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敵はサッカー部  作者: ハラ・エロ
1章 イントロでミスると、その後の演奏はグダグダになる
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1章4話

 五日目。


 今日が終われば土日は休みである。室内のクラスメイトの顔色を伺うと疲れ切った表情が目立つような気がする。また、どこか弛緩した雰囲気も醸成せれていた。ただでさえ金曜は疲れが溜まっているものだが入学初週ともなれば普段の何倍にもなるだろう。斯く言うオレもかなり疲労感がある。早く帰りたい……。


 クラスメイトもきっと同感だろうが、中には新しくできた友人と話が尽きず、放課後の寄り道で立ち寄る店の話や、土日に出かける約束をしている場面も見受けられる。休日とは休むための時間であり、友達と遊ぶための時間じゃないぞ! そう脳内で叫んでみるが本当のところ羨ましい。オレも年頃の高校生である。放課後のカフェだったり、友人らで集う公園だったりを、楽しみたくないかと言われれば嘘になるのだ。ちなみにそんなことしたことないから実際にカフェや公園に集まっているのかは知らない。


 さて、今日も長い一日が始まった。


 いつものように授業をこなしていく。今日は五限に今までになかった授業がある。体育だ。保健体育体育の授業は週二時間あり、今週の前半は保健だった。よって今日の授業が初めての体育である。


 体育と保健の担当教諭は別で、現在、体育以外の科目は既に一度は受けたので、次の体育で先生のお披露目は最後になる。どうやらオレらの担当教諭は今年大学を卒業したばかりの新人先生らしく、女性で、しかも美人なのだとか。そのせいかクラスの男子のテンションは先ほどから高い。


 今までの先生たちのなかには若くて美人な先生はいなかった。先生という職業に美貌が必要かと言われれば不必要であり、やはりそこの美貌を求められる若い女性教諭はまさに女性差別の最たるものだなあと考察していると、後ろの席の男子、木村から紙切れが回ってきた。紙は三重に折り畳まれており、中を開くと表がかかれていた。


「第一回 1−2 可愛い子選手権! 一番可愛いと思う子の名前の下に正の字を書いてください〜」


 うわー、思っている側からまたも見つかれば問題化不可避なイベントを開催してやがる。


 オレは投票しようか迷った。しかし、書き込まれた文字の数を数えるとオレ以外の男子の数に等しいことがわかった。つまり、オレが回答をしなかった場合、その事実が露呈してしまうのだ。さらに、オレで最後ということはこの紙を主催者に渡しに行かなければならない……。主催者の名前は書かれていないが恐らく早くもこのクラスの権力者に君臨した、教室の中央にて男子数名で群れている集団の中の誰かだろう。怖い。


 仕方ない、問題になった場合共犯者となってしまうが、今後の学校生活で虐められる方がオレ個人としては問題だ。投票の方は共犯がクラス男子全員となり罪が分散する。赤信号みんなで渡れば怖くない戦法だ。


 オレは適当に誰かに投票することにした。な、何と言うことでしょう。友達作りを放棄した結果、女子生徒の名前が全然わかりません。


 男子の名前すらほとんどわからないのにどうやって女子の名前を覚えられると言うのだ。オレは今までの自分の怠慢を悔いた。そしてこれからのことを悲観する。


 あれ、この名前見たことある。顔と名前が一致しない姓名の羅列の中、一つだけ見覚えのあるものがあった。坂田沙耶。彼女はオレの左隣の席で、入学初日に決めた委員会でオレと同じ委員会になった人だ。


 他に知っている人もいない。しかも彼女は結構人気であった。まあ確かにルックスはいいし、愛嬌もある。モテて当然といえば当然か。


 オレはサーヤの名前の下に書きかけだった正の字の最後の一角を書き足す。さて、これからどうするか……。男子一軍集団に近づくことを躊躇っていると五限開始5分前を知らせる予鈴が校舎内に響き渡った。


 *****

 

 急いで体育着に着替えると体育館に赴いた。急いだとはいえ着替え始めるのが遅かったため既に大半が揃っている。まあ、初回の授業だしな。これから段々とダラけていくのだろうけれど。


 授業の時間になると若い女性の先生が二組の集団の前に姿を現した。噂されていた通り若くて美人の先生である。


「みなさん、入学おめでとうございますぅ。私は岡田舞と言いますっ。三月まで大学生でした。えーと、まだ新人なので至らない点があるかもしれませんが、そのぅ、よろしくお願いしま、ちゅ! あ、すみません! お願いしますですっ」


 先ほどの考察にドジっ子を追加。男子が鼻の下を伸ばし始めた。この先生はこれから人気が出そうだ。童顔で、おまけに巨乳ときた。典型的な萌えキャラともいえるだろう。


「今日は最初なので自己紹介をして、それからぁ、みんなでドッチボールをします!」


 岡田先生は両手を合わせる所作をしながら微笑む。かわいい。てか、高校に来てドッチボールかよ。まあ、いいや。どうせ体育は全般苦手だからな……。


 それぞれ自己紹介を済ませると、貸し切り状態の体育館で男女に分かれドッチボールが始まった。


「具合の悪い生徒や、指を怪我したくない生徒は見学していていいですよぉ〜」


 岡田先生はどうやら甘い先生のようだ。やる気のない生徒が次々にコートから離脱していく。さらに彼らにつられて次々と離脱者が増加していった。ちなみにオレは最初に離脱しました〜。


 男子生徒らが岡田先生を取り囲むようにして話はじめた。そうすることで自然な流れで彼女と会話することが可能になる。まるで元からアプローチ計画を練っていたかのように見事なチームプレーで岡田先生に近づき、次々にプライベートな情報を話させている。なんでそんなにチームワーク取れてんの? オレのいないところで作戦会議してた? もしくは男のチームワーク? いずれにせよオレを仲間外にするのはやめよ? え、オレが入ってこようとしていないだけ? ご、ごめん……。


 はじめにコートから離脱したオレは体育館の端に座り込んだのだが、こっちに誰も来なかったのだ。岡田先生は反対側にいたからな。


 脳内作曲でもして暇を潰そうかと考えていると声をかけられた。


「河原じゃん。何、ぼっちなの? ウケる〜」


 いや、ウケないから……。そう小声で返した。声の主はサーヤだ。サーヤとは別に親しいわけではないが、偶に声をかけてくれる。きっと一人で座っているオレを心配して声をかけてきてくれたのだろう。ま、オレだけでなく、誰にでも分け隔たりなく接するタイプなのだが。


「河原いつもぼっちだよね。友達いないの? あたしが友達になってあげようか?」


 ニヤニヤしながら聞いてくる。なんて返せばいいのだろう。あれ、てか、いつの間にか君呼びではなくなっている


「と、友達がいないんじゃなくて作らない主義なんだよ!」


 なんとまあ、ぼっちのテンプレ的セリフを口に出してしまった。


「ふーん。まあ、河原がいいならそれでいいけどね。あたしは友達だと思ってるよ、委員会一緒だし」


 委員会まだ一度も活動したことないんだけど。サーヤはなんだかんだ委員長らしいことをしている。クラスを代表して先生に質問したり、クラスをまとめたり。オレはと言うと何もしていない。何もしなくていいとサーヤに言われたし。


 罪悪感はあるけれども、誰もオレを求めやしない。オレがなんかしようものなら、「え、誰?」 とか言われそうだし。てか、男子のまとめ役は別の人がやっているので必要ないだろう。


「河原ってなんもやんないよね。何もしなくてもいいとは言ったけどここまでしないとは思わなかったよ。でも、他の男子がまとめてくれてるみたいだし、まあいいけどね」


 え、やっぱだめだったの? まじ? うわあ、またやらかした。オレは余程文句を言われたことがショックだったのか顔に出ていたらしい。


「ふっ、冗談だよ。別に責めてないよ。寧ろなってくれて感謝しているよっ。嫌々させるのは気がひけるしね」


 慰めているのか本当なのかはわからないがそう言うことにしておこう。とりあえず今日は寝るときに脳内反省会の開催が決定した。とりあえず謝っておこう。オレはごめん、と謝った。


 サーヤはまだオレに何か話をしようとしていたが一緒にいた女子友達に会話を阻まれ、それから彼女らと会話するようになった。別に構わない。オレよりも友人を大切にしてくれ。オレのせいで空気が悪くなるのは嫌だからな。オレは彼女たちと反対方向へ顔を向けて会話を途切れさす。


 それからしばらく女子連中は談笑していたが、しばらくして舞せんせーっ! と岡田先生のところに駆け寄って行き、男子たちから彼女を奪うことに成功した。


 岡田先生を失った男子たちはその場からすこし後退し、会話が聞こえない程度に距離を取ると自分たち同士で話し始める。オレはなんとなくその様子を眺めていた。


「おい、そういえば例の投票どうなった?」


 一人の男子が周りに聞いているのが聞こえた。周りはさあと肩をすくめる。そういえばオレが例の紙を持っているんだった。


 オレは立ち上がり男子たちの元へゆっくりと近づく。


「こ、これ、探してる……?」


 オレは髪を前に出しながら男子達に声をかけた。しかし、オレの話を聞くものはいないようだ。陰薄すぎたな。こんなのにバンドのボーカルが務まるのだろうか? 


 オレが自問自答していると一人の男子がオレに近寄ってくる。


「あ、君が紙を持っていたんだね。ありがとう。みんなー、あったよー」


 男子生徒はオレの持ってきた紙を受け取ると中心メンバーに紙を渡す。オレはそれを見届けて元いた位置に戻ろうとした。


「河原だっけ? お前何でいつも一人でいるの?」


 その男子生徒はオレに質問してきた。整った顔立ちに溢れ出る爽やかオーラ。オレはこいつはモテるだろうと直感した。


「いや、なんか、溶け込めなくて。オレ、コミュ症だから」


「そうなんか。でも、そうは見えないよ。最初はみんな何話せばいいかわかんないんだよ、でもこうやって勇気を振り絞って声をかけて、それで友達になるんだよ。もっと積極的に声をかければいいじゃん」


 正論だ。ぐうの音もでない。


「うん、そうかもね。でも、ちょっとトラウマっていうか、怖いんだよね、嫌われるのとか。だから、話したくないって言うか、その、いや何でもない。忘れてくれ」


「そうか。なんか過去になんかあったんだね。でも俺だって友達と喧嘩とかしたことあるし、全員と仲良くできるわけじゃないよ。辛いこともあるだろうけど、踏み出さなくちゃ出会えるはずの仲間にも出会えなくなっちゃうよ」


 こっちは喧嘩とかじゃなくていじ……。やめておこう。こう言うことは体験しないとわからないものだ。オレは軽く会釈して去ろうとした。


「俺は佐藤。よろしくな。そういえば、軽音に入るとか言ってたよね? 音楽好きなの? 俺もちょっと興味あるんだ。そうだ、今度ライブいかない?」


 え、まだ話すの? ライブ? いやあ、いったことないしなあ。てか、こんな陽キャとは趣味合わなそうだし。


「うん、まあ。ライブはいったことないな。趣味合わないかもよ?」


 佐藤はオレの好きなバンドを聞いてきた。答えると興味はあるがよくは知らない、と言う。


「そのバンド結構人気あるよね。聴いてみたいなとは思ってるんだけど、まだ聴けてなくて。そうだ、おすすめの曲教えてよ」


 どんどん話を展開してくるやつだな。これがコミュ強か……。恐ろしやコミュ強。慣れないタイプの相手との会話故に疲れてしまうが、佐藤は根っからの善人のように思えた。それからオレたちはバンドの話や音楽の話をした。


 そういえば、可愛い子選手権の結果は、サーヤが二位に僅差で勝っていたはずだったが、突然の岡田先生エントリーにより先生が多くの票を回収して優勝したらしい。岡田先生二組じゃないんだけれども……。

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