6 現実を突きつけられた?!
今も少年は眠ったままだ。
時々、目を覚ましそうになるも、何か恐ろしい者に襲われているような、苦悶の表情を浮かべていた。
「ふむ、これより南となれば確かにゴブリンの群れがある。規模も100いや、200の中規模なものだが...そこからの子どもかの?」
ジジさまも集まりだして、5世帯の長老筋が呪術師のババさまの家にある。
「で、傭兵殿らは...何か見なしたか?」
人間と隔たり無く話す小さな方々の種族がわからない。
私のなんとも、煮え切れない表情を察したのだろう。
てか、本当に残念な子扱いを受けてますよ。
「ワシらはドワーフじゃ、ま、山を追われて降りてしまったし...木こり紛いので生計を立ててはいるが、悪い妖精じゃないぞw」
見ても分かんなかったわ?!
え? ドワーフって...
「イメージ先行で物を考えるなA」
と、背中越しから乳を揉まれた。
やめなさい!右ばかり揉むのは...左と形が変わるじゃないか!!!
「きぃー!!」
「本当に残念な子じゃな?」
「はい、そうなんです。ところで、えっとですね...この残念なメスが甲冑を身に着けた兵士を見たそうですが、何か心当たりはあるでしょうか?」
Dの質問に、ジジとババたちは口をつぐんだ。
おそらくかなりいい質問だったようだ。
これで、この状況を知ることができそう。
◇
「この森は人族の生活圏に挟まれておりますのじゃ。地表部分は“ゲリの大森林”と呼ばれ、聖域として高次元の霊的存在に守られております。それより地下世界は“カタロース大迷宮”が...まあ、あまり人も魔物も、妖精も立ち入りませんから気にしないでくだされ」
と、私の目の前のジジさまがおっしゃるのだけど、そのジジさまの視線が私に向けられた時、彼はそういう風に絞めた。おそらく残念な子に、こんな話をしても難しいと思ったに違いない。
「ここより更に西の端にあります“ガスダール王国”は、この世界では、一番大きな国となります。傭兵殿が見られたという甲冑を着た人間とは、おそらくその者たちであると思われるのです」
一気に情報が流れ込んできた感じ。
整理すると、大森林というより原始的な密林の中でひっそりと生き抜いている、魔物や妖精たちは極力人間との接触を断って生活していた。理由はおよそ人間たちのほうにあるようだ――征服欲が第一だろう。
世界とさすこの辺りの立地。
東には自由交易都市国家“スヴョヌ”があるという。
ドワーフや、ゴブリン、コボルト、ホビットなどの妖精、魔物が毛皮などを持ち込んでも嫌な顔されない唯一の街だというのだが。
西の王国とは随分と仲が悪い。
「...ただ」
「?」
「その甲冑の方々をどうなされたのです」
DとC、BがAを突き出すように距離をとる。残念な子がドワーフを前にひざを突き合わせ、口を尖らせて――「やっちゃいました」と。
「は?」
「えっと、少年を追跡していたので...その、5人のうち4人をバラしました」
なんとなく歯切れの悪そうな雰囲気をくみ取ってくれた。
いや察してくれたのだ。
そして全員のジジさま、ババさまが首を横に振った。
「馬鹿なことをしたもんだ」
「まあ、残念な子ですから」
Cへ睨む私の背をジジさまが叩く。
「きぃーじゃない! お前さんは王国を怒らせたかもしれんのじゃ」
◆
ガスダール王国の内情は、大小の荘園を管理する領主の裁量によって運営されていた。
王家にはすでに、実権らしい力がない。
それは内情であって、外から見れば圧倒的な武力を傘に、無茶苦茶を押し通す国というイメージはそのままだし、誰が悪い奴かなんてのはこの際、どうでもよかった。
旅商の男に金を払ったのは、王国の重鎮“エスパダ”男爵。
ルングラード荘という領主でもあり、エルフとも小競り合いが絶えない貴族だ。
大森林とも近いので、木々を切り倒し拓げて、耕地を増やす計画を立てたこともある。
が、結局、エルフが大騒ぎして白紙撤回した。
「ふむ、魔物が反撃したとすれば...」
領主は口ひげを弄りながら、
「口実を得たといえるでしょうな。危険な魔物を狩るために、木々を伐採するという口実を」
領主の傍らにあるのは、討伐隊を率いた騎士だ。
呟いたつもりだったが、その言葉を耳にした領主の目が怖い。
「そうだな、それで良い!」
何が良いと思ったのだろう――領主の名で兵が集められる。
◆
エルフの里でも大騒ぎだ。
ゴブリンの里が燃えた――という報告は、端から端までを2日分跨ぐ広さを誇る、里に住む族長たちに投げ文で知らされたところだ。
暫くして、長老の家に続々と族長たちが集まる。
「燃えたって何処の村だ?!」
把握しているだけでも、大森林の西側には大きな里だけで5つある。
そこで、燃えた里は、街道にちかい一族のだった。
冒険者が時々立ち寄る宿屋などを営んでいた――かなり友好的で、しかも人懐っこい性格のものたちが多かったと記憶する。村の中には、道具屋や鍛冶屋などもあり、教会も建立させられており“神の奇跡”という恩恵も受けることができた。
要するに魔物が経営している聖水売りな場だ。
「確かに魔物であるが」
「元は妖精でもあるからな、あれだけ友好的な連中も流石になかなか居らんぞ。どうして燃やされるいや、人族なんぞに狙われるような...ことが起こったというのじゃ?!」
皆目、見当がつかない。
先に出された、王国の布告が脳裏に過る程度だ。
魔物を見つけたつけた者には――というアレだ。
「いや、これで匙は投げられたと、いう事じゃろ」
武闘派のエルフ族が立ち上がる。
敷布から文字通り立ち上がって、低い天井へ豪快に頭を打ち付けたところだ。
「おいおい儂の家を壊さんでくれよ」
長老の慌てたセリフで一堂が爆笑する。
「勃つなら、外な...」
的な卑猥さを感じえなくもない。
長老からは――『まだ様子見じゃ、先ずはもっと情報を集めんとな』であったという。