第4章:一歩前へ
教育センターに入ってから数ヶ月がたち、初めてとなるテストまで数週間となった。共和国軍では、実技演習に入る前にテストが行われる。このテストに合格すれば、戦闘機に乗ることが認められる。そしてその後、二度の実技テストの後やっと最終テストを受けることになる。ただし、テストは二回しか受けられず、二回失敗すると特別な場合を除いて一生軍人になることは無い。そのため、この時期になると完全消灯ギリギリまで候補生たちは教育センターに残る。
ゼロとシェイルも二人そろってテストに向け勉強している。二人がいる場所は自習室ではなく、いつものカフェである。人気があるわけでないので、自習室なみの静かさを持っている。
「ゼロ、この問題手伝ってくれる」
ゼロ、シェイルの端末に目を向けた。
以下の場合において最善策を考えなさい。目標解答時間5分。空間条件なし、右エンジンに被弾。被害A-3大破、メインパイプ大破、冷却水30%減少、出力50%低下。左エンジンは過冷却20%で通常運転。機体は、KW-AS804C演習機である。
「そうだな、俺なら緊急冷却でまずは右を抑える。落ち着いたら、6対4にするが」
そういってゼロは、シュミレーションを言葉通りに実行した。すぐに結果が告げられる。
「予想される結果は、冷却水45%減少、右出力40%、左出力55%低下」
シェイルは満足とは言えない結果に首を捻る。
「やっぱり、緊急冷却は無駄遣いになるしどうしたらいいのかな」
「思い切って、左からもらったらどうだ」
「うん~。……そうだ。左をメインからサブに切り替えて」
どうやら解けたようなのでセロは自分の端末に視線を戻した。
二人が熱中して取り組んでいる中、ミングが二人の肩を叩く。
「どう? 進んでる。あなたたちを見ていると、昔を思い出すわ。あの時は、話しかけられるだけで嫌気が差していたわ」
分かっているのなら、と二人は叫びたかったがいろいろと親切にしてもらっていたため、心の中で爆発させる。二人の心の叫びに驚き、ユオンが飛び上がった。
「あら。あなた、ユオンなの?」
ミングの目の前には、誰から見てもただの犬が寝そべっている。
「その服、似合っているわ」
シェイルからのすすめもあって、ゼロはユオンに本物の犬のように毛を生やせ、吠えれるようにしていた。ユオンはあまり気に入っていないようだが、以前にも増して犬らしくなってからはよく、赤の他人からも声を掛けられるようになった。
ユオンがわざとらしく様々な犬種の声で吠え始めた。ゼロは不自由しないようにと、世界中の犬の声を入れたのだ。ユオンはミングに悲しい顔を向け同情を求める。
「ユオン凄いわね。本物の犬みたい」
またもや期待していた言葉が得られず、ユオンは塞ぎ込んだ。