第2章:夢か真かⅣ
ユーバ自然保護区。
ベルタール第四地区から車で一時間ほど走り、やっと保護区の入口まで辿り着いた。
入口には武装した警備員が一人立っている。自然保護区は十五階建てのビルほどの高さを持つ、分厚い壁が周りを囲んでいる。また入口はここ一つしかなく、必ず警備員による検査を受けてからしか入ることができないようになっている。
ゼロは速度を落とし、入口に近づく。すると警備員が歩み寄ってきた。
「身分証明を呈示しなさい」
二人は携帯端末を警備員に見せる。警備員は、確認すると車の中を調べ始めた。
「ん? このロボットは何だ」
警備員はユオンを指差す。ただのペットです、とゼロはすぐに応えた。
「そうかならいいんだ。トランクを開けなさい」
言われたとおりにトランクを開ける。警備員は、何も入っていないことを確かめると、どこかに連絡し始めた。
「男女二人、ロボット一体、チェック完了。門を開けてくれ」
ゆっくりと大きな扉が口を開け、ゼロたちを迎える。扉の向こうからは保護区だ。保護区内は車道が狭く、両脇には木が行儀よく並んでいる。少し進むと森が開け、車が2~3台入りそうな場所に着いた。
しかし、その先からは、道は舗装されておらず、車で行くことができない。どうやらここで車から降りろということのようだ。二人は、車から降り、その後をユオンが付いていく。
歩けば歩くほど森林は深くなり、周りには見たこともない大きさの木が生い茂っている。また、コケが木の根元だけでなく、二人が歩いている道まで被い、その光景が一層異世界感を引き出していた。
シェイルはてっきり動物がたくさんいて、それを見ようとたくさんの家族がやってきているものだと思っていた。しかし現実は、遠くの方から聞こえてくる微かな鳥の囀りと森と森と森。まず、入口の前に武器を手にしている警備員がいたところから思い違いをしていると感じていた。
次第に、そもそもここは何だろうという疑問が沸いてきた。たまらず、ゼロに質問した。
「ゼロさん。ここはこんなにも何で厳重に守られているんですか」
「昔、この森のどこかにオーバーテクノロジーの一つがあった、という噂を聞いたことがありますが本当のことは、分かりません。まあ、あれだけ厳重にしていれば普通の自然保護区とは違うということは確かです」
ゼロは急に立ち止まり、ユオンを呼び寄せた。
「ユオンこの岩、登れるか?」
ユオンは何も言わず、足から鋭い爪を出し、ほぼ垂直の大きな岩の壁を登りだした。
「ユオン、という名前なんですね」
シェイルは絶壁をよじ登るユオンを見つめる。
「幼いころからの友人です」
「そうは見えませんけど」
首を傾げるゼロにシェイルは話を続ける。
「だって、古くからの友人ならあんな崖を登れなんて言いませんよ」
ゼロが抗議しようと口を開こうとしたとき、二人の心にユオンが語り掛けた。
『おお! やっとこの私の惨めさを理解してくれる者が現れたのか。シェイルとかいう名だったなあ』
シェイルは、耳では聞こえない始めての心の声に戸惑い、声の主であろう崖の上にいるユオンを見上げる。
『すまないね。心の声は初めてだったか』
「はい。えっと、バイロス・シェイルと申します」
崖を登り終えたユオンは、体から金属製のロープを出す。
『そう硬くなるなるなシェイル。もしやバイロス・グレイブの娘か?』
「はい……。あっ、うんそうだよ」
『そうそう、それでいい。やはりそうか。顔立ちは似ておらぬが、よくニコッとするところは父親譲りだな。さあ、立ち話しも終わりにしよう。ゼロ、準備はできているぞ』
ゼロはロープの先についたグリップを握る。
「シェイルさん。これの使い方は知っていますか?」
「はい。知っていますよ」
二人の会話を聞きあきれたユオンが声を上げる。
『そこのお二人さん。もっと仲良く会話はできんかね』
ゼロとシェイルはお互いを見つめ合う。そして照れ合った。
『もういい。さっさと登って来い』
ゼロはロープについていたグリップを強く握るとグリップがロープを伝って上に上がる。ゼロが登り終えるとシェイルも続き、大きな岩を登った。登った岩はこの森林で一番高い所に位置し、森林全体を見渡すことができる。
「それで、ゼロさん」
『こほん!』
「……ゼロ。話しってなに?」
ユオンは一人頷いた。
「……シェイル。俺が話したっかたことは夢についてだ。夜に見る夢だ。子供のころの夢の中に女の子出てきていたんだ。その子がシェイルさんに」
『こほん!』
「シェイルにどこか似ていて。まさかとは思うが違うよな」
ゼロの言葉にシェイルは固まる。シェイルも幼いころに夢でゼロに似た男の子と遊んでいたからだ。
「えっ。もしかして、昨日もその夢見ましたか」
『ん?』
「見た?」
ゼロはああ、と強く頷く。
「じゃあ、あの男の子は幼いころのゼロ?」
シェイルはゼロの顔を見て夢で出会った男の子と比べているようだ。
「本当。そっくり!」
ゼロは恥ずかしそうに顔を伏せる。
「ゼロ、またね」
「ああ」
シェイルは、エレベーターの前でゼロに向かって手を振っている。振り返さないゼロをユオンがど突く。
シェイルがエレベーターに乗るとユオンとゼロは駐車場に歩き出す。
「はあ~」
やけに長い一日が終わり、車に乗り込んだゼロは溜め息をついた。
『何がはあ~だ。少しは感謝しろ!』
「ああ。そうだな」
『ほれ。さっさと車を動かせ。帰るぞ!』
ゼロはまた溜め息をつき、車を走らせ家に向かった。