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敵はサッカー部  作者: ハラ・エロ
2章 サビの直前が一番盛り上がる
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2章7話

 部活終了を告げるチャイムが鳴り、校内の雰囲気は一気に帰宅色に変わる。オレは初めてこの時間まで校内にいたことに気づいた。その光景を見ると中学校のときの記憶が蘇ってくる。赤く染まる校舎。喧騒に塗れる校門。独りで帰る帰り道。涙が出てきそうだ、懐かしいからかな? きっとそうだよなぁ?!

 

 さて、オレもそろそろ店に向かうか。オレは部活の後片付けなどはないのでチャイムの後五分ほど図書館で過ごして席を立った。

 

 生徒玄関を抜け、校庭を通る。まだ野球部やサッカー部などの外部活は片付けをしていた。こういった大掛かりな部活は片付けにも時間がかかるのだろう。オレは中学時代、卓球部だったので外部活の事情はよくわからない。

 

 校門を抜けて指定された店の方向に向けて歩く。いつもの駅とは反対方向だ。次第に生徒の姿は少なくなり、気がつくと見知った顔ばかりになっている。二組の生徒だ。

 

 クラスメイトとは言え普段あまり話さないので、こういうときにも話しかけづらい。話しかけて嫌な顔をされたら傷つくし、相手にも迷惑だろう。脳裏にサーヤの言葉が浮かぶ。

 

「ポジティブか」

 

 オレは小声で呟いた。そうすることで自分に言い聞かせたのだ。

 

 オレは深く深呼吸をした。よし。前方を歩いている女子生徒に近づく。声をかけようとしたその時だ。

 

「あー! 来た。おーい」

 

 さらに前方に立っていた女子生徒二人が彼女に呼びかける。

 

「ごめーん、待たせた?」

 

「待った、待った」

 

「うち部活やってるんだもーん。帰宅部ずるいー」

 

 オレは歩む速度を大幅に減速した。そしてスマホを取り出し眺める。決して彼女に話しかけようとしたわけではありませんよと周りにアピール。マジで恥ずかしい。

 

 そうか、女子に話しかけようとしたのが間違っているのか。オレは先ほどの失敗の反省会を脳内で開催する。次は男子生徒を狙おう。

 

 オレは前方を一人で歩いている生徒に狙いを定め、徐々に距離を詰めていく。横を通り過ぎようとしたあたりで横を向き、あれ同じクラスだよね? というノリで話しかける作戦だ。

 

 しかし、あと三メートルで追いつくというあたりで彼も急に速度を上げた。何とかついていく。でも追いつくことができない。これはもしかして避けられている?

 

 オレは試しに速度を落とした。すると数メートル先で彼も速度を落とす。どうやら予想は当たっていたらしい。悲しい。

 

 オレは落胆してさらに歩行速度が落ちた。来なければ良かったのかも知れない。どうせ元々誘われていなかったクラス会だ。サーヤのおかげで入れたものの、オレを心から歓迎する奴はいないだろう。

 

 適当な理由をつけて帰ろうかと思ったそのとき。

 

「はははははっ」

 

 笑い声が後方から響く。

 

「もう笑うしかないね。ドンマイ」

 

 サーヤが笑いながらオレに近寄ってくる。

 

「な、何がだよ」

 

 オレは意味がないとは思いつつ惚けてみる。

 

「今、前のやつに話しかけようとして距離取られただろ」

 

 やはり意味がなかった。

 

「見てたのかよ」

 

「うん、いあー、面白かった。ドンマイ、ぼっち! でも話かけようとしたその心意気は偉いぞ。これからも続けて行こう!」

 

 サーヤはオレの背中をバシバシ叩いた。

 

「いや、もういいわ、これでわかっただろ。オレは無理なんだって」

 

 オレには積極的コミュニケーションなんて向いていないのだ。そのことが証明された。

 

「そりゃ、普段一人でいるようなやつがいきなり近づいてきたら逃げるだろ」

 

「ほら、やっぱり」

 

 オレはサーヤを睨め付ける。しかし、彼女はでも、と続ける。

 

「だから、みんなとある程度仲良くなってから近づかなきゃ行けないんだよ。でも、もう仲良くなる期間は過ぎてるの。君が人を避けて過ごしていた四月にね。だけど今日のクラス会はこれを挽回する絶好のチャンスだから、ちゃんとみんなと関わりなさい!」

 

 サーヤはまたオレの背中を叩く。

 

「わかった、わかった。だけどいてーよ」

 

 オレは後ろを向く。後ろにはサーヤといつも仲良くしている集団がいた。

 

「いいのかみんなと一緒にいなくて」

 

 オレはサーヤに聞いてみる。オレのことを気遣って一緒にいてくれるのは大変ありがたいが、そのせいで他の人に迷惑はかけたくない。

 

「いいの、いいの。あの子たちはあたしがいなくても寂しがらないから。でも、君は寂しいでしょ?」

 

 サーヤはオレの心配をしているようだ。

 

「オレは大丈夫だ。一人には慣れているからな。気遣いはありがたいが、どうか彼女たちの元へ戻ってやってくれ。これで彼女らに恨まれるのは嫌だからな」

 

 オレは元の集団に戻ることを促す。

 

「ははは、わかったよ。でも今日、頑張るんだよ。私が佐藤君の近くに座れるようにしてあげるから」

 

 サーヤはニヤリとオレの目を見つめてくる。そうしていただけるとありがたい。彼女ならそれくらいの誘導はたやすくできるのだろう。とはいえ、佐藤とも長らく話していないが。

 

「サーヤこれ見て!」

 

 仲間の一人がサーヤを呼ぶ。

 

「じゃ!」

 

 サーヤは集団の中に戻っていった。

 

 彼女が消えた左側は暗く静かになった。彼女が活発で存在感があったからだろうか。ただ、オレの心には一筋の光が射していた。

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