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5 少年よ、強く生きろ!

 這う這うの体といった感じだった。

 4人をあっという間に仕留められたという印象をそのまま、討伐隊の隊長に伝えた斥候は立ち上がれなくなっていた。まず、見たことを伝えなければならない義務感と、生存という使命だけで逃走できていた。

 地表にあった()()が、斥候じぶんを見失ってくれたお陰で、今、討伐隊とともに派遣されている治癒士の一団から温かいスープと、生きているという実感を得ている。

「一息付けたか?」

 と、隊長が見舞いに訪れた。

 先ほどの報告で状況は理解できる。

 が、憔悴しきった男の状態が気がかりだったため、今一度話を聞きに来たのだ。



「ふむ、話を聞く度にやはり敵はひとり...と思えなくもない。まあ、この場合、本当に()()()なんて数え方で合っているのかと、疑問さえわくわけだが」

 討伐隊の隊長は、顎下をなぞりながら伸びた無精髭に指が止まる。

 小首を傾げながら――

「長居は無用だな」

 と、告げていた。

 仲間の躯を回収するという考えは起きない。

 ミイラ取りがミイラになることは必然だと感じた。

「時に魔法だったか?」


「いえ、それも分かりません。音が響いたら方陣の一角が簡単に崩されましたし、遠目で観察していましたが、索敵範囲外から突如現れた感じで」

 おびえている。

 隊長は腰を上げ、全軍に『帰還する!』と告げていた。



「だ、だんな?!」

 討伐隊の最後の天幕内だ。

 隊長も身支度を終え、残る荷物もごくわずかだ。

「君の通報通り、魔物の巣を見つけることができた...感謝している」


「え、そ、それだけですか?!」

 旅商の彼はいささか不服そうに見えた。

 銀貨の入った袋の中は確かめるまでもなく、100枚は入っている。

 これだけでは遊んで暮らせる額ではないが、欲を言えばもっと奥にも、似た村があるはずだという主張しに来たわけだ。

 少々、カネニ目が眩んだ様子だが。

「ふむ、君は不確かな情報で我々を窮地に陥れたいのか?」

 トーンが下がってぞくっとする。

 旅商の男は手もみしながら――「い、いやですぜ、だ...旦那さま方にゃあ、悪い話じゃ」


「悪いも何もない。すでにその森の奥に入った我が兵は、何者と知れぬ()()に4人魂が抜かれたわけだ。()()()ゴブリン1匹を追っていったが為にな。そこで君は、王国兵4人分の戦力とそれを育成するのに幾ら掛かっていると思うのかね?」


「は? い、幾らと、もうされて...も」


「そうだろうな。分からなくて当然だ、それが答えだ! 王国兵になるには先ず素質、才能が必要だ。なんでもいいという訳ではない。忍耐や肉体あるいは、精神力などの強化スキルは必須だ。これを見つけ出すだけでも千に一人の確立である! 加えて、幼少より個人差を加味したプログラムで適性のある子らを育成するのだ...わかるかね? 君の手の中にある銀貨100枚など彼らの食事代にならんということだ!!!」

 抜き放たれた刃の切っ先は虚空を描いて、鞘に戻る。

 旅商の男は、素早く瞬きしている――何が起きたかも理解していない。

「こんな下らんことで兵を4人も失ってしまった...君のガイドはここまでだ。所詮は流れ者、その血で償えるものではないが、この場で己を助けた者に詫びるがよい...()()()()()()()()()()()()()としてな」

 男の首が真上にすっ飛んだ。

 直立不動でしばらく噴水となって天幕の内側を真っ赤に染めている。

 そうして、圧がなくなると、膝から崩れて前のめりに倒れ伏した。



 森の奥に進むと、小さな村が見えてきた。

 住民の数は5世帯ていどの20名と少々だ。

 小柄の人族っぽい雰囲気だった――村の堺で4人とひとりのゴブリンの行く手を遮ってきた。

「どこの者だ?!」

 警戒心が強い。

 まっすぐとは言い難いが、棒の先に鎌が巻き付けてある。

 自営用の武器というより、田畑の収穫などに使う大鎌とみて差し支えないのだろう。

「あ、えっと...言葉通じるかな?」


「ば、馬鹿にするな! 貴様らの()()は、しっかりとこの耳で理解しておる!!」

 やや憤慨された。

 いや、当然だろう――私たちも彼らの言葉が理解できるから、絶対に馬鹿にしたとしか思われていない。ここにきてデルタが、私の胸を掴んで押しのけた。

 だから、勝手に触るなし!

「こいつちょっと残念な子なんだ、気を悪くしないでくれ」

 CとBがクスクスと微笑している。

 メスゴリラとか言われて、恐れられてた時の方がマシでした...神様ごめんなさい、私の威厳をお返しください。

「そうか、それは難儀だな」

 同情はいらなーい!!!

「で、すぐそこの森で彼を見つけ保護したのだが...」

 と、Cが背負っている少年を見せる。

 村の門番が、指笛を吹くと村の中から若いものと、その肩に担がれた呪術師のばあさんが運ばれてきた。



「呼びつけるのは一向にかまわんのじゃぜ、じゃがな...こんな玄関口で()を診るわけにもいかんじゃろぜ?」

 老婆のげんこつがさく裂した。

 若い衆の鼻血姿に満足したのか、

「どれ、診てやるから儂の家に来いじゃぜ」

 再び若い衆の肩に担がれると、きた道を戻っていく。

 その後方に私と3人、担がれた少年と大鎌を持つ門番と続いた。

「さて、改めて...儂はババじゃぜ」

 見ればわかります。

「うんむ~ ほぉ~お! ちょいと熱が高いようじゃが、いやいや...この傷口の縫合は見事じゃぜ。ま、ポーションがあれば縫わんでも良いのじゃが...若い奴には傷のひとつや、ふたつは無ければ大人になっても箔が付かんしの...ふむ、まあええじゃろ」

 私たちは多分、意味不明で小首を傾げてた。

 きっと間抜けな顔をしてたんだと思う。

「じゃ、が...お主らは?」


「あ、えっと人間です!」


「種族なんぞは“ステータス”と呟けば、読み取れるしのう...しかも、見ればわかることを」

 ああ、そうなんだ...。

 Dの視線が痛いなあ。

「傭兵ですよ、職業としてですが...この少年には()()()()で雇われたので、ここまで護衛してきました」

 模範解答っぽい。

 ババがニヤニヤしている――あれ、枯れた女心に火を灯したのかな?

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