を引き、空中公園の端まで連れて行く。ゼロは、手すりを握り締め見下ろす。真下は、薄い雲で覆われているものの、その少し先にはシールドパイプや、車道を見ることができる。横を見ればゼロと同じように下を見ている人が少しばかりいた。
「どうでしたか?」
いつの間にかシェイルが顔を上げこちらを見ていた。
「よくこんな所に公園作ったなあって。そろそろ、服を買いに行きますか」
任せてください、とシェイルは笑顔で応えた。
目的地に着くと早速シェイルは服を選び始めた。ゼロも服を選びに行く。ゼロは上着を二着買うとまだ選んでいるシェイルの元へ行く。
「ごめんなさい。どれにしようか迷っていて」
シェイルは三、四着手にしている。これが似合いますよ、とゼロはその中から一着を指差した。
「そうですか。じゃこれにしようかな」
シェイルは、ゼロからすすめられた服を買った。さりげなくゼロは、シェイルが持った買い物袋を手にする。
「持ちますよ」
「すみません。ありがとうございます」
「そろそろ、お昼ご飯にしませんか?」
「そうですね。何か食べたいものとかありますか?」
「ここの郷土料理なんてどうですか」
シェイルはうなずき、ユーバの郷土料理があるレストラン街へ向かった。レストラン街には、十店舗ほど各国の郷土料理店が並んでいた。ユーバの料理店の入るとウエイトレスが二人に声を掛ける。
「いらしゃいませ。何名様ですか?」
「二名です」
「二名様ですね。では、ご案内いたします」
二人は大きな窓側のテーブル席に案内された。
「ごゆっくり、おくつろぎください」
ウエイトレスは、その場から離れ持ち場に戻っていった。
「どれにしますかゼロさん」
シェイルは、置いてあったタッチパネルを手に取った。ゼロは、迷わずオススメと書いてある料理に手を触れる。シェイルは別の料理を選んだ。三十分くらいたつと頼んだ料理が運ばれてきた。
「以上でよろしかったですか」
二人がうなずくとウエイトレスはこの場から去った。
「このあと、どうしますか。ゼロさんはどこか行きたい所はありますか?」
「特にないですが、どんな店があるのか歩き回りたいです」
「そうですね。私もあまりここに来たことがないので、そうしましょう」
支払いは注文と同時に行われているので食事を済ませると二人は話しながら店を見て回り始めた。