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4 死神が参る!

「どんぐり、しか...」

 と戻った意識が、再び眠りについた。

 枯れたはずの目から、大粒の涙がこぼれている。

 これは、少年本人が驚いたことだ。


「どんぐりか」

 私の手に()()がある。

 綺麗な茶褐色の光沢をもつ。

 ただ、どうみても大きなどんぐりにしか見えない

「だから、そう言ってたじゃねえか」

 Dの言葉はやはり、うむ、カチンとくる。

「言葉が通じないと思いましたが...」

 Bに続いて、C――

「異文化コミュニケーション、ってならなかったな」

 私も疑問に思うところだが、この状況を打開するのは今、眠っている少年であろう。

 そして、さらに数百メートル先から動きの鈍い人影だ。

 赤外線の影は5つ。

 5つ目は()の後ろにある。

「布陣がいささか気になるが、後から追いついた点以外は、方陣と呼んで差し支えないか」


「会敵まではもう幾らもありませんね」

 打って出るか、待ち受けるかという話だ。

 後者だと、治療を施した少年の回復を妨げる可能性がある。

「私が行ってくる」

 膝を突いていた私が皆に告げた。

 個人的には、CかDあたりが『お嬢をひとりにさせる訳、ないじゃないですか!』なんて、男らしいことを言ってくれると思っていた。が、蓋をあけると――

「俺らここに陣地作っておきますんで」

 見限られた。

 捨てられた気分だ。


 うわああああああ~ん!!!!


 泣きながら走ってた――私。



 4人と合流したてのひとり。

 小隊と呼ぶには少し大袈裟すぎる。

 だが、この国で限って言えば、騎士や戦士が4人も徒党を組むのであるなら、相当十分な戦力となる。

 キメラの1匹は余裕に退治できるだろう。

 そういう力量差が、()()()の人間にあるのだ。


 冒険者の平均的なレベルは30前後であるとされる。

 これは戦いなれた中堅の平均的なレベルで、そして一番数が多い。

 王国の騎士や戦士団級になると、実力差は一気に跳ね上がる。

 彼らの平均はおそらく、50にも到達しているだろう。

 戦闘力のインフレ、いや、王国の戦闘教育がチート級なのだ。

 ただし、誰もがこのプログラムに参加して強化されるわけではない。


 やはり人には、それぞれに得手不得手があるらしい。

「さすがにもう、いいだろう」

 遅れてきた5人目が先行する4人に声をかける。

 彼らは振り向きもせずに、ただ静かに踏み荒らされた草地を追う。

「まて、おい、お前ら...何か、来る!!」

 5番目が樹上から静止するよう告げた。

 4人は追跡用のフォーメンションを組んでいた。

 それぞれが点を成して、四角形の方陣を組む。

 知覚スキルを最大限に広げて、進む方向に合わせて警戒した。

 アカデミーではこれを、初歩的捜索術と呼んでいた。


 乾いた音が聞こえた。

 強いて言うと、水袋が弾けた音に似ている。

 前衛のうち右側の戦士の頭がはじけ飛んだ。

 理由はわからないが、後衛の目の前が、彼の血しぶきで真っ赤に染まった。

「敵襲だ!!」


「わかってる! その敵の場所を伝えろ!!」

 と憤慨する。

 前衛左側の騎士は、左腕の盾を構えて膝をついた。

 ゴブリンの少年を切りつけたのは彼だ。

「ダメだ、サーチに架かったのに見失ってる...」


「なんだそりゃ?」

 チートじゃねえよなって叫ぶのもいる。

 自分たちの中途半端に高い戦闘力を棚に上げた便利な言葉だ。


「うぎゃああああ!」

 後衛右側の戦士が悲鳴を挙げながら、転がりだした。

 左側の騎士は、戦士のもとにまで走りこむと、彼が圧迫している手をどかして傷の具合をのぞき込む。が首を横に振り――『刺し傷に近いが、ポーションで治らない傷とは思えない』と皆に告げる。

 彼の体を木陰に引き摺り込んだところで、何者かの視線を感じ取る。

 目指していた木陰の中から浮かび上がるシルエットに息をのみ、そして顎下から脳天へと向かって鈍痛が走る。

 まっすぐ前を見ていたはずの視界が、ぐるっと裏側へ回り込み絶命。

「ちぃっ!」

 5人目の視界では追えないから、超感覚という獣的なスキルで現状の把握にと止めた。

 もちろん、十分に安全な位置にまで、下がってのことだ。

 瞬く間に3人が仕留められた。

 まったく躊躇いもない攻撃に対して、久しぶりに足が竦む、肝が冷えるという恐怖が生まれた。


 斥候を失った、前衛左側の騎士にはもう、目も無ければ盾もない。

 仲間の3人はすでに打ち取られている。

 いや辛うじて自身とは対角にあった者が虫の息で残っている。

 これは残っていると言ってもいいのだろうか。

「姿を...姿を見せろ! 卑怯だ...ぞ」

 ガチリと、変な音がこめかみ付近で聞こえた。

 それは、アルファの起こした撃鉄の音だ。

 左側面に人の影、見上げる前に()()は、火を噴いた。

 至近距離からの9ミリ弾が騎士の被っている兜ごと吹き飛ばして終わる。



「あれ? もう一人どこ行ったかなあ」

 さすがに私のわがままで、補給品もままならない中、紙飛行機ドローンを飛ばすわけにはいかないし。

 恐らくは、こんなちんけな戦いで消耗しちゃいけないもんだと思うし。

 ただ、問題は――死体の片づけが面倒だということだけだ。


 このまま、放置する。

 環境に良くない気がするし、()()()になりそうな予感しかしない。


「オバケ?! えっと、誰が言ってます?」


「いあ、私が...」

 2メートル超の巨漢Dが私の前に来る。

 腕を“Tの字”にしろと催促し、その要求通りに応じると――こいつは、私の胸を両手で揉み上げて手放した。

 勝手に触るなし!!!


「筋肉多めで詰まらんですな」


「っ、ほっとけ!」

 グーで殴ろうにも、頭を押さえつけられると、足も手も届かない状態になる。

 そのDは――

「少年の回復を待って、この陣地にとどまるか或いは、もう少し奥に行きますか?」

 と、森を指す。

 BとCも異論はないようだけど、これ以上奥に入って大丈夫かという、感じがしないわけではない。

「まあ、そん時は...Bossが何とかしてくれるのでしょう?」

 こういう時だけBoss扱いか。

 てかね、私も女の子でオバケ、幽霊、どっちも怖いんですけどね。

 あ、聞いてないフリしてるし。

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