第1章:夜明け
共和国領バルンジ銀河団所属オルク銀河百十六区第七惑星クーロイス。
4度目となる共和国と帝国の戦争中、帝国軍の無差別爆撃によって壊滅。終戦後、再建のため支援金が共和国から提供される。
しかし、その額は十分な量でなくやがてクーロイスはオルク銀河一の貧困国となる。
日が暮れクーロイスを深い闇が包み込む。そして、クーロイスは満天の星空の光りと首都セレンピアスの微かな光りのみとなる。
街灯が一つもなく、あたり一面廃墟と化した大通りを会社帰りの女性が一人歩いている。その女性が歩く道の両脇には、薄汚れた服を着た者が数人、彼女に物乞いをしている。
他にも、じっと見つめてくる者がぽつぽつと崩れかけた超高層ビルから現れる。いつものように彼女は、うつむいて軽くそれを受け流しそそくさと歩く。
セレンピアスまで後1キロぐらいの所で彼女は珍しい光景を目にしたため、その方へ歩み寄った。
「僕、どうしたの?」
彼女は座り込んでじっとしている小学生くらいの男の子に、優しく声をかける。たいてい戦災孤児は同グループの中に入り、今ごろなら夕食をとっているはずなのだが、その男の子の周りには人っ子一人いない。
彼女はそんな男の子の前に、しゃがみ込み再び声をかける。
「お友達はどこにいるの?」
その男の子は下を向いたまま少し首を左右に振った。
「私はエリシア、イクル・エリシア。君の名前はなんて言うの?」
エリシアに続き男の子が応える。
「ストラウド・ゼロ」
「ゼロ君は一人なの?」
ゼロはゆっくりとうなずく。
「夕食は食べた。家はどこ?」
エリシアはまた質問した。
「食べてない。帰る場所……」
そう言ってゼロは口を閉じ黙り込む。
エリシアはどうしようと少し考えると、優しい声で私のうちに来ると言った。ゼロは少しの間考え込む素振りを見せた。そして顔を上げ、うんと返事をする。
「ピッピッピッ。ピッピッピッ」
時計が真っ暗な部屋に朝の訪れを告げる。数分後その音は勝手に止まり、再び闇の世界に静寂が訪れる。綺麗な茶髪の男がベットから体を起こし、眠気覚ましに頭を強く振った。
ウォールリンク(壁に窓のように取り付けられたスクリーン)が外の様子を映し出す。それによって、部屋が明るくなるとベットの近くの机に置かれた携帯端末が機械音で喋り出した。
「おはようございます。メールが一件届いています。再生しますか」
男は端末にぶっきらぼうに再生してくれと答えた。
「再生します。アレンだゼロ、今日は訳有って一緒に行けなくなった。時間になったら一人で行ってくれ。……以上です」
再生された耳障りな男の声にゼロと呼ばれた男は、一緒に行っているつもりは無いのだがと思いながら、携帯端末を腕に取り付け寝室を出る。
リビングに入ると部屋にある照明、テレビ、エアコンが自動的に電源を入れ動き出した。ゼロはキッチンに行くと冷蔵庫からおもむろに冷凍食品を取り出し、調理機に入れる。
テレビを見ながら朝食をすませ、身だしなみを整える。そして軍服に着替えると、すぐさま家を出た。
ゼロはエレベータターミナルまでの長い廊下をウォールリンクが映し出した首都コーバを見ながら歩いていった。
エレベータターミナルに着くと駅がある上の階へ行くエレベータに乗る。
百人ぐらいが裕に乗れるそれは安全を確認した後、扉を閉め動き出した。
駅のある階に着くと、大勢の人が一斉にエレベータから降りる。その人の波に飲み込まれるようにゼロも降りた。
ゼロはそのまま、改札口へ向かい腕の携帯端末を改札機にかざす。ピッという音と共にバーが開きゼロは通り抜けた。
しばらくの間ホームで列車を待っているとアナウンスが入る。
「まもなく3番乗り場にフインディー行き列車が参ります」
レールのない透明な円形の筒の中を列車が静かに走って来た。列車がホームに入って来るとシューと空気が入ってくる音がし始めた。列車が止まり、列車のドアとその付近の筒の一部が開く。ゼロは2両目に乗った。車内には、軍服を着た者が数人見受けられる。
耳鳴りに近い高い金属音をながしながら列車は静かに動き出した。ゼロは5つ先で降り、軍の教育センターに向かって歩きだした。
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