3章8話
教室の扉を開ける。一斉にみんながオレに注目をした。おいおい、そんなにオレを見るなって、見る価値のある顔じゃないぜ。
「「「河原!」」」
男子の中心メンバーが駆け寄ってくる。
「河原。この間はごめん……。そのひどいことを……」
落合が謝罪してくる。顔が硬っている。よほど真剣らしい。精神状態が回復してから送られてきたメッセージを確認した。そこから察するに、この男子達との諍によりオレの精神が磨耗し、自殺するのではないかという考察が立てられていたらしい。だから今朝、あんなに電話がかかってきたのだ。そして電話に出ないためその信憑性が高まっていたとのこと。
「ああ、いいんだ。元々ぼっちのオレだ。いきなりお前らと連もうとしたのが間違いなんだよ」
みんなが顔を上げる。
「今日のは、ちょっとした風邪だ。何ともない。そもそも、幼少期より一人でいることを余儀なくされてきたんだ、悪口の一つや二つなんて何ともないのさ」
もちろん嘘だ。でも、本当でもある。
「まあ、今回のは不意打ちっていうか? 結構HP削られたけど。そこから起死回生するってのがかっこいいのさ」
落合たちに指を向ける。ああ、これ結構イタいな。
「ハハ、ハハハッハハハハハ」
サーヤが笑い出した。
「ははは。流石、河原。最高。普通だったら教室にも来られないような状況なのに、それなのに、来て、更に、こんなにもイタいセリフを吐けるなんて」
サーヤの言葉を聞いてクラス中が笑い出した。まあ、オレは苦笑だ。他人に言葉にされるとやっぱキツイなこれ。
「河原。お前はそれでこそ河原だな」
Y君が言う。
「河原。悪かった。仲直りをしよう」
落合が手を差し出してくる。握手をした。
「でも、やっぱキモいな」
七浦が笑う。でも、悪意のない笑顔だ。
「キモくなきゃオレじゃねえよ」
「そのアイデンティティ、お前じゃなきゃ許容しないな」
佐藤が苦笑いを浮かべる。こいつはずっと味方でいようとしてくれたんだ、感謝しないとな。
その後、彼らの仲良しグループの一員、木村、山田、吉田が謝ってきた。彼らとは直接話す機会は少なかったが、今思えばあまりオレは一人一人の名前と顔を覚えていなかった。本当に相手を必要としていなかったのはオレだったのかもしれない。
六限開始を告げるチャイムが鳴った。急いで自分の席に向かう。途中で石倉さんと目があった。彼女は一瞬微笑んで、すぐ顔を下に背けた。オレも気恥ずかしくなって速やかに席に座る。
「プリント、机の中にあるから」
右隣の青木が教えてくれた。入れといてくれたのか。有難い。てか、初めて話した気がする。
「河原、よかったね。みんなと仲直りできて」
サーヤが頬杖を付きながら言った。オレはまあね、と返した。
「ごめんね。あたし、何も出来なかった……」
サーヤは申し訳なさそうに顔を俯かせる。
「そんなことないさ」
サーヤは何か言いたげだったが、先生が入室して授業が始まったので会話は続かなかった。実際、彼女には精神面でかなりお世話になったのだ。オレは心の中でありがとう、と呟く。聞こえるはずがないのだが、彼女なら聞き取ってくれそうな気がした。