第4章:一歩前へⅡ
「こんな話、しに来たんじゃなくて、お二人さん。最近、遊びに行ったりした?」
そんな暇はありません、とシェイル。こんな時期に本気ですか、とゼロ。ミングは、2枚のあるチケットを手渡す。チケットには、映画の上映時間や座席表、予告映像か入れ替わりながら常に流れている。
「いいのですか。手に入り難いものなのに」
「夫の帰りが遅れるみたいでね。代わりに行っておいで」
二人は遠慮したが、ミングの押しに負け、受け取らせてもらった。その後も話は止まらず、ようやく途切れたところでシェイルが、少し用事があると言って出て行った。ミングはシェイルの姿が見えなくなったのを確かめると急にゼロの耳元へ寄った。
「シェイルとは、どこまでいったの?」
「どこまっでて、何も進んでいません」
ミングが大声を上げ、立ち上がる。酷い耳鳴りが、ゼロを襲った。
「信じられない。どういうつもり。早く物にしなさい」
噴火寸前の火山のような剣幕でミングは迫って来る。
「ですがシェイルと会ってから、まだ数ヶ月しか」
「もうよ、もう! 知らない人に盗られちゃうわよ」
ゼロが考えておきます、というと火が付いたのかますます話しに熱が入った。数十分後、お客さんが入って来たことでやっとゼロは開放された。
その後ゼロは再度、問題に取り掛かるが眠気き襲われ頭が回らない。仕方なく、端末の電源を切り視界が狭まる中、ユオンの頭を撫でた。
「……ゼロ。ゼロ」とシェイルの声が優しく響いてきた。どうやら知らぬ間に寝てしまっていたようだ。目を開けると、外はだいぶ暗くなっていてカウンターでは、ミングがせっせと店仕舞いをしている。
「ゼロ。この後空いてる? ご飯作るから私の家に寄っていかない」
「いいのか、ご馳走させてもらう」
センターから出た頃には、すっかり目が覚め、通りにあるスピーカーから夜を告げる音楽が耳を打つ。
「まもなく、完全消灯時間です。まだ、外にいる方は速やかに帰宅し、完全消灯時間後は外出をお控えください。皆様のご協力お願いいたします」とアナウンスも流れ始める。
二人と一匹は、やけに人気のない列車に乗り、静けさに包み込まれる街を眺める。
シェイルの自宅に着くと、すぐにシェイルは夕食を作り始めた。夕食を食べ終わる頃には、完全消灯時間となり、街から光が消える。
片付けを済ますと二人は端末に手を伸ばした。シェイルがウォールリンクを真っ暗な街の映像から南国の海に変え、部屋全体が青色に色づく。ユオンは二人を余所にソファーの上で丸くなって寝ている。テレビの電源は切られており、ウォールリンクからは音が出ないので、部屋は勉強には最適な環境であった。
問題を切りのいいところまで解いたゼロは、視線を端末から外す。映像の魚が動くたびに、壁を照らす青い色か踊る。欠伸をして、ふと前を見るとシェイルがすでに脱落していた。シェイルはぐっすり寝ていて声を掛けてみたが目は開けられることはない。そんなシェイルをそっと抱き上げ、寝室に向かった。
ベットにゆっくりと下ろし、シェイルの顔を隠す髪をはらう。普段恥ずかしくて見つめられない分、穴が開くほどまじまじとシェイルを見る。
エメラルド色の美しい瞳は閉じられているが、異性にまったく興味を持たなかったゼロをも惹きつける整った顔が目を離させない。自然とゼロはシェイルの頬を撫でていた。
いつまでも触り続けたくなる絹のような触り心地で、薄く開かれた口がゼロをいとも簡単に誘う。理性をなんとか保ちながらしっかりと目に焼き付けた。限界が訪れる前に、寝室を抜け出す。リビングに戻ったゼロはソファーをベット代わりに浅い眠りについた。