高橋さんちの今日のおつまみ
お盆ということで、高橋家の墓参り。
優乃が無事産まれたことの報告と感謝を春先と同様に。そして、こんな出自を持つ私が、慶一さんの隣にあることについて、お詫びというか、感謝というか……。身体も心も完全にこっちではあるけど、記憶に紐付いた引け目みたいなものは、一生続くのだろうか?
今の関係が壊れてしまわないよう、妻として出来るだけのことを精一杯尽くしていこうと、誓いを新たにする。
母屋はリフォーム中だけど、残すは内装の仕上げのみ。引き渡しは九月半ばの予定で、後半の連休を使って引っ越しを予定している。
私たちはマンション――あと一月ほどの仮住まい――へ帰るのだが、お盆とあって、慶一さんは昼食時に一杯飲んでいる。
当然、ハンドルを握るのは私だ。
買い物を終え、駐車場に車を停めたときだった。慶一さんの電話に着信。口ぶりだと、久しぶりのお友達のようだ。多分、今夜はどこかへ呑みに行くことになるのだろう。
私は献立案の変更を始める。
「夕食は外で?」
「いや、アイツは明日八時前の新幹線で帰るから、ちょっと会うだけにしとくよ」
と言っていたにもかかわらず……。
そのお友達の家がここから三キロほど。途中の立ち飲み屋で一杯引っかけたら、家まで来ることに。表敬訪問と言うが、その実、犯罪的な美少女を嫁にもらったという噂の真偽を確かめるのが目的とのこと。
「十分ほどで帰るよ」
「続きをウチでするにしても、あり合わせのものしか無いですよ」
「済まない。少し回り道をして、引き延ばすよ」
久しぶりに会ったら、気持ちまで高校時代に戻ったに違いない。いい大人が家で呑み直すなんて……、四コマ漫画時代の『サザエさん』か? その時代ですらサザエさんには角が生えてたのに。
まぁ、出来るだけのことはしよう。今日の今日で誓いを違えるのも良くない。
冷蔵庫を開く。とりあえず、十分ほどで出来そうなものは……。
いずれにしてもお湯は要るから、鍋に沸かす。
タマネギを一個。皮を剥いたら、根っこの部分が繋がったままになるよう、上から八当分になるよう切り込みを入れる。
そこにだしの素をかけバターを乗せる。深い鉢に入れてラップをかけ、レンジで八分ほど。お手軽無水調理だ。和風出汁でもバターと組み合わせると『洋』な感じに仕上がる。
ショウガとネギを細切りにし、カップで味噌・醤油・ミリン・酒を合わせておく。鯖の切り身に『×』の切り込みを入れたら、霜降りをする。この一手間で、特に煮魚は味が変わるのだ。
フライパンに薄くお湯を張り、合わせ調味料とショウガ・ネギ・冷凍保存のささがきゴボウを入れ、切り身を並べる。今回はお酒のお供なので、いつもより濃いめの味付けだ。
鯖の味噌煮は、味噌は後から派と始めから派がある。煮汁にも、とろみをつける派つけない派があるらしい。私は、味噌は始めからでとろみをつけない派だ。ただし、臭み消しだけはきっちり。人によっては、梅干しや山椒をということもあるけど。
落とし蓋代わりにアルミホイルを被せて、IHはタイマー運転。
これで二品。
あとは、キュウリを乱切りにしてごま油を振り、万能調味料の塩昆布と和える。仕上げは鷹の爪を少々。
ここまでしたところで呼び鈴が鳴る。
ドアを開けると、慶一さんとお友達。ちょっと悪いと思ったのか、コンビニスイーツが入ったレジ袋。
これぐらいで私は懐柔されないからね。あとで埋め合わせはきっちりしてもらいますから!
とりあえず挨拶をすると、お友達は私の外見に驚く。
リビングに通すときも「日本の法律では、十歳も下の美少女との結婚は認められていない!」とか、いかにもほろ酔いらしいことを言いながら歩く。
テーブルに、先ほどのキュウリと日中に作っておいたサラダ、葉物野菜と油揚げの煮浸しの鉢を置き、取り皿とビール、冷酒を持って行く。
そこで、レンジの調理完了音。
ラップを剥がし、タマネギにパセリと黒コショウをかけて持って行く。一応、黒コショウと岩塩が入ったミルも添えて。
「あり合わせなので、お口に合えば良いのですが」
一応、こう言っておく。でも、酔っ払いの大半は、こういう味が好きなのだけどね。ま、慶一さんはお口の方を合わせてくれるけど。
出汁巻きを作っていると、リビングの方から料理を絶賛したり、羨ましがったりが、途切れ途切れに聞こえてくる。
そうだ、羨ましがれ。そして慶一さんは私に感謝するのだ。
出汁巻きと鯖の味噌煮を持ってリビングへ。私も少し早めの夕食にする。
食べながらも、結構、声が大きい。優乃が起きちゃう。
何度か注意したけど、結局、優乃が泣き出して、私は寝室で授乳することに。
授乳を終えて寝かしつけると、お友達は帰るところだった。
一応、突然の来訪の謝りもある。ここは『すてきな奥様』たるためにも、笑顔で送り出す。
「料理を褒めてたよ。特に出汁巻きと鯖の味噌煮」
もう! そういうおだてには乗りませんよ、と思いながらも、褒められるとちょっと嬉しい。
あ、お風呂が沸いたようだ。
「今度、この埋め合わせをするよ」
そう言うと、慶一さんは脱衣所の方へ。
この場面、私もついていって、このセリフでしょう!
「だったら、今から『埋め合わせ』」
慶一さん、こういうの好きなの、知ってるんですから!




