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敵はサッカー部  作者: ハラ・エロ
1章 イントロでミスると、その後の演奏はグダグダになる
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1章8話

 穏流河川のような勢いで午前の授業は終了した。

 

 昼休み。オレはクラスメイトから不思議なものを見る目で注目されながら弁当を持って教室を抜けると屋上へと繋がる階段を登る。

 

 弁当を持って行こうか悩んだが、話が長くなりそうだったし、屋上で弁当を食べてみたいという気持ちがあった。別に彼女とご飯食べたかった訳じゃないから! 

 

 彼女が弁当を持ってきていなかったらどうしようと懸念していると、屋上に通じる扉の前に彼女が座っていた。少し顔が赤い。

 

「どうしたんだ、そんなところで」

 

 オレは尋ねる。

 

「あい……」

 

 愛? え? マジで告白??

 

「開いていなかった。この扉閉まっているのよ。どうしてかしら」

 

 やはり屋上には行けないらしい。

 

「普通、屋上には行けないと思うぞ。危ないし。ドラマや漫画ではよく屋上で飯食ったりしてるけどな」

 

「え? そうなの!?」

 

 こいつマジで知らなかったらしい。驚愕の表情である。

 

「どうする? 場所変える?」

 

 一応聞いてみる。他にも座れる場所ぐらいあるだろう。

 

「どうしましょう。教室には戻りづらいし。第一、話しにくいわ。他に行くあてもないし」

 

 彼女は逡巡する。そして。

 

「ここではいけないかしら? 一応そこに椅子もあるのだけれど」

 

 ここで? 確かに扉の前の空間に古い椅子や机が置いてある。

 

「まあいいよ。他に場所を知らないし」

 

 オレは賛成した。そして、積み上げられていた椅子や机をワンセットずつとりだして扉の前に置く。彼女は礼を言ってそこに座った。

 

 夢の屋上ランチならぬ屋上手前ランチがスタート。そしていよいよ本題へとはいる。

 

「で、作戦について教えてもらおうか」

 

 オレは弁当を食べ始めた彼女に訊く。さて、どのような優れた韜略をお持ちなのかしら。

 

「この学校の新たな軽音楽部創設拒否の理由は単純。もうすでに軽音が存在しているから。であるならば、軽音ではなければ問題はないわ」

 

 なるほど、そうきたか。

 

「で、何部にする気だ? まさか中音楽とか言うんじゃないだろうな?」

 

「少し違うわ。私が考えたのは電子音楽部よ。電子音楽ってわかるかしら?」

 

 馬鹿にしないで欲しい。これでも音楽に関しては結構教養がある。

 

「テクノとかエレクトロとかEDMとかだろ?」

 

「そうね。まあ正解。ちなみに広義の意味ではロックも含まれるのよ。ほら電子機器を使って音を出すでしょう?」

  まあ確かに。エレクトリック・ギターっていうからな。電子楽器の一種ではある。

 

「だから電子音楽をやるということであれば軽音との差別化が可能なの。さらに、ロックも含んでいるのだからバンドもできる。どう?」

 

 殺人事件を解決した名探偵の如く彼女は得意げな顔をする。ただ念には念をだ。

 

「軽音楽はクラシック音楽と対比した時にそれよりも理論が軽薄だったり、楽器数が少ない音楽分類で、大衆音楽全般が広義の意味では軽音楽に値するのだが。その点は大丈夫か? 電子音楽も軽音楽だぞ」

 

 彼女は少し驚いている。こいつ屋上のこともそうだが、少し軽率というか、間抜けというか、詰めが甘いな。

 

「そ、そんなこときっと気にしないわよ。とにかく、納得させられれば良いのだから」

  開き直ったぞ。

 

「で、その作戦でいくとして、あとはどうするんだ? 部員とか顧問とか場所とか。あてはあるのか?」

 

 オレも部活を作ろうとしていたから部活を設立するための条件は知っている。部員五人以上で顧問が一人以上必要だ。場所はもう学校には空きがない。オレら二人ははいるのであと三人は最低でも必要である。まあ、実績を積まないと部ではなく同好会なのだが。

 

「顧問は適任を知っているわ。部員は地道に探していくしかないわね。掲示板などで募集しましょう。あとはひたすら声をかけるの。場所はひとまず置いておきましょう。同好会は場所を指定する必要はないし」

 

 勧誘か……。苦手だな。オレは対人スキル低いからな。

 

「あなた部員の当てはあるかしら? あったら声をかけてみて欲しいのだけれども。私も何人か声をかけるわ」

 

 佐藤は軽音に入っちゃたしな。もうないな。

 

「ごめん、ない。オレ友達いないから」

 

「あら、まだ友人を確保できていないの。かわいそうね。俗に言うぼっちというものかしら」

 

「お前だっていないだろう? 教室で一人、本を読んでいたし」

 

「失礼ね。あれは本が好きだから読んでいただけよ。あと一人でいることが好きなの。それに友達の定義を定めないといけないわね」

 

 おっけー、友達は無しっと。オレが彼女をぼっち認定すると五限開始五分前の予鈴がなった。

 

「わりー、オレ次体育だから行くわ」

 

 弁当も一応食べ終わったし、着替えなければ行けないので教室に戻ることにする。

 

「あら、体育なの。ちょうどいいわ、岡田先生に顧問のなるよう説得しておいてもらえるかしら? 新任でまだ部活の顧問は今のところやっていないはずよ。それに私の見立てでは了承してもらえる可能性が大きいわ。あとはあなたの技量次第ね」

 

 当てって岡田先生かよ。まあ確かにまだ顧問にはついていなそうだし、頼み事は断れなさそうな雰囲気がある。でもなあ。

 

「いやでも、オレ説明下手っていうか、みんなの前で岡田先生と話すなんて出来ないって言うか。あの先生人気だし」

 

 オレはやんわり断ろうとする。

 

「その程度の覚悟じゃ部活設立なんて夢のまた夢よ? それに人前に出れないのならライブ活動はできないわね。あら、失礼、裏方希望だったかしら。裏方の仕事があってのライブだもの、私は大切な仕事だと思うわ」

 

「やります! やらせていただきます!」

 

 彼女の眼力と言葉の圧で押し切られてしまった。

 

「じゃあお願いね」

 

 仕方ない。引き受けるか……。

 

 その場を去ろうと思った時。

 

「そう言えばあなたの名前を聞いていなかったわね。教室で石塚くんに聞いたけれど忘れたわ」

 

「オレは河原勇太だ。お前は?」

 

「私は南音羽よ。よろしく河原くん」

 

 遅めの自己紹介を済ますとオレは教室に戻った。

 

 話し合いが長引いたせいで授業に遅刻した。

 

「すみません。トイレに行ってて遅れました」

 

 とりあえず嘘でごまかす。

 

「はーい。次はちゃんと早く済ましてくださいね」

 

 やはり岡田先生は優しかった。

 

 クラスメイトたちは体育館でバレーボールをやっている。前回と同様、サボっている人も多いが。幸い、今は岡田先生の周りに人はおらず、彼女に話しかける絶好の機会だ。これを逃せばもうないだろう。オレは勇気を振り絞った。

 

「あの、先生。先生はまだどの部活の顧問にもなってもせんよね?」

 

「え? そうですげどぉ。それがどうかしたんですかぁ?」

 

 岡田先生は首を傾げた。動作があざとい。

 

「あの、実は顧問をしてくれる先生を探していて、それで岡田先生にお願いできないかなと思いまして。だめですかね?」

 

 岡田先生は少し思案する動作をしたがすぐに答えた。

 

「いいですけど、何の部活ですか? 私運動以外はわかりませんよぉ」

 

「えっと、電子音楽っていう音楽系の部活なんですけど。先生はわかんなくて大丈夫です! オレらでやりますから。名前だけでもお願いします」

 

 よくよく考えると名前だけっていうのは失礼な話ではあるが、彼女は快諾してくれた。やさしい。かわいい。かわやさしい。

 

 体育の授業が終わり、教室に戻るため体育館を出た。オレはこれからの同好会設立に関して考えていた。ぼっちは考え事をするのに向いている。一人になりたいからといって他人と距離を置く必要がない。集団の中にいながら独りになれるのだからな!

 

 教室に入ろうとすると二組の教室の前に南がいた。二組の人から訝しがられているが全く物怖じしない態度で腕を組み立っている。そのせいでオレのシンキングタイムは瓦解した。

 

「お、おう、待っててくれたのか」

 

 南はオレの存在に元々気付いていたのか、驚く素振りを見せず答える。

 

「ええ、もし断られていたら早急に別の先生を探さなくてはならないから。で、どうだったのかしら?」

 

「承諾してくれた。でもやっぱ不安そうにはしてたな。やっぱ新人だし。音楽にも詳しくないだろうからさ」

 

「そう、よかったわ。では次に部員集めね」

 

 南は岡田先生の心境については興味がないようだ。もしかして他人を道具としかみないタイプなのだろうか。とにかくもう直ぐ六限が始まるし、着替えなくてはならない。

 

「そうだな。また後で話そう」

 

 オレはそう言うと教室に戻った。

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