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敵はサッカー部  作者: ハラ・エロ
1章 イントロでミスると、その後の演奏はグダグダになる
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1章7話

 オレは昼休みの教室で一人弁当を食していた。周りは友達同士で仲良く机を囲んでいる。因みに唯一のマイフレンド、佐藤はクラスの友達と校内のどこかで食べるらしい。オレにとっては唯一の友達でも、彼にとってはたくさんの中の一人に過ぎないのだ。これが友達資本主義。格差社会だ。今こそ革命の時だ! 友達共産主義国家を樹立せよ! あ、オレは成功するまでスタンバッてるんで誰か頼む。

 

 オレは弁当を食べ終えると、片付けて寝る(フリ)準備を始めた。すると隣の女子グループの会話が聞こえてくる。

 

「それなー。てかさ、うちらで部活作んない? 先輩とかウザいじゃん? 今から作れば同級生だけだし」

 

 あー、わかる上級生って物にすごい訳でもないのに偉そうな人いるよな。年功序列反対。気が合いそうだ、是非仲間に入れてくれませんか。と、言いそうになったが自制する。そんなことをオレが急に言い出したら引かれるどころではない。

 

 ん、待てよ。部活を作るか。なるほど。確かに新しく軽音を作ればあの人たちと一緒にいなくても済むな。

 

 オレは急に立ち上がり、職員室へ走った。

 

「ダメです。既に軽音楽部はあるので、同じ目的の部活動の設立は認められません」

  部活動を管理している先生を担任の田中先生に紹介してもらい、新軽音楽部設立の話を持ちかけたが一蹴された。

 

「でも、あの人たち真面目にやってないんですよ! オレは真面目にやりたいんです」

 

「では、あなたが入部して部活を変えればいいのですよ。それも勉強です」

 

 確かにそうかもしれない。でもあの先輩たちが聞く耳を持っているとは思えない。階段鼻歌さんのように突っぱねられるだけだろう。

 

 それからしばらく説得を試みたが授業開始五分前の予鈴が鳴り、オレは諦めた。断られる気はしていた。元々ダメ元だったんだ。オレはその他いくつかの言い訳を自分自身に言い聞かせた。

 

*****

 

 それからオレは放心して過ごした。何事にもやる気が起きず。何をしてもうまくいかない。ああ、こうやって大人は腐っていくのだなと悟った。もう諦めていた。楽しい高校生活も、青春も、友達も。全部、全部手に入れようとして失敗して、また憂鬱を増やすだけだ。そう思っていた。

 

 部活体験から一週間以上が経過した。

 

 朝、オレはいつも通り一人で教室に向かう。教室について席に座ろうとするとサーヤに声をかけられた。

 

「河原おはよう。さっき河原に会いたいっていう女の子が来たよ。名前聞きそびれちゃったんだけど、黒髪のセミロングの子。なんか用があったみたいだよ」

 

 女の子? オレには女子の友達なんていないぞ。同じ中学の連中は一人もこの学校に進学していない。だからここにしたのだ。

 

 オレは突然の来訪者の知らせに戸惑っていた。サーヤの後ろの女子がなんか言っている。

 

「彼女だったりして」

 

「ないない」

 

「えーでも、そうかもよ。根暗コミュ症に見えて裏ではプレイボーイだったりして……」

 

「「「きゃー」」」

 

 いや、勝手に想像して引くなよ。てか、オレって根暗コミュ症って思われているのか、ショック。まあ、仕方ないか。合ってるし。

 

 オレはクラス女子からの悪い評価に落胆しつつも納得してしまった。どうにかこれ以上は下がらないようにしないとな。

 

 そして再び来訪者について考える。黒髪セミロング……。もしかして階段鼻歌女か。

 

「なあ、そいつ何組かわかる?」

 

 サーヤに尋ねる。

 

「えっと、確か一組にいた気がする。多分だけど!」

 

「わかった。ありがとう」

 

「え、心当たりあるの?」

 

「まあな」

 

 オレは一組に向かうため席を立ち上がった。また女子たちが何か言っているが、聞こえないフリをしよう。

 

 一組は隣のクラスだ。中を覗く。なんか不審者みたいだな。友達がいなく、他クラスにお邪魔する機会などないので新鮮な顔ぶれである。しかし、階段鼻歌さんを見つけるのには苦労しなかった。

 

 彼女は他人とは別格なオーラというか、雰囲気を醸し出していて、とにかく目立つ。因みに一人で本を読んでいた。ぼっち組か。仲間だ。

 

 オレは彼女に共感と同情を勝手にしながら彼女を呼ぼうとした。

 

 さて、どうやって呼び出そうか。彼女の名前はわからない。いきなり知らない人にあの人を呼んでくれだなんてなんだかナンパをするみたいで気が引ける。

 

 遷延していると声をかけられてしまった。

 

「どうしたの? 誰かに用? 呼んでこようか?」

 

 短髪で大きな目、抑揚のある声音と女性のような所作、それでいて着ている制服は学ランである。男子の制服を着た女子……、いや、可愛いけど男か。その可愛い男子は親切に声をかけてくれた。

 

「えっと、名前はわかんないんだけど、あいつ、黒髪の女子。あいつに用があるんだ。呼んでもらえるかな?」

 

 オレは彼女を指差してそう言った。

 

「わかった。呼んでくるよ。念のため君の名前を教えて!」

 

「オレは河原勇太だ」

 

 オレが名乗ると可愛い男子は教室に入って彼女のもとに駆け寄った。こっちを指差して何か話している。緊張してきたな。

 

 程なくして彼女が出てきた。何故か怪訝そうな顔をしている。

 

「ああ、あなたか」

 

 彼女は急に納得したような顔をした。

 

「あなたかって、先に呼んだのはそっちでしょう?」

 

「そうだけれども、私はあなたの顔は分かっても名前はわからなかったのよ。だからさっき石塚くんに名前を言われた時もピンとこなかったの。」

 

 さっき助けてくれた人は石塚というらしい。

 

「じゃあ、どうやってオレを呼びに来たんだよ? さっきオレを探してたって聞いたんだけど」

 

「ああ、根暗でコミュ症のような男子生徒はいるか聞いたのよ。そしたらまだ登校していないというから出直そうと帰ったわけ」

 

 こいつが根暗コミュ症って言ったのかよ……。

 

「で、何の用だったんだ?」

 

 オレは自尊心を傷付けにきたわけではない。本題に入る。

 

「あなた、軽音楽部を設立したいのでしょ? 田中先生に聞いたわ。実は、私も作ろうと思っているの。この間の部活見学は酷かったから。そこであなたに協力して欲しいという訳よ」

 


 こいつはどうやらオレと同じく新たに作るつもりらしい。

 

「いいけど、オレが聞いたら担当者に軽音はあるからって断られたぞ」

 

「軽音がいけないというのなら軽音ではない部を作ればいいのよ。それくらい頭回らないわけ? それともあなたの音楽への執着はその程度だったの?」

 

 確かにその通りかもしれない。でも、オレの音楽への思いが否定されたのには腹がった。というか、こいつ初対面なのにグイグイくるな。

 

「そんなことねーよ! オレには音楽しかないと思ってる。ここ一週間ずっと気が沈んでたぐらいだ」

 

「あらそうなの、じゃあ頭が回らなかっただけのようね。いいわ、手を貸してあげる。一緒に部活を立ち上げましょう」

  なんとまあ、横着武人なやつだな……。

 

「わかったよ。オレもできるなら立ち上げたい。でも、どうするんだ?」

 

 オレが具体的な作戦を尋ねるとチャイムが鳴り響いた。もう直ぐ朝のホームルームが始まってしまう。

 

「話はお預けのようね。また昼休みに話しましょう。屋上で待ち合わせね」

 

 彼女はそういって教室へ入っていった。屋上って空いているのか? ドラマや漫画だけの話だと思っていたわ。

 

 なんだか青春っぽい展開になってきた気がしてムズムズする。しかも、結構可愛い女子とである。喜悦に浸る自分がいた。違う、これは部活に関する話だ。デートなどでは断じてない。オレは自分に言い聞かせ、良からぬ妄想を制限した。それにしても何故屋上? ただ単に行ってみたいのか、それとも……。いかん、過度な期待はしないことにしよう。

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