1章3話
自己紹介が終わった。「サーヤ」以外誰も覚えてないんだけど……。仕方ない、ゆっくり覚えていくか。
次に委員会決めが始まる。とりあえず、楽そうなのがいいな。
委員会一覧を見てみる。学級委員に選挙管理委員、文化祭実行委員……。その辺はやめておこう。とはいえ、楽すぎるところに入れると競争率が高く、溢れて結局めんどうくさい仕事が回ってくる。よし、緑化委員会にしよう。
オレは立ち上がって、自分の名前が印字されたネームプレートを緑化委員と書かれた枠に貼る。席に戻り、その後その枠に誰もプレートを貼らないことを願った。
しかし、その願いは叶わなかったようだ。女子三名が仲良くそこにプレートを貼りやがった。おい、みんなで貼っても成れるのは二人だから一人仲間外れになりますよ!
ジャンケンで決めるらしい。田中先生が手で合図をした。仕方なく席を立つ。
黒板の前に来ると三人が待ち構えていた。仲良く三人でくっつきながらオレに手を向けている。あなた達、三人仲良く戦う姿勢を見せているけど、隣にいる友達敵だからね? 何ならオレと三人の中の誰かって組み合わせの可能性もあるんだけれどわかってます? てか、そうなったらオレめちゃくちゃ睨まれそうじゃん。嫌わないでね! 虐めないで! お願い!
結果、オレは負けた。よっかたぁ。いや、なんでだよ……。負けてしまった一人を二人が慰めている。
「委員会が違ってもうちら友達だからね!」
委員会くらいで大袈裟だと思うけれど、結構これが重要だったりするもんな。行事に関わるものだったり、作業時間が長かったりすれば自然に距離は縮まるし、恋仲に発展したり、色々なドラマが生まれたりする。まあ、オレは嫌われたり、距離が遠ざかったり、虐められたりするんだけどね!
そんな自虐的なことを述べている場合ではない。早く新たな楽職探しをしなければ。
オレは学習委員という委員会にプレートを貼った。各教科の提出物を集めたり、勉強に関することをする委員会らしい。
これも結局ジャンケンで決めることになった。そして負けた。
次も負け。その次も負けた。オレ、ジャンケン弱いな。
残るは副クラス委員と飼育委員だけになった。もう両方楽な仕事ではない。オレの楽しくてロックな高一スクールライフは社畜ライフルート確定だああああ。
今後一年間の高校生活を悲観していると隣の席から声がした。悲壮に浸るオレの思考の渦が鼻腔から送られて来た甘美な信号によって停止する。
「ねえ、副クラス委員になってよ。ほとんどの仕事はあたしがやるからさ、河原くんは楽をしてもいいよ」
まじ? いいの? オレに話しかけて……じゃなかった、楽をして、さらにオレなんかが副クラス委員で。まあ、本人が頼んでいるのだし、そこは了解しているのだろうけれどもやはりそのまま、はい、とは言えない。
「い、い、いいの? オレクラス委員とかそういうのやったことないんだけど」
吃ったああああ。やっちゃったああ。
「いいよ、全然。あたしがバンバン働くから!」
サーヤはオレの吃りを気にする素振りはなく、腕をまくって見せた。彼女はいつの間にかブレザーを脱ぎ、桃色のセーターをブラウスごと肘まで捲っている。こいつ結構筋肉あるな。
オレはありがたく副クラス委員になることにした。プレートを貼るために立ち上がると背中に鋭い視線をいくつも感じた。やってしまった。サーヤファンからの嫉妬ビーム! オレには効果抜群だ。お願いだから虐めないでええええ。
「これからよろしくねっ」
黒板にプレートを貼り席に着くとサーヤはパートナー(委員会の)になるオレに挨拶をしてきた。オレも無言で首肯する。こんなコミュ強とやっていけるかどうか心配だが、恐らくサーヤは他人に合わせられるタイプで陰キャのオレにも優しく接してくれるタイプだろう。不幸中の幸いだ。ただ、美少女と同じ委員会に属せたことは、後ろから連射されてくる嫉妬ビームから推察するに、幸い中の不幸だな……。
*****
委員会決めも無事(?)終わり、今日のホームルームは終了した。今日はこれで下校である。
オレは下校前に軽音楽部の部室に行ってみることにした。一年生の部活解禁は来週からだが、少し早めに赴いても怒られはしないだろう。それよりも早くバンド活動がしたかった。
オレは高校で軽音楽部に入部し、バンドのボーカルギターで作詞作曲を担当するという夢を抱いて高校へ進学してきた。さっそく夢を叶えたくて仕方がないのだ。
職員室前の校内案内図によると体育館の裏に軽音楽部の部室はあるらしい。まあ、轟音を放つので敷地の端っこに追いやられていても仕方がない。
生徒玄関で外靴に履き替え、地図の通りに部室棟の前まで来た。鉄筋コンクリート造りで、教室のある校舎よりも古めの建物だ。汚れが目立つ。大きさは小さなアパートくらいだろうか。
ドアをノックしてみる。反応はない。念のためドアノブを捻ってみたが開かない。鍵がかかっているようだ。もう上級生はとっくの昔にホームルームを終えているはずなので今日は休みなのかもしれない。また明日来ることにしよう。
オレは帰宅することにした。
*****
翌日、各教科とも授業が始まった。授業体系は中学とあまり変わらない。昨今、アクティブラーニングが大事なんぞ言われているが、結局、教育現場は相変わらず先生が一方的に話しているだけの授業が多い。改革、改革言われる先生方も大変だな。オレは勝手に同情してみる。
高校に入学したてとはいえ、特に新鮮味のない授業を終え放課後になるとオレは颯爽と部室へ向かう。
今日もよごれた鉄筋コンクリート造りの建物の前まで足を運んだ。そしてドアノブを捻る。しかし開かない。二日連続で休みとは……。怠惰な部活だな。これから入部することを考えると不安になってくる。
仕方がないので今日も帰宅することにした。
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3日目。
そろそろ教室内ではグループが出来上がってきた。オレはというともちろん無所属だ。周りに流されない、ユニークでフレーダムな男なんでね! 泣きたい……。
どうやらオレは人間関係構築ゲームのスタートダッシュを失敗してしまったようだ。初日に隣の席のサーヤと同じ委員会に所属してしまったのが間違いだったのだろうか。いや、言い訳だ、オレはもともと友達を作るのに向いていないのだ。だから今までもぼっち生活を強いられていた。高校に入って急にコミュニケーションスキルが芽生えるわけがないのだ……。
まあよい。オレは高校生活を部活に捧げるんだ。教室内で友達と馴れ合いをしている時間などない! べ、別に羨ましくなんかないんだからねっ!
てなわけで、完全に新学期限定イベント、友達ゲットキャンペーンを棒に振り、まだ見ぬ高校部活青春ストーリーを脳内妄想して3日目も終了した。
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今日も軽音楽部の部室に来た。何となく予想はしていたが、やはり今日も部室の鍵は掛かったままだ。どうやら本当に怠惰な部活らしい。オレが入ったら改革しないとな。先輩怖くなければいいけど……。
この危惧が杞憂であればいいのだが。
四日目。いつも通り授業後の教室を後にすると部室に向かった。
今度こそ開いていてくれ。そう願ったがまたしても開いていない。帰宅。