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第4章:一歩前へⅢ



 試験当日、教育センターはいつもと変わらぬ朝を向かえた。

 ゼロとシェイルは教育センターのカフェで話しをしている。二人は昨日、ミングから譲り受けた映画のチケットを無駄にせず、息抜きとして見に行っていた。



「あと2時間だよ。どうしよう、不安になってきた」


「大丈夫だ。自分を信じろ」



 シェイルは頷くが、不安な様子は変わらない。時間が近づき、二人は試験室に向かった。

 予め指定された席に座り、教官が現れるのを今か今かと待つ。候補生がそろったところで、三人の教官が入ってきた。

 ゼロは、後ろの方の席だったのではっきりとは分からないが、おそらくグヴェー教官とライマット教官、ルミリオン教官であろう。

 その内の一人が話し出す。グヴェーの声だ。



「今から、第一試験を始める。各試験時間は2時間。休憩時間は5分。昼食は二科目の試験後の30分で済ませろ。以上。質問がある者はいないか? それでは、くれぐれも不正が無いようにな」



 机の画面に試験問題が映る。始めの合図と共に候補生たちは一斉に手を動かした。

 候補生は仕切りで覆われ、内側からは外が見えないようになっている。試験室全体がピリピリとした空気で包み込まれていた。

 試験終了5分前になると、残り時間が解答欄の横に出され、終了と同時に画面が真っ暗になった。


 息つく暇も無く、次の試験が始まる。計算問題が最も多いこの試験は、最大の山場であり、合否を左右する大事な試験だ。候補生は最後の最後めで取り組み、心身を削る。

 急な坂道を登りきった後は、緩やかな下り坂が待っている。緩やかといっても、その分長い。ここからは、集中力との戦いなのである。最後までそれを保った者だけが生き残れるのだ。


 全ての試験が終わる頃には、太陽の面影は無く日付も変わりつつあった。完全消灯時間をとっくに過ぎているので、この日はセンターで夜を明かすことになる。

 途轍もなく長い一日が終わり、ペア毎に振り分けられた部屋でゼロとシェイルは食事をとっていた。センター内のホテルは思っていたよりも広く豪華だ。部屋は5つもあり、設備は全て最新のもの。全面ウォールリンクに体感型テレビ、世界中の料理を網羅する全自動調理器までよりどりみどりである。

 二人の間に会話は無く、お腹を満たすとすぐにベットに身を委ねると、泥のように眠った。




 ユーバ特有の強い朝日がビルを輝かす。ウォールリンクが起動しゼロの顔を照らした。端末が朝の訪れを知らせるが、ゼロは微動だにしない。

 それからしばらくして目が覚めたゼロは、動くのもままならなかったのでベットからテーブルの上の端末に手を伸ばす。伸ばした手を振ったり、パタパタしてみても一向にとどかない。

 天井で鳥たちが音も無く飛び去った。仕方なく、重い腰を上げベットから抜け出した。ゼロは手櫛で髪を直しながら端末の電源を入れ、服を着替える。



「メールを再生してくれ」



  早朝には似合わない無機質な音声で端末が応える。



「メールは一件です。軍教育センターからです。再生します。試験お疲れ様でした。試験結果は合格とさせていただきます。詳しい結果はセンター本部までお越しください。以上です」


「テレビをつけてくれ」



  三次元の映像が小さなポットから現れた。ニュースキャスターの声は確かに耳に入ってきたが、頭にはぜんぜん入らない。部屋の管理システムがしゃべりだした。



「只今11時30分です。朝食はいかがなさいますか」


「何でもいい。シェイルは起きているか」


「ハイ。30分程前に」



 ゼロがリビングに入ると、シェイルが朝ご飯をテーブルに並べていた。



「あっゼロ、おはよう」



 シェイルが振り向き眠そうに目をこすっているゼロに声を掛ける。



「おはよう」



 シェイルが欠伸をする一つし、椅子に座った。シェイルを見つめていたゼロもつられて欠伸をする。



「試験どうだった?」



「合格したよ。シェイルは?」



 私も、と返ってきた。二人は喜ぶべきであったが、今はまだそんな気力さえ無い。昼前にはホテルを出て自宅に戻った。




 玄関のドアを開けるとユオンが尻尾を振って歓迎してくれた。



『随分、疲れているようだな。ゼロ、うまくいったのか?』



 上着を脱ぎ、ソファーに腰掛ける。



「ああ。合格したよ」


「それは良かった。頑張った甲斐があったな。だが、こんなところで寝るなよ」



 ゼロはゆっくりと立ち上がった。ユオンは様子を見について行く。

 相当疲れていたのだろう。ゼロは倒れこむようにベットに入った。深々と寝入っているゼロの顔は、子供のようなあどけなさを残している。


 夕食前に目覚め、大分軽くなった体を起こす。



『やっと起きたか』



 ユオンがソファーに座りテレビを見ている。ゼロは何も言わず静かに座った。



『この程度でうろたえる様子じゃ、先が思いやられるな』



 ユオンがゼロのひざの上に片足を置く。



「……これで。これでまた奴に一歩近づいた」



 それを聞いたユオンが顔を下げる。



『ふうむ。あまり熱を入れるなよゼロ。道を誤るぞ』



 ゼロは聞いているのかいないのか、ただ前だけを見つめていた。

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