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敵はサッカー部  作者: ハラ・エロ
2章 サビの直前が一番盛り上がる
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2章1話

 二日後の放課後、オレは南に指定された場所に来ていた。昨夜、彼女からメールが届いたのだ。新入部員のあてが見つかったのかと思ったが詳細は教えてもらっていない。とにかく今日の放課後に生徒玄関で待っていろという指示であった。

 

 彼女のクラスは例によってうちのクラスよりもホームルームが長いため、五分ほど待った。

 

「待たせたかしら?」

 

「ああ、少しな」

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

 謙遜などをしないオレにも嫌な顔も文句も言わず彼女は颯爽と玄関を後にする。まあ、普段毒舌な彼女にそんなこと求められたらキツイぜ。それで、オレはいったい今からどこへ連れ行かれるんだ?

 

「なあ、教えてくれよ。今からどこへ向かうんだ?」

 

 そんなこと聞いても教えてくれないとは思っていたが、果たして、彼女は教えてくれなかった。しかし、目的は教えてくれる。

 

「決まっているじゃない、部員調達よ」

 

 食糧調達のノリで部員勧誘を表現しやがる。そして何だか悪い予感がした。

 

 彼女はオレの見知った場所、一時期通っていた(外まで)場所、つまり軽音楽部部室の前で足を止めた。

 

「おいおい、ここ軽音楽部じゃねーかよ。ここで何をするっていうんだ?」

 

 部活をのっとるとか言い出さないだろうなあ。こいつなら言うかもしれない。彼女と出会ってまだ一ヶ月も経ってはいないが、コイツはそういうことを言ってしまいかねない奴だと思う。

 

「引き抜きよ。どうやら、部活に入っていない人で音楽に興味がある人は残念なことにいないようだから、もう既に軽音楽部に入ってしまった人の中で、現在の部活に不満がある人をここから引き抜くのよ。ここに入ったということは音楽には少なくとも興味があると予想されるし、今の上級生に不満がある部員は少なくないと思うわ」

 

 なるほど、そうきたか。確かに信憑性はある。しかし、その部活に不満を持っていたとしても、うちに乗り換えていいと思ってくれる保証はない。彼女には策があるのか、それとも、生徒の目星がついているのか、それはわからないが、彼女が何のあてもなく提言するとは思えない。きっと何か策あるのだろう。

 

「裏へ回りましょう」

 

 今度は部室がある棟の裏に回った。そこには一年生と思しき生徒数名が固まって話していたり、スマホをいじっていたりしていた。集団の中に佐藤もいる。

 

「友達のいないあなたのために一応解説しておくわ。彼らは私たちと同じ一年生よ。上級生が部活に参加している日はいつもあのように部室を追い出されて、ここで無意味な時間を送っているの」

 

 一応解説がなくても一年であることは分かったのだが。佐藤もいるし。しかし、なるほど。あの上級生たちは大して真面目に活動をするわけでもないのに、部屋を占拠しているわけね。確かにこれだと下級生からの不満が溜まりそうで、他部へ移籍したがる人が出てくるかもしれない。

 

「そこであなた。彼らと交渉してきてくれないかしら?」

 

「え? オレ? 交渉ってまさか移籍に関してか? オレは適任じゃないだろう。人と話すのとか苦手だし」

 

 オレは断固拒否する。そもそも交渉などをする度胸などない。これは南の案であり、オレが加担する義務はないのだ。

 

「同好会、設立させる気あるのかしら? それともこれ以上の名案でも思いついたの?」

 

 はい、ごもっとも。

 

「とはいえ、一人はキツイわ。一緒に来てくれないか?」

 

「一人で交渉にも行けないの? ヘタレね。いいわ、私が話しかけてあげる」

 

 オレらは一緒に彼らの前に出る。オレは南よりも前に出ないように注意しながら足を進めた。話していた連中が一斉に話をやめ我々を注視する。うわ、辛い。

 

「ちょっといいかしら?」

 

 南が凛々しくも重々しい口調で話し始める。ここは南に任せてオレは一歩引くとしよう。その時だ。彼女は言ってしまった。

 

「この男があなたたちに大切な話があるそうよ。聞いてあげて頂戴」

 

 えええええええええ。オレええええええ。

 

 一斉に集団の目線はオレに注がれる。

 

「おい、南。結局、オレが話すのかよ。お前が話すみたいな空気になってたじゃん!」

 

「私は話しかけてあげるとは言ったけれど、交渉をすべて私が行うとは言っていないわ。では、交渉よろしく、河原くん」

 

 南はそういうとその場を離れた。ちょっと、どこいくのよ! 友達もロクに作れないコミュ症が一人でそんな大事な交渉出来るわけがないだろ。

 

 集団は訝しんだ目でオレを凝視してくる。仕方ないわな。佐藤が大丈夫かと言わんばかりのアイコンタクトを送ってきた。いかん貴重な友達をここで失うわけにはいかない。穏便かつ速やかに交渉を終わらせよう。

 

「えーっと、その、あの、オレは河原っていいます。えーっと、今、さっきの女子とかと音楽系の同好会を作ろうとしていて、でも人数が足らないため部員を募集しているんですよ。よかったらどうですかね。いや、そりゃ、皆さんは軽音に入っていると思うんですが、その兼部とかでもいいんで……。あ、嫌なら全然いいんですよ、全然」

 

 やばい、吃ったし、噛んでしまった。

 

「あ? 俺ら軽音に喧嘩売ってのか? 俺らは仲良く部活やってんだよ。なのにノコノコ引き抜きに来やがって。オレらの中にはここから向け出そうとする奴はいねーんだよ。他当たれ。消えろ!」

 

 集団の中のリーダー格と思われる生徒が激昂する。今の彼の発言でここから離脱するものはいなくなったな……。しまったやはり逆効果だったか。南のやつこの作戦のどこに自信があったんだ。予想以上に最悪な結果だぞこれは。

 

 オレはすみません、と連呼しながらその場から去った。佐藤の憂の目が心苦しかった。

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